高橋のぼる『劉邦』第13集(小学館)

 電子書籍での購入です。第13集では項羽軍に捕らわれた呂雉(呂后)の動向と、項羽軍に対抗すべく羌との提携を画策する劉邦の交渉が中心に描かれました。戚は紀信の子を宿し、劉邦はその子を自分の子として育てることにします。呂雉はそれを項羽軍の見張りの兵士から聞き、激しい憎悪を抱きます。一方韓信は、紀信から戚への好意を聞いていたため、この真相に気づき、劉邦の器の大きさに改めて感心します。

 呂雉の父の呂公は余命が2年あまりと医者から言われ、その莫大な全財産を娘婿の劉邦に譲ろうとし、劉邦はそれを使ってどう天下人になるべきか、考えます。劉邦は陳平の進言により、項羽軍に対抗すべく騎兵の充実を考えていましたが、漢の領土内では難しく、策士の陳平にも妙案はありませんでした。そこで張良は、羌に協力を仰ぐよう、劉邦に進言し、劉邦はそのために呂公の全財産を使おうと決断します。劉邦は羌の指導者である燕剣と会い、一度は追い返されるものの、単独で羌の本拠に潜入し、燕剣から信頼を得て、羌は劉邦に協力することになります。

 劉邦は滎陽城を包囲中の項羽軍を、羌の戦車兵と騎馬兵により退却させるも、項羽の反撃を受け、改めてそのとてつもない強さを実感します。劉邦は張良の進言により、食糧庫を確保して滎陽城から撤退し、東広武山に布陣します。その頃、斉をほぼ制圧した韓信は、斉の残党を鎮圧して即座に劉邦に加勢しようとしますが、家臣の蒯通に、項羽を打倒した後、劉邦にとって韓信が脅威になるので独立するよう煽られ、斉王になりたい、と劉邦に願い出ます。劉邦は驚き怒りますが、張良が密かに諫めてこれを認めます。韓信は項羽軍の猛将である龍且を破り、蒯通は韓信の天下獲りに期待しますが、韓信には劉邦を裏切る気はありませんでした。

 広武山に布陣した劉邦軍に対して、項羽軍はその近くの山に布陣し、項羽は劉邦に決戦を挑みます。項羽は挑発に乗らない劉邦に対して、人質の呂雉を煮殺す、と脅します。しかし劉邦は動じた様子を見せず、呂雉を見殺しにしようとします。しかし、項羽は呂雉を煮えたぎった油の釜に入れる直前で、呂雉を助けます。呂雉は、自分を見捨てたのは劉邦の天下取りに最善の決断で、項羽にとっても、女性の自分を煮殺しては人望を失うところだったから正解だったのだ、と悟ります。劉邦は羌の騎馬隊に項羽軍を奇襲させ、その隙に項羽軍に捕らわれていた妻の呂雉と父親を救出し、その後で項羽の大罪を一つずつ読み上げます。これに項羽軍の兵士は動揺しますが、項羽が隠していた弩で劉邦を射抜き、劉邦の死を確信したところで第13集は終了です。


 第13集は、これまで度々危地に陥りつつも、基本的には比較的明るく進んできた劉邦の物語で不穏要因が描かれました。戚の子はおそらく劉如意なのでしょうが、劉盈(恵帝)と劉邦の後継者の座を争い、劉邦死後に呂雉に毒殺されることになるのでしょうか。本作がどこまで描くのかまだ分かりませんが、戚と呂雉との関係は漢にとっての不穏要因と言えるでしょう。虞は不治の病に冒されすっかりやつれましたが、劉邦軍に有能な武将が集まり、勢いが盛んなのを見て、目先の欲で集まった人間はいつか必ず憎しみ合ってバラバラになる、と予言します。これは、劉邦が項羽を打倒して漢の初代皇帝に即位した後の、反乱と家臣粛清の頻発を予感させる発言とも考えられるので、本作は項羽打倒後の劉邦も描かれるのかな、と期待しています。これまで相互に深い信頼で結ばれてきた劉邦と韓信の関係に亀裂が生じ(かけ)たことは、その関連で注目されます。韓信は劉邦に深く感謝しており、裏切るつもりはまったくないようですが、劉邦は韓信に疑念を抱いたでしょうし、それが皇帝即位後には募っていくのでしょうか。本作の過去の記事は以下の通りです。

第1集~第10集
https://sicambre.seesaa.net/article/202107article_17.html

第11集
https://sicambre.seesaa.net/article/202109article_4.html

第12集
https://sicambre.seesaa.net/article/202111article_20.html

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