更科功『「性」の進化論講義 生物史を変えたオスとメスの謎』
PHP新書の一冊として、PHP研究所より2021年8月に刊行されました。電子書籍での購入です。本書は性の起源について、繁殖と無関係だった可能性を指摘します。それは、有性生殖は無性生殖よりも増殖率において不利だからです。また本書は、有性生殖にも安定化淘汰が作用しており、無性生殖と比較して進化が速いとは限らない可能性を指摘します。本書はDNA修復システムに性の起源がある可能性も取り上げていますが、それにより有性生殖が有利な理由を説明できるわけではない、とも指摘します。そこで本書が注目するのは、有害な変異が蓄積されることです。有性生殖では、有害な変異を有していても、それを持たない他個体の遺伝子と交換できるからです。ただ本書は、そうだとしても、有性生殖が無性生殖よりも増殖率で不利になるコストを上回れるのか、疑問を呈します。本書は、これらの有性生殖進化説について、短期的利益ではなく長期的利益を追求している点に疑問を呈します。
次に本書が取り上げるのは、寄生者への抵抗です(赤の女王仮説)。免疫にかかわる主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex、略してMHC)は、種全体では多様性があるものの、個体では限界があります。進化の速い寄生者に対抗するには、有性生殖で異なるMHCパターンを獲得するのが有利になる、というわけです。本書は赤の女王仮説の根拠になり得る事例として、非アフリカ系現代人において、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)由来のMHC遺伝子の変異の割合が地域により高いことを挙げています。出アフリカ現生人類(Homo sapiens)にとって、現生人類には存在しなかったネアンデルタール人MHC遺伝子の変異を交雑により獲得したことが有利に作用したのだろう、というわけです。
本書は性の進化として、同性同士の競合・対立とともに、異性間の競合・対立(性的対立)も指摘します。性的対立は生物において珍しくなく、「軍拡競争」的側面が強いことを本書は指摘します。「軍拡競争」的側面は、上述の宿主と寄生者との関係でも強く現れています。本書は性的対立の「軍拡競争」的側面について、人類を具体的に取り上げているわけではありませんが、人類でも恐らくそうした側面があることは否定できないでしょう。人類の社会制度設計も、そうした進化的側面を考慮しなければ、設計者の予期せぬ弊害が生じることは少なくないように思います。その意味で、進化学は現代社会において必須とも言えるでしょう。
参考文献:
更科功(2021)『「性」の進化論講義 生物史を変えたオスとメスの謎』(PHP研究所)
次に本書が取り上げるのは、寄生者への抵抗です(赤の女王仮説)。免疫にかかわる主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex、略してMHC)は、種全体では多様性があるものの、個体では限界があります。進化の速い寄生者に対抗するには、有性生殖で異なるMHCパターンを獲得するのが有利になる、というわけです。本書は赤の女王仮説の根拠になり得る事例として、非アフリカ系現代人において、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)由来のMHC遺伝子の変異の割合が地域により高いことを挙げています。出アフリカ現生人類(Homo sapiens)にとって、現生人類には存在しなかったネアンデルタール人MHC遺伝子の変異を交雑により獲得したことが有利に作用したのだろう、というわけです。
本書は性の進化として、同性同士の競合・対立とともに、異性間の競合・対立(性的対立)も指摘します。性的対立は生物において珍しくなく、「軍拡競争」的側面が強いことを本書は指摘します。「軍拡競争」的側面は、上述の宿主と寄生者との関係でも強く現れています。本書は性的対立の「軍拡競争」的側面について、人類を具体的に取り上げているわけではありませんが、人類でも恐らくそうした側面があることは否定できないでしょう。人類の社会制度設計も、そうした進化的側面を考慮しなければ、設計者の予期せぬ弊害が生じることは少なくないように思います。その意味で、進化学は現代社会において必須とも言えるでしょう。
参考文献:
更科功(2021)『「性」の進化論講義 生物史を変えたオスとメスの謎』(PHP研究所)
この記事へのコメント