シロアリの進化

 シロアリの進化に関する研究(Mizumoto, and Bourguignon., 2021)が公表されました。日本語の解説記事もあります。シロアリは、進化系統樹においてゴキブリ系統に属しており、1億7千万~1億5千万年前頃となるジュラ紀の終わりに、姉妹群であるゴキブリから分岐しました。有力説では、シロアリは分岐後から現在に至るまで徐々に小型化し続けている、と言われていました。しかし、この研究は、シロアリの大きさの変遷を見直し、有力説とは異なる見解を提示しています。

 頭幅に代表されるシロアリの体サイズは、過去100年間、分類学者により総合的に測定が行なわれてきました。これまでシロアリの個体をカタログ化する際には、体重とは異なり、標本の保管方法に影響を受けずに測定値が安定している頭幅が用いられてきました。ゴキブリ目の現生種では、シロアリ以外の種がシロアリよりも大型であることから、シロアリは分岐後に小型化した、という説が有力でした。昆虫の体サイズはその社会の複雑性と相関している、と考えられています。つまり、昆虫が小型であるほどより多くの個体が空間に収まる、というわけです。個体数が多いほど役割分担が可能となり、働きアリや兵隊アリなどのさまざまな階級が生まれます。シロアリは社会性を持つゴキブリなので、は分岐後から現在に至るまで徐々に小型化し続けている、との有力説は合理的でしたが、アリやハチと比較すると、これまでしっかりと検証されてきませんでした。

 この研究の再検証の結果、有力説は現生種だけを対象とするとある程度裏づけられたものの、化石種を含めると否定的な結果が得られました。1億年前頃の化石種の中には、すでにかなり小型のものもあり、この研究が対象とした範囲で最小の種は、5000万年前頃の化石種でした。また、シロアリの全ての現生種の祖先の頭幅は約2mmと推定されました。この大きさは約8割の現生種よりも大型ですが、現生種の範囲内に充分収まっています。

 シロアリは、全部で3000あまりが学術的に記載されています。この研究は、その半数近くを調査した確固としたものとなりました。この研究で調べられた種のうち1562種が現生種、76種が化石種で、最古の種は1億3000万年前頃にさかのぼります。頭幅は、最小で約0.5mm、最大で約5mmでした。シロアリは種間でひじょうに大きなばらつきがあり、小型化している種もあれば、逆に大型化している種もあり、系統によって異なります。この研究は、シロアリの社会性の進化について学ぶための基盤となります。


参考文献:
Mizumoto N, and Bourguignon T.(2021): The evolution of body size in termites. Proceedings of the Royal Society B, 288, 1963, 20211458.
https://doi.org/10.1098/rspb.2021.1458

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