縄文時代の人類のゲノム解析まとめ
縄文時代の人類の核ゲノム解析数も次第に増えてきたため、私が把握している分を以下の図で一度まとめます。年代は基本的に直接的な放射性炭素年代測定法による較正年代です。mtHgはミトコンドリアDNA(mtDNA)ハプログループ、YHgはY染色体ハプログループです。なお、福島県相馬郡新地町の三貫地貝塚の3000年前頃の縄文時代個体(Kanzawa-Kiriyama et al., 2017)については、標本2点の塩基配列を合体して分析していることもあり、今回は省略します。縄文時代の人類遺骸は多数発見されているので、そのうち怠惰な私がこうしたまとめ記事を執筆する気にならないくらい、縄文時代の人類のゲノム解析数が蓄積されることを期待しています。以下は、参考として佐賀県唐津市の大友遺跡の弥生時代早期個体(大友8号)も含めた、核ゲノムが解析されている縄文時代の人類の一覧図です。
これらの縄文時代の個体は全て、既知の現代人および古代人集団に対して一まとまりを形成します。以下は、東名貝塚標本012とF23とF5と三貫地貝塚遺跡個体とIK002を対象としたAdachi et al., 2021の主成分分析結果を示した図4です。
大友8号はF23とF5と三貫地貝塚遺跡個体とIK002といった既知の縄文時代個体群と主成分分析では一まとまりを形成し(神澤他., 2021図3)、弥生時代にも遺伝的に縄文時代の個体群と一まとめにできる集団が西北九州に存在したことを強く示唆します。さらに、まだ査読前の論文(Robbeets et al., 2021)で遺伝子型が公表されていないため上記の一覧図には掲載しませんでしたが、沖縄県宮古島市長墓遺跡の紀元前9~紀元前6世紀頃の個体の遺伝的構成が、六通貝塚の個体群とほぼ同じと示されました。先史時代の先島諸島には、縄文文化の影響がほとんどないと言われています。さらに、朝鮮半島南端の8300~4000年前頃の人類は、割合はさまざまですが、遼河地域の紅山(Hongshan)文化集団と六通貝塚の個体群との混合としてモデル化されます(Robbeets et al., 2021)。
縄文時代の人類は時空間的に広範囲にわたって遺伝的に均質で、そうした遺伝的構成の集団は大きく異なる物質文化の担い手になっていった、と示唆されます。もっとも、言語も含めて精神文化では重要な共通性があったと想定できなくもありませんが、それを否定することはできないとしても、証明することもほぼ無理ではないか、と思います。縄文時代の人類集団がどのように形成されたのか、まだ明らかではなく、今後の研究の進展をできるだけ追いかけていき、考えていくつもりです。新たな縄文時代の人類の核ゲノム解析結果が公表されれば、上記の一覧図も更新する予定です。
参考文献:
Adachi N. et al.(2021): Ancient genomes from the initial Jomon period: new insights into the genetic history of the Japanese archipelago. Anthropological Science, 129, 1, 13–22.
https://doi.org/10.1537/ase.2012132
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Cooke H. et al.(2021): Ancient genomics reveals tripartite origins of Japanese populations. Science Advances, 7, 38, eabh2419.
https://doi.org/10.1126/sciadv.abh2419
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Gakuhari T. et al.(2020): Ancient Jomon genome sequence analysis sheds light on migration patterns of early East Asian populations. Communications Biology, 3, 437.
https://doi.org/10.1038/s42003-020-01162-2
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Kanzawa-Kiriyama H. et al.(2017): A partial nuclear genome of the Jomons who lived 3000 years ago in Fukushima, Japan. Journal of Human Genetics, 62, 2, 213–221.
https://doi.org/10.1038/jhg.2016.110
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Kanzawa-Kiriyama H. et al.(2019): Late Jomon male and female genome sequences from the Funadomari site in Hokkaido, Japan. Anthropological Science, 127, 2, 83–108.
https://doi.org/10.1537/ase.190415
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Robbeets M. et al.(2021): Triangulation supports agricultural spread of the Transeurasian languages. Research Square.
https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-255765/v1
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Wang CC. et al.(2021): Genomic insights into the formation of human populations in East Asia. Nature, 591, 7850, 413–419.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-03336-2
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神澤秀明、角田恒雄、安達登、篠田謙一(2021A)「佐賀県唐津市大友遺跡第5次調査出土弥生人骨の核DNA分析」『国立歴史民俗博物館研究報告』第228集P385-393
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大友8号はF23とF5と三貫地貝塚遺跡個体とIK002といった既知の縄文時代個体群と主成分分析では一まとまりを形成し(神澤他., 2021図3)、弥生時代にも遺伝的に縄文時代の個体群と一まとめにできる集団が西北九州に存在したことを強く示唆します。さらに、まだ査読前の論文(Robbeets et al., 2021)で遺伝子型が公表されていないため上記の一覧図には掲載しませんでしたが、沖縄県宮古島市長墓遺跡の紀元前9~紀元前6世紀頃の個体の遺伝的構成が、六通貝塚の個体群とほぼ同じと示されました。先史時代の先島諸島には、縄文文化の影響がほとんどないと言われています。さらに、朝鮮半島南端の8300~4000年前頃の人類は、割合はさまざまですが、遼河地域の紅山(Hongshan)文化集団と六通貝塚の個体群との混合としてモデル化されます(Robbeets et al., 2021)。
縄文時代の人類は時空間的に広範囲にわたって遺伝的に均質で、そうした遺伝的構成の集団は大きく異なる物質文化の担い手になっていった、と示唆されます。もっとも、言語も含めて精神文化では重要な共通性があったと想定できなくもありませんが、それを否定することはできないとしても、証明することもほぼ無理ではないか、と思います。縄文時代の人類集団がどのように形成されたのか、まだ明らかではなく、今後の研究の進展をできるだけ追いかけていき、考えていくつもりです。新たな縄文時代の人類の核ゲノム解析結果が公表されれば、上記の一覧図も更新する予定です。
参考文献:
Adachi N. et al.(2021): Ancient genomes from the initial Jomon period: new insights into the genetic history of the Japanese archipelago. Anthropological Science, 129, 1, 13–22.
https://doi.org/10.1537/ase.2012132
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Cooke H. et al.(2021): Ancient genomics reveals tripartite origins of Japanese populations. Science Advances, 7, 38, eabh2419.
https://doi.org/10.1126/sciadv.abh2419
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https://doi.org/10.1038/jhg.2016.110
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