最古の動物の証拠

 最古の動物の証拠に関する研究(Turner., 2021)が報道されました。分子系統学から、後生動物が新原生代の初期に出現したと示されていますが、物的証拠は欠如しています。原生代の動物化石の探索は、予想される体の特徴が不確かであるために進展していません。海綿動物は既知の動物の中で最も祖先的な部類であることから、未発見の原生代後生動物の体化石も、顕生代の化石海綿動物に似た外見をしている可能性があります。現生海綿動物から得られた遺伝学的証拠から、海綿動物が新原生代初期(10億~5億4100万年前頃)に出現した、と示唆されています。しかし、この時代の海綿動物の体化石はまだ見つかっていません。

 蠕虫状の微細構造は、顕生代の礁成炭酸塩や微生物炭酸塩に見られる複雑な記載岩石学的特徴で、現在は、骨針を持たない角質骨格の尋常海綿類の体化石であることが知られています。本論文は、これと記載岩石学的に同一な、約8億9000万年前の礁に由来する蠕虫状微細構造を提示します。これは、カナダ北西部の岩礁から採取された岩石試料で発見されました。この岩石試料は方解石の結晶を含み、それに囲まれた管状構造体の分岐ネットワークが見つかりました。これらの構造体は、角質海綿類(現生海綿動物の一種で市販の浴用スポンジの原材料)の体内に見られる繊維状骨格と、以前に炭酸カルシウム岩で特定され、角質海綿類の体の腐敗によって生成したと考えられている構造体にたいへんによく似ていました。

 蠕虫状微細構造を有する、サイズがミリメートルからセンチメートルのこの生物は、石灰化シアノバクテリア(光合成生物)が構築した礁の表面や内部、ごく近傍にのみ生息し、そうした石灰質微生物群が生息不能な微小ニッチを占めていた、と推測されます。蠕虫状微細構造が実際に角質海綿動物の化石化組織であるとすれば、この標本は、動物の体化石の既知で最古の証拠となり、動物が新原生代の酸素化事象より前に出現し、クライオジェニアン紀の7億2000万~6億3500万年前頃の厳しい氷期を生き延びたことを示す、最初の物的証拠をもたらすことになります。ただ、この見解に対して慎重な研究者もいます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


進化:地球上最古の動物を示す証拠かもしれない

 古代の岩礁の中に海綿動物のような構造体が特定され、海綿動物が早ければ8億9000万年前から海洋に生息していたと考えられることを報告する論文が、Nature に掲載される。この知見の妥当性が確認されれば、この化石は、これまで知られている中で最古の動物の体化石となり、その次に古い、議論の余地のない海綿動物の化石を約3億5000万年さかのぼることになる。

 海綿動物は単純な動物で、現生海綿動物から得られた遺伝学的証拠から、海綿動物が新原生代初期(10億~5億4100万年前)に出現したことが示唆されている。しかし、この時代の海綿動物の体化石は見つかっていない。

 今回、Elizabeth Turnerは、カナダ北西部の8億9000万年前の岩礁から採取された岩石試料を調べた。この岩礁は、炭酸カルシウムを析出する細菌類によって形成された。この岩石試料の中に、方解石の結晶を含み、それに囲まれた管状構造体の分岐ネットワークが見つかった。これらの構造体は、角質海綿類(現生海綿動物の一種で市販の浴用スポンジの原材料)の体内に見られる繊維状骨格と、以前に炭酸カルシウム岩で特定され、角質海綿類の体の腐敗によって生成したと考えられている構造体に非常によく似ていた。

 Turnerは、これらの構造体が、地球の酸素レベルが動物の生命を維持するために必要と考えられるレベルまで上昇した約9000万年前に、炭酸カルシウム岩礁の内部やその付近に生息していた角質海綿類の遺骸化石であるかもしれないという考えを提示している。この構造体が、海綿動物の体化石と認められるならば、この知見は、初期の動物の進化がこの酸素化事象とは無関係に起こったこと、そして初期の動物が7億2000万~6億3500万年前に起こった厳しい氷河期を生き延びたことを意味している可能性がある。


進化学:前期新原生代の微生物礁における海綿動物である可能性のある体化石

進化学:はるかに古い海綿動物の化石候補

 今週号では、海綿動物が約8億9000万年前の海洋に生息していた可能性が示されている。これは、これまで考えられていたよりも2億年以上古い年代である。海綿動物は極めて単純な動物で、地球上に最初に出現した多細胞動物であった可能性が高い。現生の海綿動物の遺伝学的証拠から、海綿動物の系統が確立されたのは極めて古い年代であったと示唆されているが、海綿動物の決定的な化石証拠として最古のものは、カンブリア紀(約5億4300万年前に始まる)という、他のより複雑な動物が進化・分岐し始めた時代から得られたものである。化石の分子バイオマーカーからはさらに古い証拠が得られているが、それについては激しい議論がある。E Turnerは、浴用スポンジの拡大写真によく似た見た目をした、珍しい岩石構造を研究してきた。より年代の新しい岩石に見られるそうした構造は、海綿動物の腐敗によって生じたと考えられている。今回、それに似た構造が約8億9000万年前の岩石に見いだされたことで、海綿動物が、サンゴ類が進化するはるか前に初期の礁を構成していて、より複雑な動物の進化を可能にした海の酸素化に大きく寄与した可能性が出てきた。



参考文献:
Turner EC.(2021): Possible poriferan body fossils in early Neoproterozoic microbial reefs. Nature, 596, 7870, 87–91.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-03773-z

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