甘い食物を好んだ始新世初期の霊長類

 甘い食物を好んだ始新世初期の霊長類に関する研究(Selig, and Silcox., 2021)が公表されました。この研究は、アメリカ合衆国ワイオミング州のビッグホーン盆地南部の堆積層において発見された霊長類(Microsyops latidens)の1030点の化石(歯と顎の断片)の位置を比較して、その年代を測定しました。年代測定は、その化石が発見された堆積物の地質年代に基づいて行なうことができ、5400万年前頃となる始新世初期と推定されました。

 この化石群のうち77点(7.48%)に齲蝕(虫歯)が認められました。その原因は果物の多い食事やその他の糖分の多い食物である可能性が高い、と推測されています。化石標本のうち最古のものと最新のものは他の時代のものよりも齲蝕が少なく、霊長類の食餌が糖度の高い食物と低い食物の間で変動していた、と示唆されます。これに関して、始新世初期の気候の変動が、植生の成長と食料の入手可能性に影響を与えたかもしれない、と指摘されています。また、Microsyops latidensの歯の化石における齲蝕の有病率が、これまでの研究による現生霊長類における頻度よりも高いことも明らかになり、齲蝕の有病率がMicrosyops latidensより高かったのは、オマキザル属(オマキザルなど)とタマリン属(タマリンなど)だけでした。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


古生物学:甘いものが好きだった有史以前の霊長類

 先史時代の霊長類Microsyops latidensは、年代測定によって始新世初期(約5400万年前)のものとされているが、今回、M. latidensの歯の化石に哺乳類のう蝕(虫歯)を示す最古の証拠が見つかったことを報告する論文が、Scientific Reports に掲載される。ビッグホーン盆地南部(米国ワイオミング州)で発見された1030点の歯の化石(歯と顎の断片)のうち、77点(7.48%)にう蝕が認められた。その原因は、果物の多い食事やその他の糖分の多い食物である可能性が高いとされる。う蝕の有病率の経年変化は、霊長類の食餌が糖度の高いものと低いものの間で変動したことを示している。

 Keegan SeligとMary Silcoxは今回、ビッグホーン盆地南部の堆積層において化石が発見された位置を比較して、化石の年代を測定した。化石の年代測定は、その化石が発見された堆積物の地質年代に基づいて行うことが可能だった。化石標本のうち、最も古いものと最も新しいものは、他の化石標本よりう蝕が少なかった。このことは、霊長類の食餌が糖度の高い食物と低い食物の間で変動していたことを示唆するものとされた。彼らは、始新世初期の気候の変動が、植生の成長と食料の入手可能性に影響を与えた可能性があると主張している。

 また、著者たちは、M. latidensの歯の化石におけるう蝕の有病率が、これまでの研究報告による現生霊長類における頻度よりも高いことを明らかにした。う蝕の有病率がM. latidensより高かったのは、オマキザル属(オマキザルなど)とタマリン属(タマリンなど)だけであった。



参考文献:
Selig KR, and Silcox MT.(2021): The largest and earliest known sample of dental caries in an extinct mammal (Mammalia, Euarchonta, Microsyops latidens) and its ecological implications. Scientific Reports, 11, 15920.
https://doi.org/10.1038/s41598-021-95330-x

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