『卑弥呼』第80話「争い」

 『ビッグコミックオリジナル』2022年2月20日号掲載分の感想です。前回は、山社(ヤマト)の国の千穂(現在の高千穂でしょうか)の洞窟にて、ヤノハが男児を出産したところで終了しました。これは、日見子(ヒミコ)としては絶対に許されないことです。巻頭カラーとなる今回は、山社(ヤマト)の国の千穂(現在の高千穂でしょうか)の洞窟にて、ヌカデが息子の世話に苦労している場面から始まります。息子はヤエトと命名されたようです。ヤノハはヌカデにも弟(で子供の実父でもある)のチカラオ(ナツハ)にも子供を抱かせず、一人で世話をしていました。千穂の里では雨が降り続き、稲刈りをしている民の長らしき人物が、今年の天津日子根(アマツヒコネ)様は機嫌が悪いので、今日刈り取らねば米が全滅する、と呼びかけていました。ヌカデは、近いうちに里に嵐が来る、と予測します。そこへオオヒコが訪ねてきて、山社からの使者から、厲鬼(レイキ)、つまり疫病が邑々から去りつつあるので、すでに10ヶ月以上巖谷に籠っている日見子様には早く山社に戻って欲しいと要請された、とヌカデに伝えます。日見子様(ヤノハ)は、油断は禁物でもう2ヶ月は祈祷(イノリ)が必要と言っている、とヌカデが申し訳なさそうに答えると、板挟みになっているオオヒコは、自分が直接日見子様にお願いできないのか、とヌカデに尋ねます。ヌカデは、それだけはできない、今の日見子様は祈祷に熱心だ、と答えますが、納得できないオオヒコを見て、明日説得してみる、と言います。

 金砂(カナスナ)国の汗入(アセイリ)では、事代主(コトシロヌシ)が金砂国のミクマ王と会見しており、鬼国(キノクニ)と戦うよう、決断を促していましたが、鬼国は卓越した戦人集団なので、ミクマ王は躊躇っていました。吉備(キビ)国に援軍を頼むのが得策ではないか、と提案するミクマ王に対して、キビはどうも胡散臭く、背後に日下(ヒノモト)が見え隠れする、今回の鬼国の唐突な動きは日下の策略ではないか、と事代主は推測します。つまり、鬼国と吉備と日下が裏で手を結んでいるのだ、と悟ったミクマ王は、ならば金砂な勝ち目はない、と狼狽します。すると事代主は、鬼は国といっても国ではなく、実際は韓(カラ、朝鮮半島を指すのでしょう)から渡来したタタラ人とそれを守る戦人の集団だ、と説明します。ミクマ王はタタラ人を知らず、土や砂から鉄(カネ)を取り出す匠で、フイゴを用いた釜で作業を行なう、と説明します。タタラ人とそれを守る戦人の目的はその鉄を大陸に送ることで、鉄を多く含む倭の地を侵略し、倭の民を奴婢として働かせている、と事代主から聞かされたミクマ王は、自分の民も奴婢になるのか、と驚愕します。すると事代主は、鬼国の弱点を突いてはどうか、と提案します。鬼国のタタラ人の都は今手薄なので、攻め込む、というわけです。

 千穂では、ヌカデから山社に戻るよう提案されたヤノハが、生まれたばかりの息子のヤエトには手がかかるので無理だ、と即答します。ヤエトは夜昼なく泣き、眠りも浅く、時として自分を嫌うそぶりまで見せるので、ヤエトを世話しつつどうやって日見子を演じるのだ、というわけです。元々ヤノハは偽りの日見子なのに、男と通じて出産までした上は、偽者中の偽者というわけです。それでも日見子はヤノハしかいないと思う、とヌカデに諭されたヤノハは、自分の神通力は消えたので新しい日見子を選んで欲しいとイクメに伝えるよう、ヌカデに要請します。するとヌカデは、倭国に泰平をもたらすという望みはどこにいったのだ、と叱責されます。それでもヤノハは、今の自分にはヤエトだけだ、ヤエトを育てたい、と答えます。ヌカデは邑の産婆にそれとなく聞き、ヤエトが夜昼見境なく泣くのは、時が分からないからだ、と推測していました。朝になれば明るい世界を見せ、夜になれば闇を与える、つまりたまには表を歩いて外の世界を教えねばならず、さもなければ、赤子は自分が何者でどういう世に住んでいるのか理解しない、というわけです。ヤエトは不自然な境遇におり、ヤノハの立場で子育ては不可能だ、とヌカデに指摘されたヤノハは、自分とヤエトが千穂の巖谷を出てどこかでひっそりと暮らすのを見逃してくれ、と頼みます。血迷っている、とヌカデに言われても、自分は望むようにいきたいだけだ、とヤノハは言い、そんな赤子は里子に出せ、というヌカデに対して、二度と来るな、と言います。追い出されたヌカデはヤノハに、大勢の人に夢を見せたのに急に奪うことがどれほど酷いことなのか理解しているのか、と問いかけます。ヌカデはチカラオに、お前の主は頭がおかしくなった、この雨でも巖谷に入れず入口で見張りをさせているような無情な人物だから、捨ててしまえ、と言いますが、チカラオは姉のヤノハ(ヤノハとチカラオが姉弟であることをヌカデは知らないと思いますが)にあくまでも従う意思を示します。偽日見子様は一生この巖谷に籠っていろ、と捨て台詞を吐いたヌカデが去ろうとしたところ、落石により、ヌカデとチカラオは何とか助かったものの、巖谷の入口が巨岩で塞がれるところで、今回は終了です。


 今回は、金砂国と鬼国との戦いをめぐる事代主の思惑とともに、男児を出産したヤノハの動向が描かれました。事代主により鬼国の状況がある程度明かされ、かなり特殊な国というか集団だと分かりました。おそらく事代主の推測通り、鬼国は吉備、さらには日下と組んで筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)に金砂国を制圧しようと考えているのでしょう。この戦いに筑紫島諸国というかヤノハがどう関わるのかも、今後の見どころの一つになりそうです。ヤノハは男児を出産してすっかり男児中心の思考になり、日見子としての立場を放棄するつもりになったようです。しかし、ヤノハは息子のヤエトとともに巖谷に閉じ込められてしまい、ここからどう話が動くのか、注目されます。さすがにヌカデとチカラオだけで巨岩を取り除くことはできないでしょうから、邑人か山社の兵士を動員しなければ、ヤノハとヤエトは閉じ込められたままです。しかし、ヤノハが出産したことを知られるわけにもいきませんから、ヤノハもヌカデもチカラオも窮地に立たされたことになります。おそらく、この危機もヤノハは切り抜けるのでしょうが、ヤノハが言うように、ヤエトを育てることと日見子を演じることの両立は難しく、結局はヌカデが言ったように、ヤエトは里子に出されることになり、ヤノハの妊娠を知っている事代主にヤエトが託されるのかもしれません。モモソの予言によると、ヤノハはヤエトに殺されるので、里子に出された経緯を知ったヤエトがヤノハを恨む、という話になるのかもしれませんが、それは本作の終盤になるでしょう。暈(クマ)の国で捕らえられたアカメの運命も気になりますが、まずは、巖谷に閉じ込められたヤノハとヤエトがこの危地をどう脱するのか、注目されます。

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