三国時代の伽耶の人類のゲノムデータ(追記有)
朝鮮半島の三国時代の伽耶の人類のゲノムデータを報告した研究(Gelabert et al., 2022)が公表されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。本論文では、1700年前頃となる朝鮮半島南岸の伽耶王国地域で発見された人類のゲノムが深度0.7~6倍で配列決定されました。伽耶王国地域における遺伝的多様性は、縄文関連祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)とつながっています。8個体のゲノムの遺伝的多様性は社会的地位と関連していません。これらのデータは、三国時代以来の朝鮮半島南部におけるかなりの遺伝的連続性を示しています。
●要約
先史時代および原史時代の朝鮮人口集団の遺伝的歴史は、少数の古代ゲノムしか利用可能ではないので、よく理解されていません。本論文は、朝鮮の文化的および歴史的形成における重要な期間である朝鮮の三国時代の最初の古ゲノムデータを報告します。これらのデータは古代朝鮮の8点のショットガン配列ゲノムから構成されます(網羅率は0.7~6.1倍)。それらのゲノムデータは金海市の2ヶ所の遺跡に由来しました。それは柳下里(Yuha-ri)貝塚と大成洞(Daesung-dong)古墳で、後者は伽耶諸国の最重要の埋葬複合施設です。全ての個体は4~5世紀で、中国北部青銅器時代の遺伝的供給源と、日本の現代人のゲノムと類似性を共有する縄文関連祖先系統供給源との間の混合として、最適にモデル化されます。縄文関連祖先系統の観察された下部構造と割合は、人口集団内の2つの遺伝的まとまり(集団)の存在と、伽耶人口集団における遺伝的多様性を示唆します。本論文は、これら2集団間の遺伝的違いを社会的地位もしくは性別と相関させられませんでした。髪や目の色、顔面形態、近視と関連する表現型に関連する一塩基多型を含む、全ての古代の個体群のゲノム特性は、過去1700年間の現代朝鮮人との強い遺伝的および表現型の連続性を示唆します。
●研究史
最近の研究では、アジア東部人口集団には新石器時代にたどれる遺伝的連続性がある、と明らかにされています。現代朝鮮人は、特徴的な遺伝学的および言語学的特色を有するアジア東部集団です。朝鮮語は他の密接に関連した現代の言語を有していない孤立言語として分類されることが多く(関連記事)、新石器時代に雑穀農耕民により朝鮮半島にもたらされた可能性があります(関連記事)。
現代朝鮮人1094個体のゲノムに関する最近の研究では、現代朝鮮人は過去数世紀の孤立の可能性の結果である遺伝的浮動のため遺伝的に均質な集団である、と示唆されています(関連記事)。しかし、朝鮮人の母系と父系の遺伝標識では、現代朝鮮人の遺伝的構造はいくつかの過去の混合事象を含む過程により形成された、と示唆されています。そうした研究では、現代朝鮮人のゲノムは現在の中国に位置する西遼河と日本列島の古代の人口集団の祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)との混合、もしくはモンゴルの中期新石器時代の廟子溝(Miaozigou)遺跡個体群と縄文時代個体群との間の混合としてモデル化できる、と示されています(関連記事)。
新石器時代と青銅器時代の朝鮮半島古代人の低網羅率ゲノム数点(関連記事)は、この縄文関連祖先系統の顕著な水準の希釈を示唆しており、それは青銅器時代(BA)に朝鮮半島で起き、朝鮮半島の三国時代(紀元前57~紀元後668年)と重複する日本列島の古墳時代の人々で観察されたもの(関連記事)と類似しています。しかし、三国(TK)時代の朝鮮半島に関する古代DNA研究の欠如に起因する大きな知識の間隙が残っています。三国時代には、朝鮮人の民族性と民族文化が、新羅王国による三国(高句麗と百済と新羅)の統一を通じて形成されました。新羅から高麗王国と朝鮮王国(末期には大韓帝国)を経て、現代朝鮮人の国民意識が形成されました。
農耕的に複雑な社会は、朝鮮半島では青銅器時代(紀元前1400~紀元前300年頃)に出現しました。イネの遺伝学的研究と考古学的実地調査の両方から、イネとさまざまなマメ科植物は西遼河地域からもたらされ、その後、紀元前1300~紀元前800年頃に栽培が強化された、と示唆されています。青銅器時代アジア北東部人口集団と関連する遺伝的祖先系統とともに、朝鮮半島から日本列島へとイネが広がりました(関連記事)。
並行して、鉄生産が現在の中国から朝鮮半島へと紀元前4世紀に到来し、その後で弥生時代(紀元前10世紀~紀元後3世紀)に朝鮮半島から日本列島へと広がりました。しかし、朝鮮半島における鉄技術拡大が、ヒトの移住を伴っていたのか、交易もしくは文化伝播のみで伝わったのか、明らかではありません。朝鮮半島の新石器時代および青銅器時代(関連記事)と日本列島の古墳時代(関連記事)の人類遺骸の最近のゲノム解析は、紀元後4~7世紀における両地域での縄文関連祖先系統の顕著な希釈を示唆します。
高句麗と百済と新羅により支配されていた朝鮮半島の三国時代には、鉄技術および近隣人口集団との交易の大きな発展が見られました。伽耶(加羅)諸国は、朝鮮半島において三国に支配されなかった最後の領域で、近隣の新羅に併合される紀元後6世紀まで存続しました。伽耶には三国時代初期において最も発達した鉄生産と交易基盤があり、商品の交換とともに、おそらくは日本列島や現在の中国北部の倭(濊)の住民など人々の移動も含まれていました。これが示唆するのは、伽耶の政治的中心地であった金海(Gimhae)が重要な交易中心地で、そのため、金海の民衆はローマの古代の住民に関する最近の遺伝学的研究(関連記事)で明らかになったことと同様の水準の「世界主義」を含んでいたかもしれません。
紀元後3世紀末に、金海地域の遺跡は埋葬儀式の変化を示し、その中には、石槨竪穴式墓地や甕棺墓の木室埋葬との置換も含まれます。この時期には、ヒトの生贄(殉死)、武器や鏡や青銅器および鉄器の他の製品など副葬品、死者に供えられた家畜の切断された頭などを含む葬儀慣行も導入されました。伽耶文化の最重要の発掘された中心地は、金海の大成洞(Daesung-dong)にある支配者の大規模な3700m²の埋葬複合施設で、年代は紀元後1~5世紀です。それは219基の墓で構成されており、そのうち69基は、ヒトの犠牲、土器や鉄の鎧や弓矢と関連する道具などを含む、複数埋葬のある複合施設です。より控えめな埋葬が、同じ慶尚南道(Gyungsangnamdo)の貝塚で三国時代を通じて発見されており、釜山(Busan)や金海などの地域を含みます。これらの貝塚には、ヒトの生贄や単葬ではなく家族墓を含むものはありません。
●標本
大韓民国慶尚南道金海市の2ヶ所の遺跡の22個体の、錐体骨もしくは歯が27点調べられました。その2ヶ所の遺跡とは、紀元後4~5世紀の大成洞古墳と柳下里(Yuha-ri)貝塚です(図1)。このうち8個体でゲノムデータ(網羅率は0.73~6.13倍)が得られました(表1)。以下は本論文の表1です。
大成洞古墳の7個体は全て、社会的地位と関連している特定の葬儀慣行、具体的には主要な埋葬(墓の所有者)およびヒトの生贄と関わっていました。柳下里貝塚の子供1個体(AKG_3420)の単葬墓は、埋葬要素の欠如のためどの社会的地位にも割り当てられませんでした。性染色体と常染色体の深度網羅率比に基づいて、5個体が女性、3個体が男性と識別されました。これらのゲノムデータを用いて、まず124万データセットの疑似半数体位置が呼び出され、次に計算された二倍体呼び出しが生成され、ハプロタイプに基づく現代の人口集団とのつながりが特定されました。以下は本論文の図1です。
一致しないアレル(対立遺伝子)の正規化された割合が0.906以上であることを考えると、配列決定された個体間で識別可能な密接な家族関係はなく、2親等程度の関係はないと示唆されます。2つの適用されたROH(runs of homozygosity、同型接合連続領域)呼び出し手法から、古代朝鮮の金海人(AKG)のゲノムは、ごくわずかな断片のみが同型接合であることを示します。ROHとは、両親からそれぞれ受け継いだと考えられる同じアレルのそろった状態が連続するゲノム領域で、長いROHを有する個体の両親は近縁関係にある、と推測されます。ROHは人口集団の規模と均一性を示せます。ROH区間の分布は、有効人口規模と、1個体内のハプロタイプの2コピー間の最終共通祖先の時間を反映しています(関連記事)。全てのAKG個体は、現在の人口集団の多様性内に位置する値を示します。朝鮮人個体群では、古代人1個体(AKG_10207)は長いROHの量が最も多く、最近の近親交配を示します。
●片親性遺伝標識
片親性遺伝標識(母系のミトコンドリアDNAと父系のY染色体)では、全てのAKG個体は典型的なアジア東部ミトコンドリアDNA(mtDNA)ハプログループ(mtHg)であるBとFとMを有しています。これらのmtHgは現代朝鮮人ではよく見られ、最も一般的なmtHgはD4で、AKGの8個体のうち4個体で特定されました。mtHg-D4は日本列島において弥生時代農耕民でも一般的ですが、縄文時代個体群(関連記事)には存在しませんでした。AKGの男性3個体のうち2個体でY染色体ハプログループ(YHg)を詳しく決定でき、AKG_10203がYHg-D1a2a1、 AKG_10204がYHg-O1b2a1a2a1b1です。AKG_10218は網羅率が低いため、YHg-Oという大きな分類にしか割り当てられませんでした。YHg-Oは現代朝鮮人において最も一般的で、その割合は70%以上となりますが(関連記事)、YHg-Dは現代の日本人集団でより一般的です。
●集団遺伝学
一塩基多型(SNP)のヒト起源(HO)データセットの位置に限定し、アジア東部個体群を用いて、主成分分析(PCA)が実行されました。伽耶の8個体は、他の刊行された古代の個体群に沿って主成分(PC)に投影されました。その結果、アジア東部古代人における4つの分化した遺伝的集団の存在が示されました。それは、(1)アムール川、(2)中国北部、(3)中国南部、(4)縄文関連人口集団です(図2A)。朝鮮半島三国時代の8個体はアジア東部個体群の多様性内に位置し、とくに近いのは、現代の朝鮮人および日本人、日本列島の古墳時代個体群、数人の新石器時代の朝鮮半島の個体です(図2A)。しかし、2個体(AKG_10203とAKG_10207)は現代日本人とかなり密接に、日本列島の縄文時代個体群と密接にクラスタ化し(まとまり)、伽耶の他の6個体とは区別されるパターンです(図2A)。以下は本論文の図2です。
次に、対でのqpWave分析を用いて、伽耶の8個体の祖先構成要素が調べられ、他者とクレード(単系統群)を形成しない可能性のある個体が特定されました。日本列島の縄文時代個体群(関連記事)を含む10の外群人口集団の一式を用いると、ほとんどの個体は相互にクレードを形成しました。しかし、2個体(AKG_10203とAKG_10207)は残りのどの個体ともクレードを形成しませんでした。したがって、三国時代の伽耶の8個体は2集団に分けられました。一方は外れ値の2個体(朝鮮TK_2)で、もう一方は残りの6個体(朝鮮TK_1)です。
朝鮮TK_1の1個体(AKG_3421)はPCAでわずかに朝鮮TK_2の方へと動いており、朝鮮TK_1の他の5個体とクレードを形成しません(図2A)。それにも関わらず、個体AKG_3421は、朝鮮TK_1内の各個体についての全てのf4統計(ムブティ人、縄文時代個体群;AKG_3421、朝鮮TK_1個体)でZ得点が2.45未満なので、朝鮮TK_1の一部として分類されます。最後に、墓の所有者もしくは犠牲埋葬の一部だった朝鮮TK_1と朝鮮TK_2の両方に個体が存在するので、観察されたクラスタ化パターンは埋葬の地位と関連づけられません。
次に、現代人および古代人2283個体を含むADMIXTUREと、HOデータセットの削減したSNP一式で、三国時代伽耶の8個体の遺伝的構造が評価されました。K(系統構成要素数)=12で、朝鮮半島三国時代の個体群は、3つの主要な遺伝的構成要素により最適に表されます。そのうち2つは他の古代および現代アジア東部人口集団と共有されており、第三の構成要素はほぼ日本列島の縄文時代個体群として表されます。この分析から、朝鮮TK_2の2個体(AKG_10203とAKG_10207)が他の三国時代の6個体よりも多くの縄文関連祖先系統を有している可能性も示唆されます。この構成要素は現代朝鮮人では欠けていますが、現代日本人には存在します。
●三国時代朝鮮半島の遺伝的類似性の違い
朝鮮TK_1および朝鮮TK_2と古代および現代の人口集団との比較により、人口集団間の共有された遺伝的類似性の量を測定する外群f3統計が計算されました。その結果、朝鮮TK_1は、現代の朝鮮人と日本人と漢人集団および遼河と黄河と日本列島の古墳時代の古代の人口集団と最高の類似性を共有する、と示唆されます。しかし、朝鮮TK_2は縄文祖先系統を有する現代日本人や古墳時代や他の日本列島の古代の人口集団とより近いようです(図3A)。以下は本論文の図3です。
朝鮮TK_1と朝鮮TK_2との間の類似性の違いを観察するため、f4統計(ムブティ人、検証A;朝鮮TK_1、朝鮮TK_2)が実行され、最高値の30の組み合わせが生成されました。朝鮮TK_1とより密接な関係が観察されたのは、現在の中国北部の新石器時代(N)および青銅器時代(BA)の遼河と黄河、ネパールとベトナムと中国の他の歴史時代の人口集団です。朝鮮TK_2と朝鮮半島や日本列島やアムール川流域の古代の人口集団との間で、アレル共有が特定されました。しかし、f4検定(ムブティ人、朝鮮TK_1;黄河後期BA~鉄器時代、遼河BA)では統計的に有意な結果が得られなかったので、アジア北部青銅器時代祖先系統の明確な供給源を検出できません。これは、f4(ムブティ人、検証X;黄河後期BA~鉄器時代、遼河BA)の同じパターンに従っており、ここではXはさまざまな朝鮮半島新石器時代個体(関連記事)で、これら2人口集団への過剰なアレル共有はありません。
f4(ムブティ人、縄文時代個体群;朝鮮TK_1、朝鮮TK_2)では朝鮮TK_2は朝鮮TK_1よりも有意に日本列島の縄文関連祖先系統を有していますが、有意ではないf4統計(ムブティ人、朝鮮TK_2;朝鮮TK_1、縄文時代個体群)からは、朝鮮TK_2が朝鮮TK_1もしくは日本列島の縄文時代個体群と統計的により多くの派生的アレルを共有していない、と示唆されます。さらに、朝鮮中期新石器時代(MN)よりも、朝鮮TK_1と遼河BA/黄河後期青銅器時代(LBA)~鉄器時代(IA)との間で有意に多くの遺伝子流動が観察されます。どちらの検定も、朝鮮TK_2では有意ではありません。
以前の研究(関連記事)では朝鮮半島の古代の個体群のゲノムデータが低網羅率だったことを考慮して、最大で20%の縄文関連祖先系統を有する煙台島(Yeondaedo)と長項(Changhang、加徳島【Gadeokdo】)の遺跡で得られた新石器時代3個体(GDI002とGDI008とTYD007)が、データの少なさと関連する偏りを減少するため、朝鮮MNとして統合されました。以前の研究で報告された、より多くの縄文祖先系統を有する、朝鮮半島南岸の欲知島(Yokchido)遺跡の1個体(TYJ001)も含められました。以前の研究の残りの標本は、全て低網羅率だったので含められませんでした。
さらにf4(ムブティ人、朝鮮TK_1;朝鮮MN、縄文時代個体群)では、朝鮮TK_1は縄文関連祖先系統よりも朝鮮MNの方と近いものの、朝鮮TK_2は逆相関でした。朝鮮半島後期新石器時代(LN)となる欲知島遺跡個体と比較すると、朝鮮TK_1と朝鮮TK_2の両集団には朝鮮LN欲知島とより多くの共有された派生的SNPがありますが、有意ではありません。この場合のわずかな違いはおそらく、朝鮮LN欲知島のより大きな縄文時代個体群との類似性と関連しています。
●祖先系統構成に基づく系統分析
qpAdmを適用して、朝鮮TK_1と朝鮮TK_2両集団の全体的な祖先系統構成が調べられ、観察された縄文関連祖先系統が確証されました。時空間的に、朝鮮半島三国時代と近い合計で10の潜在的供給源が用いられました。三国時代以前の朝鮮祖先系統の唯一の供給源として、以前の研究(関連記事)の朝鮮MNも含められました。これは、以前の研究のほとんどの朝鮮半島古代人のゲノムデータが、本論文のqpAdmの閾値(15万ヶ所のSNP)以下だった、という事実のためです。したがって、そうした以前の研究のほとんどのデータは本論文の分析から除外され、偏りがなく、より信頼性の高い混合モデルが保証されました。
2段階のモデル競合手法を適用すると、朝鮮TK_1は黄河LBIAと関連する祖先系統(93±6%)と縄文関連祖先系統(7±6%)で構成されるものとしてのみモデル化できましたが、朝鮮TK_2は朝鮮MNとして単一モデルを用いてモデル化できました(図4)。朝鮮TK_2における縄文関連祖先系統の量を定量化するため、上述の同じ供給源用いて両方モデル化されましたが、朝鮮MNも検証人口集団の一つとされました。その結果、朝鮮TK_2と朝鮮MNは中国北部祖先系統(70±8%)の代理として遼河BA(66±7%)でモデル化でき、残りの祖先系統は縄文関連供給源に由来しました(混合相手として、遼河BAでは34±7%、中国北部祖先系統では30±8%)。以下は本論文の図4です。
したがって、朝鮮MNにおける縄文関連祖先系統の量は、以前の研究(煙台島個体と長項個体で15%程度)で報告された割合の約2倍となりますが、単一の人口集団へとこれらの個体を統合した結果として用いられたデータの増加のため、これは恐らくより強力な推定値です。本論文で新たに提示されたゲノムデータを、日本列島の古代の個体群についての以前に報告された分析(関連記事)と比較するため、同じ左右一式を用いてqpAdmが繰り返され、朝鮮TK_1はアジア北東部28%と漢人63%と縄文8%としてモデル化できる、と示唆されました。朝鮮TK_2は、アジア北東部32%と漢人43%と縄文25%としてモデル化できます。同時代の日本列島の古墳時代個体群との比較では、朝鮮TK_2はより多くの縄文祖先系統を有しており、その分、漢人祖先系統が少なくなっています。
朝鮮TK_2が朝鮮MNで単一の供給源としてモデル化できるという証拠に基づいて、朝鮮半島における遺伝的連続性が示唆され、他の中国北部関連供給源に加えて、朝鮮TK_1の供給源人口集団を表す朝鮮TK_2の可能性が検証されました。これにより、87.5%の黄河LBIAと12.5%の朝鮮TK_2としてモデル化できる朝鮮TK_1のqpAdm結果が得られました。これらの割合は、朝鮮MNを供給源として用いた場合とひじょうに類似しています。しかし、朝鮮TK_2が朝鮮TK_1もしくは類似の祖先系統を有する人口集団と縄文関連供給源との間の最近の混合を表している、というシナリオを破棄できません。
個体単位で同じqpAdmモデル化を実行すると、朝鮮TK_1クラスタの6個体のうち4個体は黄河BAもしくは遼河BAとして単一の供給源でモデル化できるものの、2個体(AKG_10218とAKG_4321)は別の単一の供給源でモデル化できる(AKG_10218は朝鮮MN/日本列島古墳時代、AKG_4321は朝鮮MN)、と分かりました。しかし、これらのモデルは個体の縄文関連祖先系統を過大評価しているかもしれません。それは、f4統計(ムブティ人、縄文時代個体群;AKG_3421/AKG_10218、他の朝鮮TK_1個体)が、他の朝鮮TK_1個体と比較すると、縄文時代個体群への有意ではない類似性を示唆しているからです。さらに、密接な中国の供給源として、黄河BAもしくは遼河BA人口集団への朝鮮TK_1の明確な遺伝的類似性は観察されませんでした。
以前の研究(関連記事)の調査結果では、朝鮮半島における縄文関連祖先系統の存在は新石器時代に限定されます。さらに、Taejungni遺跡の青銅器時代個体のひじょうに低い網羅率のゲノムデータを考えると、以前の研究で提示されたqpAdm分析にはより単純な1方向モデルを却下する統計的能力が欠けており、この個体がじっさいに、縄文関連(もしくは他の)祖先系統を有していた可能性もあります。じっさい、朝鮮TK_2のAKG_10203個体を1万ヶ所のSNPの独立した4つの一式へと無作為に二次標本抽出し、それをモデル化することにより、偏った結果が得られました。各複製について、5~8の人口集団はp値が0.05以上(0.064<p<0.924)で1方向モデルとして機能したものの、AKG_10203個体の完全なSNP一式モデルは、30%以上の縄文関連祖先系統を必要としました。2つか3つの供給源人口集団を用いて二次標本抽出された全てのモデルは、祖先系統量より多い標準誤差があるため失敗したことにも要注意です。
朝鮮半島三国時代(朝鮮TK)とその同時代になる日本列島古墳時代個体群との間の類似性も、祖先系統モデル化で調べられました。2つの朝鮮TK集団(朝鮮TK_1と朝鮮TK_2)のいずれかを潜在的な供給源として考慮しない場合、日本列島の古墳時代の個体群(紀元後600~700年頃)は、遼河BAと関連する中国北部祖先系統の供給源(78±7%)と、縄文関連祖先系統を有する別の供給源(22±7%)を必要とするものとしてモデル化でき、その縄文関連祖先系統は、朝鮮TK_2よりも少ないものの、朝鮮TK_1よりも多い、と明らかになります。f4統計(ムブティ人、縄文時代個体群;古墳時代個体、朝鮮TK_2)は、この調査結果を裏づけます。朝鮮TKを潜在的な供給源として用いると、日本列島の古墳時代の個体は朝鮮TK_2(71±10%)および黄河LBIA(29±10%)としてモデル化できます。
最後に、qpAdmを適用し、別々の潜在的供給源として朝鮮TK集団も含む朝鮮半島古代人のモデル化に用いられた同じ祖先系統供給源を使って、現代朝鮮人がモデル化されました。その結果、最も単純な作業モデルは、黄河LBIAと関連する供給源を用いたものだった、と分かりました。しかし、現代朝鮮人が供給源として朝鮮TKの各個体を用いてモデル化されると、朝鮮TK_1の6個体のうち少なくとも3個体は、黄河LBIAと同様に単一の供給源として充分でした。
DATESを用いてのqpAdm分析により特定された混合事象の年代が推定されました。朝鮮TK_2については、どの組み合わせでも有意な結果が得られず、黄河LBIAと日本列島縄文の混合としてモデル化された朝鮮TK_1のみで有意な結果が得られ、47.93±13.7世代としてモデル化されました。1世代28年と仮定すると、これは紀元前1400~紀元前600年頃に起きた混合に相当します。
●遺伝子および表現型の連続性
みなし遺伝子型データセットに基づく、fineSTRUCTUREと同祖対立遺伝子(identity-by-descent、略してIBD)分析で得られた結果は、朝鮮TK_1と朝鮮TK_2集団間の明確な分離を裏づけます。IBDとは、かつて共通祖先を有していた2個体のDNAの一部が同一であることを示しており、IBD領域の長さは2個体が共通祖先を有していた期間に依存し、たとえばキョウダイよりもハトコの方が短くなります。fineSTRUCTUREでは、朝鮮TK_1は現代の朝鮮人および中国の漢人と関連しています(図5A)。一方、朝鮮TK_2は、現代の朝鮮人もしくは漢人よりも、現代日本人と日本列島の古墳時代個体群および縄文時代個体群の方と近い遺伝的類似性を示します(図5A・B)。
朝鮮TK_1と朝鮮TK_2の間で現代および古代の人口集団と共有されるIBDは、明確に区別された傾向を示します。朝鮮TK_2と日本列島の縄文時代個体群との間で共有されるIBDの正規化された長さは平均3.37で、朝鮮TK_1(0.65)の5.16倍となります。現代の人口集団と比較すると、類似の傾向が観察されます。朝鮮TK_2と現代日本人は1個体あたり2.52を共有していますが、朝鮮TK_1では0.51です。現代朝鮮人と共有される平均的な長さは両集団間でより類似しており、朝鮮TK_2では0.67、朝鮮TK_1では0.38です。これは、縄文関連祖先系統が観察された違いを説明する、と示唆しており、日本列島の縄文時代個体群と朝鮮TK_2との間のつながりがより多いことを示します。TK個体間で観察されたIBDの塊はごくわずかです。これは、本論文で提示された個体群の低網羅率により説明でき、明確な傾向の評価はできません。以下は本論文の図5です。
本論文のデータを用いて、現代朝鮮人との潜在的な違いを調べるため、文献から形態や他の特徴と関連する160ヶ所の多様体が選択され、朝鮮半島の人類が過去1700年間に表現型が変化したのかどうか、推定されました。標本規模が小さいことにより統計的に有意な推論を引き出せなかったので、関連する多様体の有無に分析が限定されました。本論文の朝鮮TKの8個体に基づいて、現代の朝鮮半島人口集団に存在する関連多様体は全て、遅くとも三国時代となる1700年前頃にはすでに確立しており、深い遺伝的連続性を示す、と結論づけられます。
全ての分析された個体で一部のアジア東部人の特徴が検出され、その中に含まれるのは、乾燥した耳垢、無体臭(一塩基多型rs17822931)、過剰な発汗と関連する同型接合アレルがないことです。8個体のうちAKG_10207を除く7個体は、アジア人の太い直毛と関連するエクトジスプラシンA受容体(EDAR)遺伝子の多様体(rs3827760)を有しており、そのうち6個体では同型接合でした。表現型予測実施要綱であるHirisPlexシステムでは、全個体が、茶色の目、最も高い可能性で黒い髪、中間的な色からより濃い色までの肌の色合いを有している、と予測されました。これは、現代朝鮮人の表現型とも一致する結果です。
驚くべきことに、三国時代の伽耶の8個体の遺伝的構成には、現代朝鮮人の一般的な健康に関する表現型も含まれていました。つまり、この8個体全てが複数(4個以上)の「近視危険性に対する感受性」アレルを有していました。近視は現代朝鮮人ではひじょうによく見られ、ソウルの成人男性では95%に達します。何人かの個体で、アルコール紅潮反応と関連する多様体が検出されました。また全個体は平均して、少なくとも1つの同型接合脱毛症危険性アレルか、8個のアンドロゲン性脱毛症危険性多様体を有しており、1個体(AKG_10209)はこれら同型接合危険性アレルのうち5個を有していました。
8個体のゲノムでは、瞼の形態、縮毛、他の表現型の特徴と関連する多様なSNP特性も把握されました(図6)。朝鮮TK_2の女性1個体(AKG_10207)は、EDAR遺伝子のSNP(rs3827760)の参照アレル(A)を有する点で際立っており、これはアジア東部人では、日本列島の縄文時代個体群を除いて一般的に稀です。髪の形態の評価困難ですが、朝鮮TK_2の女性1個体(AKG_10207)は、EDAR遺伝子のSNP(rs3827760)の参照アレル同型接合に加えて、縮毛と関連する複数のSNPを有しており、そのうち2つは同型接合なので、この女性個体は波状の髪だったかもしれませんが、他の個体は直毛だった可能性が最も高そうです。6は本論文の図6です。
HirisPlex表現型予測実施要綱と選択された法医学的に関連する形態関連SNPにより評価された全ての表現型の特徴は、パラボン・ナノラボ社により独立して評価されました。残念ながら、全TK個体の骨格遺骸の保存状態が悪いため、標準的な頭蓋に基づく顔面再構築は不可能でした。したがって、基本的な表現型の特徴を超えた分析を説明し、研究対象個体の顔の特徴を包括的に再構築するために、みなし呼び出しに基づくスナップショットの顔の予測が用いられ、これも、現代朝鮮人と区別できない表現型の多様性を示しました(図6)。
●考察
本論文は、朝鮮半島の人類のゲノムに関する以前の研究と比較して、いくつかの新規性を提示します。まず、回収された標本と利用可能なデータセットとの正確な比較を可能とする、信頼できる統計を得るのに充分な網羅率の標本が提示されました。第二に、紀元後5世紀まで朝鮮半島には縄文祖先系統が存在した、と確証されました。第三に、現代朝鮮人が三国時代の伽耶の8個体と密接に関連するという、信用できるqpAdmの結果が示されます。最後に、同じ遺伝的歴史を示さず、過去の人口集団の多様性を示す、2つの遺伝的集団の存在が報告されます。
最近のいくつかの研究では、現在の中国と日本とモンゴルとベトナムの古代の個体群のゲノムデータと、金海に近い韓国南東部地域の古代人の低網羅率捕獲データも報告されました。本論文は、朝鮮半島三国時代のショットガンデータを提供したことにより、三国時代の金海の人口集団を遺伝学的に特徴づけるとともに、朝鮮半島の遺伝的歴史に光を当てることが可能となりました。しかし、新石器時代と青銅器時代の高網羅率の朝鮮半島の標本では、朝鮮半島における縄文関連多様性の希釈の詳細な評価はできません。したがって、これら先史時代の期間のより多くの標本がある将来の研究は、朝鮮半島三国時代の遺伝的動態の理解にとって興味深いでしょう。さらに、全ての現時点で利用可能な朝鮮半島古代人のゲノムは、本論文で提示されたものも含めて韓国南東部のみに由来し、朝鮮半島の古代人および現代人の起源と移住と混合の全体像を反映していなかもしれないことに、注意すべきです。
三国時代の伽耶の個体群で見られる遺伝的違いは、三国時代における金海地域の人口集団の多様性を示します。一部の個体が、以前に報告された朝鮮半島沿岸部の新石器時代個体群と遺伝的に近い一方で、他の個体がこの類似性を共有しておらず、異なる遺伝的歴史の人口集団を示しているのは、興味深いことです。朝鮮TK_1クラスタの個体群は、朝鮮半島中期新石器時代の安島(Ando)個体と同程度の量の縄文祖先系統を有していますが、煙台島や加徳島(長項)の個体は違います。これは、朝鮮TK_2の類似性が示唆しているかもしれないように、煙台島や加徳島(長項)の個体が、身体的のみならず遺伝的にも日本人に近いことによって説明できます。これは、朝鮮半島における日本列島の縄文祖先系統の存在が経時的に変わったことを示唆します。金海では同じ地域内で多様性が観察されましたが、以前の新石器時代のゲノムデータは、縄文関連祖先系統の地理的違いを示唆します(関連記事)。朝鮮TK_2クラスタは、同時代の日本列島の古墳時代祖先系統よりも多くの縄文関連祖先系統を有しており、これも地域的水準での異なる縄文関連祖先系統の存在を証明します。これはおもに、侵入してきた中国北東部祖先系統の量に影響を受けます。
同様に、以前に報告された単一の青銅器時代朝鮮半島古代人のゲノムにおける縄文関連祖先系統の欠如は、データ量がひじょうに少なく、使用された分析手法(qpAdm)では統計的に裏づけられないかもしれないことも示されました。それにも関わらず、本論文の結果から、縄文関連祖先系統は朝鮮半島南部において少なくとも紀元後500年頃となる三国時代まで高水準で存続していた、と示されます。さらに、縄文文化がどの時点でも金海地域において主要な文化的構成要素として特定されず、現代朝鮮人が縄文関連祖先系統を有さず、高い遺伝的均質性を示す事実から、縄文関連祖先系統を有する朝鮮半島の三国時代人口集団は、朝鮮半島沿岸を通って侵入してきた中国北部起源の人口集団により、おそらく完全に吸収された、と示唆されます。
欲知(Yokji)島や煙台島といった朝鮮半島南東部の島々に関する最近の考古学的報告は、青銅器時代と鉄器時代の前に交易されていた黒曜石のような発見物を引用して、現代の韓国の領域における縄文文化の存在を確証します。これらの人工遺物は黒曜石の産地である長崎県の腰岳に由来し、伽耶の「世界主義」およびこの時点までの日本列島との確立した交易網を示唆します。新石器時代における縄文関連祖先系統の証拠から、この祖先系統は現在の韓国の領域において在来であり、おそらくは日本列島の縄文文化とは関連していなかった、と示唆されます。したがって、朝鮮半島全域における縄文混合の起源と程度を正確に解明するには、朝鮮半島全体の古ゲノミクスが必要です。現在のデータでは、中国北部における特定の供給源人口集団を示すことはできません。近い将来、より大きな標本規模と個体の遺伝的歴史に基づくより発展した情報科学によって、これら類似した人口集団の間を区別し、この祖先系統の起源を解明できるようになるかもしれません。
三国時代の伽耶の個体群で特定された遺伝的違いと2つの遺伝的下位集団にも関わらず、集団間の一貫した表現型の違いを指摘できませんでした。代わりに、本論文の表現型分析は現代朝鮮人における強い遺伝的連続性を示唆します。その中には、代謝関連のホスホリパーゼB(PLB1)遺伝子のイントロン多様体rs1534480や、耳垢の表現型を決定するABCC11遺伝子のG538A型(rs17822931)など重要なSNPも含まれ、それらはすでに、北京の南西56km にある田园(田園)洞窟(Tianyuan Cave)で発見された4万年前頃の男性1個体(関連記事)に見られ、アジア東部におけるこれらの多様体の過去4万年間の遺伝的連続性を示唆します。二倍体呼び出し分析も、朝鮮TK_1と現代朝鮮人との間、および朝鮮TK_2と現代日本人との間のつながりを証明します。しかし、本論文の標本の網羅率は比較的低いので、高解像度のIBD分析には不充分と証明されました。
本論文の結果は、朝鮮TK_1と朝鮮TK_2の両集団が、両方の埋葬様式と関連する個体を含んでいたため、墓の所有者とヒトの生贄が異なる遺伝的下部構造と関連していなかったことも示唆します。しかし、人工遺物から推測される情報は、墓の略奪と保存状態の悪さのため、限られていました。たとえば、男性個体(AKG_10203)は墓の所有者として特定され、おそらくは戦士階級かより下位階級の帰属でしたが、女性個体(AKG_10207)はおそらく生贄(殉死)でした。残りの金箔の青銅器製人工遺物と矢筒の装飾品は、男性個体(AKG_10203)の社会的地位を正確に判断するには不充分です。
これらの問題のため、各墓の所有者を特定できず、それは女性個体(AKG_10207)も同様です。この女性個体は、鉄製槍と青銅製鏡の発見により示唆されるように、おそらくは高位貴族の生贄でした。朝鮮TK_1集団において、男性個体(AKG_10218)は墓の所有者でしたが、残りの被葬者は他の墓の所有者の生贄でした。本論文の証拠から、紀元後5~6世紀の伽耶諸国の支配階級は、「国際的」社会を示すかもしれない遺伝的多様性により特徴づけられる、と示唆されます。大成洞古墳において性別と社会的地位との間の関係を確認できなかったことも、注目に値します。2人の墓の所有者は男性でしたが、本論文で分析対象とされたヒトの生贄は、両性と関連していました。
以上、本論文についてざっと見てきました。本論文は、朝鮮半島における三国時代の伽耶の人類集団のゲノムに見られる日本列島の縄文関連祖先系統が、現在の中国北東部から侵入してきた人口集団により希釈され、現代朝鮮人の遺伝的構造が形成された可能性を指摘します。朝鮮半島においては、新石器時代において縄文関連祖先系統を現代朝鮮人よりずっと多く有する個体が確認され、本論文ではそれが三国時代においても証明されました。本論文が指摘するように、現時点では朝鮮半島古代人のゲノムデータに地域的偏りがあるので、朝鮮半島全体の広範な期間における縄文時代個体関連祖先系統の起源と程度については、今後の古代ゲノム研究の進展を俟たねばなりません。
本論文は、こうした朝鮮半島における縄文関連祖先系統の存在が新石器時代から継続した可能性を示唆しますが、あるいは古墳時代に日本列島から朝鮮半島と渡海した人類遺骸の遺伝的影響も、一定以上あるかもしれません。日本列島と同じく、朝鮮半島も過去と現代とで人類集団の遺伝的構成に違いが見られ、民族主義と結びつきやすい、特定地域における長期の遺伝的連続性を安易に想定してはならない、と改めて思います(関連記事)。
参考文献:
Gelabert P. et al.(2022): Northeastern Asian and Jomon-related genetic structure in the Three Kingdoms period of Gimhae, Korea. Current Biology, 32, 15, 3232–3244.E6.
https://doi.org/10.1016/j.cub.2022.06.004
追記(2022年8月19日)
本論文の解説記事を取り上げました(関連記事)。
追記(2023年11月12日)
全体の体裁が他の記事とは異なっていたので、他の記事と同様にし、要約を新たに掲載しました。
●要約
先史時代および原史時代の朝鮮人口集団の遺伝的歴史は、少数の古代ゲノムしか利用可能ではないので、よく理解されていません。本論文は、朝鮮の文化的および歴史的形成における重要な期間である朝鮮の三国時代の最初の古ゲノムデータを報告します。これらのデータは古代朝鮮の8点のショットガン配列ゲノムから構成されます(網羅率は0.7~6.1倍)。それらのゲノムデータは金海市の2ヶ所の遺跡に由来しました。それは柳下里(Yuha-ri)貝塚と大成洞(Daesung-dong)古墳で、後者は伽耶諸国の最重要の埋葬複合施設です。全ての個体は4~5世紀で、中国北部青銅器時代の遺伝的供給源と、日本の現代人のゲノムと類似性を共有する縄文関連祖先系統供給源との間の混合として、最適にモデル化されます。縄文関連祖先系統の観察された下部構造と割合は、人口集団内の2つの遺伝的まとまり(集団)の存在と、伽耶人口集団における遺伝的多様性を示唆します。本論文は、これら2集団間の遺伝的違いを社会的地位もしくは性別と相関させられませんでした。髪や目の色、顔面形態、近視と関連する表現型に関連する一塩基多型を含む、全ての古代の個体群のゲノム特性は、過去1700年間の現代朝鮮人との強い遺伝的および表現型の連続性を示唆します。
●研究史
最近の研究では、アジア東部人口集団には新石器時代にたどれる遺伝的連続性がある、と明らかにされています。現代朝鮮人は、特徴的な遺伝学的および言語学的特色を有するアジア東部集団です。朝鮮語は他の密接に関連した現代の言語を有していない孤立言語として分類されることが多く(関連記事)、新石器時代に雑穀農耕民により朝鮮半島にもたらされた可能性があります(関連記事)。
現代朝鮮人1094個体のゲノムに関する最近の研究では、現代朝鮮人は過去数世紀の孤立の可能性の結果である遺伝的浮動のため遺伝的に均質な集団である、と示唆されています(関連記事)。しかし、朝鮮人の母系と父系の遺伝標識では、現代朝鮮人の遺伝的構造はいくつかの過去の混合事象を含む過程により形成された、と示唆されています。そうした研究では、現代朝鮮人のゲノムは現在の中国に位置する西遼河と日本列島の古代の人口集団の祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)との混合、もしくはモンゴルの中期新石器時代の廟子溝(Miaozigou)遺跡個体群と縄文時代個体群との間の混合としてモデル化できる、と示されています(関連記事)。
新石器時代と青銅器時代の朝鮮半島古代人の低網羅率ゲノム数点(関連記事)は、この縄文関連祖先系統の顕著な水準の希釈を示唆しており、それは青銅器時代(BA)に朝鮮半島で起き、朝鮮半島の三国時代(紀元前57~紀元後668年)と重複する日本列島の古墳時代の人々で観察されたもの(関連記事)と類似しています。しかし、三国(TK)時代の朝鮮半島に関する古代DNA研究の欠如に起因する大きな知識の間隙が残っています。三国時代には、朝鮮人の民族性と民族文化が、新羅王国による三国(高句麗と百済と新羅)の統一を通じて形成されました。新羅から高麗王国と朝鮮王国(末期には大韓帝国)を経て、現代朝鮮人の国民意識が形成されました。
農耕的に複雑な社会は、朝鮮半島では青銅器時代(紀元前1400~紀元前300年頃)に出現しました。イネの遺伝学的研究と考古学的実地調査の両方から、イネとさまざまなマメ科植物は西遼河地域からもたらされ、その後、紀元前1300~紀元前800年頃に栽培が強化された、と示唆されています。青銅器時代アジア北東部人口集団と関連する遺伝的祖先系統とともに、朝鮮半島から日本列島へとイネが広がりました(関連記事)。
並行して、鉄生産が現在の中国から朝鮮半島へと紀元前4世紀に到来し、その後で弥生時代(紀元前10世紀~紀元後3世紀)に朝鮮半島から日本列島へと広がりました。しかし、朝鮮半島における鉄技術拡大が、ヒトの移住を伴っていたのか、交易もしくは文化伝播のみで伝わったのか、明らかではありません。朝鮮半島の新石器時代および青銅器時代(関連記事)と日本列島の古墳時代(関連記事)の人類遺骸の最近のゲノム解析は、紀元後4~7世紀における両地域での縄文関連祖先系統の顕著な希釈を示唆します。
高句麗と百済と新羅により支配されていた朝鮮半島の三国時代には、鉄技術および近隣人口集団との交易の大きな発展が見られました。伽耶(加羅)諸国は、朝鮮半島において三国に支配されなかった最後の領域で、近隣の新羅に併合される紀元後6世紀まで存続しました。伽耶には三国時代初期において最も発達した鉄生産と交易基盤があり、商品の交換とともに、おそらくは日本列島や現在の中国北部の倭(濊)の住民など人々の移動も含まれていました。これが示唆するのは、伽耶の政治的中心地であった金海(Gimhae)が重要な交易中心地で、そのため、金海の民衆はローマの古代の住民に関する最近の遺伝学的研究(関連記事)で明らかになったことと同様の水準の「世界主義」を含んでいたかもしれません。
紀元後3世紀末に、金海地域の遺跡は埋葬儀式の変化を示し、その中には、石槨竪穴式墓地や甕棺墓の木室埋葬との置換も含まれます。この時期には、ヒトの生贄(殉死)、武器や鏡や青銅器および鉄器の他の製品など副葬品、死者に供えられた家畜の切断された頭などを含む葬儀慣行も導入されました。伽耶文化の最重要の発掘された中心地は、金海の大成洞(Daesung-dong)にある支配者の大規模な3700m²の埋葬複合施設で、年代は紀元後1~5世紀です。それは219基の墓で構成されており、そのうち69基は、ヒトの犠牲、土器や鉄の鎧や弓矢と関連する道具などを含む、複数埋葬のある複合施設です。より控えめな埋葬が、同じ慶尚南道(Gyungsangnamdo)の貝塚で三国時代を通じて発見されており、釜山(Busan)や金海などの地域を含みます。これらの貝塚には、ヒトの生贄や単葬ではなく家族墓を含むものはありません。
●標本
大韓民国慶尚南道金海市の2ヶ所の遺跡の22個体の、錐体骨もしくは歯が27点調べられました。その2ヶ所の遺跡とは、紀元後4~5世紀の大成洞古墳と柳下里(Yuha-ri)貝塚です(図1)。このうち8個体でゲノムデータ(網羅率は0.73~6.13倍)が得られました(表1)。以下は本論文の表1です。
大成洞古墳の7個体は全て、社会的地位と関連している特定の葬儀慣行、具体的には主要な埋葬(墓の所有者)およびヒトの生贄と関わっていました。柳下里貝塚の子供1個体(AKG_3420)の単葬墓は、埋葬要素の欠如のためどの社会的地位にも割り当てられませんでした。性染色体と常染色体の深度網羅率比に基づいて、5個体が女性、3個体が男性と識別されました。これらのゲノムデータを用いて、まず124万データセットの疑似半数体位置が呼び出され、次に計算された二倍体呼び出しが生成され、ハプロタイプに基づく現代の人口集団とのつながりが特定されました。以下は本論文の図1です。
一致しないアレル(対立遺伝子)の正規化された割合が0.906以上であることを考えると、配列決定された個体間で識別可能な密接な家族関係はなく、2親等程度の関係はないと示唆されます。2つの適用されたROH(runs of homozygosity、同型接合連続領域)呼び出し手法から、古代朝鮮の金海人(AKG)のゲノムは、ごくわずかな断片のみが同型接合であることを示します。ROHとは、両親からそれぞれ受け継いだと考えられる同じアレルのそろった状態が連続するゲノム領域で、長いROHを有する個体の両親は近縁関係にある、と推測されます。ROHは人口集団の規模と均一性を示せます。ROH区間の分布は、有効人口規模と、1個体内のハプロタイプの2コピー間の最終共通祖先の時間を反映しています(関連記事)。全てのAKG個体は、現在の人口集団の多様性内に位置する値を示します。朝鮮人個体群では、古代人1個体(AKG_10207)は長いROHの量が最も多く、最近の近親交配を示します。
●片親性遺伝標識
片親性遺伝標識(母系のミトコンドリアDNAと父系のY染色体)では、全てのAKG個体は典型的なアジア東部ミトコンドリアDNA(mtDNA)ハプログループ(mtHg)であるBとFとMを有しています。これらのmtHgは現代朝鮮人ではよく見られ、最も一般的なmtHgはD4で、AKGの8個体のうち4個体で特定されました。mtHg-D4は日本列島において弥生時代農耕民でも一般的ですが、縄文時代個体群(関連記事)には存在しませんでした。AKGの男性3個体のうち2個体でY染色体ハプログループ(YHg)を詳しく決定でき、AKG_10203がYHg-D1a2a1、 AKG_10204がYHg-O1b2a1a2a1b1です。AKG_10218は網羅率が低いため、YHg-Oという大きな分類にしか割り当てられませんでした。YHg-Oは現代朝鮮人において最も一般的で、その割合は70%以上となりますが(関連記事)、YHg-Dは現代の日本人集団でより一般的です。
●集団遺伝学
一塩基多型(SNP)のヒト起源(HO)データセットの位置に限定し、アジア東部個体群を用いて、主成分分析(PCA)が実行されました。伽耶の8個体は、他の刊行された古代の個体群に沿って主成分(PC)に投影されました。その結果、アジア東部古代人における4つの分化した遺伝的集団の存在が示されました。それは、(1)アムール川、(2)中国北部、(3)中国南部、(4)縄文関連人口集団です(図2A)。朝鮮半島三国時代の8個体はアジア東部個体群の多様性内に位置し、とくに近いのは、現代の朝鮮人および日本人、日本列島の古墳時代個体群、数人の新石器時代の朝鮮半島の個体です(図2A)。しかし、2個体(AKG_10203とAKG_10207)は現代日本人とかなり密接に、日本列島の縄文時代個体群と密接にクラスタ化し(まとまり)、伽耶の他の6個体とは区別されるパターンです(図2A)。以下は本論文の図2です。
次に、対でのqpWave分析を用いて、伽耶の8個体の祖先構成要素が調べられ、他者とクレード(単系統群)を形成しない可能性のある個体が特定されました。日本列島の縄文時代個体群(関連記事)を含む10の外群人口集団の一式を用いると、ほとんどの個体は相互にクレードを形成しました。しかし、2個体(AKG_10203とAKG_10207)は残りのどの個体ともクレードを形成しませんでした。したがって、三国時代の伽耶の8個体は2集団に分けられました。一方は外れ値の2個体(朝鮮TK_2)で、もう一方は残りの6個体(朝鮮TK_1)です。
朝鮮TK_1の1個体(AKG_3421)はPCAでわずかに朝鮮TK_2の方へと動いており、朝鮮TK_1の他の5個体とクレードを形成しません(図2A)。それにも関わらず、個体AKG_3421は、朝鮮TK_1内の各個体についての全てのf4統計(ムブティ人、縄文時代個体群;AKG_3421、朝鮮TK_1個体)でZ得点が2.45未満なので、朝鮮TK_1の一部として分類されます。最後に、墓の所有者もしくは犠牲埋葬の一部だった朝鮮TK_1と朝鮮TK_2の両方に個体が存在するので、観察されたクラスタ化パターンは埋葬の地位と関連づけられません。
次に、現代人および古代人2283個体を含むADMIXTUREと、HOデータセットの削減したSNP一式で、三国時代伽耶の8個体の遺伝的構造が評価されました。K(系統構成要素数)=12で、朝鮮半島三国時代の個体群は、3つの主要な遺伝的構成要素により最適に表されます。そのうち2つは他の古代および現代アジア東部人口集団と共有されており、第三の構成要素はほぼ日本列島の縄文時代個体群として表されます。この分析から、朝鮮TK_2の2個体(AKG_10203とAKG_10207)が他の三国時代の6個体よりも多くの縄文関連祖先系統を有している可能性も示唆されます。この構成要素は現代朝鮮人では欠けていますが、現代日本人には存在します。
●三国時代朝鮮半島の遺伝的類似性の違い
朝鮮TK_1および朝鮮TK_2と古代および現代の人口集団との比較により、人口集団間の共有された遺伝的類似性の量を測定する外群f3統計が計算されました。その結果、朝鮮TK_1は、現代の朝鮮人と日本人と漢人集団および遼河と黄河と日本列島の古墳時代の古代の人口集団と最高の類似性を共有する、と示唆されます。しかし、朝鮮TK_2は縄文祖先系統を有する現代日本人や古墳時代や他の日本列島の古代の人口集団とより近いようです(図3A)。以下は本論文の図3です。
朝鮮TK_1と朝鮮TK_2との間の類似性の違いを観察するため、f4統計(ムブティ人、検証A;朝鮮TK_1、朝鮮TK_2)が実行され、最高値の30の組み合わせが生成されました。朝鮮TK_1とより密接な関係が観察されたのは、現在の中国北部の新石器時代(N)および青銅器時代(BA)の遼河と黄河、ネパールとベトナムと中国の他の歴史時代の人口集団です。朝鮮TK_2と朝鮮半島や日本列島やアムール川流域の古代の人口集団との間で、アレル共有が特定されました。しかし、f4検定(ムブティ人、朝鮮TK_1;黄河後期BA~鉄器時代、遼河BA)では統計的に有意な結果が得られなかったので、アジア北部青銅器時代祖先系統の明確な供給源を検出できません。これは、f4(ムブティ人、検証X;黄河後期BA~鉄器時代、遼河BA)の同じパターンに従っており、ここではXはさまざまな朝鮮半島新石器時代個体(関連記事)で、これら2人口集団への過剰なアレル共有はありません。
f4(ムブティ人、縄文時代個体群;朝鮮TK_1、朝鮮TK_2)では朝鮮TK_2は朝鮮TK_1よりも有意に日本列島の縄文関連祖先系統を有していますが、有意ではないf4統計(ムブティ人、朝鮮TK_2;朝鮮TK_1、縄文時代個体群)からは、朝鮮TK_2が朝鮮TK_1もしくは日本列島の縄文時代個体群と統計的により多くの派生的アレルを共有していない、と示唆されます。さらに、朝鮮中期新石器時代(MN)よりも、朝鮮TK_1と遼河BA/黄河後期青銅器時代(LBA)~鉄器時代(IA)との間で有意に多くの遺伝子流動が観察されます。どちらの検定も、朝鮮TK_2では有意ではありません。
以前の研究(関連記事)では朝鮮半島の古代の個体群のゲノムデータが低網羅率だったことを考慮して、最大で20%の縄文関連祖先系統を有する煙台島(Yeondaedo)と長項(Changhang、加徳島【Gadeokdo】)の遺跡で得られた新石器時代3個体(GDI002とGDI008とTYD007)が、データの少なさと関連する偏りを減少するため、朝鮮MNとして統合されました。以前の研究で報告された、より多くの縄文祖先系統を有する、朝鮮半島南岸の欲知島(Yokchido)遺跡の1個体(TYJ001)も含められました。以前の研究の残りの標本は、全て低網羅率だったので含められませんでした。
さらにf4(ムブティ人、朝鮮TK_1;朝鮮MN、縄文時代個体群)では、朝鮮TK_1は縄文関連祖先系統よりも朝鮮MNの方と近いものの、朝鮮TK_2は逆相関でした。朝鮮半島後期新石器時代(LN)となる欲知島遺跡個体と比較すると、朝鮮TK_1と朝鮮TK_2の両集団には朝鮮LN欲知島とより多くの共有された派生的SNPがありますが、有意ではありません。この場合のわずかな違いはおそらく、朝鮮LN欲知島のより大きな縄文時代個体群との類似性と関連しています。
●祖先系統構成に基づく系統分析
qpAdmを適用して、朝鮮TK_1と朝鮮TK_2両集団の全体的な祖先系統構成が調べられ、観察された縄文関連祖先系統が確証されました。時空間的に、朝鮮半島三国時代と近い合計で10の潜在的供給源が用いられました。三国時代以前の朝鮮祖先系統の唯一の供給源として、以前の研究(関連記事)の朝鮮MNも含められました。これは、以前の研究のほとんどの朝鮮半島古代人のゲノムデータが、本論文のqpAdmの閾値(15万ヶ所のSNP)以下だった、という事実のためです。したがって、そうした以前の研究のほとんどのデータは本論文の分析から除外され、偏りがなく、より信頼性の高い混合モデルが保証されました。
2段階のモデル競合手法を適用すると、朝鮮TK_1は黄河LBIAと関連する祖先系統(93±6%)と縄文関連祖先系統(7±6%)で構成されるものとしてのみモデル化できましたが、朝鮮TK_2は朝鮮MNとして単一モデルを用いてモデル化できました(図4)。朝鮮TK_2における縄文関連祖先系統の量を定量化するため、上述の同じ供給源用いて両方モデル化されましたが、朝鮮MNも検証人口集団の一つとされました。その結果、朝鮮TK_2と朝鮮MNは中国北部祖先系統(70±8%)の代理として遼河BA(66±7%)でモデル化でき、残りの祖先系統は縄文関連供給源に由来しました(混合相手として、遼河BAでは34±7%、中国北部祖先系統では30±8%)。以下は本論文の図4です。
したがって、朝鮮MNにおける縄文関連祖先系統の量は、以前の研究(煙台島個体と長項個体で15%程度)で報告された割合の約2倍となりますが、単一の人口集団へとこれらの個体を統合した結果として用いられたデータの増加のため、これは恐らくより強力な推定値です。本論文で新たに提示されたゲノムデータを、日本列島の古代の個体群についての以前に報告された分析(関連記事)と比較するため、同じ左右一式を用いてqpAdmが繰り返され、朝鮮TK_1はアジア北東部28%と漢人63%と縄文8%としてモデル化できる、と示唆されました。朝鮮TK_2は、アジア北東部32%と漢人43%と縄文25%としてモデル化できます。同時代の日本列島の古墳時代個体群との比較では、朝鮮TK_2はより多くの縄文祖先系統を有しており、その分、漢人祖先系統が少なくなっています。
朝鮮TK_2が朝鮮MNで単一の供給源としてモデル化できるという証拠に基づいて、朝鮮半島における遺伝的連続性が示唆され、他の中国北部関連供給源に加えて、朝鮮TK_1の供給源人口集団を表す朝鮮TK_2の可能性が検証されました。これにより、87.5%の黄河LBIAと12.5%の朝鮮TK_2としてモデル化できる朝鮮TK_1のqpAdm結果が得られました。これらの割合は、朝鮮MNを供給源として用いた場合とひじょうに類似しています。しかし、朝鮮TK_2が朝鮮TK_1もしくは類似の祖先系統を有する人口集団と縄文関連供給源との間の最近の混合を表している、というシナリオを破棄できません。
個体単位で同じqpAdmモデル化を実行すると、朝鮮TK_1クラスタの6個体のうち4個体は黄河BAもしくは遼河BAとして単一の供給源でモデル化できるものの、2個体(AKG_10218とAKG_4321)は別の単一の供給源でモデル化できる(AKG_10218は朝鮮MN/日本列島古墳時代、AKG_4321は朝鮮MN)、と分かりました。しかし、これらのモデルは個体の縄文関連祖先系統を過大評価しているかもしれません。それは、f4統計(ムブティ人、縄文時代個体群;AKG_3421/AKG_10218、他の朝鮮TK_1個体)が、他の朝鮮TK_1個体と比較すると、縄文時代個体群への有意ではない類似性を示唆しているからです。さらに、密接な中国の供給源として、黄河BAもしくは遼河BA人口集団への朝鮮TK_1の明確な遺伝的類似性は観察されませんでした。
以前の研究(関連記事)の調査結果では、朝鮮半島における縄文関連祖先系統の存在は新石器時代に限定されます。さらに、Taejungni遺跡の青銅器時代個体のひじょうに低い網羅率のゲノムデータを考えると、以前の研究で提示されたqpAdm分析にはより単純な1方向モデルを却下する統計的能力が欠けており、この個体がじっさいに、縄文関連(もしくは他の)祖先系統を有していた可能性もあります。じっさい、朝鮮TK_2のAKG_10203個体を1万ヶ所のSNPの独立した4つの一式へと無作為に二次標本抽出し、それをモデル化することにより、偏った結果が得られました。各複製について、5~8の人口集団はp値が0.05以上(0.064<p<0.924)で1方向モデルとして機能したものの、AKG_10203個体の完全なSNP一式モデルは、30%以上の縄文関連祖先系統を必要としました。2つか3つの供給源人口集団を用いて二次標本抽出された全てのモデルは、祖先系統量より多い標準誤差があるため失敗したことにも要注意です。
朝鮮半島三国時代(朝鮮TK)とその同時代になる日本列島古墳時代個体群との間の類似性も、祖先系統モデル化で調べられました。2つの朝鮮TK集団(朝鮮TK_1と朝鮮TK_2)のいずれかを潜在的な供給源として考慮しない場合、日本列島の古墳時代の個体群(紀元後600~700年頃)は、遼河BAと関連する中国北部祖先系統の供給源(78±7%)と、縄文関連祖先系統を有する別の供給源(22±7%)を必要とするものとしてモデル化でき、その縄文関連祖先系統は、朝鮮TK_2よりも少ないものの、朝鮮TK_1よりも多い、と明らかになります。f4統計(ムブティ人、縄文時代個体群;古墳時代個体、朝鮮TK_2)は、この調査結果を裏づけます。朝鮮TKを潜在的な供給源として用いると、日本列島の古墳時代の個体は朝鮮TK_2(71±10%)および黄河LBIA(29±10%)としてモデル化できます。
最後に、qpAdmを適用し、別々の潜在的供給源として朝鮮TK集団も含む朝鮮半島古代人のモデル化に用いられた同じ祖先系統供給源を使って、現代朝鮮人がモデル化されました。その結果、最も単純な作業モデルは、黄河LBIAと関連する供給源を用いたものだった、と分かりました。しかし、現代朝鮮人が供給源として朝鮮TKの各個体を用いてモデル化されると、朝鮮TK_1の6個体のうち少なくとも3個体は、黄河LBIAと同様に単一の供給源として充分でした。
DATESを用いてのqpAdm分析により特定された混合事象の年代が推定されました。朝鮮TK_2については、どの組み合わせでも有意な結果が得られず、黄河LBIAと日本列島縄文の混合としてモデル化された朝鮮TK_1のみで有意な結果が得られ、47.93±13.7世代としてモデル化されました。1世代28年と仮定すると、これは紀元前1400~紀元前600年頃に起きた混合に相当します。
●遺伝子および表現型の連続性
みなし遺伝子型データセットに基づく、fineSTRUCTUREと同祖対立遺伝子(identity-by-descent、略してIBD)分析で得られた結果は、朝鮮TK_1と朝鮮TK_2集団間の明確な分離を裏づけます。IBDとは、かつて共通祖先を有していた2個体のDNAの一部が同一であることを示しており、IBD領域の長さは2個体が共通祖先を有していた期間に依存し、たとえばキョウダイよりもハトコの方が短くなります。fineSTRUCTUREでは、朝鮮TK_1は現代の朝鮮人および中国の漢人と関連しています(図5A)。一方、朝鮮TK_2は、現代の朝鮮人もしくは漢人よりも、現代日本人と日本列島の古墳時代個体群および縄文時代個体群の方と近い遺伝的類似性を示します(図5A・B)。
朝鮮TK_1と朝鮮TK_2の間で現代および古代の人口集団と共有されるIBDは、明確に区別された傾向を示します。朝鮮TK_2と日本列島の縄文時代個体群との間で共有されるIBDの正規化された長さは平均3.37で、朝鮮TK_1(0.65)の5.16倍となります。現代の人口集団と比較すると、類似の傾向が観察されます。朝鮮TK_2と現代日本人は1個体あたり2.52を共有していますが、朝鮮TK_1では0.51です。現代朝鮮人と共有される平均的な長さは両集団間でより類似しており、朝鮮TK_2では0.67、朝鮮TK_1では0.38です。これは、縄文関連祖先系統が観察された違いを説明する、と示唆しており、日本列島の縄文時代個体群と朝鮮TK_2との間のつながりがより多いことを示します。TK個体間で観察されたIBDの塊はごくわずかです。これは、本論文で提示された個体群の低網羅率により説明でき、明確な傾向の評価はできません。以下は本論文の図5です。
本論文のデータを用いて、現代朝鮮人との潜在的な違いを調べるため、文献から形態や他の特徴と関連する160ヶ所の多様体が選択され、朝鮮半島の人類が過去1700年間に表現型が変化したのかどうか、推定されました。標本規模が小さいことにより統計的に有意な推論を引き出せなかったので、関連する多様体の有無に分析が限定されました。本論文の朝鮮TKの8個体に基づいて、現代の朝鮮半島人口集団に存在する関連多様体は全て、遅くとも三国時代となる1700年前頃にはすでに確立しており、深い遺伝的連続性を示す、と結論づけられます。
全ての分析された個体で一部のアジア東部人の特徴が検出され、その中に含まれるのは、乾燥した耳垢、無体臭(一塩基多型rs17822931)、過剰な発汗と関連する同型接合アレルがないことです。8個体のうちAKG_10207を除く7個体は、アジア人の太い直毛と関連するエクトジスプラシンA受容体(EDAR)遺伝子の多様体(rs3827760)を有しており、そのうち6個体では同型接合でした。表現型予測実施要綱であるHirisPlexシステムでは、全個体が、茶色の目、最も高い可能性で黒い髪、中間的な色からより濃い色までの肌の色合いを有している、と予測されました。これは、現代朝鮮人の表現型とも一致する結果です。
驚くべきことに、三国時代の伽耶の8個体の遺伝的構成には、現代朝鮮人の一般的な健康に関する表現型も含まれていました。つまり、この8個体全てが複数(4個以上)の「近視危険性に対する感受性」アレルを有していました。近視は現代朝鮮人ではひじょうによく見られ、ソウルの成人男性では95%に達します。何人かの個体で、アルコール紅潮反応と関連する多様体が検出されました。また全個体は平均して、少なくとも1つの同型接合脱毛症危険性アレルか、8個のアンドロゲン性脱毛症危険性多様体を有しており、1個体(AKG_10209)はこれら同型接合危険性アレルのうち5個を有していました。
8個体のゲノムでは、瞼の形態、縮毛、他の表現型の特徴と関連する多様なSNP特性も把握されました(図6)。朝鮮TK_2の女性1個体(AKG_10207)は、EDAR遺伝子のSNP(rs3827760)の参照アレル(A)を有する点で際立っており、これはアジア東部人では、日本列島の縄文時代個体群を除いて一般的に稀です。髪の形態の評価困難ですが、朝鮮TK_2の女性1個体(AKG_10207)は、EDAR遺伝子のSNP(rs3827760)の参照アレル同型接合に加えて、縮毛と関連する複数のSNPを有しており、そのうち2つは同型接合なので、この女性個体は波状の髪だったかもしれませんが、他の個体は直毛だった可能性が最も高そうです。6は本論文の図6です。
HirisPlex表現型予測実施要綱と選択された法医学的に関連する形態関連SNPにより評価された全ての表現型の特徴は、パラボン・ナノラボ社により独立して評価されました。残念ながら、全TK個体の骨格遺骸の保存状態が悪いため、標準的な頭蓋に基づく顔面再構築は不可能でした。したがって、基本的な表現型の特徴を超えた分析を説明し、研究対象個体の顔の特徴を包括的に再構築するために、みなし呼び出しに基づくスナップショットの顔の予測が用いられ、これも、現代朝鮮人と区別できない表現型の多様性を示しました(図6)。
●考察
本論文は、朝鮮半島の人類のゲノムに関する以前の研究と比較して、いくつかの新規性を提示します。まず、回収された標本と利用可能なデータセットとの正確な比較を可能とする、信頼できる統計を得るのに充分な網羅率の標本が提示されました。第二に、紀元後5世紀まで朝鮮半島には縄文祖先系統が存在した、と確証されました。第三に、現代朝鮮人が三国時代の伽耶の8個体と密接に関連するという、信用できるqpAdmの結果が示されます。最後に、同じ遺伝的歴史を示さず、過去の人口集団の多様性を示す、2つの遺伝的集団の存在が報告されます。
最近のいくつかの研究では、現在の中国と日本とモンゴルとベトナムの古代の個体群のゲノムデータと、金海に近い韓国南東部地域の古代人の低網羅率捕獲データも報告されました。本論文は、朝鮮半島三国時代のショットガンデータを提供したことにより、三国時代の金海の人口集団を遺伝学的に特徴づけるとともに、朝鮮半島の遺伝的歴史に光を当てることが可能となりました。しかし、新石器時代と青銅器時代の高網羅率の朝鮮半島の標本では、朝鮮半島における縄文関連多様性の希釈の詳細な評価はできません。したがって、これら先史時代の期間のより多くの標本がある将来の研究は、朝鮮半島三国時代の遺伝的動態の理解にとって興味深いでしょう。さらに、全ての現時点で利用可能な朝鮮半島古代人のゲノムは、本論文で提示されたものも含めて韓国南東部のみに由来し、朝鮮半島の古代人および現代人の起源と移住と混合の全体像を反映していなかもしれないことに、注意すべきです。
三国時代の伽耶の個体群で見られる遺伝的違いは、三国時代における金海地域の人口集団の多様性を示します。一部の個体が、以前に報告された朝鮮半島沿岸部の新石器時代個体群と遺伝的に近い一方で、他の個体がこの類似性を共有しておらず、異なる遺伝的歴史の人口集団を示しているのは、興味深いことです。朝鮮TK_1クラスタの個体群は、朝鮮半島中期新石器時代の安島(Ando)個体と同程度の量の縄文祖先系統を有していますが、煙台島や加徳島(長項)の個体は違います。これは、朝鮮TK_2の類似性が示唆しているかもしれないように、煙台島や加徳島(長項)の個体が、身体的のみならず遺伝的にも日本人に近いことによって説明できます。これは、朝鮮半島における日本列島の縄文祖先系統の存在が経時的に変わったことを示唆します。金海では同じ地域内で多様性が観察されましたが、以前の新石器時代のゲノムデータは、縄文関連祖先系統の地理的違いを示唆します(関連記事)。朝鮮TK_2クラスタは、同時代の日本列島の古墳時代祖先系統よりも多くの縄文関連祖先系統を有しており、これも地域的水準での異なる縄文関連祖先系統の存在を証明します。これはおもに、侵入してきた中国北東部祖先系統の量に影響を受けます。
同様に、以前に報告された単一の青銅器時代朝鮮半島古代人のゲノムにおける縄文関連祖先系統の欠如は、データ量がひじょうに少なく、使用された分析手法(qpAdm)では統計的に裏づけられないかもしれないことも示されました。それにも関わらず、本論文の結果から、縄文関連祖先系統は朝鮮半島南部において少なくとも紀元後500年頃となる三国時代まで高水準で存続していた、と示されます。さらに、縄文文化がどの時点でも金海地域において主要な文化的構成要素として特定されず、現代朝鮮人が縄文関連祖先系統を有さず、高い遺伝的均質性を示す事実から、縄文関連祖先系統を有する朝鮮半島の三国時代人口集団は、朝鮮半島沿岸を通って侵入してきた中国北部起源の人口集団により、おそらく完全に吸収された、と示唆されます。
欲知(Yokji)島や煙台島といった朝鮮半島南東部の島々に関する最近の考古学的報告は、青銅器時代と鉄器時代の前に交易されていた黒曜石のような発見物を引用して、現代の韓国の領域における縄文文化の存在を確証します。これらの人工遺物は黒曜石の産地である長崎県の腰岳に由来し、伽耶の「世界主義」およびこの時点までの日本列島との確立した交易網を示唆します。新石器時代における縄文関連祖先系統の証拠から、この祖先系統は現在の韓国の領域において在来であり、おそらくは日本列島の縄文文化とは関連していなかった、と示唆されます。したがって、朝鮮半島全域における縄文混合の起源と程度を正確に解明するには、朝鮮半島全体の古ゲノミクスが必要です。現在のデータでは、中国北部における特定の供給源人口集団を示すことはできません。近い将来、より大きな標本規模と個体の遺伝的歴史に基づくより発展した情報科学によって、これら類似した人口集団の間を区別し、この祖先系統の起源を解明できるようになるかもしれません。
三国時代の伽耶の個体群で特定された遺伝的違いと2つの遺伝的下位集団にも関わらず、集団間の一貫した表現型の違いを指摘できませんでした。代わりに、本論文の表現型分析は現代朝鮮人における強い遺伝的連続性を示唆します。その中には、代謝関連のホスホリパーゼB(PLB1)遺伝子のイントロン多様体rs1534480や、耳垢の表現型を決定するABCC11遺伝子のG538A型(rs17822931)など重要なSNPも含まれ、それらはすでに、北京の南西56km にある田园(田園)洞窟(Tianyuan Cave)で発見された4万年前頃の男性1個体(関連記事)に見られ、アジア東部におけるこれらの多様体の過去4万年間の遺伝的連続性を示唆します。二倍体呼び出し分析も、朝鮮TK_1と現代朝鮮人との間、および朝鮮TK_2と現代日本人との間のつながりを証明します。しかし、本論文の標本の網羅率は比較的低いので、高解像度のIBD分析には不充分と証明されました。
本論文の結果は、朝鮮TK_1と朝鮮TK_2の両集団が、両方の埋葬様式と関連する個体を含んでいたため、墓の所有者とヒトの生贄が異なる遺伝的下部構造と関連していなかったことも示唆します。しかし、人工遺物から推測される情報は、墓の略奪と保存状態の悪さのため、限られていました。たとえば、男性個体(AKG_10203)は墓の所有者として特定され、おそらくは戦士階級かより下位階級の帰属でしたが、女性個体(AKG_10207)はおそらく生贄(殉死)でした。残りの金箔の青銅器製人工遺物と矢筒の装飾品は、男性個体(AKG_10203)の社会的地位を正確に判断するには不充分です。
これらの問題のため、各墓の所有者を特定できず、それは女性個体(AKG_10207)も同様です。この女性個体は、鉄製槍と青銅製鏡の発見により示唆されるように、おそらくは高位貴族の生贄でした。朝鮮TK_1集団において、男性個体(AKG_10218)は墓の所有者でしたが、残りの被葬者は他の墓の所有者の生贄でした。本論文の証拠から、紀元後5~6世紀の伽耶諸国の支配階級は、「国際的」社会を示すかもしれない遺伝的多様性により特徴づけられる、と示唆されます。大成洞古墳において性別と社会的地位との間の関係を確認できなかったことも、注目に値します。2人の墓の所有者は男性でしたが、本論文で分析対象とされたヒトの生贄は、両性と関連していました。
以上、本論文についてざっと見てきました。本論文は、朝鮮半島における三国時代の伽耶の人類集団のゲノムに見られる日本列島の縄文関連祖先系統が、現在の中国北東部から侵入してきた人口集団により希釈され、現代朝鮮人の遺伝的構造が形成された可能性を指摘します。朝鮮半島においては、新石器時代において縄文関連祖先系統を現代朝鮮人よりずっと多く有する個体が確認され、本論文ではそれが三国時代においても証明されました。本論文が指摘するように、現時点では朝鮮半島古代人のゲノムデータに地域的偏りがあるので、朝鮮半島全体の広範な期間における縄文時代個体関連祖先系統の起源と程度については、今後の古代ゲノム研究の進展を俟たねばなりません。
本論文は、こうした朝鮮半島における縄文関連祖先系統の存在が新石器時代から継続した可能性を示唆しますが、あるいは古墳時代に日本列島から朝鮮半島と渡海した人類遺骸の遺伝的影響も、一定以上あるかもしれません。日本列島と同じく、朝鮮半島も過去と現代とで人類集団の遺伝的構成に違いが見られ、民族主義と結びつきやすい、特定地域における長期の遺伝的連続性を安易に想定してはならない、と改めて思います(関連記事)。
参考文献:
Gelabert P. et al.(2022): Northeastern Asian and Jomon-related genetic structure in the Three Kingdoms period of Gimhae, Korea. Current Biology, 32, 15, 3232–3244.E6.
https://doi.org/10.1016/j.cub.2022.06.004
追記(2022年8月19日)
本論文の解説記事を取り上げました(関連記事)。
追記(2023年11月12日)
全体の体裁が他の記事とは異なっていたので、他の記事と同様にし、要約を新たに掲載しました。
この記事へのコメント