コウモリダコの祖先は漸新世から深海に生息していた

 コウモリダコ(Vampyroteuthis infernalis)の祖先が漸新世(約3400万~2300万年前)から深海に生息していたことを報告する研究(Košťák et al., 2021)が公表されました。現生種のコウモリダコは、大西洋とインド洋と太平洋の酸素が極端に少ない海域に生息しています。中生代のイカ類の祖先は、大陸棚上の比較的浅い海域に生息していたことが知られており、コウモリダコが、こうした深海環境で繁殖できる独特な形質をいつ、どのようにして進化させたのか、まだ解明されていません。

 この研究は、ハンガリーで発見され、当初は漸新世のコウイカの一種と考えられていたイカの化石(Necroteuthis hungarica)の正体を解明しました。この研究は、高度な画像化ツールを用いて、この化石に現生種のコウモリダコとの構造的類似点と化学的類似点があることを明らかにしました。また、この化石が現在のブダペスト近くの酸素の少ない土壌環境から発見されたことが突き止められ、当初、酸素の少ない深海域に生息していた、と推測されています。これらの知見から、この化石が現生種のコウモリダコの祖先の化石で、遅くとも漸新世までには深海に移住していた、と結論づけられました。さらに、この研究は、こうした酸素の少ない海域の形成が、コウモリダコの進化史の初期に深海への適応が起こった契機になった、との仮説を提示しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化:漸新世から深海に生息していたコウモリダコの祖先

 コウモリダコの進化上の祖先は、漸新世(約3400万~2300万年前)の頃に酸素の少ない深海環境に適応していた可能性があることを報告する論文が、Communications Biology に掲載される。この知見は、コウモリダコの化石記録における1億2000万年の空白を埋めるのに役立つ。

 現生種のコウモリダコ(Vampyroteuthis infernalis)は、大西洋、インド洋、太平洋の酸素が極端に少ない海域に生息している。中生代のイカ類の祖先は、大陸棚上の比較的浅い海域に生息していたことが知られており、コウモリダコが、こうした深海環境で繁殖できるユニークな形質をいつ、どのようにして進化させたのかは解明されていない。

 今回、Martin Košťákたちは、ハンガリーで発見され、当初は漸新世のコウイカの一種と考えられていたイカの化石(Necroteuthis hungarica)の正体を解明した。Košťákたちは、高度な画像化ツールを用いて、この化石に現生種のコウモリダコとの構造的類似点と化学的類似点があることに気付いた。彼らはまた、この化石が現在のブダペスト近くの酸素の少ない土壌環境から発見されたことを突き止めて、この化石動物は当初、酸素の少ない深海域に生息していたという見解を示している。Košťákたちは、この化石が現生種のコウモリダコの祖先の化石であり、この化石動物が、遅くとも漸新世までには深海に移住していたと結論付けた。さらに、Košťákたちは、こうした酸素の少ない海域が形成されたことが、コウモリダコの進化史の初期に深海への適応が起こったきっかけとなったという仮説を提示している。



参考文献:
Košťák M. et al.(2021): Fossil evidence for vampire squid inhabiting oxygen-depleted ocean zones since at least the Oligocene. Communications Biology, 4, 216.
https://doi.org/10.1038/s42003-021-01714-0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック