人間は減法的変化を体系的に見落とす
人間は減法的変化を体系的に見落とすと報告した研究(Adams et al., 2021)が公表されました。技術開発や主張の強化、より具体的には、設計者が技術を向上させようとする、著述家が論拠を強化しようとする、あるいは管理者が望ましい行動を奨励しようとするなど、いずれの場合にしても、物体や考えや状況を改善するには、起こり得る変化を頭の中で探索しなければなりません。
この研究では、人間は物体や考えや状況に新しい構成要素を足す変化を考慮するのと同様に、それらから構成要素を引く変化を考慮するのかどうか、調べられました。人間は通常、全ての可能な考えをくまなく調べる認知的負担にうまく対処するために、限られた数の有望な考えを検討しますが、その結果、より優れたものになり得る代替案を考慮せずに、まずまずの解決策を受け入れることになりかねません。この研究では、人間は加法による変化の探索を体系的に標準としており、その結果、減法による変化を見落とす、と示されます。
1153人が参加した8つの実験(たとえば、幾何学パズルを解くこと、レゴで作られた構造物の安定性を高めること、ミニチュアゴルフコースを改良すること)を通じて、参加者は、減法を考慮に入れるという手掛かりが課題に含まれていない場合(手がかりがあった場合と比べて)、加法による探索戦略の欠点を認識する機会が1度のみの場合(複数回ある場合と比べて)、認知的負担が大きい場合(小さい場合と比べて)に、有利な減法的変化に気付かない傾向がありました。
加法による変化の探索が標準であることは、人間が過密スケジュールや画一的な官僚的形式主義や地球に対する破壊的影響の緩和に苦戦している理由の一つかもしれません。こうした傾向は合理化による心理負担の軽減でもあり、長い人類進化の過程で定着した認知メカニズムである可能性が高そうです。一部で評判が悪いように思える進化心理学ですが、現実の諸問題の解決に寄与できるところは少なくないように思います。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
心理学:人間は、引くことによる改善を好まない
人間が物や考え、状況の改善を求められた時、その要素の一部を引くのではなく、新しい要素を足す傾向があることを報告する論文が、Nature に掲載される。その結果として、新たな要素を加えて問題を解決する方法が採用され、特定の要素を除去する方法は、たとえ優れた代替案であっても検討されない可能性がある。
物や考えの改善(例えば、技術開発や主張の強化)は、斬新な点を加えること、あるいは、既存の要素を減らして物や考えを合理化することで達成される。しかし、人間は、可能性のある全ての選択肢を探索することによる疲労に対処するために、検討する考えの数を絞り込む傾向があり、最適解が得られないことが多い。
今回、Gabrielle Adams、Benjamin Converseたちの研究チームは、1153人が参加した実験で、さまざまな課題(例えば、幾何学パズルを解くこと、レゴで作られた構造物の安定性を高めること、ミニチュアゴルフコースを改良すること)に対する参加者の反応を調べた。その結果、参加者には、新しい要素を足す解決策を好む傾向が見られ、既存の要素を減らす解決策は、たとえ単純でより良いものであっても、日常的に見過ごされることが分かった。
また、フォローアップ実験では、減らす変化の方が人々に認知されにくく、そのために足す変化が標準的な戦略になっていることが示唆された。Adamsたちは、このことが、人々が過密スケジュール、画一的な官僚的形式主義、地球に悪影響を及ぼす事象などの問題の緩和に苦労している理由の1つになっていると結論付けている。
心理学:人間は減法的変化を体系的に見落とす
Cover Story:減らした方がいいのに:引き算による変化を考えるのに苦労する理由
物体や考えや状況の改善を試みるときは、どのような場合であれ、起こり得る変化について考えを巡らせることになる。今回G AdamsとB Converseたちは、何かを取り除く方がより簡単で有利な場合でも、人間は余計な要素を追加することで、こうした課題を解決する傾向があることを明らかにしている。彼らは、幾何学パズルを解いたり、レゴで作ったものを安定させたり、ミニチュアゴルフコースを改良したりといったさまざまな課題に、人間がどのように取り組むのか調べた。その結果、一般的に人間は、加法による解決策を模索するのがデフォルトで、減法による解決策を考えるのは、より労力を投資することが可能で、そうしようとする意思がある場合のみであることが見いだされた。著者たちは、減法による解決策は認知的に利用しづらく、また、人間は加法による解決策を探し続けているという事実が、我々が過密スケジュール、過度な官僚主義、地球への過度の負担などの課題を減らすのに苦戦している理由の説明に役立つ可能性があると示唆している。
参考文献:
Adams GS. et al.(2021): People systematically overlook subtractive changes. Nature, 592, 7853, 258–261.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-03380-y
この研究では、人間は物体や考えや状況に新しい構成要素を足す変化を考慮するのと同様に、それらから構成要素を引く変化を考慮するのかどうか、調べられました。人間は通常、全ての可能な考えをくまなく調べる認知的負担にうまく対処するために、限られた数の有望な考えを検討しますが、その結果、より優れたものになり得る代替案を考慮せずに、まずまずの解決策を受け入れることになりかねません。この研究では、人間は加法による変化の探索を体系的に標準としており、その結果、減法による変化を見落とす、と示されます。
1153人が参加した8つの実験(たとえば、幾何学パズルを解くこと、レゴで作られた構造物の安定性を高めること、ミニチュアゴルフコースを改良すること)を通じて、参加者は、減法を考慮に入れるという手掛かりが課題に含まれていない場合(手がかりがあった場合と比べて)、加法による探索戦略の欠点を認識する機会が1度のみの場合(複数回ある場合と比べて)、認知的負担が大きい場合(小さい場合と比べて)に、有利な減法的変化に気付かない傾向がありました。
加法による変化の探索が標準であることは、人間が過密スケジュールや画一的な官僚的形式主義や地球に対する破壊的影響の緩和に苦戦している理由の一つかもしれません。こうした傾向は合理化による心理負担の軽減でもあり、長い人類進化の過程で定着した認知メカニズムである可能性が高そうです。一部で評判が悪いように思える進化心理学ですが、現実の諸問題の解決に寄与できるところは少なくないように思います。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
心理学:人間は、引くことによる改善を好まない
人間が物や考え、状況の改善を求められた時、その要素の一部を引くのではなく、新しい要素を足す傾向があることを報告する論文が、Nature に掲載される。その結果として、新たな要素を加えて問題を解決する方法が採用され、特定の要素を除去する方法は、たとえ優れた代替案であっても検討されない可能性がある。
物や考えの改善(例えば、技術開発や主張の強化)は、斬新な点を加えること、あるいは、既存の要素を減らして物や考えを合理化することで達成される。しかし、人間は、可能性のある全ての選択肢を探索することによる疲労に対処するために、検討する考えの数を絞り込む傾向があり、最適解が得られないことが多い。
今回、Gabrielle Adams、Benjamin Converseたちの研究チームは、1153人が参加した実験で、さまざまな課題(例えば、幾何学パズルを解くこと、レゴで作られた構造物の安定性を高めること、ミニチュアゴルフコースを改良すること)に対する参加者の反応を調べた。その結果、参加者には、新しい要素を足す解決策を好む傾向が見られ、既存の要素を減らす解決策は、たとえ単純でより良いものであっても、日常的に見過ごされることが分かった。
また、フォローアップ実験では、減らす変化の方が人々に認知されにくく、そのために足す変化が標準的な戦略になっていることが示唆された。Adamsたちは、このことが、人々が過密スケジュール、画一的な官僚的形式主義、地球に悪影響を及ぼす事象などの問題の緩和に苦労している理由の1つになっていると結論付けている。
心理学:人間は減法的変化を体系的に見落とす
Cover Story:減らした方がいいのに:引き算による変化を考えるのに苦労する理由
物体や考えや状況の改善を試みるときは、どのような場合であれ、起こり得る変化について考えを巡らせることになる。今回G AdamsとB Converseたちは、何かを取り除く方がより簡単で有利な場合でも、人間は余計な要素を追加することで、こうした課題を解決する傾向があることを明らかにしている。彼らは、幾何学パズルを解いたり、レゴで作ったものを安定させたり、ミニチュアゴルフコースを改良したりといったさまざまな課題に、人間がどのように取り組むのか調べた。その結果、一般的に人間は、加法による解決策を模索するのがデフォルトで、減法による解決策を考えるのは、より労力を投資することが可能で、そうしようとする意思がある場合のみであることが見いだされた。著者たちは、減法による解決策は認知的に利用しづらく、また、人間は加法による解決策を探し続けているという事実が、我々が過密スケジュール、過度な官僚主義、地球への過度の負担などの課題を減らすのに苦戦している理由の説明に役立つ可能性があると示唆している。
参考文献:
Adams GS. et al.(2021): People systematically overlook subtractive changes. Nature, 592, 7853, 258–261.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-03380-y
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