『卑弥呼』第74話「田油津日女」
『ビッグコミックオリジナル』2021年11月20日号掲載分の感想です。前回は、モモソがヤノハに、今、腹の子を殺さねば、その子にお前は殺される運命だ、と告げるところで終了しました。今回は、暈(クマ)の国の鞠智(ククチ)の里(現在の熊本県菊池市でしょうか)で、鞠智彦(ククチヒコ)が暈の国各地の疫病被害の報告を受けている場面から始まります。カワカミの本拠地である鹿屋(カノヤ)のある姶羅(アイラ、現在の鹿児島県姶良市でしょうか)では、邑々の半数が死に絶え、ヤ家の統べる囎唹(ソオ、現在の鹿児島県曽於市でしょうか)ではさらにひどい状態で死体の山となっており、串岐(クシギ、現在の鹿児島県いちき串木野市でしょうか)のイ家のタケル王は厲鬼(レイキ)、つまり疫病により死に、出水(イズミ、現在の鹿児島県出水市でしょうか)のサジキ家は邑の大半を失い、海を越えて霧島に難を逃れ、カマ家では死者が相次ぎ、浮土(ウド、現在の熊本県宇土市でしょうか)の半分を焼き払っていました。
暈の5人のタケル王はもはや厲鬼の前になす術もない、と報告する配下の志能備(シノビ)に、鞠智彦は山社(ヤマト)など6ヶ国の情勢を尋ねます。伊都(イト)と末盧(マツラ)は早々に国を閉ざして民はほぼ生き残っており、穂波(ホミ)と都萬(トマ)も同様で、那(ナ)国の対応はどの国よりも早く、死者は最初からごく少数と配下から報告を受けた鞠智彦は、山社の状況を配下に尋ねます。山社は最初に厲鬼に祟られた国なので多くの使者が出たものの、その後は邑々が日見子(ヒミコ)たるヤノハの命によく従い、被害を最小限にとどめたようだ、と配下から報告を受けた鞠智彦は、山社がどのように対策したのか、配下に尋ねます。日見子は厲鬼退散の術を出雲の事代主(コトシロヌシ)より学び、同盟を結ぶ5ヶ国(伊都と末盧と穂波と都萬と那)に文を送った、と配下は報告します。すると鞠智彦の配下のウガヤは、豊秋津島(トヨアキツシマ、本州を指すと思われます)の生き神が余計なことをした、と悔しがりますが、鞠智彦は冷静に軽く笑っただけでした。
しかし、暈にとって状況は深刻で、暈の戦人はその半数が死ぬか病に伏せているので、今、山社など6ヶ国に攻められればひとたまりもない、と鞠智彦は現状を冷静に認識します。日見子(ヤノハ)の書状を入手したい鞠智彦は、どこかの王に日見子から送られた木簡を入手できないか、と配下の志能備に尋ねますが、誰も答えないので、無理だと悟ります。ここでウガヤが鞠智彦に、暈の邑々を巡り、厲鬼を退散させている祈祷女(イノリメ)について報告します。その祈祷女の名は田油津日女(タブラツヒメ)で、その神通力は山社の日見子をはるかに凌ぐと民が噂しており、鞠智の里に呼んではどうだろうか、とウガヤは鞠智彦に進言します。鞠智彦は、そうした輩をまったく信じていないが、里の民の励みになるなら呼べ、とウガヤに命じます。
暈の浮土では、田油津日女が烏の仮面をつけて踊り、配下らしき能面のような仮面をつけた4人の演奏に合わせて歌い踊っていました。田油津日女は感謝する民に、配下らしき男性を通じて指示を伝えます。それは、邑での集まりは今日で終わりとし、全員家に籠って外出するな、というものでした。さらに、今度の厲鬼は言霊に祟るので、市でも言葉を交わさず、厲鬼に祟られた者を一ヶ所に集めて互いに接触を絶ち、1年間言霊を交わさねば、厲鬼は退散するだろう、と田油津日女の配下らしき男性は民に伝えます。すると民は感激して約束を守ると誓い、田油津日女を崇めます。
田油津日女の一行が邑を去って玉杵名邑(タマキナノムラ、現在の熊本県玉名市でしょうか)に向かう途中、ウガヤの一行が声をかけてきます。ウガヤは田油津日女の配下らしき男性に、玉杵を越して鞠智里まで同行し、鞠智彦大夫に謁見してもらいたい、と要請します。男性が慌てた様子で輿の中の田油津日女に伝えると、鞠智彦の命とあれば従うが、江津湖(エヅノウミ、現在の熊本市にある湖)に寄りたい、と田油津日女は男性に返答させます。江津湖はこの近くにあるが遠回りになる、と訝しむウガヤですが、受け入れてともに江津湖に向かいます。江津湖で田油津日女は輿から降り、湖畔に立ちます。配下の兵から田油津日女も女官たちも仮面をつけている理由を問われたウガヤは、素顔を曝せば霊力が消えるからだ、と答えます。田油津日女が湖畔で何を待っているのか、ウガヤが訝しんでいると、湖の中の島から木箱が苦れてきます。田油津日女はその木箱を鞠智彦に渡すよう、配下の男性に伝えます。男性は、これが伊弉冉(イザナミ)の第五子である水の女神の水波能売神(ミズハノメノカミ)からの授かりものだ、とウガヤに説明します。ウガヤが木箱を開けると、事代主より伝授された厲鬼退治の極意を記した日見子の書状でした。田油津日女の神通力に感激したウガヤは、平伏して田油津日女に礼を述べます。
奥閼宗(オクノアソ、阿蘇山の奥深くでしょうか)では、ヤノハが水波能売神命の御神体である巨岩に祈っていました。オオヒコは配下に、民に300日の人との交わりを禁じた日見子(ヤノハ)様は、その間に生命の源たる水が滞らないよう、祈っているのだろう、と説明します。この様子を見ていたナツハに、水波能売神命は水神であると同時に、安産の神でもある、と伝えるところで今回は終了です。
今回、ヤノハの登場はわずかでした。ヤノハモモソに、腹の子を殺さねば、その子にお前は殺される運命だ、と告げられましたが、安産の神でもある水波能売神命に祈ったことから、出産の決意は揺らいでいないようです。今回は鞠智彦の思惑と田油津日女の動向が主題でしたが、ヤノハが水波能売神に祈り、その水波能売神が事代主より伝授された厲鬼退治の極意を暈に届けたとされていることや、田油津日女がヤノハと同じ疫病対策を民に説いていることからも、ヤノハが田油津日女を暈に派遣したのは間違いなさそうです。山社と暈は、表向きは対立しつつも、裏では協定を結んで戦わないことにしており、九州の疫病沈静化は暈でも疫病を抑え込まねばならないものの、山社が表立って暈を支援するわけにはいかないので、田油津日女を暈に派遣して疫病対策を支援している、ということでしょうか。田油津日女の正体は、すでに登場している人物かもしれません。田油津日女がアカメである可能性も考えられますが、アカメは暈を裏切った形になっており、暈の志能備に気づかれると命を狙われそうですから、その可能性は低そうです。また、アカメの髪が田油津日女よりも短いことからも、アカメではないかな、と思います。ただ、アカメは頭部で髪を束ねているので、伸ばすと髪は長いかもしれませんが。第37話に登場した猿女(サルメ)一族の阿禮(アレイ)である可能性も考えましたが、髪の色が違うようです。もちろん、今回が初登場の人物の可能性もあり、疫病をどう収拾して日下(ヒノモト)の国と対峙するのか、という大きな話とともに、田油津日女の正体も注目され、今後もたいへん楽しみです。
暈の5人のタケル王はもはや厲鬼の前になす術もない、と報告する配下の志能備(シノビ)に、鞠智彦は山社(ヤマト)など6ヶ国の情勢を尋ねます。伊都(イト)と末盧(マツラ)は早々に国を閉ざして民はほぼ生き残っており、穂波(ホミ)と都萬(トマ)も同様で、那(ナ)国の対応はどの国よりも早く、死者は最初からごく少数と配下から報告を受けた鞠智彦は、山社の状況を配下に尋ねます。山社は最初に厲鬼に祟られた国なので多くの使者が出たものの、その後は邑々が日見子(ヒミコ)たるヤノハの命によく従い、被害を最小限にとどめたようだ、と配下から報告を受けた鞠智彦は、山社がどのように対策したのか、配下に尋ねます。日見子は厲鬼退散の術を出雲の事代主(コトシロヌシ)より学び、同盟を結ぶ5ヶ国(伊都と末盧と穂波と都萬と那)に文を送った、と配下は報告します。すると鞠智彦の配下のウガヤは、豊秋津島(トヨアキツシマ、本州を指すと思われます)の生き神が余計なことをした、と悔しがりますが、鞠智彦は冷静に軽く笑っただけでした。
しかし、暈にとって状況は深刻で、暈の戦人はその半数が死ぬか病に伏せているので、今、山社など6ヶ国に攻められればひとたまりもない、と鞠智彦は現状を冷静に認識します。日見子(ヤノハ)の書状を入手したい鞠智彦は、どこかの王に日見子から送られた木簡を入手できないか、と配下の志能備に尋ねますが、誰も答えないので、無理だと悟ります。ここでウガヤが鞠智彦に、暈の邑々を巡り、厲鬼を退散させている祈祷女(イノリメ)について報告します。その祈祷女の名は田油津日女(タブラツヒメ)で、その神通力は山社の日見子をはるかに凌ぐと民が噂しており、鞠智の里に呼んではどうだろうか、とウガヤは鞠智彦に進言します。鞠智彦は、そうした輩をまったく信じていないが、里の民の励みになるなら呼べ、とウガヤに命じます。
暈の浮土では、田油津日女が烏の仮面をつけて踊り、配下らしき能面のような仮面をつけた4人の演奏に合わせて歌い踊っていました。田油津日女は感謝する民に、配下らしき男性を通じて指示を伝えます。それは、邑での集まりは今日で終わりとし、全員家に籠って外出するな、というものでした。さらに、今度の厲鬼は言霊に祟るので、市でも言葉を交わさず、厲鬼に祟られた者を一ヶ所に集めて互いに接触を絶ち、1年間言霊を交わさねば、厲鬼は退散するだろう、と田油津日女の配下らしき男性は民に伝えます。すると民は感激して約束を守ると誓い、田油津日女を崇めます。
田油津日女の一行が邑を去って玉杵名邑(タマキナノムラ、現在の熊本県玉名市でしょうか)に向かう途中、ウガヤの一行が声をかけてきます。ウガヤは田油津日女の配下らしき男性に、玉杵を越して鞠智里まで同行し、鞠智彦大夫に謁見してもらいたい、と要請します。男性が慌てた様子で輿の中の田油津日女に伝えると、鞠智彦の命とあれば従うが、江津湖(エヅノウミ、現在の熊本市にある湖)に寄りたい、と田油津日女は男性に返答させます。江津湖はこの近くにあるが遠回りになる、と訝しむウガヤですが、受け入れてともに江津湖に向かいます。江津湖で田油津日女は輿から降り、湖畔に立ちます。配下の兵から田油津日女も女官たちも仮面をつけている理由を問われたウガヤは、素顔を曝せば霊力が消えるからだ、と答えます。田油津日女が湖畔で何を待っているのか、ウガヤが訝しんでいると、湖の中の島から木箱が苦れてきます。田油津日女はその木箱を鞠智彦に渡すよう、配下の男性に伝えます。男性は、これが伊弉冉(イザナミ)の第五子である水の女神の水波能売神(ミズハノメノカミ)からの授かりものだ、とウガヤに説明します。ウガヤが木箱を開けると、事代主より伝授された厲鬼退治の極意を記した日見子の書状でした。田油津日女の神通力に感激したウガヤは、平伏して田油津日女に礼を述べます。
奥閼宗(オクノアソ、阿蘇山の奥深くでしょうか)では、ヤノハが水波能売神命の御神体である巨岩に祈っていました。オオヒコは配下に、民に300日の人との交わりを禁じた日見子(ヤノハ)様は、その間に生命の源たる水が滞らないよう、祈っているのだろう、と説明します。この様子を見ていたナツハに、水波能売神命は水神であると同時に、安産の神でもある、と伝えるところで今回は終了です。
今回、ヤノハの登場はわずかでした。ヤノハモモソに、腹の子を殺さねば、その子にお前は殺される運命だ、と告げられましたが、安産の神でもある水波能売神命に祈ったことから、出産の決意は揺らいでいないようです。今回は鞠智彦の思惑と田油津日女の動向が主題でしたが、ヤノハが水波能売神に祈り、その水波能売神が事代主より伝授された厲鬼退治の極意を暈に届けたとされていることや、田油津日女がヤノハと同じ疫病対策を民に説いていることからも、ヤノハが田油津日女を暈に派遣したのは間違いなさそうです。山社と暈は、表向きは対立しつつも、裏では協定を結んで戦わないことにしており、九州の疫病沈静化は暈でも疫病を抑え込まねばならないものの、山社が表立って暈を支援するわけにはいかないので、田油津日女を暈に派遣して疫病対策を支援している、ということでしょうか。田油津日女の正体は、すでに登場している人物かもしれません。田油津日女がアカメである可能性も考えられますが、アカメは暈を裏切った形になっており、暈の志能備に気づかれると命を狙われそうですから、その可能性は低そうです。また、アカメの髪が田油津日女よりも短いことからも、アカメではないかな、と思います。ただ、アカメは頭部で髪を束ねているので、伸ばすと髪は長いかもしれませんが。第37話に登場した猿女(サルメ)一族の阿禮(アレイ)である可能性も考えましたが、髪の色が違うようです。もちろん、今回が初登場の人物の可能性もあり、疫病をどう収拾して日下(ヒノモト)の国と対峙するのか、という大きな話とともに、田油津日女の正体も注目され、今後もたいへん楽しみです。
この記事へのコメント
志能備は国内の全てのことを知っているはず。ナツハの仲介でアカメが頭に詫びを入れ?日見子の密命を実行したような気がします。木管を渡すためにアカメが田油津日女を演じ、頭たちは陰でそれをサポートしたって感じを想像しました。
→髪の毛は烏面と一体化したかつら?
山門の存亡にも関わるトップシークレットでもあるのでナツハと頭とアカメルートかな?と。
アカメ以上に信頼し得る人物はなかなかいないし。
鞠智彦も志能備も秘密裏にアカメ経由の「木管」の伝達方法を事前に理解していたと。