ヨーロッパ人侵出以前のアマゾン川流域における人口減少と森林再生

 ヨーロッパ人侵出以前のアマゾン川流域における人口減少と森林再生についての研究(Bush et al., 2021)が公表されました。日本語の解説記事もあります。ヨーロッパから南アメリカ大陸への人類の侵出が始まると、病気や戦争や奴隷制度や集団虐殺などが持ち込まれ、ついにはアメリカ大陸先住民の大量死として知られる悲惨な人命損失に至りました。アマゾン川流域では1492年以降に先住民の90~95%が死亡した、と推定されています。その結果、それまで農地だった広大な土地をはじめとして、多くの居住地が放棄されたため、アマゾン川全域で森林再生が急激に進みました。この急激な森林再生により、大気中二酸化炭素濃度の著しい減少(この異常な減少はオービス・スパイクと呼ばれます)が17世紀初頭に始まった、と考えられてきました。

 この研究は、アマゾン川流域の39ヶ所で化石花粉を採取し、過去2000年にわたる森林被覆の変化を調べた。その結果、「大量死」の期間中に森林花粉が増加した場所の数は、減少した場所の数とほぼ同じだった、と明らかになり、広範囲で同時期に起こった森林再生は大気中二酸化炭素濃度を減少させるのに充分だった、との仮説は事実上排除される、と指摘されています。データによると、多くの場所で、ヨーロッパ人到来の600~300年前頃に土地放棄および森林再生が始まった、と示唆されます。

 この研究は、1500~950年前頃に土地放棄を引き起こしたメカニズムは特定されていないと指摘する一方で、環境の変化、ヨーロッパ人到着以前の感染症大流行、および/もしくは社会闘争のカスケード効果が関与していた可能性を示唆しています。先コロンブス期アマゾン川流域でも、たとえば大規模な社会を築いていたモホス文化が1300年頃までには衰退していたと推測されているように(関連記事)、人口減少は珍しくなかったのでしょう。ただ、アマゾン川流域の一部地域で、ヨーロッパ人到来時すでに先住民人口が減少しつつあったとしても、ヨーロッパ人との接触が致命的な影響を及ぼし、人口減少が加速したことには変わりありません。


参考文献:
Bush MB. et al.(2021): Widespread reforestation before European influence on Amazonia. Science, 372, 6541, 484–487.
https://doi.org/10.1126/science.abf38707

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