ボノボの高品質なゲノムデータ
ボノボ(Pan paniscus)の高品質なゲノムデータを報告した研究(Mao et al., 2021)が公表されました。ボノボとチンパンジー(Pan troglodytes)は現代人(Homo sapiens)にとって最も近縁な現生種で、両者の分岐は170万年前頃と推定されています。両者の遺伝的データにより、現代人に固有の遺伝的変化を特定することが可能となります。ボノボの最初の塩基配列はショートリード全ゲノム配列を用いて生成されましたが(関連記事)、大半の分節重複は取り込まれず、構造変異もほとんど確認されませんでした。初期の次世代シーケンサー技術の精度は低く、チンパンジーのゲノムが断片的だったので、大型類人猿のゲノムの大半を比較できず、遺伝子モデルの大半は不完全でした(関連記事1および関連記事2)。
過去数年間で、ロングリードゲノム配列技術により、高品質なゲノム生成能力が大きく強化されました。本論文はこの手法を用いて、ボノボの完全に注釈付けされた高品質ゲノムアセンブリについて配列を報告します。ボノボは、ロングリード配列技術を用いてゲノム配列が決定された最後の大型類人猿となります。このゲノムアセンブリは、マルチプラットフォームゲノミクスの手法を適用することにより、参照ゲノムをガイドとして用いずに構築されました(網羅率74倍)。本論文のボノボゲノムアセンブリでは、遺伝子の98%以上が完全に注釈付けされ、ギャップの99%が埋められており、部分重複の約半分と完全長の可動性遺伝因子のほぼ全てが解明されています。この新たなデータに基づくチンパンジーとボノボの間の全体的なヌクレオチドの相違は、常染色体では0.421±0.086%、X染色体では0.311±0.060%です。また。22366個の完全長タンパク質コード遺伝子と、9066個の非コード遺伝子が予測され、ボノボには見られてチンパンジーには見られないエクソンなど、これまで報告されていなかったエクソンも確認されました。
これらのデータを用いて、以前に配列決定された大型類人猿27個体の遺伝子型が決定されました。得られたボノボのゲノムと他の大型類人猿(関連記事)のゲノムの比較により、ボノボ系統とチンパンジー系統を明確に区別する5569以上の固定された構造多様体が特定されました。本論文は、ボノボ進化の過去数百万年間において、喪失・構造変化・拡大が起こった遺伝子に注目しました。不完全な系統分類(ILS)の高分解能マップの作製により、ヒトゲノムの約5.1%がチンパンジーまたはボノボに遺伝的に近縁であること、また、ゴリラやオランウータンなどのより深い系統発生を考慮した場合は、このゲノムの36.5%以上にILSが認められる、と推定されました。
さらに、ヒトとチンパンジー、あるいはヒトとボノボの間に見られるILS部分の26%が無作為には分布しておらず、クラスタを形成した部分の遺伝子は、ゲノムの他の部分と比べてアミノ酸置換が著しく過剰であることも明らかになりました。これらの結果は、非同義置換と同義置換の割合(dN/dS値)の遺伝子がILS領域に集中しているという、より微妙な相関関係を示したゴリラに関する先行研究を支持します。以前の研究ではこの観察は、ILS以外の領域でより強い浄化選択が起きたか、有効個体数規模を減少させる背景選択の結果、およびそれに起因するILSの枯渇として説明されました。本論文のゲノム規模エクソン解析では、ILSの一部のエクソンのみがこの効果をもたらしており、れらの経路の遺伝子における緩和選択もしくは正の選択のため、これらの遺伝子は糖タンパク質やEGF様カルシウムシグナルの機能に富むようになった、と示されました。
ボノボの高品質なゲノムデータは、ヒト科(大型類人猿)の進化史の解明に大きく寄与する、と期待されます。これまで、チンパンジーとボノボとの交雑(関連記事)や、ボノボと遺伝学的に未知の類人猿との交雑(関連記事)の可能性が指摘されてきました。この未知の類人猿は、400万~300万年前頃にチンパンジーおよびボノボの共通祖先と分岐した、と推定されています。また、チンパンジーとともに現代人にとって最近縁の現生種となるボノボの高品質なゲノムデータは、人類固有の表現型の遺伝的基盤の解明にもつながることが期待されます。
参考文献:
Mao Y. et al.(2021): A high-quality bonobo genome refines the analysis of hominid evolution. Nature, 594, 7861, 77–81.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-03519-x
過去数年間で、ロングリードゲノム配列技術により、高品質なゲノム生成能力が大きく強化されました。本論文はこの手法を用いて、ボノボの完全に注釈付けされた高品質ゲノムアセンブリについて配列を報告します。ボノボは、ロングリード配列技術を用いてゲノム配列が決定された最後の大型類人猿となります。このゲノムアセンブリは、マルチプラットフォームゲノミクスの手法を適用することにより、参照ゲノムをガイドとして用いずに構築されました(網羅率74倍)。本論文のボノボゲノムアセンブリでは、遺伝子の98%以上が完全に注釈付けされ、ギャップの99%が埋められており、部分重複の約半分と完全長の可動性遺伝因子のほぼ全てが解明されています。この新たなデータに基づくチンパンジーとボノボの間の全体的なヌクレオチドの相違は、常染色体では0.421±0.086%、X染色体では0.311±0.060%です。また。22366個の完全長タンパク質コード遺伝子と、9066個の非コード遺伝子が予測され、ボノボには見られてチンパンジーには見られないエクソンなど、これまで報告されていなかったエクソンも確認されました。
これらのデータを用いて、以前に配列決定された大型類人猿27個体の遺伝子型が決定されました。得られたボノボのゲノムと他の大型類人猿(関連記事)のゲノムの比較により、ボノボ系統とチンパンジー系統を明確に区別する5569以上の固定された構造多様体が特定されました。本論文は、ボノボ進化の過去数百万年間において、喪失・構造変化・拡大が起こった遺伝子に注目しました。不完全な系統分類(ILS)の高分解能マップの作製により、ヒトゲノムの約5.1%がチンパンジーまたはボノボに遺伝的に近縁であること、また、ゴリラやオランウータンなどのより深い系統発生を考慮した場合は、このゲノムの36.5%以上にILSが認められる、と推定されました。
さらに、ヒトとチンパンジー、あるいはヒトとボノボの間に見られるILS部分の26%が無作為には分布しておらず、クラスタを形成した部分の遺伝子は、ゲノムの他の部分と比べてアミノ酸置換が著しく過剰であることも明らかになりました。これらの結果は、非同義置換と同義置換の割合(dN/dS値)の遺伝子がILS領域に集中しているという、より微妙な相関関係を示したゴリラに関する先行研究を支持します。以前の研究ではこの観察は、ILS以外の領域でより強い浄化選択が起きたか、有効個体数規模を減少させる背景選択の結果、およびそれに起因するILSの枯渇として説明されました。本論文のゲノム規模エクソン解析では、ILSの一部のエクソンのみがこの効果をもたらしており、れらの経路の遺伝子における緩和選択もしくは正の選択のため、これらの遺伝子は糖タンパク質やEGF様カルシウムシグナルの機能に富むようになった、と示されました。
ボノボの高品質なゲノムデータは、ヒト科(大型類人猿)の進化史の解明に大きく寄与する、と期待されます。これまで、チンパンジーとボノボとの交雑(関連記事)や、ボノボと遺伝学的に未知の類人猿との交雑(関連記事)の可能性が指摘されてきました。この未知の類人猿は、400万~300万年前頃にチンパンジーおよびボノボの共通祖先と分岐した、と推定されています。また、チンパンジーとともに現代人にとって最近縁の現生種となるボノボの高品質なゲノムデータは、人類固有の表現型の遺伝的基盤の解明にもつながることが期待されます。
参考文献:
Mao Y. et al.(2021): A high-quality bonobo genome refines the analysis of hominid evolution. Nature, 594, 7861, 77–81.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-03519-x
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