哺乳類では体細胞変異率が寿命に応じて変化する

 哺乳類における寿命に応じた体細胞変異率を報告した研究(Cagan et al., 2022)が公表されました。哺乳類は、一生の間ずっと変異を獲得します。この過程は癌を生じさせることが知られており、老化に寄与している、と提案されています。しかし、正常組織における体細胞変異率や体細胞変異のパターンは、ヒト以外ではほとんど知られていません。比較解析は、種間にわたる変異誘発の多様性の解明に役立ち、体細胞変異率の進化および癌や老化におけるそれらの役割についての長年の仮説に光を投じる可能性があります。

 この研究は、哺乳類16種56個体の208の腸陰窩の全ゲノム塩基配列解読を行ない、これら16種における体細胞変異の全体像を調べました。その結果、全ての種において体細胞変異誘発は、5-メチルシトシンの脱アミノ化や酸化的損傷など、内因性と考えられる変異過程が大半を占めている、と分かりました。また、いくつかの違いはあるものの、ヒト以外の種に見られる変異シグネチャーはヒトで報告されているものに類似していました。ただ、各シグネチャーの相対的な寄与は種によって異なっていました。

 とくに、年当たりの体細胞変異率は種によって大きく異なり、種の寿命と強い逆相関の関係を示し、研究された他の生活史形質では同等の関連は示されませんでした。生活史は調べた種間で大きく異なっており、たとえば、寿命には約30倍の、体重には約4万倍の変動がありましたが、寿命の終わりの体細胞変異量は約3倍しか変わりませんでした。寿命の長い種では、寿命の短い種より緩やかな速度で変異が蓄積するので、それぞれの種が寿命の終わりまでに獲得する変異の数はほぼ同じになる、というわけです。これらのデータは、哺乳類に共通して存在する変異過程を明らかにしており、体細胞変異率は進化的に制約されていて、老化の一因となる可能性を示唆しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化学:哺乳類では体細胞変異率は寿命に応じて変化する

Cover Story:命の速さ:哺乳類では細胞の変異速度と寿命が相関している

 哺乳類は、一生を通して変異を獲得する。この過程は、がんを生じさせることが知られており、老化に寄与していると提案されている。しかし、ヒト以外の種では、変異が蓄積される速度や、そうした速度が寿命や体サイズなどの生物学的特徴の影響を受けるかどうかに関する知見はほとんどない。今回A CaganとA Baez-Ortegaたちは、こうした問題に取り組んでいる。彼らは、哺乳類16種の生涯で変異が蓄積される速度を調べ、変異の数が毎年ほぼ一定量増えることを見いだした。また、変異を生じさせる分子過程がさまざまな種にわたってさほど変わらないことも観察された。重要なのは、寿命と変異速度の間に反相関関係が見いだされたことである。すなわち、寿命の長い種では、寿命の短い種より緩やかなペースで変異が蓄積するので、それぞれの種が寿命の終わりまでに獲得する変異の数はほぼ同じになるのである。



参考文献:
Cagan A. et al.(2022): Somatic mutation rates scale with lifespan across mammals. Nature, 604, 7906, 517–524.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-04618-z

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