他者について知ると自身の匿名性の感覚が減少する
他者について知ると自身の匿名性の感覚が減少する、と報告した研究(Shah, and LaForest., 2022)が公表されました。社会的つながりは対称的だと思われることが多いものの、必ずしもそうではありません。たとえば、互いに面識のない2者間で、一方が他方についてより多くを知っているという状態はあり得ます。この研究は、人々がこのような非対称性を見落としているのかどうか、またそれが人々の認識や行動にどのような影響をもたらし得るのか、調べました。
この研究は、人々が他者について自分の方が多くを知っている場合、他者のほうが自分についてより多くを知っている、と考える傾向があることを示します。9回の実験室実験全体を通じて、被験者が面識のない他者についてより多くを学ぶと、その被験者はその他者も自分についてもっとよく知っているかのように感じ、その他者が自分の行動にもっと慣れているかのように振る舞いました。その結果、被験者は既知の他者に対して、より正直でした。
この研究はさらに、これをアメリカ合衆国ニューヨーク市での現場実験で検証しました。この実験では、地域の警察官についてのありふれた情報が住民に伝えられました。具体的には、ニューヨーク市の公営住宅団地69ヶ所を選び、そのうちの39ヶ所では、地元の警察官たちに関する情報(好みの食べ物、好きなスポーツチーム、趣味など)を住民に提供し、残りの30ヶ所では、対照群として何の介入も行なわれませんでした。この研究は次に、1858人の住民を対象に調査を行ない、警察官たちが自分について何を知っているかという点の認識と、自分が罪を犯した場合に警察官がそのことを把握する可能性がどの程度高いか、という点の認識を評価しました。この研究は、介入直後の3ヶ月間の犯罪件数が、警察官たちに関する情報を受け取った地域では、受け取っていない地域と比較して約5~7%少なくなる、と推定しました。この犯罪の減少率は、同じ地域内で警察官を増員した場合と同等でした。この介入により、住民たちは警察官が違法行為についてよく知っていると考えるようになり、犯罪が減少した可能性さえある、というわけです。これは、警察官の家庭訪問が、その他の地域警備活動(たとえば、住民の連帯と地元警察の協力による防犯や店頭警備)よりも犯罪を減らす上で効果的である理由を説明する上で役立つ可能性があります。
人間の匿名性の感覚は、他者が自分について何を知っているかだけでなく、自分が他者について何を知っているかによっても変わるようです。これまでの研究では、自分の匿名性が保たれていると認識していると、不誠実な行動や有害な行動が増える場合がある、と示唆されていますが、他人が自分のことをよく知っており、自分の行動に慣れていると思うようになれば、匿名性の感覚が行動に及ぼす悪影響の一部を減らせる可能性がある、というわけです。進化心理学的観点からも注目される研究です。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
人間行動学:地元の警察官を知れば知るほど犯罪が減るかもしれない
地元住民にその地域を担当する警察官たちに関する情報を提供すると、犯罪率が低下する可能性があることを示唆する論文が、Nature に掲載される。実験室での研究と現地調査の結果から、私たちの匿名性の感覚は、他人が自分たちについて何を知っているのかだけでなく、自分たちが他人について何を知っているのかにも依存していることが示唆された。
他人との社会的関係は対称的なものだと思われがちだが、必ずしもそうとは限らない。今回、Anuj ShahとMichael LaForestは、実験室内での標準的な心理学研究を実施し、他人のことをもっと深く知るようになると、その人が自分のことをもっと深く知っていると信じ込むようになる可能性があることを明らかにした。私たちの匿名性の感覚が低下して、自分の考えや行動が他人に明らかになっているかもしれないという過大な認識を持つ可能性があるという。これまでの研究では、自分の匿名性が保たれていると認識していると、不誠実な行動や有害な行動が増える場合があることが示唆されているが、他人が自分のことをよく知っており、自分の行動に慣れていると思うようになれば、匿名性の感覚が行動に及ぼす悪影響の一部を減らせる可能性がある。
著者たちは、室内実験で明らかになった社会的関係の非対称性が人々の認識と行動にどのように影響するのかを解明するため、米国ニューヨーク市の公営住宅団地69か所を選び、そのうちの39か所では、地元の警察官たちに関する情報(好みの食べ物、好きなスポーツチーム、趣味など)を住民に提供し、残りの30か所では、対照群として何の介入も行わなかった。次に、著者たちは、1858人の住民を対象に調査を行い、警察官たちが自分について何を知っているかという点の認識と、自分が罪を犯した場合に警察官がそのことを把握する可能性がどの程度高いかという点の認識を評価した。著者たちは、介入直後の3か月間の犯罪件数が、警察官たちに関する情報を受け取った地域では、受け取っていない地域と比較して約5~7%少なくなると推定した。この犯罪の減少率は、同じ地域内で警察官を増員した場合と同等だった。
著者たちは、地元の警察官たちについて詳しく知るようになった住民は、警察官たちが自分たちの違法行為をより的確に把握できるようになったと思うようになり、その結果、住民の犯罪行動が抑制される可能性があるという考えを示している。このことは、警察官の家庭訪問が、その他の地域警備活動(例えば、住民の連帯と地元警察の協力による防犯や店頭警備)よりも犯罪を減らす上で効果的である理由を説明する上で役立つかもしれない。著者たちは、警備の人種・民族間格差を減らし、警察への信頼を高めるためには、もっと広範な改革が必要だが、地域社会に対して地元の警察官たちに関する情報をより多く提供することが犯罪を減らす方法の1つになるかもしれないと主張している。
心理学:他者について知ると自身の匿名性の感覚が減少する
心理学:相手をよく知れば、相手にもよく知られていると感じる
A Shahたちは今回、面識のない他者についてより多くのことを知ると、その他者もこちらについてよく知っていると感じる傾向があることを明らかにしている。現実社会でこの知見を検証したところ、住民に地元の警察官についての情報を提供した場合に犯罪が減少する可能性があることが示された。
参考文献:
Shah AK, and LaForest M.(2022): Knowledge about others reduces one’s own sense of anonymity. Nature, 603, 7900, 297–301.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-04452-3
この研究は、人々が他者について自分の方が多くを知っている場合、他者のほうが自分についてより多くを知っている、と考える傾向があることを示します。9回の実験室実験全体を通じて、被験者が面識のない他者についてより多くを学ぶと、その被験者はその他者も自分についてもっとよく知っているかのように感じ、その他者が自分の行動にもっと慣れているかのように振る舞いました。その結果、被験者は既知の他者に対して、より正直でした。
この研究はさらに、これをアメリカ合衆国ニューヨーク市での現場実験で検証しました。この実験では、地域の警察官についてのありふれた情報が住民に伝えられました。具体的には、ニューヨーク市の公営住宅団地69ヶ所を選び、そのうちの39ヶ所では、地元の警察官たちに関する情報(好みの食べ物、好きなスポーツチーム、趣味など)を住民に提供し、残りの30ヶ所では、対照群として何の介入も行なわれませんでした。この研究は次に、1858人の住民を対象に調査を行ない、警察官たちが自分について何を知っているかという点の認識と、自分が罪を犯した場合に警察官がそのことを把握する可能性がどの程度高いか、という点の認識を評価しました。この研究は、介入直後の3ヶ月間の犯罪件数が、警察官たちに関する情報を受け取った地域では、受け取っていない地域と比較して約5~7%少なくなる、と推定しました。この犯罪の減少率は、同じ地域内で警察官を増員した場合と同等でした。この介入により、住民たちは警察官が違法行為についてよく知っていると考えるようになり、犯罪が減少した可能性さえある、というわけです。これは、警察官の家庭訪問が、その他の地域警備活動(たとえば、住民の連帯と地元警察の協力による防犯や店頭警備)よりも犯罪を減らす上で効果的である理由を説明する上で役立つ可能性があります。
人間の匿名性の感覚は、他者が自分について何を知っているかだけでなく、自分が他者について何を知っているかによっても変わるようです。これまでの研究では、自分の匿名性が保たれていると認識していると、不誠実な行動や有害な行動が増える場合がある、と示唆されていますが、他人が自分のことをよく知っており、自分の行動に慣れていると思うようになれば、匿名性の感覚が行動に及ぼす悪影響の一部を減らせる可能性がある、というわけです。進化心理学的観点からも注目される研究です。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
人間行動学:地元の警察官を知れば知るほど犯罪が減るかもしれない
地元住民にその地域を担当する警察官たちに関する情報を提供すると、犯罪率が低下する可能性があることを示唆する論文が、Nature に掲載される。実験室での研究と現地調査の結果から、私たちの匿名性の感覚は、他人が自分たちについて何を知っているのかだけでなく、自分たちが他人について何を知っているのかにも依存していることが示唆された。
他人との社会的関係は対称的なものだと思われがちだが、必ずしもそうとは限らない。今回、Anuj ShahとMichael LaForestは、実験室内での標準的な心理学研究を実施し、他人のことをもっと深く知るようになると、その人が自分のことをもっと深く知っていると信じ込むようになる可能性があることを明らかにした。私たちの匿名性の感覚が低下して、自分の考えや行動が他人に明らかになっているかもしれないという過大な認識を持つ可能性があるという。これまでの研究では、自分の匿名性が保たれていると認識していると、不誠実な行動や有害な行動が増える場合があることが示唆されているが、他人が自分のことをよく知っており、自分の行動に慣れていると思うようになれば、匿名性の感覚が行動に及ぼす悪影響の一部を減らせる可能性がある。
著者たちは、室内実験で明らかになった社会的関係の非対称性が人々の認識と行動にどのように影響するのかを解明するため、米国ニューヨーク市の公営住宅団地69か所を選び、そのうちの39か所では、地元の警察官たちに関する情報(好みの食べ物、好きなスポーツチーム、趣味など)を住民に提供し、残りの30か所では、対照群として何の介入も行わなかった。次に、著者たちは、1858人の住民を対象に調査を行い、警察官たちが自分について何を知っているかという点の認識と、自分が罪を犯した場合に警察官がそのことを把握する可能性がどの程度高いかという点の認識を評価した。著者たちは、介入直後の3か月間の犯罪件数が、警察官たちに関する情報を受け取った地域では、受け取っていない地域と比較して約5~7%少なくなると推定した。この犯罪の減少率は、同じ地域内で警察官を増員した場合と同等だった。
著者たちは、地元の警察官たちについて詳しく知るようになった住民は、警察官たちが自分たちの違法行為をより的確に把握できるようになったと思うようになり、その結果、住民の犯罪行動が抑制される可能性があるという考えを示している。このことは、警察官の家庭訪問が、その他の地域警備活動(例えば、住民の連帯と地元警察の協力による防犯や店頭警備)よりも犯罪を減らす上で効果的である理由を説明する上で役立つかもしれない。著者たちは、警備の人種・民族間格差を減らし、警察への信頼を高めるためには、もっと広範な改革が必要だが、地域社会に対して地元の警察官たちに関する情報をより多く提供することが犯罪を減らす方法の1つになるかもしれないと主張している。
心理学:他者について知ると自身の匿名性の感覚が減少する
心理学:相手をよく知れば、相手にもよく知られていると感じる
A Shahたちは今回、面識のない他者についてより多くのことを知ると、その他者もこちらについてよく知っていると感じる傾向があることを明らかにしている。現実社会でこの知見を検証したところ、住民に地元の警察官についての情報を提供した場合に犯罪が減少する可能性があることが示された。
参考文献:
Shah AK, and LaForest M.(2022): Knowledge about others reduces one’s own sense of anonymity. Nature, 603, 7900, 297–301.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-04452-3
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