哺乳類の温血性の進化
哺乳類の温血性の進化に関する研究(Araújo et al., 2022)が公表されました。内温性は、多様な環境における哺乳類と鳥類の重要な特徴で、深部体温をほぼ一定に維持することによって多様な環境条件下での生息を可能にし、その生態的優位性を支えています。内温動物は、行動が活発で素早く、遠くまで移動できるのに対して、外温動物(冷血動物)は、動きが遅くてあまり活発ではなく、有酸素能力が低い、というわけです。しかし、化石証拠は不明瞭なものが多く、このきわめて重要な特徴が哺乳類進化史のどの時点で出現したのか、不明です。
この研究は、温血性への重要な進化的移行が、内耳の内リンパ液で満たされた半規管の形態を用いて調べられる、と示します。内耳半規管は、頭部の回転を感知する、運動の協調やナビゲーション、空間認識に不可欠な器官です。哺乳類の祖先における外温動物から内温動物への移行での体温の上昇は、内リンパ液の粘度の低下につながり、これは、半規管の生体力学的特性に負の影響を及ぼすと同時に、行動を活性化して、おそらく性能の向上を必要とするようになった、と考えられます。この移行の過程において最適な機能性を維持するには、膜半規管およびそれを取り囲む骨半規管の形態変化が必要だった、と思われます。
この研究は、こうした形態機能的変化を56種の絶滅単弓類で追跡するため、骨半規管の形態に基づく代理指標「体温・運動性指数(thermo-motility index)」を考案しました。その結果、内温性が後期三畳紀に哺乳形類(Mammaliamorpha)で突然進化した、と示唆され、この変化は、体温の急激な上昇(5~9度)および有酸素能力と無酸素能力の拡大と相関していました。従来の説に反して、全てのステム群哺乳形類は外温動物であった可能性がきわめて高く、内温性は、たいへん重要な生理的特徴として、気候が不安定だったこの年代に他の独特な哺乳類形質と共に生じた、と考えられます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
古生物学:哺乳類が温血動物になった時期
温血性哺乳類が出現したのは、約2億3300万年前の後期三畳紀だった可能性を示唆する論文が、今週、Nature に掲載される。この知見は、哺乳類の祖先種の内耳の化石に基づいており、哺乳類の進化史の理解を深める。
温血性(内温性)は、哺乳類と鳥類の重要な特徴であり、深部体温をほぼ一定に維持することによって多様な環境条件下での生息を可能にしている。内温動物は、行動が活発で、素早く、遠くまで移動できるのに対して、外温動物(冷血動物)は、動きが遅く、あまり活発でなく、有酸素能力が低い。哺乳類の進化史において内温性が最初に出現した時期を解明する研究は、ほとんどの化石証拠から明確な結論を導き出すことができずに難航している。
今回、Ricardo Araújo、Romain David、Kenneth Angielczykたちは、哺乳類の祖先種の内耳の半規管の構造を調べることが、この内温性への移行がいつ起こったかを突き止める際に役立つかもしれないと考えている。この半規管の内部は内リンパ液で満たされており、その粘度は体温に応じて変化する。
今回の研究では、哺乳類の祖先種である絶滅種群(56種)の半規管の構造変化を調べたところ、内温性に関連する変化(例えば、幅の狭い半規管)が発見された。Araújoたちは、哺乳類の祖先種において現在のような半規管の構造が突然出現したのが後期三畳紀で、気候の不安定な時期だったことを明らかにし、その頃に内温性が出現したという考えを示している。この研究知見は、5~9°Cの体温上昇と有酸素能力と無酸素能力の増大と相関していた。
古生物学:内耳の生体力学的特性から哺乳類の内温性の起源が後期三畳紀にあることが明らかに
古生物学:内耳の構造が示す哺乳類の内温性の起源
今回、哺乳類が温血動物となった際に、体温の上昇に応じて内耳の半規管が変形しており、この変化は化石記録で追跡できることが示された。分析の結果、哺乳類の内温性は後期三畳紀に進化したことが明らかになった。
参考文献:
Araújo R. et al.(2022): Inner ear biomechanics reveals a Late Triassic origin for mammalian endothermy. Nature, 607, 7920, 726–731.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-04963-z
この研究は、温血性への重要な進化的移行が、内耳の内リンパ液で満たされた半規管の形態を用いて調べられる、と示します。内耳半規管は、頭部の回転を感知する、運動の協調やナビゲーション、空間認識に不可欠な器官です。哺乳類の祖先における外温動物から内温動物への移行での体温の上昇は、内リンパ液の粘度の低下につながり、これは、半規管の生体力学的特性に負の影響を及ぼすと同時に、行動を活性化して、おそらく性能の向上を必要とするようになった、と考えられます。この移行の過程において最適な機能性を維持するには、膜半規管およびそれを取り囲む骨半規管の形態変化が必要だった、と思われます。
この研究は、こうした形態機能的変化を56種の絶滅単弓類で追跡するため、骨半規管の形態に基づく代理指標「体温・運動性指数(thermo-motility index)」を考案しました。その結果、内温性が後期三畳紀に哺乳形類(Mammaliamorpha)で突然進化した、と示唆され、この変化は、体温の急激な上昇(5~9度)および有酸素能力と無酸素能力の拡大と相関していました。従来の説に反して、全てのステム群哺乳形類は外温動物であった可能性がきわめて高く、内温性は、たいへん重要な生理的特徴として、気候が不安定だったこの年代に他の独特な哺乳類形質と共に生じた、と考えられます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
古生物学:哺乳類が温血動物になった時期
温血性哺乳類が出現したのは、約2億3300万年前の後期三畳紀だった可能性を示唆する論文が、今週、Nature に掲載される。この知見は、哺乳類の祖先種の内耳の化石に基づいており、哺乳類の進化史の理解を深める。
温血性(内温性)は、哺乳類と鳥類の重要な特徴であり、深部体温をほぼ一定に維持することによって多様な環境条件下での生息を可能にしている。内温動物は、行動が活発で、素早く、遠くまで移動できるのに対して、外温動物(冷血動物)は、動きが遅く、あまり活発でなく、有酸素能力が低い。哺乳類の進化史において内温性が最初に出現した時期を解明する研究は、ほとんどの化石証拠から明確な結論を導き出すことができずに難航している。
今回、Ricardo Araújo、Romain David、Kenneth Angielczykたちは、哺乳類の祖先種の内耳の半規管の構造を調べることが、この内温性への移行がいつ起こったかを突き止める際に役立つかもしれないと考えている。この半規管の内部は内リンパ液で満たされており、その粘度は体温に応じて変化する。
今回の研究では、哺乳類の祖先種である絶滅種群(56種)の半規管の構造変化を調べたところ、内温性に関連する変化(例えば、幅の狭い半規管)が発見された。Araújoたちは、哺乳類の祖先種において現在のような半規管の構造が突然出現したのが後期三畳紀で、気候の不安定な時期だったことを明らかにし、その頃に内温性が出現したという考えを示している。この研究知見は、5~9°Cの体温上昇と有酸素能力と無酸素能力の増大と相関していた。
古生物学:内耳の生体力学的特性から哺乳類の内温性の起源が後期三畳紀にあることが明らかに
古生物学:内耳の構造が示す哺乳類の内温性の起源
今回、哺乳類が温血動物となった際に、体温の上昇に応じて内耳の半規管が変形しており、この変化は化石記録で追跡できることが示された。分析の結果、哺乳類の内温性は後期三畳紀に進化したことが明らかになった。
参考文献:
Araújo R. et al.(2022): Inner ear biomechanics reveals a Late Triassic origin for mammalian endothermy. Nature, 607, 7920, 726–731.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-04963-z
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