霊長類の大脳における抑制性ニューロンの発生と進化

 霊長類の大脳における抑制性ニューロンの発生と進化に関する研究(Schmitz et al., 2022)が公表されました。神経解剖学では古くから、霊長類での脳の拡大には、抑制性ニューロン(IN)の形態的多様性の増大が含まれる、と考えられてきました。最近の研究では、霊長類特異的なニューロン群が分子レベルで明らかになっていますが、脳で進化的に新しい細胞タイプを指定する発生機構については、ほとんど分かっていません。

 この研究は、アカゲザルとマウスで、250181個の細胞のトランスクリプトームを解析することにより、神経発生の期間において生成されるINを指定する遺伝子発現の軌跡を再構築しました。出生前に生成される初期のINクラスは、そのほとんどが哺乳類で保存されている、と明らかになりましたが、出生前の発生期に進化的に新規な細胞タイプを指定する2つの対照的な発生機構も明らかになりました。

 まず、最近特定された霊長類特異的なTAC3線条体INが、前駆細胞の独特な転写プログラムと、それに続く新生ニューロンでの特徴的な一連の神経ペプチドおよび神経伝達物質受容体の誘導により指定される、と示されます。次に、嗅球(OB)に向かう、転写的に保存された複数クラスの前駆細胞が、霊長類の拡大した白質と線条体へと転向される、と明らかになりました。

 これらの細胞クラスには、OBのドーパミン作動性の糸球体周囲細胞と似た線条体ラウレアトゥム(striatum laureatum)ニューロンの新規な線条体周囲クラスが含まれます。この研究は、霊長類のより小さなOBに当初供給されていたのと同じクラスのニューロンが、拡大した線条体と皮質において再利用されている、という進化モデルを提唱します。まとめると、この結果は、哺乳類のINの初期のクラスに関する統一的な発生分類法をもたらすとともに、神経細胞タイプの進化の複数の発生機構を明らかにしています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


神経発生:霊長類の大脳における抑制性ニューロンの発生と進化

神経発生:抑制性ニューロンの再利用

 今回A Pollenたちは、霊長類の嗅球の初期の抑制性ニューロン群が、拡大した線条体と皮質に見られる抑制性ニューロンの系譜多様化に向けて転用された可能性があるとする進化モデルを提唱している。



参考文献:
Schmitz MT. et al.(2022): The development and evolution of inhibitory neurons in primate cerebrum. Nature, 603, 7903, 871–877.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-04510-w

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