梅﨑昌裕「生存にかかわる腸内細菌 ホモ・サピエンスの適応能」
井原泰雄、梅﨑昌裕、米田穣編『人間の本質にせまる科学 自然人類学の挑戦』所収の論文です。本論文は、ヒトは1種(Homo sapiens)にも関わらず多様性が高く、それは家畜と同様であるものの、その過程は過去1万年間(イヌだけはもっと古そうですが)の人為的選択により生まれた家畜とは異なり、外的力(家畜にとってのヒトの育種に相当)ではなく、自然選択と偶然(機会的浮動)により生じた、と指摘します。ただ、まだ仕組みがよく解明されていないとはいえ、現生人類の自己家畜化をどう考えるのか、という問題があるように思います。
本論文は、ヒトは乾燥した日陰であれば気温50度超の場所でも深部体温を37度に維持でき、熱帯雨林など湿度の高い環境では深部体温を維持できるのは40度くらいまでであるものの、地球上で気温が50度を超える場所は稀で、湿潤な生物群系では40度を超えることは少ないため、ヒトは暑さに強い、と指摘します。一方、寒さに対するヒトの生物学的対処機構はたいへん脆弱である、と本論文は指摘します。ヒトが氷点下50度以下でも暮らしているのは、衣服の使用など文化的対処の結果です。
寒冷地適応のように、ヒトは文化的に多様な環境に適応しており、農耕はその代表例の一つです。パプアニューギニアでは、過去300年間に狩猟採集が衰退し、ヨーロッパ経由でもたらされた中南米原産のサツマイモに強く依存する食性となりました。パプアニューギニア高地でも、商業地域から遠く購入食品の摂取がすくない地域では、総エネルギーの70%以上をサツマイモから摂取しています。そのため、こうした地域の人々はタンパク質摂取量が必要量よりずっと少なくなりますが、タンパク質欠乏症を示していません。これは低タンパク質適応と呼ばれ、腸内細菌叢が中心的役割を担っているのではないか、と推測されています。腸内細菌叢は、パプアニューギニア高地に限らず、地球上のさまざまな環境へのヒトの適応でも重要な役割を果たした可能性が高そうです。
参考文献:
梅﨑昌裕(2021)「生存にかかわる腸内細菌 ホモ・サピエンスの適応能」井原泰雄、梅﨑昌裕、米田穣編『人間の本質にせまる科学 自然人類学の挑戦』(東京大学出版会)第12章P190-203
本論文は、ヒトは乾燥した日陰であれば気温50度超の場所でも深部体温を37度に維持でき、熱帯雨林など湿度の高い環境では深部体温を維持できるのは40度くらいまでであるものの、地球上で気温が50度を超える場所は稀で、湿潤な生物群系では40度を超えることは少ないため、ヒトは暑さに強い、と指摘します。一方、寒さに対するヒトの生物学的対処機構はたいへん脆弱である、と本論文は指摘します。ヒトが氷点下50度以下でも暮らしているのは、衣服の使用など文化的対処の結果です。
寒冷地適応のように、ヒトは文化的に多様な環境に適応しており、農耕はその代表例の一つです。パプアニューギニアでは、過去300年間に狩猟採集が衰退し、ヨーロッパ経由でもたらされた中南米原産のサツマイモに強く依存する食性となりました。パプアニューギニア高地でも、商業地域から遠く購入食品の摂取がすくない地域では、総エネルギーの70%以上をサツマイモから摂取しています。そのため、こうした地域の人々はタンパク質摂取量が必要量よりずっと少なくなりますが、タンパク質欠乏症を示していません。これは低タンパク質適応と呼ばれ、腸内細菌叢が中心的役割を担っているのではないか、と推測されています。腸内細菌叢は、パプアニューギニア高地に限らず、地球上のさまざまな環境へのヒトの適応でも重要な役割を果たした可能性が高そうです。
参考文献:
梅﨑昌裕(2021)「生存にかかわる腸内細菌 ホモ・サピエンスの適応能」井原泰雄、梅﨑昌裕、米田穣編『人間の本質にせまる科学 自然人類学の挑戦』(東京大学出版会)第12章P190-203
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