複雑な文化知識の保存に役立つ選択的な社会的学習

 複雑な文化知識の保存に役立つ選択的な社会的学習に関する研究(Thompson et al., 2022)が公表されました。日本語の解説記事もあります。革新的な戦略は次世代に伝えるのが困難ですが、戦略のおかげで、人類は多様な生態系に進出して数世代にわたり成果をあげてきました。しかし、戦略が文化に蓄積する様子を説明するのはこれまで困難でした。数学モデルでは、成功した個人から学習すれば、稀有ではあるものの重要な問題解決の戦略を保存できる、と示唆されています。この問題を説明するため、この研究はネット上で募集した3450人を20群に分け、参加者はソート問題を解くアルゴリズムを探し、その解決策を実験上の12世代にわたって伝えていきました。

 第1世代は、各自が自力で解決法を考え出しました。その後、参加者の半数は、アルゴリズムの実演者の成績に基づいて、前の世代から実演者を選べるようにしました。残り半数は、実演者の成績については何も知らされませんでした。問題を解決する2つの主要アルゴリズムが導き出され、多くの人がそれを使用するようになりましたが、最も効率的なアルゴリズムが広がったのは、以前の成績に基づいて実演者を選べた場合だけでした。成功した教師を選んで複雑な戦略の学習を助けてもらえれば、効率的な戦略が蓄積して文化全体に広がりやすい、というわけです。この結果は、料理から航海に至るまで、ひじょうに複雑な文化的「能力」が、選択的な社会的学習を通じて保存され得ることを示唆しています。選択的な社会的学習は、人類の進化に不可欠な文化知識の保存に役立つ可能性があるわけです。


参考文献:
Thompson B. et al.(2022): Complex cognitive algorithms preserved by selective social learning in experimental populations. Science, 376, 6588, 95–98.
https://doi.org/10.1126/science.abn0915

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