ヒトの一生にわたる脳の成長曲線
ヒトの一生にわたる脳の成長曲線についての研究(Bethlehem et al., 2022)が公表されました。この数十年間で、脳画像化法はヒト脳の基礎研究や臨床研究で広く利用されるツールになりました。しかし、身長や体重などの人体計測学的特徴を用いる成長曲線とは異なり、脳画像計測では継続的に個人差を定量するための参照規準はこれまでありませんでした。この研究は、現在あるいは将来の試料のMRI(磁気共鳴画像診断装置)データから得た脳形態を基準に照らして評価するための、インタラクティブなオープンリソースを構築しました。
この研究は、現在利用可能な最も大規模で最も包括的なデータセットに基づく、こうした参照成長曲線の作成を目標とし、世界の人々の多様性と比較してMRI研究に既知の偏りがあることによる限界は認めた上で、100件以上の一次研究での妊娠115日齢から100歳までの101457人について、123984例のMRI走査データを集めました。MRIの計測値は、脳の構造的変化の非線形軌跡に対するパーセンタイルスコアと、生涯にわたる変化率で定量されました。
脳の成長曲線から、これまで報告されていなかった神経発達の重大時点が見つかり、受胎後17週以前から3歳までの期間が発達上の重要な時期の一つで、この期間に脳の最大サイズの約70%が形成される、と明らかになりました。長期的評価の期間全体で個人の値が安定していることも示され、異なる一次研究間の技術的・方法的差異に対する堅牢性が実証されました。パーセンタイルスコアからは、非パーセンタイルMRI表現型と比べて遺伝性が強く示され、非典型的脳構造の標準化された計測値が得られました。これにより、複数の神経学的・精神医学的障害にまたがる脳解剖学的変動パターンが明らかになりました。その一例が、軽度認知障害の診断からアルツハイマー病の診断への移行を予測することです。
ただ、研究対象者が北アメリカ大陸とヨーロッパの集団に偏っている可能性から、この研究はこうした知見について、臨床診療に適用されるまでに充分な研究を行なう必要がある、と強調しています。以上より、脳の成長曲線は、一般に使用されている複数の脳画像化形質について標準的な軌跡を規準とした個人差の堅牢な定量に向けた重要な段階となります。この研究は、これらの成長曲線をインタラクティブなオープンアクセス形式で提供することで、データベースが進化し続けるよう、期待しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
神経科学:ヒトの脳の発達を評価する際に参照するチャート
ヒトの生涯における脳の発達に関する標準化参照チャートを示した論文が、Nature に掲載される。この参照チャートは、世界中の10万人を超える参加者の脳スキャンデータを分析して作成されたもので、将来的には、全ての年齢の対象者の脳の健康状態のデジタル評価と脳疾患の診断に応用できるかもしれない。
ヒトの子どもの形質(身長や体重など)を評価する際に用いられるのが成長曲線だが、ヒトの脳の成熟と健康的な加齢を定量化した参照標準は、これまで存在していなかった。今回、Richard Bethlehem、Jakob Seidlitzたちは、世界中の100件以上の研究から得られた10万1457人(受胎後115日から100歳まで)のMRIによる脳スキャンデータ12万3984点を照合し、ヒトの生涯における正常な脳の発達を示すチャートを作成した。このチャートは、対象者が標準的な成長軌道に乗っているかを判定する「パーセンタイルスコア」 の生成に使用でき、男女別に作成された。研究間で対象者も使用された技術や方法も異なっていたが、予測内容は安定していた。その結果、受胎後17週以前から3歳までの期間が発達上の重要な時期の1つであり、この期間中に脳の最大サイズの約70%が形成されることが判明した。この標準的枠組みは、疾患に関連する脳の解剖学的構造の変化パターンの検出に使用できることも明らかになった。その一例が、軽度認知障害の診断からアルツハイマー病の診断への移行を予測することだった。
Bethlehemたちは、これらの知見が臨床診療に適用されるまでに、十分な研究を行う必要がある点を強調している。今回の知見は、研究対象者のグループにおいて、ヨーロッパと北米の集団とヨーロッパ系の人々にデータが偏っている可能性があるという問題点があり、その点にも取り組む必要がある。それでも、Bethlehemたちは、これらのチャートをインタラクティブなオープンアクセス形式で提供することで、データベースが進化し続けることを期待している。
神経科学:ヒトの一生にわたる脳の成長曲線
神経科学:脳の成長を計測する
今回R Bethlehemたちは、脳画像計測における個人差を定量化するため、脳の形態を基準に照らして評価するためのインタラクティブな情報資源について報告している(www.brainchart.io)。得られた脳の成長曲線によって、これまで報告されていなかった神経発達上の複数の重大時点などが明らかになった。
参考文献:
Bethlehem RAI. et al.(2022): Brain charts for the human lifespan. Nature, 604, 7906, 525–533.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-04554-y
この研究は、現在利用可能な最も大規模で最も包括的なデータセットに基づく、こうした参照成長曲線の作成を目標とし、世界の人々の多様性と比較してMRI研究に既知の偏りがあることによる限界は認めた上で、100件以上の一次研究での妊娠115日齢から100歳までの101457人について、123984例のMRI走査データを集めました。MRIの計測値は、脳の構造的変化の非線形軌跡に対するパーセンタイルスコアと、生涯にわたる変化率で定量されました。
脳の成長曲線から、これまで報告されていなかった神経発達の重大時点が見つかり、受胎後17週以前から3歳までの期間が発達上の重要な時期の一つで、この期間に脳の最大サイズの約70%が形成される、と明らかになりました。長期的評価の期間全体で個人の値が安定していることも示され、異なる一次研究間の技術的・方法的差異に対する堅牢性が実証されました。パーセンタイルスコアからは、非パーセンタイルMRI表現型と比べて遺伝性が強く示され、非典型的脳構造の標準化された計測値が得られました。これにより、複数の神経学的・精神医学的障害にまたがる脳解剖学的変動パターンが明らかになりました。その一例が、軽度認知障害の診断からアルツハイマー病の診断への移行を予測することです。
ただ、研究対象者が北アメリカ大陸とヨーロッパの集団に偏っている可能性から、この研究はこうした知見について、臨床診療に適用されるまでに充分な研究を行なう必要がある、と強調しています。以上より、脳の成長曲線は、一般に使用されている複数の脳画像化形質について標準的な軌跡を規準とした個人差の堅牢な定量に向けた重要な段階となります。この研究は、これらの成長曲線をインタラクティブなオープンアクセス形式で提供することで、データベースが進化し続けるよう、期待しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
神経科学:ヒトの脳の発達を評価する際に参照するチャート
ヒトの生涯における脳の発達に関する標準化参照チャートを示した論文が、Nature に掲載される。この参照チャートは、世界中の10万人を超える参加者の脳スキャンデータを分析して作成されたもので、将来的には、全ての年齢の対象者の脳の健康状態のデジタル評価と脳疾患の診断に応用できるかもしれない。
ヒトの子どもの形質(身長や体重など)を評価する際に用いられるのが成長曲線だが、ヒトの脳の成熟と健康的な加齢を定量化した参照標準は、これまで存在していなかった。今回、Richard Bethlehem、Jakob Seidlitzたちは、世界中の100件以上の研究から得られた10万1457人(受胎後115日から100歳まで)のMRIによる脳スキャンデータ12万3984点を照合し、ヒトの生涯における正常な脳の発達を示すチャートを作成した。このチャートは、対象者が標準的な成長軌道に乗っているかを判定する「パーセンタイルスコア」 の生成に使用でき、男女別に作成された。研究間で対象者も使用された技術や方法も異なっていたが、予測内容は安定していた。その結果、受胎後17週以前から3歳までの期間が発達上の重要な時期の1つであり、この期間中に脳の最大サイズの約70%が形成されることが判明した。この標準的枠組みは、疾患に関連する脳の解剖学的構造の変化パターンの検出に使用できることも明らかになった。その一例が、軽度認知障害の診断からアルツハイマー病の診断への移行を予測することだった。
Bethlehemたちは、これらの知見が臨床診療に適用されるまでに、十分な研究を行う必要がある点を強調している。今回の知見は、研究対象者のグループにおいて、ヨーロッパと北米の集団とヨーロッパ系の人々にデータが偏っている可能性があるという問題点があり、その点にも取り組む必要がある。それでも、Bethlehemたちは、これらのチャートをインタラクティブなオープンアクセス形式で提供することで、データベースが進化し続けることを期待している。
神経科学:ヒトの一生にわたる脳の成長曲線
神経科学:脳の成長を計測する
今回R Bethlehemたちは、脳画像計測における個人差を定量化するため、脳の形態を基準に照らして評価するためのインタラクティブな情報資源について報告している(www.brainchart.io)。得られた脳の成長曲線によって、これまで報告されていなかった神経発達上の複数の重大時点などが明らかになった。
参考文献:
Bethlehem RAI. et al.(2022): Brain charts for the human lifespan. Nature, 604, 7906, 525–533.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-04554-y
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