気候変動による古代の岩壁画の劣化

 取り上げるのが遅れてしまいましたが、気候変動による古代の岩壁画の劣化に関する研究(Carvalho et al., 2021)が公表されました。スラウェシ島のマロス・パンケップ(Maros–Pangkep)地方(図1)では、赤色顔料や暗赤紫色顔料を用いた岩壁画(岩絵)が発見されており、その中には世界最古級の具象的な岩壁画も含まれ、古いものでは下限年代が45500年前頃となります(関連記事)。以下は本論文の図1です。
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 これらの岩壁画の劣化がここ数十年間に加速していることを示唆するような事例証拠はあるものの、その原因はよく分かっていません。この研究は、雨期と乾期が交互に訪れることによる温度と湿度の反復的変化のため、塩の結晶形成と岩壁画の劣化を促進する条件が生み出されているのではないか、と推測しています。この研究は、その推測に基づき、こうした変化が気候変動とエルニーニョ現象による極端な気象現象の高頻度化・激化と地球温暖化によって加速するかもしれない、と指摘しています。この研究は、熱帯域の古代の岩壁画を保護するには、長期的な監視と保全の取り組みが必要である、と結論づけています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


考古学:気候変動のために古代の岩壁画の劣化が加速している可能性がある

 インドネシアにある古代の岩壁画(3万9900年前のものとされる世界最古の手形ステンシルを含む)の劣化が、気候変動によって加速していると考えられることを報告する論文が、Scientific Reports に掲載される。

 インドネシアのマロス・パンケップにある鍾乳洞と岩窟住居で見つかった赤色顔料や暗赤紫色顔料を使って描かれた岩壁画は、年代測定によって2万~4万5000年前のものとされた。ここ数十年間に、これらの岩壁画の劣化が加速していることを示唆する事例証拠があるが、その原因は分かっていない。

 Huntleyたちは、雨期と乾期が交互に訪れることによる温度と湿度の反復的変化が、塩の結晶形成と岩壁画の劣化を促進する条件を生み出しているという考えを示し、こうした変化が、気候変動とエルニーニョ現象による極端な気象現象の高頻度化・激化と地球温暖化によって加速する可能性があると提案している。Huntleyたちは、熱帯域の古代の岩壁画を保護するには、長期的な監視と保全の取り組みが必要だと結論付けている。



参考文献:
Huntley J. et al.(2021): The effects of climate change on the Pleistocene rock art of Sulawesi. Scientific Reports, 11, 9833.
https://doi.org/10.1038/s41598-021-87923-3

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