石田貴文「霊長類の遺伝」

 井原泰雄、梅﨑昌裕、米田穣編『人間の本質にせまる科学 自然人類学の挑戦』所収のコラムです。1970年代に雄山閣から刊行された『人類学講座』では、「霊長類の遺伝的研究は、系統や進化と密接にかかわりあっている」とありました。「霊長類の遺伝学」を「霊長類の分子進化学」に読み替えると、アラン・ウィルソン(Allan Charles Wilson)の功績が特筆されます。ウィルソンは生化学を先行し、分子進化の概念に触れ、カリフォルニア州立大バークレー校で研究室を解説すると、霊長類の分枝系統進化研究に着手しました。

 当時、同様に分子系統進化研究を進めていた研究者は、いずれもアルブミンを標的としていましたが、感度のよい補体結合を用いて系統差を見いだそうとしていたウィルソンは、類人猿の系統と分岐年代についての研究を公表し、「霊長類分子系統学」が展開され、「分子時計」に技術的支持をもたらしました。その後、DNAを直接的に扱えるようになり、ウィルソンは現代人のミトコンドリアDNA(mtDNA)分析から、現代人の起源がアフリカにあり、多地域進化説で想定されるほど古くはない、との見解を提示しました。


参考文献:
石田貴文(2021)「霊長類の遺伝」井原泰雄、梅﨑昌裕、米田穣編『人間の本質にせまる科学 自然人類学の挑戦』(東京大学出版会)P139

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