ヒトの原腸形成

 ヒトの原腸形成に関する研究(Tyser et al., 2021)が公表されました。原腸形成は、全ての多細胞動物の基本的な過程で、初期胚(胞胚)が3つの胚葉を持つ胚(原腸胚)に変化する、初期胚発生における決定的な瞬間です。原腸形成により、基本的なボディープランが最初に定められます。原腸形成は、空間的なパターン形成と協調した細胞多様性を生み出すのにきわめて重要です。ヒトでは、原腸形成は受精後約3週目に起きます。

 ヒトでのこの過程に関する知識は比較的限られており、おもに歴史的な標本、実験モデル、あるいはごく最近では試験管内(in vitro)の培養試料に基づいています。試験管内での培養が、最近まで14日間に制限されていたことも、ヒトでの原腸形成の知識を限定的にしていました。この研究は、受精後16~19日の間の発生段階に相当する、原腸形成中の1つのヒト胚全体の単一細胞転写プロファイル(細胞構成および分子構成)を、単一細胞RNA塩基配列解読により空間的に分解して、その特徴を明らかにしました。

 これらのデータを用いて、存在する細胞タイプを解析し、他のモデル系と比較した結果、多能性の胚盤葉上層に加えて、始原生殖細胞、赤血球、さまざまな中胚葉や内胚葉の細胞タイプが特定されました。このデータセットから、ヒトの発生の重要ではあるものの直接的研究が難しい発生段階を、独特な視点で垣間見られます。この特性解析は、他のモデル系での実験を解釈するための新たな文脈を提供し、試験管内でのヒト細胞の分化誘導を導くための貴重な情報資源となります。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


発生生物学:原腸形成中のヒト胚の単一細胞トランスクリプトームの特性解析

発生生物学:ヒトの原腸形成を垣間見る

 原腸形成は、初期胚(胞胚)が3つの胚葉を持つ胚(原腸胚)に変化する、初期胚発生における決定的な瞬間である。ヒトでは、原腸形成は受精後約3週間で起こる。ヒト胚のin vitroでの培養は、最近まで14日間に制限されていたため、ヒトの原腸形成についての知識は非常に限られていた。S SrinivasとA Scialdoneたちは今回、人工妊娠中絶後に得られた、原腸形成中の1つのヒト胚の解析結果について報告している。この胚の細胞構成および分子構成を、単一細胞RNA塩基配列解読を用いて解析することで、ヒトの原腸形成についての独特な手掛かりが得られた。総合的にこの研究は、ヒトの初期発生についての我々の理解を深めるだけでなく、この分野の非常に有益な参照情報にもなる。



参考文献:
Tyser RCV. et al.(2021): Single-cell transcriptomic characterization of a gastrulating human embryo. Nature, 600, 7888, 285–289.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-04158-y

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