シマハイイロギツネとホモ・フロレシエンシスの小型化

 取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、シマハイイロギツネ(Urocyon littoralis)とホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)の小型化に関する研究(Young., 2020)が報道されました。ホモ・フロレシエンシスはインドネシア領フローレス島で発見された小型人類で、その特異な形態から、人類進化史における位置づけには、アジア南東部のホモ・エレクトス(Homo erectus)から進化したか、あるいはさらに祖先的なアウストラロピテクス属種から進化したのか、議論があります(関連記事)。

 島嶼化は、マンモスからキツネまで多くの哺乳類に見られる適応で、島嶼環境への移住により極端な小型化が見られます。島嶼化は系統発生的ではなくおもに生態学的事象なので、その祖先と比較して小型化した分類群の特徴は異常に見える可能性があります。その結果、小型化した分類群では、身体サイズと形態学的特徴との間の非比例的パターンは、その祖先と比較して異なっている可能性があります。

 本論文は、小型化したシマハイイロギツネとその近縁種であるハイイロギツネ(Urocyon cinereoargenteus)の比較により、島嶼化が四肢の縮小や比率にどのような影響を与えるのか調べ、そのホモ・フロレシエンシスへの示唆を提示します。シマハイイロギツネとハイイロギツネとの比較により、前者は後者よりも予測体重で後退した全ての四肢要素は有意に小さいものの、傾きはより急だと明らかになりました。こうした非比例的変化により、シマハイイロギツネの四肢は同程度の体重の小型化していないハイイロギツネで予測されるよりも有意に短い、と示されました。さらに、上腕骨と大腿骨、体肢間、上腕指標も有意に異なっていました。

 こうした結果は、島嶼固有種の骨格変異の理解に新たなモデルを提供します。ホモ・フロレシエンシスの独特な体格と身体比も生態学的適応と考えられ、アウストラロピテクス属との祖先形質共有ではないだろう、というわけです。島嶼化により小型化した分類群を近縁の(大型の)分類群と比較するさいには、単純に大型の祖先から小型化した形態を想起してはならない、というわけです。ホモ・フロレシエンシスはスンダランドのホモ・エレクトスから進化した可能性が高く、同様の事例はアフリカ南部で発見された小柄なホモ属であるホモ・ナレディ(Homo naledi)にも当てはまるかもしれません。


参考文献:
Young CB.(2020): Static allometry of a small-bodied omnivore: body size and limb scaling of an island fox and inferences for Homo floresiensis. Journal of Human Evolution, 147, 102899.
https://doi.org/10.1016/j.jhevol.2020.102899

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