末期更新世のスーダンにおける反復的暴力行為

 取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、末期更新世のスーダンにおける反復的暴力行為を報告した研究(Crevecoeur et al., 2021)が公表されました。この研究は新たな顕微鏡技術を用いて、1960年代に発掘されたスーダンのジェベル・サハバ(Jebel Sahaba)墓地の61個体の遺骨を再分析しました。ジェベル・サハバ墓地に埋葬された13400年前頃となる61個体の人類遺骸は、末期更新世のナイル川流域における暴力の重要な証拠を提供しています。

 ジェベル・サハバ墓地の被葬者に関する当初の発見と解釈には異論もあり、この研究は新たな顕微鏡技術により各骨病変を解明し、考古学的データの再評価により、暴力の時期と性質と範囲について完全に再解析しました。その結果、新たな犠牲者や既に確認されている犠牲者について、これまで記録されていなかった106点の治癒した傷や治癒していない傷が確認され、その中には石器がいくつか埋め込まれているものも含まれている、と明らかになりました。61個体のうち41個体(67%)には1種類以上の治癒した傷や治癒していない傷がありました。そのうち92%には、飛び道具(矢や槍)や接近戦による外傷を原因と示す証拠が見つかり、対人暴力行為があった、と示唆されました。

 この研究は、治癒した傷の数が、末期更新世にナイル河谷に住みついていた集団間で起きた散発的かつ反復的で、つねに死者が出るわけではなかった暴力行為と符合している、との見解を提示しています。こうした暴力行為は、異なる集団間で繰り返された小競り合いや襲撃だったかもしれない、というわけです。じっさい、病変のある骨格の1/4は、治癒した外傷と治癒していない外傷の両方を示しています。また、これは、こうした傷が集団内の紛争によものではなく、集団が遠くから攻撃を受けたさいに生じた、という仮説を裏づけています。

 ジェベル・サハバ墓地が暴力の犠牲者のための特別な埋葬地であった可能性はありますが、その二重埋葬や多埋葬はおそらく同時死亡を意味し、人口統計学的データとその後の埋葬による攪乱は、単一の破滅的事象を支持しません。小規模な散発的対人暴力事象のほとんどは、小競り合いや襲撃や待ち伏せの結果と推測されます。末期更新世の文化的に異なるナイル川流域の半定住狩猟採集民集団間の頻繁な衝突は、気候変動による領域と環境の圧力が原因と考えられます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


考古学:先史時代のジェベル・サハバでの暴力行為は一度だけではなかったらしい

 ジェベル・サハバ(Jebel Sahaba)墓地は、スーダンにある先史時代(1万3400年前)の墓地遺跡で、人間の戦いがあったことを示す最古の遺跡の1つである。このほど、ジェベル・サハバの再分析が行われ、狩猟漁労採集民が小規模な紛争を繰り返していたことが示唆された。この知見について報告する論文が、Scientific Reports に掲載される。これまでは、ジェベル・サハバで一度の戦いがあり、死者が出たと考えられていたが、このほど、この墓地で発掘された人骨から外傷の治癒痕が見つかり、人々は複数回の戦いに関与し、暴力的な攻撃を生き延びたことが示された。

 今回、Isabelle Crevecoeur、Daniel Antoineたちの研究チームは、新しい顕微鏡技術を用いて、1960年代に発掘された61体の遺骨の再分析を行って、これまでに記録されていない106の病変と外傷を特定し、これらを飛び道具(矢や槍)による負傷、接近戦による外傷、自然崩壊に関連する痕跡に分類した。発掘された61体のうち41体(67%)には1種類以上の治癒した傷や治癒していない傷があった。そのうちの92%には、飛び道具や接近戦による外傷が原因であることを示す証拠が見つかり、対人暴力行為があったことが示唆された。

 Crevecoeurたちは、治癒した傷の数が、後期更新世(12万6000~1万1700年前)の末期にナイル河谷に住みついていた集団の間で起こった散発的かつ反復的で、常に死者が出るわけではなかった暴力行為と符合しているという考えを示している。Crevecoeurたちは、こうした暴力行為は、異なるグループ間で繰り返された小競り合いや襲撃だった可能性があると推測している。また、傷の少なくとも半数は、槍や矢のような飛び道具による刺創であることが確認された。これは、これらの傷が集団内の紛争におけるものではなく、集団が遠くから攻撃を受けた際に生じたというCrevecoeurらの仮説を裏付けている。



参考文献:
Crevecoeur I. et al.(2021): New insights on interpersonal violence in the Late Pleistocene based on the Nile valley cemetery of Jebel Sahaba. Scientific Reports, 11, 9991.
https://doi.org/10.1038/s41598-021-89386-y

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