『卑弥呼』第89話「不死の邑」
『ビッグコミックオリジナル』2022年7月5日号掲載分の感想です。前回は、ヤノハが穂波(ホミ)の国境にある謎めいた漢人(という分類を作中の舞台である紀元後3世紀に用いてよいのか、疑問は残りますが)の邑へと向かうべく出立しところで終了しました。今回は、ヤノハがイクメとともに穂波の国境にまで来た場面から始まります。そこには木簡に書かれた漢人の呪符があり、ヤノハはかつて義母から、それが侵入を禁ずる意味だと聞いていました。その先に進めば漢人の邑があるだろうが、呪符を無視して進めば皆殺しだろう、と考えるヤノハは、さすがにすぐに進もうとはしません。この漢人の邑の武器は不老不死の妙薬ではないだろうか、と考えるイクメに対して、永遠に生きるだけでは武器にならない、とヤノハは指摘します。ヤノハは護衛兵に武器を捨てるよう命じ、邑人に敵意がないことを示します。邑人はどこかから我々を見ているはずだから、迎えの者が来るのかどうか、しばらく待ってみる、というわけです。
金砂(カナスナ)国の肥河(コイノカワ、現在の斐伊川でしょうか)上流では、吉備(キビ)国の首長である吉備津彦(キビツヒコ)が配下のフリネに、金砂国のミクマ王は兵を何人連れているのか、尋ねていました。百名ほどだろう、とフリネが答えると、わずかな手税で会おうと言ったのに臆病な男だ、とミクマ王は嘲笑します。するとフリネは、油断は禁物だ、と忠告します。今回、ミクマ王は戦いを避けたものの、なかなかの剣の達人と聞いている、というわけです。剣に自信がない吉備津彦は、怒らせたら斬り殺されるかもしれない、と笑いながら言い、邪心がないことを示すため剣を差し出そうと考えます。ミクマ王が用いている刀は青銅(アオカネ)製なので、鉄(カネ)の刀に興味があるはずだ、というわけです。無謀すぎる、と案ずるフリネに対して、吉備津彦は余裕の笑みを浮かべながら大丈夫だと言います。肥河が赤い理由を肥河に問われたフリネは、須佐之男(スサノオ)様が大蛇(オロチ)を殺した時に流れた血の色と言われている、と答えます。すると吉備津彦は、それは昔話で、赤は砂鉄の色なので、ここには鉄が豊富にある証拠だから、自分は金砂国が欲しい、と言います。兵士とともに到着したミクマ王に、遠路はるばるお越しいただき痛み入ります、と吉備津彦は挨拶します。するとミクマ王は、遠路とは何だ、ここは自分の領地だ、と怒りながら吉備津彦に指摘します。吉備津彦は失言を詫びて、今日は蒸し暑いので、和議の話し合いは沐浴しながら行なおう、とミクマ王に提案します。躊躇うミクマ王に対して、裸同士なら腹を割って話せるし、殺し合いにならないだろう、と吉備津彦は指摘します。肥河の水を浴びれば不老長寿になれるという話は本当か、と問われたミクマ王は苦笑しながら、川の中州のような繁みの向こうには淵があり、水が良質で止屋淵(ヤムヤノフチ)と呼ばれている、と答えます。吉備津彦とミクマ王は二人だけで話し合いをするので誰もついてこないよう命じ、川に入ります。繁みを抜けると止屋淵が見えてきて、吸い込まれれば底なしだ、とミクマ王は吉備津彦に警告します。吉備津彦が刀に手をかけると、ミクマ王は警戒します。苦笑しながら、刀を抜く気はない、と言う吉備津彦に、それは賢明だ、おそらく自分はそなたより剣術に長けている、と警告します。吉備津彦は自分の鉄の刀をミクマ王に進呈する、と申し出て、ミクマ王も自分の刀を吉備津彦に渡します。
穂波の国境では、ヤノハがしばらく邑人を待っていましたが、現れません。待っても迎えは来ないようだ、と判断して一人で結界を越えようとするヤノハを、5ヶ国の命運を担う大切なお方なのだから、と言ってイクメが止めようとします。するとヤノハは、もし殺されればそれまでの運命だ、と言います。ヤノハは配下の者に待機するよう命じて、結界を越えて邑へと入っていきます。ヤノハがしばらく進んで林を抜けると、集落が見えてきます。すると、長老らしき男性1人と弩をヤノハに向けた男性2人が現れます。ヤノハを旅人だと思った長老は、この邑に用があるのか、と尋ねます。ヤノハが山社(ヤマト)の日見子(ヒミコ)だと答えると、倭の顕人神(アラヒトガミ)か、と長老は感心したように言います。するとヤノハは、そう信じる者もいます、と答えます。この邑に不老不死の秘薬があると聞いて来たのか、と長老に問われたヤノハは、不死に興味はなく、青銅の武器で鉄の武器に勝つ術を教えていただきたい、と答えます。それは不死の秘薬のことではないのか、と長老に問われたヤノハは逆に、その秘薬を飲めば刀で斬られても槍で刺されても蘇るということですか、と尋ねます。すると長老は、泰平な世で暮らせば永遠に生きられる薬で、もちろん斬られれば死ぬ、と答えます。それは自分の求めるものではない、と言うヤノハに、死が怖くないのか、と長老は尋ねます。怖いが誰も死からは逃れられないので、生きているうちに足掻き、この世に何かを残そうとする故に人は偉大なのだ、とヤノハは答えます。すると感心したような様子を見せた長老は、邑に入れることを許可する、とヤノハに言います。礼を言うヤノハに、まだ早い、もし不死の妙薬を求めるとヤノハが言えば、この場で殺していた、と長老が言うところで今回は終了です。
今回は、日下(ヒノモト)国に降った吉備の首長である吉備津彦の金砂国併合への野心と、謎めいた漢人の邑が描かれました。吉備津彦はミクマ王と剣を交換しましたが、おそらく吉備津彦が渡した剣は偽者で、ミクマ王は吉備津彦に斬り殺されるのでしょう。これが倭建命説話の原型になった、という設定でしょうか。事代主(コトシロヌシ)はミクマ王と会うつもりでしたが、ミクマ王が殺された場合、中国情勢がどうなるのか、注目されます。謎めいた漢人の邑の秘密はたいへん気になるところで、穂波の軍を度々撃退した理由が次回以降明かされるのではないか、と期待しています。漢人の邑の長老らしき男性の発言からは、訪問者を必ず殺すわけではなさそうです。おそらく邑は当時の一国と比較してずっと小さいでしょうから、自給自足を維持するのは難しく、ある程度は外部との交流があるのでしょう。漢人の邑の不老不死の秘密は気になるところですが、おそらくじっさいは不老不死ではなく、何らかの「現実的な」設定になっているのだろう、と予測しています。九州だけではなく中国の情勢も本格的に描かれ、それに近畿の日下も深く関わっていますから、今後の展開はさらに壮大になりそうだな、と期待しています。本作終盤では朝鮮半島と魏も描かれそうですから、それも楽しみです。
金砂(カナスナ)国の肥河(コイノカワ、現在の斐伊川でしょうか)上流では、吉備(キビ)国の首長である吉備津彦(キビツヒコ)が配下のフリネに、金砂国のミクマ王は兵を何人連れているのか、尋ねていました。百名ほどだろう、とフリネが答えると、わずかな手税で会おうと言ったのに臆病な男だ、とミクマ王は嘲笑します。するとフリネは、油断は禁物だ、と忠告します。今回、ミクマ王は戦いを避けたものの、なかなかの剣の達人と聞いている、というわけです。剣に自信がない吉備津彦は、怒らせたら斬り殺されるかもしれない、と笑いながら言い、邪心がないことを示すため剣を差し出そうと考えます。ミクマ王が用いている刀は青銅(アオカネ)製なので、鉄(カネ)の刀に興味があるはずだ、というわけです。無謀すぎる、と案ずるフリネに対して、吉備津彦は余裕の笑みを浮かべながら大丈夫だと言います。肥河が赤い理由を肥河に問われたフリネは、須佐之男(スサノオ)様が大蛇(オロチ)を殺した時に流れた血の色と言われている、と答えます。すると吉備津彦は、それは昔話で、赤は砂鉄の色なので、ここには鉄が豊富にある証拠だから、自分は金砂国が欲しい、と言います。兵士とともに到着したミクマ王に、遠路はるばるお越しいただき痛み入ります、と吉備津彦は挨拶します。するとミクマ王は、遠路とは何だ、ここは自分の領地だ、と怒りながら吉備津彦に指摘します。吉備津彦は失言を詫びて、今日は蒸し暑いので、和議の話し合いは沐浴しながら行なおう、とミクマ王に提案します。躊躇うミクマ王に対して、裸同士なら腹を割って話せるし、殺し合いにならないだろう、と吉備津彦は指摘します。肥河の水を浴びれば不老長寿になれるという話は本当か、と問われたミクマ王は苦笑しながら、川の中州のような繁みの向こうには淵があり、水が良質で止屋淵(ヤムヤノフチ)と呼ばれている、と答えます。吉備津彦とミクマ王は二人だけで話し合いをするので誰もついてこないよう命じ、川に入ります。繁みを抜けると止屋淵が見えてきて、吸い込まれれば底なしだ、とミクマ王は吉備津彦に警告します。吉備津彦が刀に手をかけると、ミクマ王は警戒します。苦笑しながら、刀を抜く気はない、と言う吉備津彦に、それは賢明だ、おそらく自分はそなたより剣術に長けている、と警告します。吉備津彦は自分の鉄の刀をミクマ王に進呈する、と申し出て、ミクマ王も自分の刀を吉備津彦に渡します。
穂波の国境では、ヤノハがしばらく邑人を待っていましたが、現れません。待っても迎えは来ないようだ、と判断して一人で結界を越えようとするヤノハを、5ヶ国の命運を担う大切なお方なのだから、と言ってイクメが止めようとします。するとヤノハは、もし殺されればそれまでの運命だ、と言います。ヤノハは配下の者に待機するよう命じて、結界を越えて邑へと入っていきます。ヤノハがしばらく進んで林を抜けると、集落が見えてきます。すると、長老らしき男性1人と弩をヤノハに向けた男性2人が現れます。ヤノハを旅人だと思った長老は、この邑に用があるのか、と尋ねます。ヤノハが山社(ヤマト)の日見子(ヒミコ)だと答えると、倭の顕人神(アラヒトガミ)か、と長老は感心したように言います。するとヤノハは、そう信じる者もいます、と答えます。この邑に不老不死の秘薬があると聞いて来たのか、と長老に問われたヤノハは、不死に興味はなく、青銅の武器で鉄の武器に勝つ術を教えていただきたい、と答えます。それは不死の秘薬のことではないのか、と長老に問われたヤノハは逆に、その秘薬を飲めば刀で斬られても槍で刺されても蘇るということですか、と尋ねます。すると長老は、泰平な世で暮らせば永遠に生きられる薬で、もちろん斬られれば死ぬ、と答えます。それは自分の求めるものではない、と言うヤノハに、死が怖くないのか、と長老は尋ねます。怖いが誰も死からは逃れられないので、生きているうちに足掻き、この世に何かを残そうとする故に人は偉大なのだ、とヤノハは答えます。すると感心したような様子を見せた長老は、邑に入れることを許可する、とヤノハに言います。礼を言うヤノハに、まだ早い、もし不死の妙薬を求めるとヤノハが言えば、この場で殺していた、と長老が言うところで今回は終了です。
今回は、日下(ヒノモト)国に降った吉備の首長である吉備津彦の金砂国併合への野心と、謎めいた漢人の邑が描かれました。吉備津彦はミクマ王と剣を交換しましたが、おそらく吉備津彦が渡した剣は偽者で、ミクマ王は吉備津彦に斬り殺されるのでしょう。これが倭建命説話の原型になった、という設定でしょうか。事代主(コトシロヌシ)はミクマ王と会うつもりでしたが、ミクマ王が殺された場合、中国情勢がどうなるのか、注目されます。謎めいた漢人の邑の秘密はたいへん気になるところで、穂波の軍を度々撃退した理由が次回以降明かされるのではないか、と期待しています。漢人の邑の長老らしき男性の発言からは、訪問者を必ず殺すわけではなさそうです。おそらく邑は当時の一国と比較してずっと小さいでしょうから、自給自足を維持するのは難しく、ある程度は外部との交流があるのでしょう。漢人の邑の不老不死の秘密は気になるところですが、おそらくじっさいは不老不死ではなく、何らかの「現実的な」設定になっているのだろう、と予測しています。九州だけではなく中国の情勢も本格的に描かれ、それに近畿の日下も深く関わっていますから、今後の展開はさらに壮大になりそうだな、と期待しています。本作終盤では朝鮮半島と魏も描かれそうですから、それも楽しみです。
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