『卑弥呼』第75話「タケル会談」
『ビッグコミックオリジナル』2021年12月5日号掲載分の感想です。前回は、ヤノハが奥閼宗(オクノアソ、阿蘇山の奥深くでしょうか)にある水波能売神(ミズハノメノカミ)の御神体である巨岩に祈っているところで終了しました。今回は、山社(ヤマト)の国の聖地である千穂(現在の高千穂でしょうか)にたどり着いた場面から始まります。ヤノハを護衛してきたオオヒコは、日見子(ヒミコ)たるヤノハは、天照大神が籠った窟(イワヤ)で同様に籠る10ヶ月間、千穂の邑の外に駐屯し、ヤノハに変事があればすぐに駆けつけるよう、命じられます。ヌカデは鬼八(キハチ)一族の邑に留まり、ヤノハの食事の世話をするよう、命じられます。ヤノハは弟のナツハ(チカラオ)とともに窟へ向かいます。ヤノハとチカラオは険しい道を進み、何とか天照大神の窟にたどり着きました。ヤノハはチカラオに、10ヶ月間誰も入れず、万一侵入する者がいれば殺すよう、命じます。
暈(クマ)の国の鞠智(ククチ)の里(現在の熊本県菊池市でしょうか)では、ウガヤに連れられた田油津日女(タブラツヒメ)の一行が鞠智彦(ククチヒコ)に謁見しました。鞠智の里の住人は、触れ回ったわけでもないのに田油津日女の到着を知っており、兵士たちは田油津日女が現人神だと話します。田油津日女から献上された書状を読んだ鞠智彦は、間違いなく山社の日見子(ヤノハ)からのものだと認め、その労をねぎらいます。すると田油津日女は配下の男性を通じて、厲鬼(レイキ)、つまり疫病退治の秘策はその書状にあるので、一刻も早く自分たちを待っている玉杵名邑(タマキナノムラ、現在の熊本県玉名市でしょうか)に向かいたい、と鞠智彦に願い出ます。不満な様子の鞠智彦を見て、田油津日女の一行が玉杵名邑に引き返すことを自分が承諾している、とウガヤがとりなします。すると鞠智彦は、急がないよう田油津日女に言い、まず褒美を与えると約束し、鞠智の里の民のため、厲鬼払いの舞いを披露してくれないか、と要請します。田油津日女は快諾して鞠智彦や民の前で舞いを披露しますが、鞠智彦の配下の志能備(シノビ)がそれを遠くから見ていました。
暈の鹿屋の里(カノヤノサト、現在の鹿児島県鹿屋市でしょうか)では、カマ家とカワカミ家とヤ家とイ家とサジキ家の5人のタケル王が集まっていました。カワカミ家のタケルは25代目で、乳のイサオ王と弟(オト)タケルと兄(アニ)タケルが相次いで亡くなり、三番目の兄は病弱なので、四男の自分が宗家を継いだ、と説明します。ヤ家のタケルはこの中で最年長となり、イ家のタケルは22代目となります。カマ家のタケルと先代のイ家のタケルは昵懇の間柄でした。サジキ家のタケルが、民が次々と死ぬなか、火急の話とは何か、と尋ねます。するとカマ家のタケルが、宗家のカワカミタケル王は若いので、僭越ながら自分が招集した、と伝えます。カマ家のタケルは、昨今の鞠智彦大夫の振る舞いについて4人のタケル王に問いかけます。日見彦(ヒミヒコ)だった弟タケル王と、政を統べるイサオ王の相次ぐ死と、那(ナ)国との戦に加えて、偽日見子(ヤノハ)による突然の山社開国があった、と指摘するカマ家のタケルに対して、イ家のタケルは、この間の鞠智彦の働きは見事だった、と評価しますが、カマ家のタケルは、少々図に乗っているとは思わないか、と指摘します。するとヤ家のタケルが、それ以上に思えると言い、サジキ家のタケルは、大夫というより王のような振る舞いだ、と同意します。カマ家のタケルが、鞠智彦は我々5人の王を差し置いて好き勝手し放題だ、と言うと、サジキ家のタケルは同意し、これ以上の暴走は見逃せない、とヤ家のタケルは言います。カマ家のタケルが、鞠智彦は暈から厲鬼を退散させることに失敗した、と指摘すると、サジキ家のタケルは同意します。カマ家のタケルに鞠智彦をどう思うのか問われて困惑した宗家のカワカミタケル王は、逆に皆はどうしたいのか、と問い返します。するとカマ家のタケルは、自分たちで新たな日見彦もしくは日見子を立てるのはどうか、と提案します。そうすれば鞠智彦も5人のタケル王を無視できないわけだ、とヤ家のタケルは理解します。カマ家のタケル以外の4人のタケル王も、そこで邑々を回って厲鬼を退治している巫女の存在を思い浮かべ、賛同します。その巫女の名を問われたカマ家のタケルが、田油津日女と答えるところで今回は終了です。
今回もヤノハの登場は少なく、田油津日女をめぐる鞠智彦と5人のタケル王の思惑が中心に描かれました。 もっとも、鞠智彦が田油津日女をどう扱うのか、まだ示されておらず、鞠智彦の配下の志能備がどこまで田油津日女を知っているのか、鞠智彦が報告を受けてどう判断するのか、予想しにくく、田油津日女の正体とともに、今後の展開が楽しみです。田油津日女は日見子(ヤノハ)以上の霊的権威を民に認められつつあるように思いますが、これがヤノハの意図なのかどうかも気になるところです。田油津日女は、ヤノハからの書状を入手したことからも、ヤノハの命で動いている可能性がきわめて高いとは思いますが、田油津日女が日見子(ヤノハ)以上の霊的権威を民に認められるのは、ヤノハにとっても危機的だとは思います。あるいは、ヤノハは場合によっては田油津日女に日見子の座を継承させる意図もあるのでしょうか。
ただ、5人のタケル王が、鞠智彦を抑えるべく日見彦もしくは日見子を擁立しようとして田油津日女に注目していることを考えると、これこそがヤノハの意図かもしれません。山社と暈は冷戦の密約を結んでいるので、配下の田油津日女を暈に送り込んで日見子に擁立させることで、鞠智彦の野望を牽制しようとしているのでしょうか。ただ、日見子が二人同時に存在することはないとされているので、これもヤノハの日見子としての権威を脅かすことになります。もっとも、山社と暈は表面上対立しているので、両者が互いの日見子を偽者と罵り合い、実質的には日見子が二人の日見子が共存するところまでヤノハの謀略なのかもしれませんが。ただ、暈は『三国志』に見える狗奴国でしょうから、結局は男性の日見彦(卑弥弓呼)を擁立し続けるかもしれず、どのような展開となるのか、予測が難しいように思います。田油津日女という新たな重要人物も登場し、ますます今後の展開が楽しみになってきました。
暈(クマ)の国の鞠智(ククチ)の里(現在の熊本県菊池市でしょうか)では、ウガヤに連れられた田油津日女(タブラツヒメ)の一行が鞠智彦(ククチヒコ)に謁見しました。鞠智の里の住人は、触れ回ったわけでもないのに田油津日女の到着を知っており、兵士たちは田油津日女が現人神だと話します。田油津日女から献上された書状を読んだ鞠智彦は、間違いなく山社の日見子(ヤノハ)からのものだと認め、その労をねぎらいます。すると田油津日女は配下の男性を通じて、厲鬼(レイキ)、つまり疫病退治の秘策はその書状にあるので、一刻も早く自分たちを待っている玉杵名邑(タマキナノムラ、現在の熊本県玉名市でしょうか)に向かいたい、と鞠智彦に願い出ます。不満な様子の鞠智彦を見て、田油津日女の一行が玉杵名邑に引き返すことを自分が承諾している、とウガヤがとりなします。すると鞠智彦は、急がないよう田油津日女に言い、まず褒美を与えると約束し、鞠智の里の民のため、厲鬼払いの舞いを披露してくれないか、と要請します。田油津日女は快諾して鞠智彦や民の前で舞いを披露しますが、鞠智彦の配下の志能備(シノビ)がそれを遠くから見ていました。
暈の鹿屋の里(カノヤノサト、現在の鹿児島県鹿屋市でしょうか)では、カマ家とカワカミ家とヤ家とイ家とサジキ家の5人のタケル王が集まっていました。カワカミ家のタケルは25代目で、乳のイサオ王と弟(オト)タケルと兄(アニ)タケルが相次いで亡くなり、三番目の兄は病弱なので、四男の自分が宗家を継いだ、と説明します。ヤ家のタケルはこの中で最年長となり、イ家のタケルは22代目となります。カマ家のタケルと先代のイ家のタケルは昵懇の間柄でした。サジキ家のタケルが、民が次々と死ぬなか、火急の話とは何か、と尋ねます。するとカマ家のタケルが、宗家のカワカミタケル王は若いので、僭越ながら自分が招集した、と伝えます。カマ家のタケルは、昨今の鞠智彦大夫の振る舞いについて4人のタケル王に問いかけます。日見彦(ヒミヒコ)だった弟タケル王と、政を統べるイサオ王の相次ぐ死と、那(ナ)国との戦に加えて、偽日見子(ヤノハ)による突然の山社開国があった、と指摘するカマ家のタケルに対して、イ家のタケルは、この間の鞠智彦の働きは見事だった、と評価しますが、カマ家のタケルは、少々図に乗っているとは思わないか、と指摘します。するとヤ家のタケルが、それ以上に思えると言い、サジキ家のタケルは、大夫というより王のような振る舞いだ、と同意します。カマ家のタケルが、鞠智彦は我々5人の王を差し置いて好き勝手し放題だ、と言うと、サジキ家のタケルは同意し、これ以上の暴走は見逃せない、とヤ家のタケルは言います。カマ家のタケルが、鞠智彦は暈から厲鬼を退散させることに失敗した、と指摘すると、サジキ家のタケルは同意します。カマ家のタケルに鞠智彦をどう思うのか問われて困惑した宗家のカワカミタケル王は、逆に皆はどうしたいのか、と問い返します。するとカマ家のタケルは、自分たちで新たな日見彦もしくは日見子を立てるのはどうか、と提案します。そうすれば鞠智彦も5人のタケル王を無視できないわけだ、とヤ家のタケルは理解します。カマ家のタケル以外の4人のタケル王も、そこで邑々を回って厲鬼を退治している巫女の存在を思い浮かべ、賛同します。その巫女の名を問われたカマ家のタケルが、田油津日女と答えるところで今回は終了です。
今回もヤノハの登場は少なく、田油津日女をめぐる鞠智彦と5人のタケル王の思惑が中心に描かれました。 もっとも、鞠智彦が田油津日女をどう扱うのか、まだ示されておらず、鞠智彦の配下の志能備がどこまで田油津日女を知っているのか、鞠智彦が報告を受けてどう判断するのか、予想しにくく、田油津日女の正体とともに、今後の展開が楽しみです。田油津日女は日見子(ヤノハ)以上の霊的権威を民に認められつつあるように思いますが、これがヤノハの意図なのかどうかも気になるところです。田油津日女は、ヤノハからの書状を入手したことからも、ヤノハの命で動いている可能性がきわめて高いとは思いますが、田油津日女が日見子(ヤノハ)以上の霊的権威を民に認められるのは、ヤノハにとっても危機的だとは思います。あるいは、ヤノハは場合によっては田油津日女に日見子の座を継承させる意図もあるのでしょうか。
ただ、5人のタケル王が、鞠智彦を抑えるべく日見彦もしくは日見子を擁立しようとして田油津日女に注目していることを考えると、これこそがヤノハの意図かもしれません。山社と暈は冷戦の密約を結んでいるので、配下の田油津日女を暈に送り込んで日見子に擁立させることで、鞠智彦の野望を牽制しようとしているのでしょうか。ただ、日見子が二人同時に存在することはないとされているので、これもヤノハの日見子としての権威を脅かすことになります。もっとも、山社と暈は表面上対立しているので、両者が互いの日見子を偽者と罵り合い、実質的には日見子が二人の日見子が共存するところまでヤノハの謀略なのかもしれませんが。ただ、暈は『三国志』に見える狗奴国でしょうから、結局は男性の日見彦(卑弥弓呼)を擁立し続けるかもしれず、どのような展開となるのか、予測が難しいように思います。田油津日女という新たな重要人物も登場し、ますます今後の展開が楽しみになってきました。
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