ホモ・フロレシエンシスの摂食生体力学(追記有)
ホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)の摂食生体力学について、2021年度アメリカ自然人類学会総会(関連記事)で報告されました(Cook et al., 2021)。この報告の要約はPDFファイルで読めます(P21)。ホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)はインドネシアのフローレス島の小型人類で、頑丈な下顎枝や厚い下顎結合や上下の横断隆起の存在など、祖先的な頭蓋顔面の特徴を示します。これらの特徴は、「強化された」アウストラロピテクス属と共有されており、高い咀嚼圧への適応と示唆されています。しかし、ホモ・フロレシエンシスは顕著な頭蓋顔面の華奢化、および後のホモ属とより類似する第一大臼歯も示し、より頑丈な人類種と比較して高い咬合負荷の減少が示唆されます。この不一致により、ホモ・フロレシエンシスの摂食行動の推測は困難です。
そのため、フロレシエンシスの起源をめぐっては、発見当初に提案されたジャワ島というかスンダランドのホモ・エレクトス(Homo erectus)の子孫とする見解とともに、エレクトスよりもさらに祖先的、つまりアウストラロピテクス属的な特徴を有する分類群の子孫ではないか、との見解も一方の有力説として認められているように思います(関連記事)。じっさい、エレクトスよりも祖先的なホモ属がアフリカからユーラシアへ拡散していたことを示す証拠が蓄積されつつあり(関連記事)、後者の見解を無視することはとてもできないと思いますが、私は前者の見解の方を支持しています。
この研究は有限要素分析を用いて、フロレシエンシスにおける摂食生体力学を検証します。この研究はフロレシエンシスの正基準標本(LB1)の復元を用いて、チンパンジーの筋力から調整された咀嚼負荷が、第三小臼歯と第二大臼歯のシミュレーションに適用されました。ミーゼス応力とひずみデータが、チンパンジーおよび現代人およびアウストラロピテクス属と比較されました。わずかな例外を除いて、LB1の微小ひずみの程度は、現代人で観察されたひずみの上昇と類似しており、一部区域ではチンパンジーのようなひずみ水準の増加を示します。
したがって、LB1はほとんどのアウストラロピテクス属との比較において相対的に弱く、現代人とより一致しているようです。臼歯の咬合中に力の乱れが観察され、顎関節脱臼の危険性から、力強く噛む能力が低下した、と示唆されます。これらの結果は、頭蓋顔面の華奢化の現代人的モデルを裏づけ、ホモ・フロレシエンシスの食性がより柔らかい食料へと転換していったことを示唆するかもしれません。この研究は、摂食生体力学の観点からフロレシエンシスの派生的特徴を示唆しており、フロレシエンシスの祖先的と考えられている特徴は、島嶼化による形態縮小と関連しているのかもしれません。
参考文献:
Cook RW. et al.(2021): Evaluating the craniofacial feeding biomechanics in Homo floresiensis using the finite element method. The 90th Annual Meeting of the AAPA.
追記(2021年8月19日)
本報告が論文として公表されたので、当ブログで取り上げました(関連記事)。トラックバック機能が廃止になっていなければ、トラックバックを送るだけですんだので、本当に面倒になりました。
そのため、フロレシエンシスの起源をめぐっては、発見当初に提案されたジャワ島というかスンダランドのホモ・エレクトス(Homo erectus)の子孫とする見解とともに、エレクトスよりもさらに祖先的、つまりアウストラロピテクス属的な特徴を有する分類群の子孫ではないか、との見解も一方の有力説として認められているように思います(関連記事)。じっさい、エレクトスよりも祖先的なホモ属がアフリカからユーラシアへ拡散していたことを示す証拠が蓄積されつつあり(関連記事)、後者の見解を無視することはとてもできないと思いますが、私は前者の見解の方を支持しています。
この研究は有限要素分析を用いて、フロレシエンシスにおける摂食生体力学を検証します。この研究はフロレシエンシスの正基準標本(LB1)の復元を用いて、チンパンジーの筋力から調整された咀嚼負荷が、第三小臼歯と第二大臼歯のシミュレーションに適用されました。ミーゼス応力とひずみデータが、チンパンジーおよび現代人およびアウストラロピテクス属と比較されました。わずかな例外を除いて、LB1の微小ひずみの程度は、現代人で観察されたひずみの上昇と類似しており、一部区域ではチンパンジーのようなひずみ水準の増加を示します。
したがって、LB1はほとんどのアウストラロピテクス属との比較において相対的に弱く、現代人とより一致しているようです。臼歯の咬合中に力の乱れが観察され、顎関節脱臼の危険性から、力強く噛む能力が低下した、と示唆されます。これらの結果は、頭蓋顔面の華奢化の現代人的モデルを裏づけ、ホモ・フロレシエンシスの食性がより柔らかい食料へと転換していったことを示唆するかもしれません。この研究は、摂食生体力学の観点からフロレシエンシスの派生的特徴を示唆しており、フロレシエンシスの祖先的と考えられている特徴は、島嶼化による形態縮小と関連しているのかもしれません。
参考文献:
Cook RW. et al.(2021): Evaluating the craniofacial feeding biomechanics in Homo floresiensis using the finite element method. The 90th Annual Meeting of the AAPA.
追記(2021年8月19日)
本報告が論文として公表されたので、当ブログで取り上げました(関連記事)。トラックバック機能が廃止になっていなければ、トラックバックを送るだけですんだので、本当に面倒になりました。
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