『卑弥呼』第69話「逃走」

 『ビッグコミックオリジナル』2021年9月5日号掲載分の感想です。前回は、ヤノハがヌカデに、疫病が終結せず民が自分を人柱にしようとしたならば、自分を祈祷(イノリ)の場から引きずり出して殺せ、と命じるところで終了しました。今回は、日下(ヒノモト)の国で、トメ将軍とミマアキの一行が筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)に戻るべく急いで逃走している場面から始まります。一行は一度立ち止まり、兵士たちは地面に大量の松カサを拾います。すると、サヌ王の息子のタギシ王の末裔で、現在の日下の王家とは対立していると言う阿多(アタ)のチカトは、日下のフトニ王(記紀の第7代孝霊天皇でしょうか)がトメ将軍とミマアキの一行を追撃するよう命じた八咫烏(ヤタガラス)は距離を縮めているので、休んでは駄目だ、と忠告します。チカトの部下は地面に耳をつけて八咫烏との距離を測り、すでに自分たちの声が聞ける距離に潜んでいる、とチカトに報告します。日が暮れる前に視界の開けた場所にたどり着かねば我々は全滅だ、とチカトは呟きます。

 しばらく走ると、今度はミマアキがツバキの実を拾い、急いで逃走はなければと焦るチカトは、ツバキの実がそんなに珍しいか、と声を荒げてしまいます。しばらく走った後、夜は休まず走るから、と言ってチカトは小休止を提案し、トメ将軍とミマアキの一行は安堵します。木には小さな銅鐸が吊るされており、これは魔除けの鐸で當麻(タイマ)一族のものだから、當麻一族の領地の端を示している、とチカトは説明します。トメ将軍の配下の者が銅鐸を見ていい土産になる、と呑気に言っているのにチカトの配下は呆れます。當麻一族はかつて鳥見の長脛者(ナガスネモノ)と勢力を二分していましたが、長脛者たちがサヌ王と連合した結果、往時の勢力を失い、現王朝には面従腹背というか、逆らわないものの服従もしないという態度を取っています。もう少し進めば視界の開けた地に出る、と説明するチカトに、そこなら夜でも八咫烏は攻めづらいのだな、とトメ将軍は言います。チカトは、八咫烏は変幻自在なので油断禁物で、開けた土地でも隙をつくれば必ず攻めてくる、休まず走り続ければ勝機はある、とトメ将軍に伝えます。トメ将軍は、兵士たちが疲労しているのを見て、考えるところがあるようです。

 夜、開けた土地に出ると、トメ将軍はチカトに、もう限界なのでここで休まねば先に進めない、と言って野宿を求めます。チカトは仕方なく認め、大きな火を焚き周囲を明るく保ちます。チカトはトメ将軍とミマアキの一行に鹿の皮を渡して休むよう勧めます。夜、トメ将軍とミマアキの一行に全身を黒い服で覆った者たちが密かに近づき、吹矢でトメ将軍とミマアキの一行を攻撃します。しかし、その一部は案山子で、ミマアキたちを刺そうとした八咫烏は、寝ていると見せかけたミマアキたちに逆に刺されて殺されます。チカトは、鹿皮が吹矢を防いでくれる、と事前にトメ将軍とミマアキの一行に伝えていました。トメ将軍の配下の兵が火をつけると一気に燃え盛り、トメ将軍とミマアキの一行とともに八咫烏は火に囲まれます。ツバキの実と松カサを置き、一気に火がつくよう手配していたわけです。さらに、チカトの兵が小さな銅鐸を鳴らします。八咫烏は闇の戦闘に備えて耳と鼻を鍛えているので、炎で闇を消し、松カサの匂いで嗅覚を使えなくして、聴覚も互角になった、というわけです。ミマアキはトメ将軍に、残って自分が解きを稼ぐので先に行くよう、進言していました。トメ将軍は、ミマアキの方が配下の者とともに葛城山(カツラギノヤマ)を越えるよう要請しますが、當麻一族は頭であるトメ将軍の言葉以外信用しないだろう、と言いました。ミマアキは、八咫烏の頭である賀茂のタケツヌと思われる人物に勝負を挑みます。

 那(ナ)の国の岡(ヲカ)では、ヤノハの籠る建物の前でヌカデとオオヒコがヤノハの指示を待っていました。ヤノハはヌカデにもまだ行先を告げず、ヌカデも聞かされていない誰かを待っているようでした。ナツハ(チカラオ)の操る犬と狼が一瞬店を見上げたことから、曲者が来たのか、とオオヒコは一瞬警戒します。その曲者はアカメで、オオヒコにも気づかれずヤノハの籠る建物に入ります。アカメはヤノハに、厲鬼(レイキ)は五百木(イオキ)から海を越えて山社(ヤマト)にもたらされたようで、どの国も同じ状態だ、と報告します。暈(クマ)の国の様子をヤノハに尋ねられたアカメは、国を閉ざして人々の往来を禁じたが、いささか遅きに失したようで、他国以上に人が死んでいる、と答えます。ヤノハは暈の最高権力者となった鞠智彦(ククチヒコ)に書状を届けるよう、アカメに命じます。それは、ヤノハが出雲の事代主(コトシロヌシ)から聞いた厲鬼(疫病)撃退の術で、近いうちに厲鬼封じの薬も教えるという内容でした。暈は宿敵ではないか、と驚くアカメに、厲鬼は等しく人に災いをもたらし、暈の厲鬼が死なないと山社の厲鬼も死なないので、もはや敵味方と言っていられる状況ではない、とヤノハが答えるところで今回は終了です。


 今回はトメ将軍とミマアキの一行の逃走が主題でした。トメ将軍配下の呑気に見えた行動には意味があるのだろうな、とは思っていましたが、さすがにトメ将軍は百戦錬磨です。ミマアキが一騎討ちを求めた八咫烏の頭である賀茂のタケツヌと思われる人物は、八咫烏の一般的な兵に対する優位を失ったとはいえ、武芸に長けているはずなので、ミマアキが勝てるのか、予測しにくいところがあります。あるいは、ミマアキは負けて捕らえられ、筑紫島の情勢を尋問されるのでしょうか。ヤノハが暈にも疫病対策を伝えたことが、今後の展開にどう影響するのか、という点も注目されます。トメ将軍とミマアキの運命とともに、出産と疫病撃退を決意したヤノハの運命がどう描かれるのか、次回以降もたいへん楽しみです。

この記事へのコメント

旅する野良猫
2021年08月21日 23:36
久しぶりにアカメが登場しましたね。
しかし、次回の指令は。。。
あの志能備のお頭と遭遇するのは必至。
木管にアカメの安全を保証してほしいといったヤノハからのお願いがないと厳しいかと。
管理人
2021年08月22日 05:29
アカメはどうするのでしょうね。ヤノハが鞠智彦と会った時にアカメの件も話がつけられているかもしれませんが。今回顔が描かれなかったので、刺青を入れるなどして顔を変えたのかな、とも思いましたが、その程度なら見抜かれそうです。
2021年08月22日 10:27
アカメは日見子と鞠智彦の「冷戦」下の重要な伝達役。確かにアカメのことをすでに鞠智彦に話していることが考えられますね。
お頭も「手練だけに惜しい」って言ってますし、鞠智彦の「(領内で怪しい行為をしない限りは)殺すな」といった命令には従うかと。ナツハにも優しかったので。

個人的に、アカメとお頭と「腕を上げたな、ナツハ」の人+もう1人はずっと活躍してほしいです。
管理人
2021年08月23日 03:25
鞠智彦の配下は出番が少ない割に見せ場があってキャラも立っているように思いますし、モブ顔にも見えないので、今後もたびたび出番があると予想しています。

この記事へのトラックバック