鳥類の骨盤の発生過程

 鳥類の骨盤の発生過程に関する研究(Griffin et al., 2022)が公表されました。現生鳥類(鳥綱)の体は、祖先的な爬虫類の状態から著しく変化しています。とりわけその骨盤は、初期の主竜類から現生の鳥類までの移行の中で大きな変化を経てきました。この段階的な変形はきわめて優れた化石記録によりよく立証されていますが、その根底にある個体発生の変化はあまり明らかにされていません。この研究は発生学的な画像化技術を用いて、鳥類の骨盤組織の形態形成を三次元的に調べ、化石記録との直接的な比較を可能にしました。

 その結果、多くの祖先的な恐竜の特徴、たとえば前向きの恥骨や短い腸骨や恥骨の「ブーツ(遠位端の広がり)」などが鳥類の形態形成の初期に一過的に認められ、これらの特徴は、形質獲得の系統発生的シークエンスとよく似た出生前(孵化前)の発生的シークエンスを経た後に、典型的な「鳥類的」形態に到達する、と分かりました。また、鳥類の骨盤の個体発生が、非鳥類型恐竜から鳥類への移行と平行的だと定量的に示され、主竜類で広く保存されている骨盤内の表現型の共変動を裏づける証拠が得られました。鳥類の胚に祖先的な状態が見られることは、この保存された共変動関係に起因すると考えられます。

 総合すると、この研究のデータから、初期発生がほとんど研究されてこなかった鳥類の骨盤は、終端付加(発生シークエンスの最後に新たな派生的状態が追加される機構で、それにより祖先的な形質状態がそのシークエンスの早期に表れます)により進化したことを示す証拠が得られた。この研究で検出された表現型の統合は、これまで終端付加には認識されていなかった機構を示唆するとともに、進化的移行において発生中の祖先的状態の保持が一般的であることも窺わせます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


古生物学:鳥類の骨盤は発生中に祖先的な恐竜の状態を経る

古生物学:鳥類の骨盤は終端付加によって進化した

 今回、発生中の鳥類の骨盤の画像化によって、鳥類の骨盤が祖先的な恐竜の状態を経つつ、そこから全く新しい形態を作り上げていく様子が明らかになった。この過程は進化の軌跡をたどっている。



参考文献:
Griffin CT. et al.(2022): The developing bird pelvis passes through ancestral dinosaurian conditions. Nature, 608, 7922, 346–352.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-04982-w

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