閉経時期と関連する遺伝的多様体
閉経時期と関連する遺伝的多様体に関する研究(Ruth et al., 2021)が公表されました。生殖能力の長期維持は妊孕性に必須で、女性の健康的な老化に影響を与えます。平均的には、大半の女性が50~52歳の間に閉経を経験し、閉経が近づくにつれて女性の自然生殖能力は低下し、骨折や2型糖尿病などの疾患のリスクが高まります。しかし、その根底にある生物学的機構や、生殖能力を温存する治療法についての知見は限られています。
この研究は、ヨーロッパ系女性20万1323人のゲノムワイド関連解析と、自然閉経年齢に見られる正常なばらつきに基づいた評価により、約1310万の遺伝的対幼体を検証した結果、卵巣の老化に対する290個の遺伝的決定因子を特定しました。これらのありふれた対立遺伝子は、自然閉経年齢の臨床的極端値と関連しており、遺伝的感受性が上位1%の女性では、FMR1の単一遺伝子前変異を持つ女性と同等の早発卵巣機能不全のリスクが見られました。
特定された一連の座位から、広範なDNA損傷応答(DDR)過程の関与が示され、こうした座位には主要なDDR関連遺伝子の機能喪失多様体が含まれていました。実験モデルとの統合により、これらのDDR過程が生涯にわたって働き、卵巣予備能とその低下速度を形作っている、と明らかになりました。さらに、ヒト遺伝学により明らかになったこれらの遺伝子のうちの2つ(Chek1とChek2)について、DDR経路をマウスで実験的に操作すると、妊孕性が高まり、生殖寿命が延長する、と示されました。
特定された遺伝的多様体を用いた因果推論解析では、女性の生殖寿命の延長は、骨の健康を改善し、2型糖尿病のリスクを低下させる一方で、ホルモン感受性癌のリスクを増加させる、と明らかになりました。これらの知見は、卵巣の老化を制御する機構と、それらがいつ働き、そうした機構を、妊孕性の延長や疾患予防を目的とした治療的取り組みによりどのように標的化できるのか、手がかりをもたらすものです。今後は、地域集団間の差があるのか、という人類進化の観点からも研究の進展が期待されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
遺伝学:閉経時期に関連する遺伝的バリアント
大規模なゲノムワイド関連解析が実施され、閉経年齢に関連する290個の遺伝的バリアントが特定されたことを報告する論文が、Nature に掲載される。今回の研究で、生殖寿命を制御する生物学的機構に関する知識が得られた。この知識は、新たな不妊治療法の発見や疾患の予防を目的とした今後の研究に役立つ可能性がある。
平均すると、大部分の女性が50~52歳の間に閉経を経験する。閉経が近づくにつれて、女性の自然生殖能力は低下し、骨折や2型糖尿病などの疾患のリスクが高まる。なぜこのようなことが起こるのか、そして生殖能力を維持するための治療法の開発については、あまり知見が蓄積されていない。
今回、John Perryたちは、40~60歳で自然閉経を迎えたヨーロッパ系女性20万1323人の遺伝的データを解析した。約1310万の遺伝的バリアントが検討された結果、卵巣の加齢性変化の決定因子が290個特定され、これらが閉経の遅れに関連することが分かった。また、さまざまなDNA損傷応答遺伝子が、自然閉経年齢に関連し、女性の一生にわたって作用して、卵巣機能を制御していることも判明した。マウスにおいて、これらの遺伝子のうちの2つ(Chek1とChek2)を特異的に操作すると、生殖能力と生殖寿命が影響を受けることが分かった。さらにヒトでの遺伝的解析から、閉経の遅れが、骨の健康状態の改善と2型糖尿病の発症確率の低下とそれぞれ因果関係のあることが示唆された。その一方で、閉経の遅れは、ホルモン感受性がんのリスク上昇とも関連していた。
生殖年齢の期間に影響を及ぼす数多くの因子(非遺伝的因子を含む)については解明が進んでいないが、Perryたちは、今回の研究で得られた知見が、女性の生殖機能を高めたり、生殖能力を維持したりするための新しい治療法に関する将来の実験的研究にとって有益な情報となることを期待している。
リプロダクティブ・ヘルス:ヒトの卵巣の老化を制御する生物学的機構に関する遺伝学的知見
Cover Story:卵巣の老化:生殖寿命を駆動する遺伝的特徴
女性の生殖寿命にはかなりのばらつきがあり、そうした寿命を迎えるタイミングは妊孕性と健康な老化に影響を及ぼす。多くの女性は40〜60歳で閉経を迎え、自然妊孕性はその5~10年前から低下する。今回、大規模な国際研究チームが、この過程の背後にある遺伝的特徴に光を当てている。著者たちは、20万2323人の女性の遺伝学的データを分析し、閉経のタイミングに関連する290の遺伝的決定因子を特定した。マウスでこうした遺伝子の2つ(Chek1とChek2)を操作した結果、それらが妊孕性と生殖寿命に直接影響を及ぼすことが見いだされた。著者たちは、この結果から、妊孕性の延長や疾患予防のための治療手段が得られる可能性があると期待している。
参考文献:
Ruth KS. et al.(2021): Genetic insights into biological mechanisms governing human ovarian ageing. Nature, 596, 7872, 393–397.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-03779-7
この研究は、ヨーロッパ系女性20万1323人のゲノムワイド関連解析と、自然閉経年齢に見られる正常なばらつきに基づいた評価により、約1310万の遺伝的対幼体を検証した結果、卵巣の老化に対する290個の遺伝的決定因子を特定しました。これらのありふれた対立遺伝子は、自然閉経年齢の臨床的極端値と関連しており、遺伝的感受性が上位1%の女性では、FMR1の単一遺伝子前変異を持つ女性と同等の早発卵巣機能不全のリスクが見られました。
特定された一連の座位から、広範なDNA損傷応答(DDR)過程の関与が示され、こうした座位には主要なDDR関連遺伝子の機能喪失多様体が含まれていました。実験モデルとの統合により、これらのDDR過程が生涯にわたって働き、卵巣予備能とその低下速度を形作っている、と明らかになりました。さらに、ヒト遺伝学により明らかになったこれらの遺伝子のうちの2つ(Chek1とChek2)について、DDR経路をマウスで実験的に操作すると、妊孕性が高まり、生殖寿命が延長する、と示されました。
特定された遺伝的多様体を用いた因果推論解析では、女性の生殖寿命の延長は、骨の健康を改善し、2型糖尿病のリスクを低下させる一方で、ホルモン感受性癌のリスクを増加させる、と明らかになりました。これらの知見は、卵巣の老化を制御する機構と、それらがいつ働き、そうした機構を、妊孕性の延長や疾患予防を目的とした治療的取り組みによりどのように標的化できるのか、手がかりをもたらすものです。今後は、地域集団間の差があるのか、という人類進化の観点からも研究の進展が期待されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
遺伝学:閉経時期に関連する遺伝的バリアント
大規模なゲノムワイド関連解析が実施され、閉経年齢に関連する290個の遺伝的バリアントが特定されたことを報告する論文が、Nature に掲載される。今回の研究で、生殖寿命を制御する生物学的機構に関する知識が得られた。この知識は、新たな不妊治療法の発見や疾患の予防を目的とした今後の研究に役立つ可能性がある。
平均すると、大部分の女性が50~52歳の間に閉経を経験する。閉経が近づくにつれて、女性の自然生殖能力は低下し、骨折や2型糖尿病などの疾患のリスクが高まる。なぜこのようなことが起こるのか、そして生殖能力を維持するための治療法の開発については、あまり知見が蓄積されていない。
今回、John Perryたちは、40~60歳で自然閉経を迎えたヨーロッパ系女性20万1323人の遺伝的データを解析した。約1310万の遺伝的バリアントが検討された結果、卵巣の加齢性変化の決定因子が290個特定され、これらが閉経の遅れに関連することが分かった。また、さまざまなDNA損傷応答遺伝子が、自然閉経年齢に関連し、女性の一生にわたって作用して、卵巣機能を制御していることも判明した。マウスにおいて、これらの遺伝子のうちの2つ(Chek1とChek2)を特異的に操作すると、生殖能力と生殖寿命が影響を受けることが分かった。さらにヒトでの遺伝的解析から、閉経の遅れが、骨の健康状態の改善と2型糖尿病の発症確率の低下とそれぞれ因果関係のあることが示唆された。その一方で、閉経の遅れは、ホルモン感受性がんのリスク上昇とも関連していた。
生殖年齢の期間に影響を及ぼす数多くの因子(非遺伝的因子を含む)については解明が進んでいないが、Perryたちは、今回の研究で得られた知見が、女性の生殖機能を高めたり、生殖能力を維持したりするための新しい治療法に関する将来の実験的研究にとって有益な情報となることを期待している。
リプロダクティブ・ヘルス:ヒトの卵巣の老化を制御する生物学的機構に関する遺伝学的知見
Cover Story:卵巣の老化:生殖寿命を駆動する遺伝的特徴
女性の生殖寿命にはかなりのばらつきがあり、そうした寿命を迎えるタイミングは妊孕性と健康な老化に影響を及ぼす。多くの女性は40〜60歳で閉経を迎え、自然妊孕性はその5~10年前から低下する。今回、大規模な国際研究チームが、この過程の背後にある遺伝的特徴に光を当てている。著者たちは、20万2323人の女性の遺伝学的データを分析し、閉経のタイミングに関連する290の遺伝的決定因子を特定した。マウスでこうした遺伝子の2つ(Chek1とChek2)を操作した結果、それらが妊孕性と生殖寿命に直接影響を及ぼすことが見いだされた。著者たちは、この結果から、妊孕性の延長や疾患予防のための治療手段が得られる可能性があると期待している。
参考文献:
Ruth KS. et al.(2021): Genetic insights into biological mechanisms governing human ovarian ageing. Nature, 596, 7872, 393–397.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-03779-7
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