『卑弥呼』第67話「八咫烏」
『ビッグコミックオリジナル』2021年8月5日号掲載分の感想です。前回は、山社(ヤマト)に戻らず300日の祈祷に入る、と宣言したヤノハに、どこで祈祷するのか、とイクメが訪ねるところで終了しました。今回は、日下(ヒノモト)の国でトメ将軍とミマアキの一行が胆駒山(イコマヤマ)を目指して急いでいる場面から始まります。ミマアキは胆駒山に烽(トブヒ、狼煙)が上がっていることに気づき、兵士たちも周囲で狼煙が上がっていることに気づきます。トメ将軍は、自分たちがどれだけ俊敏に移動しても包囲されたままだと悟ります。ミマアキは、対岸にいた山社の兵士たちの仕業と疑いしますが、トメ将軍は、山社の兵士たちは重装備で自分たちに追いつけるとは思えない、との判断から他の者の仕業と考えます。
その頃、トメ将軍とミマアキの一行を追っていたシコオは、狼煙を上げたのがフトニ王(記紀の第7代孝霊天皇でしょうか)の命を受けた八咫烏(ヤタガラス)だと気づきます。配下の兵士に八咫烏について尋ねられたシコオは、王直属の秘密の軍団だ、と答えます。兵士は、その武部(モノノベ)が我々を差し置いて手柄を立てるつもりか、と疑いますが、シコオは、八咫烏は武部ではなく志能備(シノビ)だ、と答えます。兵士は、ただの伺見(ウカガミ)だと思って安堵し、自分たちにトメ将軍とミマアキの一行の場所を教えてくれるのだ、と考えますが、シコオは、八咫烏が殺戮専門の志能備だと兵士に教えます。シコオによると、八咫烏はサヌ王(記紀の神武天皇と思われます)の時代から王に仕えており、代々の頭は賀茂のタケツヌと称し、サヌ王の時代にカラスに化身してサヌ王を日下まで導いた神の末裔と伝えられているそうです。八咫烏がいつ筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)の者たちに追いつくのか、不安な兵士に対して、八咫烏はとっくに追いついて取り囲んでいるだろうが、筑紫島の者どもも百戦錬磨の手練れなので、自分たちが追いつくまで決着がつかないことを祈ろう、とシコオは言います。
筑紫島では、岡(ヲカ)では、オオヒコとヌカデが、日見子(ヒミコ)たるヤノハとナツハ(ヤノハの弟のチカラオ)との話し合いの結果を待っていました。ヤノハが山社に戻らずどこに行くのか、ヌカデもこの話し合いの後に教えられることになっていました。オオヒコは、頼りになるイクメが事代主(コトシロヌシ)から贈られた木簡の翻訳のため早々に出立し、ヤノハ(日見子)がどこに行っても警固するつもりではあるものの、同行を許可されるのかどうか、悩んでいました。ヤノハはチカラオに、事代主から妊娠していると指摘された、と伝えます。本来は生まれてはならない子なので、チカラオは自分が姉とは気づかずにヤノハを強姦して妊娠させた罪の意識から、ひどく怯えて泣き出します。ヤノハは事代主から堕胎の薬を与えられるとともに、誰にも知られず産む手立てもあることを伝えられており、産むか否か、チカラオに意見を訊きます。
日下では、トメ将軍とミマアキの一行が都だったと思われる場所に到達していました。日下では遷都は珍しくなく、トメ将軍とはこの旧都らしき場所を覗いてみることにします。トメ将軍とミマアキの一行は鳥居らしき建築物をくぐり、この地が廃棄されてから百年以上は経っていそうだ、と推測します。そこへ兵士の一団が現れ、ここは古のタギシ王の都だった、とトメ将軍とミマアキの一行に伝えます。タギシ王とは、記紀に伝わる神武天皇の長男で弟(綏靖天皇)に討たれた手研耳命(タギシミミノミコト)でしょうか。トメ将軍とミマアキの一行は直ちに臨戦態勢に入りますが、指揮官らしき男性は、トメ将軍に安心するよう伝えて、タギシ王の末裔の阿多(アタ)のチカトだと名乗ります。タギシ王はサヌ王の最初の太子にして次の王だった、とチカトに伝えられたトメ将軍は、フトニ王の追手だと考えて再度臨戦態勢に入りますが、チカトはトメ将軍を宥め、タギシ王について伝えます。チカトによると、タギシ王はサヌ王の最初の妃である日向(ヒムカ)のアヒラツ媛の息子で、次の王としてこの地に都を築いたものの、二人の弟に裏切られて暗殺されました。アヒラツ媛とは、『日本書紀』に見える、日向国の吾田邑(アタノムラ)の吾平津(アヒラツ)媛でしょうか。チカトたちはタギシ王に忠誠を誓い、長く現王朝に抵抗してきたので、フトニ王に追われているように見えたトメ将軍とミマアキの一行の力になろう、とトメ将軍に提案します。
チカラオとの話し合いを終えたヤノハはヌカデを建物に呼びますが、ヌカデはヤノハが緊張していることに困惑します。ヤノハはヌカデに頭を下げ、一生一代の頼みを聞いてほしい、と言います。ヤノハは、父親が誰かは打ち明けませんでしたが、ヌカデに妊娠を伝えて力を貸してほしい、と頼みます。出産を決意したヤノハに、妊娠を知られれば、日見子の座から引きずり下ろされるどころか命も危ない、と指摘して、ヤノハを助けるべきか否か悩んでいるような様子を見せて戸の方を一瞬見た後、答えは決まっている、暈(クマ)の国にある「日の巫女」集団の学舎である種智院(シュチイン)でのヤノハの大罪(モモソを殺害したこと)も見逃した自分が、妊娠した程度でお前を見捨てない、倭の乱世を終わらせるのはお前しかいない、と言って大笑し、ヤノハは安堵します。ヌカデがヤノハに、自分がヤノハを助けないと言えば、外に控えるナツハ(チカラオ)に命じて自分を殺すつもりだったのだろう、と指摘するところで今回は終了です。
今回は、トメ将軍一行とヤノハの危機が描かれ、新たな情報も明かされて楽しめました。本作の日下は軍事に特化した国のようで、八咫烏という殺戮専門の志能備も存在します。トメ将軍とミマアキの一行は八咫烏に追われて窮地に陥りますが、そこへタギシ王の末裔と名乗るチカトが現れて、トメ将軍とミマアキの一行に助力を申し出ます。チカトを信用できるのか、まだ分かりませんが、ここも記紀の伝承を上手く活かした話になっていると思います。ヤノハの方は、やはり自分の本性を知るヌカデに妊娠を打ち明けましたが、ヌカデが自分を助けると言った時に安堵したのは、断られたら進退が極まったからというよりは、有能なヌカデを殺さずにすんだ、という思いからでしょうか。ヤノハの本性を知るヌカデも、早々にヤノハの意図に気づいたようです。ヤノハもヌカデも、互いに本性を知っており、警戒と信頼の入り混じった複雑な思惑で互いを利用しているのでしょう。この人間関係の微妙で複雑な描写、本作の魅力になっていると思います。
その頃、トメ将軍とミマアキの一行を追っていたシコオは、狼煙を上げたのがフトニ王(記紀の第7代孝霊天皇でしょうか)の命を受けた八咫烏(ヤタガラス)だと気づきます。配下の兵士に八咫烏について尋ねられたシコオは、王直属の秘密の軍団だ、と答えます。兵士は、その武部(モノノベ)が我々を差し置いて手柄を立てるつもりか、と疑いますが、シコオは、八咫烏は武部ではなく志能備(シノビ)だ、と答えます。兵士は、ただの伺見(ウカガミ)だと思って安堵し、自分たちにトメ将軍とミマアキの一行の場所を教えてくれるのだ、と考えますが、シコオは、八咫烏が殺戮専門の志能備だと兵士に教えます。シコオによると、八咫烏はサヌ王(記紀の神武天皇と思われます)の時代から王に仕えており、代々の頭は賀茂のタケツヌと称し、サヌ王の時代にカラスに化身してサヌ王を日下まで導いた神の末裔と伝えられているそうです。八咫烏がいつ筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)の者たちに追いつくのか、不安な兵士に対して、八咫烏はとっくに追いついて取り囲んでいるだろうが、筑紫島の者どもも百戦錬磨の手練れなので、自分たちが追いつくまで決着がつかないことを祈ろう、とシコオは言います。
筑紫島では、岡(ヲカ)では、オオヒコとヌカデが、日見子(ヒミコ)たるヤノハとナツハ(ヤノハの弟のチカラオ)との話し合いの結果を待っていました。ヤノハが山社に戻らずどこに行くのか、ヌカデもこの話し合いの後に教えられることになっていました。オオヒコは、頼りになるイクメが事代主(コトシロヌシ)から贈られた木簡の翻訳のため早々に出立し、ヤノハ(日見子)がどこに行っても警固するつもりではあるものの、同行を許可されるのかどうか、悩んでいました。ヤノハはチカラオに、事代主から妊娠していると指摘された、と伝えます。本来は生まれてはならない子なので、チカラオは自分が姉とは気づかずにヤノハを強姦して妊娠させた罪の意識から、ひどく怯えて泣き出します。ヤノハは事代主から堕胎の薬を与えられるとともに、誰にも知られず産む手立てもあることを伝えられており、産むか否か、チカラオに意見を訊きます。
日下では、トメ将軍とミマアキの一行が都だったと思われる場所に到達していました。日下では遷都は珍しくなく、トメ将軍とはこの旧都らしき場所を覗いてみることにします。トメ将軍とミマアキの一行は鳥居らしき建築物をくぐり、この地が廃棄されてから百年以上は経っていそうだ、と推測します。そこへ兵士の一団が現れ、ここは古のタギシ王の都だった、とトメ将軍とミマアキの一行に伝えます。タギシ王とは、記紀に伝わる神武天皇の長男で弟(綏靖天皇)に討たれた手研耳命(タギシミミノミコト)でしょうか。トメ将軍とミマアキの一行は直ちに臨戦態勢に入りますが、指揮官らしき男性は、トメ将軍に安心するよう伝えて、タギシ王の末裔の阿多(アタ)のチカトだと名乗ります。タギシ王はサヌ王の最初の太子にして次の王だった、とチカトに伝えられたトメ将軍は、フトニ王の追手だと考えて再度臨戦態勢に入りますが、チカトはトメ将軍を宥め、タギシ王について伝えます。チカトによると、タギシ王はサヌ王の最初の妃である日向(ヒムカ)のアヒラツ媛の息子で、次の王としてこの地に都を築いたものの、二人の弟に裏切られて暗殺されました。アヒラツ媛とは、『日本書紀』に見える、日向国の吾田邑(アタノムラ)の吾平津(アヒラツ)媛でしょうか。チカトたちはタギシ王に忠誠を誓い、長く現王朝に抵抗してきたので、フトニ王に追われているように見えたトメ将軍とミマアキの一行の力になろう、とトメ将軍に提案します。
チカラオとの話し合いを終えたヤノハはヌカデを建物に呼びますが、ヌカデはヤノハが緊張していることに困惑します。ヤノハはヌカデに頭を下げ、一生一代の頼みを聞いてほしい、と言います。ヤノハは、父親が誰かは打ち明けませんでしたが、ヌカデに妊娠を伝えて力を貸してほしい、と頼みます。出産を決意したヤノハに、妊娠を知られれば、日見子の座から引きずり下ろされるどころか命も危ない、と指摘して、ヤノハを助けるべきか否か悩んでいるような様子を見せて戸の方を一瞬見た後、答えは決まっている、暈(クマ)の国にある「日の巫女」集団の学舎である種智院(シュチイン)でのヤノハの大罪(モモソを殺害したこと)も見逃した自分が、妊娠した程度でお前を見捨てない、倭の乱世を終わらせるのはお前しかいない、と言って大笑し、ヤノハは安堵します。ヌカデがヤノハに、自分がヤノハを助けないと言えば、外に控えるナツハ(チカラオ)に命じて自分を殺すつもりだったのだろう、と指摘するところで今回は終了です。
今回は、トメ将軍一行とヤノハの危機が描かれ、新たな情報も明かされて楽しめました。本作の日下は軍事に特化した国のようで、八咫烏という殺戮専門の志能備も存在します。トメ将軍とミマアキの一行は八咫烏に追われて窮地に陥りますが、そこへタギシ王の末裔と名乗るチカトが現れて、トメ将軍とミマアキの一行に助力を申し出ます。チカトを信用できるのか、まだ分かりませんが、ここも記紀の伝承を上手く活かした話になっていると思います。ヤノハの方は、やはり自分の本性を知るヌカデに妊娠を打ち明けましたが、ヌカデが自分を助けると言った時に安堵したのは、断られたら進退が極まったからというよりは、有能なヌカデを殺さずにすんだ、という思いからでしょうか。ヤノハの本性を知るヌカデも、早々にヤノハの意図に気づいたようです。ヤノハもヌカデも、互いに本性を知っており、警戒と信頼の入り混じった複雑な思惑で互いを利用しているのでしょう。この人間関係の微妙で複雑な描写、本作の魅力になっていると思います。
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