裸子植物の進化とゲノム重複

 裸子植物の進化とゲノム重複に関する研究(Stull et al., 2021)が報道されました。動物では2本以上の染色体を持つ「倍数体」は珍しいものの、植物ではよく見られます。一般的に食べられている果物や野菜のほとんどは、近縁種同士の交配によって生まれた倍数体で、小麦やピーナッツやコーヒーやオーツ麦やイチゴなど、多くの植物は、DNAのコピーが複数に分かれていることで、成長が速くなり、サイズや重量が増加するという、利点があります。

 しかし、これまで、多倍体が裸子植物の進化にどのような影響を与えたのか、不明でした。裸子植物は、植物界で最大級のゲノムを持っているにも関わらず、染色体数が少ないことから、裸子植物では倍数性はそれほど普及しておらず、重要ではない、と長く考えられてきました。多くの繰り返し要素を蓄積する傾向がある裸子植物の遺伝学も複雑で、イチョウやソテツやマツなどの針葉樹にはゲノムの複製とは関係のない繰り返し要素が多く、裸子植物はゲノムの大きさのため研究が難しくなっており、DNAの多くは何もコードしていない反復配列で構成されています。

 最近の研究で1000以上の植物から大量の遺伝子配列を入手でき、陸上植物の長い進化史を解明する手がかりが得られました。この研究は、これらのデータと新たに作成した配列を組み合わせて、裸子植物の進化史を改めて調べました。裸子植物は、その長い進化史において大きな絶滅を経てきたため、その関係を正確に解読することは困難でした。しかし、全ての現生裸子植物のゲノムには、3億5000万年以上前に起きた複製の痕跡が残っています。さらにその1億年以上後には、別の重複があってマツ科が誕生し、3番目の重複でポドカルプ(おもに南半球に分布する樹木や低木のグループ)が誕生しました。

 いずれの場合も、複製されたDNAと独特な形質の進化との間に強い関連性がある、と分析で明らかになりました。どのような形質が倍数性によって生じたのかを正確に特定するには今後の研究が必要ですが、ソテツの卵のような奇妙な根に窒素固定細菌が生息していることや、現代の針葉樹に見られる多様な錐体構造や、ひじょうに肉厚でさまざまな色をしており果実のように見えるポドカープの球果などが候補として挙げられています。

 ゲノムの重複が裸子植物の新種の進化の速度に影響を与えているかどうかについて、明確なパターンではなく、地球の気候が大きく変化していることを背景に、絶滅と多様化が複雑に絡み合っている、と明らかになりました。現在、裸子植物は1000種ほどが存在し、約30万種の被子植物と比較すると少ないと言えるかもしれませんが、全盛期の裸子植物はもっと多様性に富んでいました。非鳥類恐竜が絶滅したことで知られる6600万年前頃の小惑星絶滅事象の前には、裸子植物はまだ繁栄していましたが、小惑星の衝突によりもたらされた劇的な生態系の変化が、その状況を一変させました。非鳥類恐竜の絶滅後、種子植物が裸子植物を駆逐し始め、裸子植物は大規模な絶滅に追い込まれました。完全に絶滅した分類群もあれば、辛うじて現在まで生き残っている分類群もあり、たとえば、かつて繁栄していたイチョウの仲間は、現在では1種しか生き残っていません。ただ、少なくともいくつかの裸子植物分類群は、地球が冷涼で乾燥した気候に移行した2000万年前頃から復興し始めたようです。

 裸子植物の中には、気候変動と競争という問題に対処できなかった分類群がある一方で、古代の種子植物との競争に敗れた形質を持つことにより、特定の生息地で優位に立つ分類群もあり、マツやトウヒやモミやジュニパーなどの分類群がそうです。いくつかの環境では、裸子植物は極端な環境での生活に適応しました。北アメリカ大陸南東部の松林では、ロングリーフパインが頻繁な火事で競争相手を焼き尽くすことに適応しており、極北の北方林では針葉樹が優勢です。しかし、火や寒さがなくなると、種子植物がすぐに侵入してきます。

 過去2000万年間に、一部の針葉樹やソテツの分類群が大幅に多様化するなど、裸子植物はまだ多様化の過程にありますが、人為的な環境の変化により中断されてしまい、多くの種は分布がひじょうに限定されています。現在、気候変動や生息地の喪失などの影響により、40%以上の裸子植物が絶滅の危機に瀕しています。今後の研究では、これらの植物がどのようにして現在まで存続してきたのかを明らかにすることで、将来的に存続させるためのより良い枠組みを提供できるかもしれません。


参考文献:
Stull GW. et al.(2021): Gene duplications and phylogenomic conflict underlie major pulses of phenotypic evolution in gymnosperms. Nature Plants, 7, 8, 1015–1025.
https://doi.org/10.1038/s41477-021-00964-4

この記事へのコメント

Gくん
2022年01月19日 09:54
おはようございます!ときどき訪問して拝読しております。本文に関連しませんが、ウェブリブログが、23年1月末日をもって、終了とのことです。管理人さんの膨大な考察記事、どうされるのですか!?
管理人
2022年01月19日 17:15
見落としていました、ありがとうございます。とりあえずSeesaaブログに移行し、明日のブログ移行通知を最後の記事として、明日からは新ブログに移行しますが、他に適したブログがないか、探すつもりです。
https://sicambre.seesaa.net/

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