チリで発見されたアンキロサウルスの新種
チリで発見されたアンキロサウルスの新種に関する研究(Soto-Acuña et al., 2021)が報道されました。装甲を持つ恐竜(装盾類)は、剣竜類の対をなす棘や、進化した曲竜類(鎧竜類)の重い棍棒状の構造など、尾に特殊化した武器を進化させたことでよく知られています。かつてパンゲア超大陸の一部だった北方のローラシア大陸で発見された曲竜下目アンキロサウルスは、多様性に満ちた恐竜種で、詳しく研究されています。これに対して、南方のゴンドワナ大陸南部で発見される装甲恐竜は希少で謎が多いものの、おそらくはアンキロサウルスなど曲竜類の最初期の系統を含むと考えられます。
本論文は、生物地理学的に西南極と関連する、チリ最南端マガジャネスで発見された、後期白亜紀(約7170万~7490万年前)の小型(全長約2m)の装甲恐竜の、ほぼ完全で部分的に関節がつながった骨格について報告します。この新属新種はステゴウロス・エレンガッセン(Stegouros elengassen)と命名され、尾の遠位半分を覆う7対の側方に突出した皮骨で形成された、ヤシやシダの葉状の平たい構造という、他の恐竜に類のない大きな尾の武器が見られます。ステゴウロス・エレンガッセン名前の由来は、奇妙な「屋根の尾(ステゴウロス)」と、パタゴニア地域の先住民アオニケンクの神話に登場する鎧のような獣(エレンガッセン)です。以下は、ステゴウロス・エレンガッセンの想像図です。
ステゴウロス・エレンガッセンには、曲竜類の頭蓋形質が認められるが、頭蓋後方の骨格は概して祖先的で、剣竜類様の形質も見られました。系統発生学的解析の結果、ステゴウロス・エレンガッセンは曲竜類に位置づけられました。具体的には、ステゴウロス・エレンガッセンは、オーストラリアのクンバラサウルス(Kunbarrasaurus)および南極のアンタークトペルタ(Antarctopelta)に近縁で、これらと共に、他の全ての曲竜類から最初に分岐したゴンドワナ大陸の曲竜類クレード(単系統群)を形成します。以下は、曲竜類この系統関係を示した本論文の図3です。
アンタークトペルタに見られる大きな皮骨と特殊化した尾椎は、ステゴウロス・エレンガッセン恐竜がステゴウロス属に似た尾の武器を有していた、と示唆します。この研究は、ステゴウロス属の最初の祖先およびその全ての子孫を含むものの、アンキロサウルス(Ankylosaurus)は含まない、新たなクレード「Parankylosauria」を提案しています。後期ジュラ紀にローラシア大陸とゴンドワナ大陸が分裂した後、これらの超大陸にはそれぞれ、曲竜類の系統樹の異なる枝に属する恐竜が存在していたかもしれない、というわけです。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
古生物学:チリで発見されたアンキロサウルスの新種
チリの亜南極地域で発見され、アンキロサウルスの新種とされる化石が、装甲恐竜の起源と初期進化についての新たな手掛かりをもたらしている。この知見を報告する論文が、Nature に掲載される。今回の知見は、Stegouros elengassenが武器となる大きな尾を進化させており、これが他の恐竜には見られない特徴であることを明らかにした。
かつてパンゲア超大陸の一部だった北方のローラシア大陸で発見された曲竜下目アンキロサウルスは、多様性に満ちた恐竜種で、詳しく研究されている。これに対して、南方のゴンドワナ大陸のアンキロサウルスには、最古のアンキロサウルスが含まれている可能性が高いと考えられているが、その化石はほとんど見つかっておらず、解明が進んでいない。
今回、Alexander Vargasたちは、チリ最南端のマガリャネスで発見された、保存状態が良好でほぼ完全な骨格化石が、後期白亜紀(約7170万~7490万年前)の体長約2メートルの小型のアンキロサウルスの骨格であることを報告している。Vargasたちは、これが、アンキロサウルスの新種であることを明らかにし、Stegouros elengassenと命名した。Stegourosには、他のアンキロサウルスと同様に独特な頭蓋骨の特徴が見られるが、その他の骨格はほとんどが原始的なもので、ステゴサウルスに似た特徴が含まれていると考えられている。また、Stegourosには、武器として使える大きな尾があり、7対の平たい骨性堆積物が融合した葉状構造が、この尾の遠位部全体に形成されている。この点で、他の装甲恐竜に見られる一対の尾部のスパイクや尾錘とは異なっていた。また、Vargasたちが系統発生解析(アンキロサウルスの系統樹を作成するのに相当する)を行ったところ、Stegourosがアンキロサウルスの一種で、特にオーストラリアのクンバラサウルス(Kunbarrasaurus)と南極のアンタークトペルタ(Antarctopelta)に近縁なことが判明した。
Vargasたちは、以上の知見を踏まえて、後期ジュラ紀にパンゲア超大陸がローラシア大陸とゴンドワナ大陸に完全に分裂した後に、両大陸におけるアンキロサウルスの系統樹に別の枝が存在していた可能性があると結論付けている。Vargasたちは、この仮説は、Stegourosの発見によって提起された他の可能性と共に、装甲恐竜の進化、特にゴンドワナ大陸での装甲恐竜の進化に関して解明されていない点が多いことを改めて示していると述べている。
古生物学:チリの亜南極地域で発見された移行期の曲竜類の風変わりな尾の武器
Cover Story:武装して対処:独特な尾の武器を誇示するチリの曲竜類の遺骸
装甲を持つ恐竜(装盾類)は、剣竜類の対をなす棘や曲竜類(鎧竜類)のこん棒状の構造といった、尾の武器で広く知られている。今回A Vargasたちは、アステカ文明で用いられていた武器によく似た特異な尾の武器を持つ新種の曲竜類について報告している。チリ南部で出土したこのStegouros elengassenのほぼ完全な骨格は、約7500万年前のもので、その大きな尾の武器は、融合してヤシやシダの葉状の構造になった7対の平たい骨状の被覆物からなる。著者たちは、Stegouros が、他のゴンドワナ大陸の曲竜類である、オーストラリアのクンバラサウルス(Kunburrasaurus)や南極のアンタークトペルタ(Antarctopelta)と特に関連が深いと確定することができた。彼らは、後期ジュラ紀にローラシア大陸とゴンドワナ大陸が分裂した後、これらの超大陸にはそれぞれ、曲竜類の系統樹の異なる枝に属する恐竜が存在していた可能性があると提案している。
参考文献:
Soto-Acuña S. et al.(2021): Bizarre tail weaponry in a transitional ankylosaur from subantarctic Chile. Nature, 600, 7888, 259–263.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-04147-1
本論文は、生物地理学的に西南極と関連する、チリ最南端マガジャネスで発見された、後期白亜紀(約7170万~7490万年前)の小型(全長約2m)の装甲恐竜の、ほぼ完全で部分的に関節がつながった骨格について報告します。この新属新種はステゴウロス・エレンガッセン(Stegouros elengassen)と命名され、尾の遠位半分を覆う7対の側方に突出した皮骨で形成された、ヤシやシダの葉状の平たい構造という、他の恐竜に類のない大きな尾の武器が見られます。ステゴウロス・エレンガッセン名前の由来は、奇妙な「屋根の尾(ステゴウロス)」と、パタゴニア地域の先住民アオニケンクの神話に登場する鎧のような獣(エレンガッセン)です。以下は、ステゴウロス・エレンガッセンの想像図です。
ステゴウロス・エレンガッセンには、曲竜類の頭蓋形質が認められるが、頭蓋後方の骨格は概して祖先的で、剣竜類様の形質も見られました。系統発生学的解析の結果、ステゴウロス・エレンガッセンは曲竜類に位置づけられました。具体的には、ステゴウロス・エレンガッセンは、オーストラリアのクンバラサウルス(Kunbarrasaurus)および南極のアンタークトペルタ(Antarctopelta)に近縁で、これらと共に、他の全ての曲竜類から最初に分岐したゴンドワナ大陸の曲竜類クレード(単系統群)を形成します。以下は、曲竜類この系統関係を示した本論文の図3です。
アンタークトペルタに見られる大きな皮骨と特殊化した尾椎は、ステゴウロス・エレンガッセン恐竜がステゴウロス属に似た尾の武器を有していた、と示唆します。この研究は、ステゴウロス属の最初の祖先およびその全ての子孫を含むものの、アンキロサウルス(Ankylosaurus)は含まない、新たなクレード「Parankylosauria」を提案しています。後期ジュラ紀にローラシア大陸とゴンドワナ大陸が分裂した後、これらの超大陸にはそれぞれ、曲竜類の系統樹の異なる枝に属する恐竜が存在していたかもしれない、というわけです。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
古生物学:チリで発見されたアンキロサウルスの新種
チリの亜南極地域で発見され、アンキロサウルスの新種とされる化石が、装甲恐竜の起源と初期進化についての新たな手掛かりをもたらしている。この知見を報告する論文が、Nature に掲載される。今回の知見は、Stegouros elengassenが武器となる大きな尾を進化させており、これが他の恐竜には見られない特徴であることを明らかにした。
かつてパンゲア超大陸の一部だった北方のローラシア大陸で発見された曲竜下目アンキロサウルスは、多様性に満ちた恐竜種で、詳しく研究されている。これに対して、南方のゴンドワナ大陸のアンキロサウルスには、最古のアンキロサウルスが含まれている可能性が高いと考えられているが、その化石はほとんど見つかっておらず、解明が進んでいない。
今回、Alexander Vargasたちは、チリ最南端のマガリャネスで発見された、保存状態が良好でほぼ完全な骨格化石が、後期白亜紀(約7170万~7490万年前)の体長約2メートルの小型のアンキロサウルスの骨格であることを報告している。Vargasたちは、これが、アンキロサウルスの新種であることを明らかにし、Stegouros elengassenと命名した。Stegourosには、他のアンキロサウルスと同様に独特な頭蓋骨の特徴が見られるが、その他の骨格はほとんどが原始的なもので、ステゴサウルスに似た特徴が含まれていると考えられている。また、Stegourosには、武器として使える大きな尾があり、7対の平たい骨性堆積物が融合した葉状構造が、この尾の遠位部全体に形成されている。この点で、他の装甲恐竜に見られる一対の尾部のスパイクや尾錘とは異なっていた。また、Vargasたちが系統発生解析(アンキロサウルスの系統樹を作成するのに相当する)を行ったところ、Stegourosがアンキロサウルスの一種で、特にオーストラリアのクンバラサウルス(Kunbarrasaurus)と南極のアンタークトペルタ(Antarctopelta)に近縁なことが判明した。
Vargasたちは、以上の知見を踏まえて、後期ジュラ紀にパンゲア超大陸がローラシア大陸とゴンドワナ大陸に完全に分裂した後に、両大陸におけるアンキロサウルスの系統樹に別の枝が存在していた可能性があると結論付けている。Vargasたちは、この仮説は、Stegourosの発見によって提起された他の可能性と共に、装甲恐竜の進化、特にゴンドワナ大陸での装甲恐竜の進化に関して解明されていない点が多いことを改めて示していると述べている。
古生物学:チリの亜南極地域で発見された移行期の曲竜類の風変わりな尾の武器
Cover Story:武装して対処:独特な尾の武器を誇示するチリの曲竜類の遺骸
装甲を持つ恐竜(装盾類)は、剣竜類の対をなす棘や曲竜類(鎧竜類)のこん棒状の構造といった、尾の武器で広く知られている。今回A Vargasたちは、アステカ文明で用いられていた武器によく似た特異な尾の武器を持つ新種の曲竜類について報告している。チリ南部で出土したこのStegouros elengassenのほぼ完全な骨格は、約7500万年前のもので、その大きな尾の武器は、融合してヤシやシダの葉状の構造になった7対の平たい骨状の被覆物からなる。著者たちは、Stegouros が、他のゴンドワナ大陸の曲竜類である、オーストラリアのクンバラサウルス(Kunburrasaurus)や南極のアンタークトペルタ(Antarctopelta)と特に関連が深いと確定することができた。彼らは、後期ジュラ紀にローラシア大陸とゴンドワナ大陸が分裂した後、これらの超大陸にはそれぞれ、曲竜類の系統樹の異なる枝に属する恐竜が存在していた可能性があると提案している。
参考文献:
Soto-Acuña S. et al.(2021): Bizarre tail weaponry in a transitional ankylosaur from subantarctic Chile. Nature, 600, 7888, 259–263.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-04147-1
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