ヘビ毒と哺乳類の唾液タンパク質の共通起源
ヘビ毒と哺乳類の唾液タンパク質の共通起源に関する研究(Barua et al., 2021)が公表されました。日本語の解説記事もあります。ヘビや一部のトカゲ、さらに一部の哺乳類には、噛みついて毒液を出すものがおり、これらの系統は3億年以上前に分化した、と推測されています。以前の研究で、哺乳類の唾液腺とヘビの毒腺では制御遺伝子の一群の活性パターンが類似している、と明らかになっており、毒液の進化に必要な基盤がヘビと哺乳類の両方に存在する、と示唆されます。
カリクレインセリンプロテアーゼはタンパク質分解酵素の一種で、血圧の調整に重要な役割を果たしています。哺乳類の唾液にはこれらのタンパク質が少量含まれていますが、その機能は現在まで明らかになっていません。しかし、毒ヘビと、トガリネズミやソレノドンなどの哺乳類では、これらのタンパク質の毒性が進化しており、大量に投与すると、血圧が急激に低下して意識を失ったり、死に至ったりする可能性もあります。カリクレインセリンプロテアーゼは、ヘビ毒に含まれるものと哺乳類の唾液に含まれるものが生化学的に類似していることは以前から指摘されていましたが、実際にこれらが関連しているかどうかは、これまで明らかになっていませんでした。
この研究は、近年進歩したゲノム解析法により、爬虫類と両生類と魚類と哺乳類すべてのカリクレイン遺伝子を特定して比較し、進化系統樹を作成しました。その結果、ヘビ毒のカリクレインセリンプロテアーゼと哺乳類の唾液中のカリクレインが、同じ祖先遺伝子から進化した、と示されました。これとは、毒性を持つ能力を秘めた祖先の共通の遺伝子群から毒液が進化したという、以前の仮説を裏づけるたいへん強固な証拠です。ヒトやマウスに見られるような非毒性の唾液カリクレインも、同じ祖先の遺伝子から進化しました。
実際この研究では、哺乳類の唾液に含まれる非毒性カリクレインは、哺乳類が持つ他のカリクレインよりもヘビ毒の毒素に近い、と示されました。これらの知見から、ヒトを含む哺乳類の唾液カリクレインというタンパク質も、毒性を持つように進化する能力があると考えられます。しかし毒液を持つよう進化できる要素を持っているからといって、それが実際に起こるとは限りません。毒液を作るには非常に負担がかかるので、そのように進化したのは強い生態学的圧力があったからと考えられます。毒液を持つ哺乳類と、持たない哺乳類との境界が、これまで考えられていたよりも曖昧になったわけです。
参考文献:
Barua A, Koludarov I, and Mikheyev AS.(2021): Co-option of the same ancestral gene family gave rise to mammalian and reptilian toxins. BMC Biology, 19, 268.
https://doi.org/10.1186/s12915-021-01191-1
カリクレインセリンプロテアーゼはタンパク質分解酵素の一種で、血圧の調整に重要な役割を果たしています。哺乳類の唾液にはこれらのタンパク質が少量含まれていますが、その機能は現在まで明らかになっていません。しかし、毒ヘビと、トガリネズミやソレノドンなどの哺乳類では、これらのタンパク質の毒性が進化しており、大量に投与すると、血圧が急激に低下して意識を失ったり、死に至ったりする可能性もあります。カリクレインセリンプロテアーゼは、ヘビ毒に含まれるものと哺乳類の唾液に含まれるものが生化学的に類似していることは以前から指摘されていましたが、実際にこれらが関連しているかどうかは、これまで明らかになっていませんでした。
この研究は、近年進歩したゲノム解析法により、爬虫類と両生類と魚類と哺乳類すべてのカリクレイン遺伝子を特定して比較し、進化系統樹を作成しました。その結果、ヘビ毒のカリクレインセリンプロテアーゼと哺乳類の唾液中のカリクレインが、同じ祖先遺伝子から進化した、と示されました。これとは、毒性を持つ能力を秘めた祖先の共通の遺伝子群から毒液が進化したという、以前の仮説を裏づけるたいへん強固な証拠です。ヒトやマウスに見られるような非毒性の唾液カリクレインも、同じ祖先の遺伝子から進化しました。
実際この研究では、哺乳類の唾液に含まれる非毒性カリクレインは、哺乳類が持つ他のカリクレインよりもヘビ毒の毒素に近い、と示されました。これらの知見から、ヒトを含む哺乳類の唾液カリクレインというタンパク質も、毒性を持つように進化する能力があると考えられます。しかし毒液を持つよう進化できる要素を持っているからといって、それが実際に起こるとは限りません。毒液を作るには非常に負担がかかるので、そのように進化したのは強い生態学的圧力があったからと考えられます。毒液を持つ哺乳類と、持たない哺乳類との境界が、これまで考えられていたよりも曖昧になったわけです。
参考文献:
Barua A, Koludarov I, and Mikheyev AS.(2021): Co-option of the same ancestral gene family gave rise to mammalian and reptilian toxins. BMC Biology, 19, 268.
https://doi.org/10.1186/s12915-021-01191-1
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