『卑弥呼』第62話「遭逢」
『ビッグコミックオリジナル』2021年5月20日号掲載分の感想です。前回は、トメ将軍とミマアキが、日下(ヒノモト)の国の無人の都を見て、全滅したのだろうか、と案じるところで終了しました。今回は、ミマト将軍が配下の兵士を率いてヤノハ一行に追いつこうと急いでいる場面から始まります。ヤノハ一行は那(ナ)の国の岡(ヲカ)で時化のため足止めを食らっていました。オオヒコはナツハ(チカラオ)に、この時化では出立は無理だ、と諭します。それでも動じる様子を見せないナツハに、ヤノハは弁都留島(ムトルノシマ、現在の六連島でしょうか)に着く前に沈むぞ、とヌカデは諭します。ヤノハは建物で待機中に現れたモモソの霊に、自分を解放してくれ、自分より倭国を泰平にするのに相応しい方、つまり事代主(コトシロヌシ)が現れた、自分は事代主に筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)を譲り、弟のチカラオとともに姿を消すつもりだ、と訴えます。しかしモモソは、倭を泰平にするのはヤノハの仕事だ、国を譲る前に事代主とじっくり話して人となりを見極めろ、と答えます。以前より優しくなった、山社(ヤマト)の仲間を想い、生き別れの弟を必死に守ろうとし、それ以上にこの国の民のことに心を砕いている、とモモソに指摘されたヤノハは、買いかぶるな、自分の望みは誰にも邪魔されず生き抜くことだけだ、と反論しますが、モモソは姿を消します。
日下(ヒノモト)の都(纏向遺跡でしょうか)では、トメ将軍とミマアキが2日間探索しても誰とも遭遇せず、住民は厲鬼(レイキ)から逃れるため都を捨てたのではないか、とミマアキは推測します。トメ将軍はその可能性を認めつつ、ともかく奥津城(オクツキ)まで行こう、と提案します。トメ将軍とともに奥津城に近づいたミマアキは、擦れるような金(カネ)の音が聴こえてきたのに気づきます。一行が林に入ると、逆さに吊った杯のような形の金物から音が鳴っていました。これは銅鐸なのですが、ミマアキもトメ将軍も詳しくは知らないようです。銅鐸は九州でも出土していますが、数は近畿と比較して圧倒的に少なく、本作の舞台である3世紀初頭には、すでに九州では使われていなかった、という設定なのかもしれません。トメ将軍は、以前吉国(ヨシノクニ)だった邑(吉野ケ里遺跡でしょうか)で見たことがある、豊秋津島(トヨアキツシマ、本州を指すと思われます)や伊予之二名島(イヨノフタナノシマ、四国と思われます)に伝わる魔除けの楽器で、鬼があの音を嫌う、とミマアキに説明します。ミマアキは、林の向こうに鬼から身を守る人が住んでいるかもしれない、と考えます。トメ将軍とミマアキが林を抜けると、桃の木が整然と植えられており、枝が落とされていました。夏に果実を採取するため、冬に剪定しているのだろう、とミマアキは推測します。木の下には桃の種が多数置かれており(纏向遺跡では大量の桃の種が発見されています)、何の目的なのか、ミマアキは疑問に思います。そこへ、奥津城というか古墳の前の屋敷の門が開き、女性が現れます。その女性はたいへん美しく、トメ将軍もミマアキも配下の兵士たちも見惚れます。その女性が立ち止まったのを見て、トメ将軍は慌てて、自分たちは筑紫島から来た者で、そなたたちに敵意はない、と説明します。すると女性は、ようこそおいでくださいました、とトメ将軍一行を歓迎し、自分は日下のフトニ王の娘で名はモモソだ、と名乗ります。
岡では、時化にも関わらず、ヤノハがチカラオとともに出立しようとします。オオヒコは出立を見合わせるよう、ヤノハに進言しますが、時間がない、と言ってヤノハは答えます。それでもオオヒコは、せめてもう1日待つべきと進言しますが、この程度の嵐で死ぬようならば、天照大御神様に見捨てられた証で、もはや倭王を名乗る資格はない、と答えます。もし自分が2日経っても戻らなければ、海の藻屑と消えたか、事代主にしてやられたのだ、とヤノハはオオヒコに言い残します。そこへヌカデが現れ、ミマト将軍一行が到着したことを報告します。ミマト将軍は、日向(ヒムカ)に駐在するテヅチ将軍からの文で、日向の海沿いの邑々の多くの者が死に瀕している、とヤノハに伝えます。やはり筑紫島にも疫病神(エヤミノカミ)が降りたのか、と言うヤノハに、すでにご存じでしたか、とミマト将軍は驚きます。ヤノハはミマト将軍を労い、これから弁都留島に向かう、とミマト将軍に伝えます。この時化にも関わらず出立することにミマト将軍も驚きますが、厲鬼に通じた事代主に助けを求めなければ、人々を救う手立てはない、とヤノハは言います。チカラオとともに弁都留島に向かったヤノハは、時化の中でのチカラオの見事な操船を褒めます。弁都留島に到着したヤノハとチカラオを事代主が出迎えるところで、今回は終了です。
今回は、話が大きく動き出すことを予感させる内容となっており、たいへん楽しめました。ヤノハは弁都留島に到着し、ついに事代主と対面します。二人の会談というか対決がどのような結果を迎えるのか、二人の駆け引きとともにたいへん注目されます。疫病が本州と四国だけではなく九州でも流行し始めた中、ヤノハは事代主に協力を申し出て、事代主が倭国を導くよう要請するのでしょうが、これまでの描写から、事代主には倭国の王になる野心はなさそうに見えます。ただ、事代主の思惑が詳しく描かれているわけでもないので、事代主の真意がどこにあるのか、ヤノハとの会談で見えてくるのではないか、と期待しています。ヤノハは事代主に全てを譲り、弟のチカラオとともに姿を消すつもりですが、モモソ(の霊)の宣託からは、ヤノハが倭国王となる運命からは逃れられないように思えます。その意味でも、ヤノハと事代主の会談(対決?)は作中の山場の一つになりそうなので、たいへん注目されます。
今回のもう一つの注目は、疫病のためか人が全くいなかった日下の都で現れた女性です。この女性は、日下のフトニ王の娘のモモソと名乗りました。フトニ王とは、『日本書紀』の大日本根子彦太瓊天皇(オオヤマトネコヒコフトニノスメラミコト)、つまり第7代孝霊天皇でしょうか。孝霊天皇の娘に倭迹迹日百襲姫命がいますから、この新たなモモソが後世に倭迹迹日百襲姫命として伝えられた、という設定のようです。これまで、ヤノハに殺された真の日見子(ヒミコ)だったモモソと、卑弥呼(日見子)として倭国王となったヤノハの事績がまとめられ、後世に倭迹迹日百襲姫命として伝えられたのかな、と予想していましたが、日下というか後の大和にも、『日本書紀』の記事にずっと近い設定のモモソがいたわけで、この新たなモモソとヤノハとの関係がどう描かれるのか、注目されます。
また、モモソは誰もいなくなった日下の都に残って疫病退散の役目を担っているようなので(本来の目的は祖先霊の祭祀かもしれませんが)、霊力のある人物という設定かもしれません。その意味でも、偽の日見子であるヤノハとの関係が気になるところです。日下のモモソは裏のないまっすぐな人物のように見えますが、まだほとんど人物像が描かれておらず、強かなところもあるかもしれず、その人物像も楽しみです。本作の日下は、山陽や山陰にも影響力を及ぼし、巨大な古墳と壮麗な都を築いており、この時点でかなり強大な勢力を築いているようです。この日下と新たに建国された山社とはどのような関係を築くのか、本作における倭国の都というか邪馬台国は、現時点では日向と設定されているようですが、後には日下の都(纏向遺跡と思われます)に移るのか、という点も注目されます。ついに日下の人物が登場し、ますます壮大な話になってきたので、今後もたいへん楽しみです。
日下(ヒノモト)の都(纏向遺跡でしょうか)では、トメ将軍とミマアキが2日間探索しても誰とも遭遇せず、住民は厲鬼(レイキ)から逃れるため都を捨てたのではないか、とミマアキは推測します。トメ将軍はその可能性を認めつつ、ともかく奥津城(オクツキ)まで行こう、と提案します。トメ将軍とともに奥津城に近づいたミマアキは、擦れるような金(カネ)の音が聴こえてきたのに気づきます。一行が林に入ると、逆さに吊った杯のような形の金物から音が鳴っていました。これは銅鐸なのですが、ミマアキもトメ将軍も詳しくは知らないようです。銅鐸は九州でも出土していますが、数は近畿と比較して圧倒的に少なく、本作の舞台である3世紀初頭には、すでに九州では使われていなかった、という設定なのかもしれません。トメ将軍は、以前吉国(ヨシノクニ)だった邑(吉野ケ里遺跡でしょうか)で見たことがある、豊秋津島(トヨアキツシマ、本州を指すと思われます)や伊予之二名島(イヨノフタナノシマ、四国と思われます)に伝わる魔除けの楽器で、鬼があの音を嫌う、とミマアキに説明します。ミマアキは、林の向こうに鬼から身を守る人が住んでいるかもしれない、と考えます。トメ将軍とミマアキが林を抜けると、桃の木が整然と植えられており、枝が落とされていました。夏に果実を採取するため、冬に剪定しているのだろう、とミマアキは推測します。木の下には桃の種が多数置かれており(纏向遺跡では大量の桃の種が発見されています)、何の目的なのか、ミマアキは疑問に思います。そこへ、奥津城というか古墳の前の屋敷の門が開き、女性が現れます。その女性はたいへん美しく、トメ将軍もミマアキも配下の兵士たちも見惚れます。その女性が立ち止まったのを見て、トメ将軍は慌てて、自分たちは筑紫島から来た者で、そなたたちに敵意はない、と説明します。すると女性は、ようこそおいでくださいました、とトメ将軍一行を歓迎し、自分は日下のフトニ王の娘で名はモモソだ、と名乗ります。
岡では、時化にも関わらず、ヤノハがチカラオとともに出立しようとします。オオヒコは出立を見合わせるよう、ヤノハに進言しますが、時間がない、と言ってヤノハは答えます。それでもオオヒコは、せめてもう1日待つべきと進言しますが、この程度の嵐で死ぬようならば、天照大御神様に見捨てられた証で、もはや倭王を名乗る資格はない、と答えます。もし自分が2日経っても戻らなければ、海の藻屑と消えたか、事代主にしてやられたのだ、とヤノハはオオヒコに言い残します。そこへヌカデが現れ、ミマト将軍一行が到着したことを報告します。ミマト将軍は、日向(ヒムカ)に駐在するテヅチ将軍からの文で、日向の海沿いの邑々の多くの者が死に瀕している、とヤノハに伝えます。やはり筑紫島にも疫病神(エヤミノカミ)が降りたのか、と言うヤノハに、すでにご存じでしたか、とミマト将軍は驚きます。ヤノハはミマト将軍を労い、これから弁都留島に向かう、とミマト将軍に伝えます。この時化にも関わらず出立することにミマト将軍も驚きますが、厲鬼に通じた事代主に助けを求めなければ、人々を救う手立てはない、とヤノハは言います。チカラオとともに弁都留島に向かったヤノハは、時化の中でのチカラオの見事な操船を褒めます。弁都留島に到着したヤノハとチカラオを事代主が出迎えるところで、今回は終了です。
今回は、話が大きく動き出すことを予感させる内容となっており、たいへん楽しめました。ヤノハは弁都留島に到着し、ついに事代主と対面します。二人の会談というか対決がどのような結果を迎えるのか、二人の駆け引きとともにたいへん注目されます。疫病が本州と四国だけではなく九州でも流行し始めた中、ヤノハは事代主に協力を申し出て、事代主が倭国を導くよう要請するのでしょうが、これまでの描写から、事代主には倭国の王になる野心はなさそうに見えます。ただ、事代主の思惑が詳しく描かれているわけでもないので、事代主の真意がどこにあるのか、ヤノハとの会談で見えてくるのではないか、と期待しています。ヤノハは事代主に全てを譲り、弟のチカラオとともに姿を消すつもりですが、モモソ(の霊)の宣託からは、ヤノハが倭国王となる運命からは逃れられないように思えます。その意味でも、ヤノハと事代主の会談(対決?)は作中の山場の一つになりそうなので、たいへん注目されます。
今回のもう一つの注目は、疫病のためか人が全くいなかった日下の都で現れた女性です。この女性は、日下のフトニ王の娘のモモソと名乗りました。フトニ王とは、『日本書紀』の大日本根子彦太瓊天皇(オオヤマトネコヒコフトニノスメラミコト)、つまり第7代孝霊天皇でしょうか。孝霊天皇の娘に倭迹迹日百襲姫命がいますから、この新たなモモソが後世に倭迹迹日百襲姫命として伝えられた、という設定のようです。これまで、ヤノハに殺された真の日見子(ヒミコ)だったモモソと、卑弥呼(日見子)として倭国王となったヤノハの事績がまとめられ、後世に倭迹迹日百襲姫命として伝えられたのかな、と予想していましたが、日下というか後の大和にも、『日本書紀』の記事にずっと近い設定のモモソがいたわけで、この新たなモモソとヤノハとの関係がどう描かれるのか、注目されます。
また、モモソは誰もいなくなった日下の都に残って疫病退散の役目を担っているようなので(本来の目的は祖先霊の祭祀かもしれませんが)、霊力のある人物という設定かもしれません。その意味でも、偽の日見子であるヤノハとの関係が気になるところです。日下のモモソは裏のないまっすぐな人物のように見えますが、まだほとんど人物像が描かれておらず、強かなところもあるかもしれず、その人物像も楽しみです。本作の日下は、山陽や山陰にも影響力を及ぼし、巨大な古墳と壮麗な都を築いており、この時点でかなり強大な勢力を築いているようです。この日下と新たに建国された山社とはどのような関係を築くのか、本作における倭国の都というか邪馬台国は、現時点では日向と設定されているようですが、後には日下の都(纏向遺跡と思われます)に移るのか、という点も注目されます。ついに日下の人物が登場し、ますます壮大な話になってきたので、今後もたいへん楽しみです。
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