オマキザルのゲノム解析

 取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、オマキザル(Cebus imitator)のゲノム解析結果を報告した研究(Orkin et al., 2021)が報道されました。オマキザルはサルの中で相対的な脳サイズが最も大きく、身体サイズが小さいにも関わらず50歳を超えて生きられますが、その遺伝的基盤はこれまで不明でした。この研究は、霊長類の糞便からDNAをより効率的に分離するための新技術の使用により、白い顔をしたオマキザルのリファレンスゲノムアセンブリを開発して注釈を付け、多種多様な哺乳類にまたがる比較ゲノミクスアプローチを通じて、長寿と脳の発達に関連する進化的選択の下にある遺伝子を特定しました。

 FecalFACS(糞便蛍光活性化セルソーティング)は、体液中の細胞タイプを分離するために開発された既存の技術を利用しており、それが霊長類の糞便サンプルに適用されたわけです。糞便からDNAを抽出する一般的な方法では、DNAの約95~99%が腸内微生物や食品に由来するため、これは大きな進歩となります。哺乳類とは異なる生物のゲノムの配列決定に多額の資金が費やされてきました。そのため、野生生物の生物学者が全ゲノムを必要とする場合、血液や唾液や組織など、より純粋なDNA源に頼らざるを得ませんでしたが、絶滅危惧種の動物ではこうした作業が困難になります。したがって、

 分析の結果、両方の形質の根底にある遺伝子に正の選択の兆候が見つかりました。これは、そうした形質がどのように進化するのか、よりよく理解するのに役立ちます。さらに、熱帯雨林と 季節的乾林のオマキザルの集団を調べることにより、旱魃と季節の環境への遺伝的適応の証拠が見つかりました。より具体的には、DNA損傷応答や代謝や細胞周期やインスリンシグナル伝達に関連する遺伝子が特定されました。DNAの損傷は老化のおもな原因と考えられており、以前の研究では、DNA損傷応答に関与する遺伝子が哺乳類で寿命特異的な選択パターンを示す、と示されています。ただ、加齢に関連する遺伝子は複数の役割を果たすことが多いため、これらの遺伝子の選択が加齢に関連するのか、成長率や発達時間などの他の生活史の特徴に関連するのか、確認することは不可能です。

参考文献:
Orkin JD. et al.(2021): The genomics of ecological flexibility, large brains, and long lives in capuchin monkeys revealed with fecalFACS. PNAS, 118, 7, e2010632118.
https://doi.org/10.1073/pnas.2010632118

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