100万年以上前のマンモスのDNA解析
取り上げるのが遅れてしまいましたが、100万年以上前のマンモスのDNA解析結果を報告した研究(Valk et al., 2021)が報道されました。ナショナルジオグラフィックでも報道されています。古代DNA研究は近年大きく発展しており、人類を含むさまざまな動物遺骸からゲノムデータが得られ、先史時代の人口動態や古代の遺伝子移入事象や絶滅種の人口統計に関する理解が深まりました。しかし、一部の進化過程は、古代DNA研究の時間的限界を超えている、とみなされる時間枠で起きます。たとえば、多くの現代の哺乳類および鳥類種は、前期および中期更新世に起源があります。したがって、種分化過程の古代ゲノム調査では、少なくとも数十万年前の標本から古代DNAを回収する必要があります。
マンモス(Mammuthus sp.)は500万年前頃にアフリカに出現し、その後、北半球の大半に拡散しました。260万~11700年前頃となる更新世に、マンモス系統は南方マンモス(Mammuthus meridionalis)とステップマンモス(Mammuthus trogontherii)を出現させた進化的変化を経て、後にはコロンビアマンモス(Mammuthus Columbi)とケナガマンモス(Mammuthus primigenius)が派生しました。これら分類群間の正確な関係は不確かですが、一般的な見解では、コロンビアマンモスは150万年前頃に北アメリカ大陸への拡散初期に進化し、ケナガマンモスは70万年前頃にシベリア北東部で最初に出現した、とされています。ステップマンモス(トロゴンテリーゾウ)と類似した(およびそれと同種と考えられている)マンモスは、少なくとも170万年前頃からユーラシアに生息していました。
ケナガマンモスおよびコロンビアマンモスの起源と進化を調べるため、前期および中期更新世のシベリア北東部のマンモスの大臼歯3個からゲノムデータが回収されました(図1a)。これらの大臼歯は、シベリア北東部のよく記録された化石を含むオリョリアン・スイート(Olyorian Suite)に由来し、古地磁気逆転の世界的な系列、およびベーリンジア東部の絶対年代を有する動物相と結びついた、齧歯類の生層序を用いて年代測定されました。これらの大臼歯のうち、その発見場所に基づいてクレストフカ(Krestovka)と呼ばれる標本は、元々ヨーロッパの中期更新世化石で定義された種であるステップマンモスと形態的に類似しており、120万~110万年前頃の下部オリョリアン堆積物から収集されました。第二の標本はアディチャ(Adycha)と呼ばれ、ステップマンモスのような形態で、オリョリアン・スイート内の年代はさほど確実ではありません(120万~50万年前頃)。しかし、アディチャ標本の形態からは、年代は前期オリョリアンで、おそらくは120万~100万年前頃と強く示唆されます。第三の標本はチュコチヤ(Chukochya)と呼ばれ、ケナガマンモスの初期形態と一致しており、上部オリョリアン堆積物のみが露出している区画で発見されており、80万~50万年前頃と示唆されます。これら3標本から完全な(網羅率37倍以上)ミトコンドリアゲノムが回収され、核ゲノムデータに関しては、クレストフカ標本が4900万塩基対、アディチャ標本が8億8400万塩基対、チュコチヤ標本が36億7100万塩基対ほど得られました。以下、本論文の図1です。
●DNAに基づく年代推定
ミトコンドリアゲノムを用いて標本の年代を推定するため、放射性炭素年代を有する標本群を用いて較正されたベイジアン分子時計分析と、530万年前頃のアフリカのサバンナゾウ系統とマンモス系統との間のゲノムの違いを仮定した対数正規分布事前分布が実行されました。この分析に基づいて、クレストフカ標本は165万年前頃、95%最高事後密度(highest posterior density、略してHPD)では208万~125万年前、アディチャ標本は169万年前頃(95% HPDで169万~106万年前)、チュコチヤ標本は87万年前頃(95% HPDで107万~68万年前)と推定されます。また、常染色体ゲノムデータを用いて、より高い網羅率のアディチャ標本(0.3倍)とチュコチヤ標本(1.4倍)の年代が調べられました。これは、アフリカのサバンナゾウとの最新の共通祖先以来の派生的変化の数の推定に基づきます。一定の変異率を仮定して、経時的な派生的多様体の蓄積に基づく手法が用いられました。この分析から、アディチャ標本は128万年前頃(95%信頼区間で164万~92万年前)、チュコチヤ標本は62万年前頃(95%信頼区間で100万~24万年前)と示唆されました。この分析は低網羅率のデータに基づいており、信頼区間は広く、推定年代はミトコンドリアミトコンドリアデータから得られたものと類似している、と本論文は指摘します。
チュコチヤ標本およびアディチャ標本のDNAに基づく推定は、生層序および古地磁気から独立して得られた地質学的年代推定と一致していますが、クレストフカ標本の分子時計年代測定は、生層序から得られた年代よりも古い、と示唆されます。これは、クレストフカ標本がより古い地質堆積物から嵌入したか、ミトコンドリアの変異率が過小評価されてきたことを意味するかもしれません。しかし、クレストフカ標本の遺伝的および地質学的年代推定の信頼区間はわずか5万年離れているだけで、全推定値は100万年以上前の年代を裏づけます。
●遺伝的に分岐したマンモス系統
常染色体データに基づく系統では、クレストフカ・アディチャ・チュコチヤの前期および中期更新世3標本は、スコットランド(48000年前頃)やシベリアのカンチャラン(Kanchalan)のケナガマンモス(24000年前頃)を含む、後期更新世の全てのユーラシアのマンモスのゲノムの範囲外となります(図1b)。アディチャ標本とチュコチヤ標本の系統的位置は、全ての後期更新世ケナガマンモスの直接的祖先集団に由来するゲノムであることと一致しますが、クレストフカ標本のゲノムは、コロンビアマンモスとケナガマンモスのゲノム間の分岐以前に分岐しました(図1b)。同様に、168個体の後期更新世マンモス標本を含むミトコンドリア系統のベイジアン再構築では、前期更新世のクレストフカ標本とアディチャ標本が、既知の全てのマンモスのミトコンドリアゲノムの基底部に位置づけられるのに対して、中期更新世のチュコチヤ標本のミトコンドリアゲノムは、後期更新世ケナガマンモスで以前に報告された3クレード(単系統群)の一つの基底部となります(図1c)。
核ゲノムおよびミトコンドリア両方のデータに基づく分岐年代の推定は、クレストフカ標本と本論文で分析された他の全マンモスとの間の深い分岐を示唆します。クレストフカ標本のミトコンドリアゲノムは、他の全てのマンモスのミトコンドリアと266万~178万年前(95% HPD)に分岐した、と推定されます。常染色体データから類似の推定分岐年代(95%信頼区間で265万~196万年前)が得られますが、この分析は限定的なゲノムデータに基づいていることに注意が必要です。さらに、F統計を用いての相対的分岐推定では、クレストフカ標本の核ゲノムは、高網羅率のケナガマンモスではヘテロ接合である部位において、他のあらゆるマンモスよりも派生的アレル(対立遺伝子)が少ない、と示されます。これは、クレストフカ標本系統が、アジアゾウとの分岐後ではあるものの、本論文で分析された他のマンモス間の分岐よりも前に分岐した、という見解へのさらなる裏づけを提供します。
全体としてこれらの分析で示唆されるのは、マンモスの2つの進化系統(つまり、2つの孤立集団が経時的に存続しました)が前期更新世後半にシベリア東部に生息していた、ということです。クレストフカ標本に代表される一方の系統は、北アメリカ大陸におけるマンモスの最初の出現前に他のマンモスと分岐しました。もう一方の系統は、中期および後期更新世の全ケナガマンモスとともにアディチャ標本で構成されます。
●コロンビアマンモスの起源
いくつかの証拠は、全ての他のマンモスと比較してコロンビアマンモスでは、クレストフカ標本に代表される系統にその祖先系統のずっと高い割合が由来する、と示唆されます。D統計を用いての分析では、コロンビアマンモスとクレストフカ標本との間で共有される過剰な派生的アレルの強い兆候が明らかになりました(図2a)。これは、その後の混合D統計なしの想定ではゼロから逸脱してないので、他の全てのマンモスのゲノムの基底部に位置するクレストフカ標本の平均的な系統的位置と矛盾します。そこで、Tree- Mixを用いてこのパターンがさらに調べられました。移動(混合)事象をモデル化しないと、どのモデルもデータに適合しません。代わりに、1つの移動事象をモデル化すると、良好な適合が観察されました。これは、コロンビアマンモスの祖先系統の一部がクレストフカ標本系統に由来することを示唆します。
マンモスの集団史におけるクレストフカ標本系統の進化的背景をさらに評価するため、補完的な混合グラフモデル手法が用いられました。クレストフカ標本とアディチャ標本とチュコチヤ標本を、シベリアのケナガマンモスとコロンビアマンモスとアジアゾウに関連づける、全ての可能性のある系統の組み合わせが、徹底的に検証されました。誤って呼び出された遺伝子型の影響を制限するために、アジアゾウ6頭のゲノムで多型として識別された1ヶ所を含めて、アジアゾウが外群として設定されました。混合事象なしのグラフモデルでは、データにうまく適合しなかったので、単純な系統樹のような集団史は除外されました。対照的に、1回の混合事象を伴うグラフモデルは、完全な適合を提供し、有意な外れ値なしで全てのf4統計の組み合わせを説明します。2つの混合グラフモデル手法から得られた点推定に基づいて、コロンビアマンモスは、クレストフカ標本と関連する系統に由来する祖先系統が38~43%、ケナガマンモス系統からの祖先系統が57~62%の混合事象の結果と推定されました(図2b)。
未知の起源集団(つまり、ゴースト混合)からの混合ゲノム領域を識別する目的の隠れマルコフモデルを用いて、コロンビアマンモスの複雑な祖先系統のさらなる裏づけが得られました。前期および中期更新世標本を一切含まずに行なわれたこの分析では、コロンビアマンモスのゲノムの約41%は、ケナガマンモスとは遺伝的に区別される1系統に由来する、と示唆されました。その後、ゴースト混合の結果として識別されたゲノム領域の2者間距離系統樹が再構築され、クレストフカ標本のゲノムと密接に関連している、と明らかになりました。対照的に、これらの領域を除外すると、コロンビアマンモスのゲノムの残りは、後期更新世ケナガマンモスの多様性の範囲内に収まります。
最後に、本論文のD統計分析でも、コロンビアマンモスとアメリカ合衆国ワイオミング州のケナガマンモスとの間での、派生的アレル共有のより高水準が識別されました。F4比に基づくと、これらのゲノム間で共有される祖先系統の過剰は10.7~12.7%と推定され、以前の研究と一致します。コロンビアマンモスはクレストフカ標本祖先系統の大きな割合を有しているので、コロンビアマンモスから北アメリカ大陸のケナガマンモスへの遺伝子流動は、クレストフカ標本系統のマンモスとワイオミング州のケナガマンモスとの間でのアレル共有のより大きな割合を生じたでしょう。クレストフカ標本のゲノムと、ワイオミング州の個体を含むDNA解析されたあらゆるケナガマンモスとの間のアレル共有の過剰は見つからなかったので、遺伝子流動のこの第二段階は一方向で、ケナガマンモスからコロンビアマンモスだった可能性が示唆されます。これは、コロンビアマンモスのゲノムの構成が2回の混合事象の結果であることを示唆します。その混合では、最初はクレストフカ標本系統とケナガマンモス系統のそれぞれから約50%の寄与が、その後では北アメリカ大陸のケナガマンモスからの約12%の遺伝子流動が続きます(図2c)。以下、本論文の図2です。
●マンモスの適応的進化への洞察
ケナガマンモスは一連の適応的変化を通じて、耐寒性で開地の専門家へと進化しました。本論文のゲノムの古さは、これらの適応がいつ進化したのか、調べることを可能にします。そのために、全ての後期更新世ケナガマンモスが有している派生的アレルと、全てのアフリカのサバンナゾウとアジアゾウが有する祖先的アレルのタンパク質コード変化が識別されました(合計5598個)。前期および中期更新世のマンモスのゲノムで呼び出される可能性のある多様体のうち、マンモス特有のタンパク質コード変化の85.2%(918個のうち782個)と88.7%(2906個のうち2578個)が、ステップマンモス的なアディチャ標本のゲノムと、前期ケナガマンモスであるチュコチヤ標本にそれぞれすでに存在しました。さらに、本論文でDNA解析された前期・中期・後期更新世のマンモスのゲノム間で、非同義箇所と同義箇所の比率の有意な違いは検出されませんでした。したがって、中期更新世開始式の気候とマンモスの形態の変化にも関わらず、この期間中にタンパク質コード変異率に顕著な変化は観察されません。
以前の分析では、北極圏環境への一連のケナガマンモスの適応の根底にあると考えられている、特定の遺伝的変化が特定されています。これらの多様体(91個)に関して、アディチャ標本とチュコチヤ標本のゲノムが、後期更新世のケナガマンモスで観察されたものと同じアミノ酸変化を共有するのかどうか、評価されました。毛の成長、概日リズム、熱感覚、白色および褐色脂肪沈着と関連する可能性がある遺伝子のうち、コーディング変化の大半がアディチャ標本(87%)とチュコチヤ標本(89%)の両方のゲノムに存在する、と明らかになりました。これは、シベリアのステップマンモス的なマンモス、つまりアディチャ標本が、すでに体毛やいくつかの寒く高緯度の環境への生理的適応をすでに発達させていた、と示唆します。しかし、ケナガマンモスで最もよく研究されている遺伝子の一つである、熱感覚毛の成長に関わっているかもしれない温度感受性チャネルをコードしているTRPV3では、後期更新世ケナガマンモスで識別された4個のアミノ酸変化のうち2個だけが、初期ケナガマンモス(チュコチヤ標本)のゲノムに存在していました。これは、TRPV3遺伝子における非同義変化が、適応的進化の単一の短い突発というよりはむしろ、数十万年にわたって起きたことを示唆します。
●考察
本論文のゲノム分析からは、コロンビアマンモスが、ケナガマンモスと、クレストフカ標本に表される以前には認識されていなかった古代マンモス系統との間の混合の産物である、と提案されます。これらの系統それぞれが最初にこの古代の混合のゲノムの約半分に寄与した、という知見を考えると、コロンビアマンモスの起源は交雑種分化事象を構成する、と提案されます。この異種交配事象は、北アメリカ大陸のマンモス集団の平均的な大臼歯形態に変化を与えなかったようですが、ミトコンドリアゲノムでは、全ての既知のコロンビアマンモスはケナガマンモスの多様性内に収まるという、コロンビアマンモスにおけるミトコンドリアゲノムと核ゲノムの不一致を説明できます。
ミトコンドリアゲノム系統樹に基づくと、全ての後期更新世コロンビアマンモスの最も近い共通母系祖先は42万年前頃(95% HPDで511000~338000万年前)と推定され、この異種交配事象が起きた下限年代を提供します(図1c)。マンモスはすでに北アメリカ大陸において150万年前頃までに出現していたので、これらの知見からは、異種交配事象前の北アメリカ大陸のマンモスはクレストフカ標本系統に分類される、と示唆されます。クレストフカ標本の形態を考えると、これは、最初の北アメリカ大陸のマンモスが、北アメリカ大陸への南方マンモス(メリジオナリスゾウ)の拡大に由来するというよりはむしろ、ステップマンモス的なユーラシアの祖先から派生した、という以前に提案されたモデルを確証します。
本論文の知見は、ゲノムデータが前期更新世標本からも回収できることを示し、種分化事象全体の適応的進化の研究の可能性を開きます。本論文で提示されたマンモスのゲノムから、この可能性を垣間見ることができます。ステップマンモス的な分類群(アディチャ標本)からケナガマンモス(チュコチヤ標本)への移行は、大臼歯形態の顕著な変化を表していますが、この間にゲノム規模の選択率の増加は観察されません。さらに、後期更新世マンモスで特定された多くの重要な適応は、すでに前期更新世のアディチャ標本のゲノムに存在していました。したがって、ケナガマンモスの起源と関連する適応的進化率増加の証拠は見つかりません。これは、マンモスの生息地と形態における大きな変化が、南方マンモス的集団とステップマンモス的集団との間でより早期に起きたと示唆した、以前の研究と一致します。
100万年以上前のDNAの回収は、古代の遺伝的記録は以前に示されたものを超えて拡張できる、とする以前の理論的予測を確証します。これまでで最古のDNA解析に成功した動物遺骸は、カナダのユーコン準州で発見された78万~56万年前頃のウマの骨でしたが(関連記事)、この研究の成果はこれを大きくさかのぼることになります。前期および中期更新世のゲノムの追加の回収と分析により、進化的変化と種分化の複雑な性質についての理解がさらに深まる、と期待されます。本論文の結果は、DNA回収の時間的限界を拡張するための永久凍結環境の価値を浮き彫りにし、高緯度からの標本が重要な役割を果たすだろう古代DNA研究の将来の時間的深さの重要な一区切りを示唆します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
遺伝学:100万年前のマンモスのDNAが発見された
マンモスの標本2点から100万年以上前の古代DNAが回収されたことを報告する論文が、Nature に掲載される。これまでに塩基配列が解読された最古のマンモスのDNAの年代は、78万~56万年前のものであった。
古代DNAは、先史時代の生物集団に関する我々の理解を深めてきた。しかし、種分化(新種の形成)などのいくつかの進化過程は、DNA研究の限界を超えていると考えられる時期に起こっていることが多い。それにもかかわらず、理論モデルからは、DNAが必要とされる時間スケールで存続できるかもしれないことが示唆されている。
今回、Love Dalénたちは、シベリア北東部で出土した前期更新世と中期更新世のマンモスの標本3点の臼歯からDNAが回収されたことを報告している。臼歯が採取された堆積層の年代に基づいて、3点中2点の標本(KrestovkaとAdychaと命名された)は100万年以上前のものとされた。ミトコンドリアゲノムデータを用いて得られたDNAに基づいた年代推定では、Krestovkaが約165万年前、Adychaが約134万年前、そして第3の標本(Chukochya)が87万年前のものであることが示唆された。
これらの標本から得られたゲノムデータは、前期更新世のシベリア東部に2系統のマンモスが存在していたことを示唆している。AdychaとChukochyaはケナガマンモス(Mammuthus primigenius)につながる系統だが、Krestovkaマンモスはこれまで知られていなかった系統だった。Dalénたちは、Krestovkaのゲノムが他のマンモスのゲノムから分岐したのは約266万~178万年前であり、Krestovkaは、北米に定着した最初のマンモスの祖先だと推定している。
古代DNA:100万年前のDNAが解き明かすマンモス類のゲノム史
古代DNA:100万年前の古代DNA
更新世の北米に生息したコロンビアマンモス(Mammuthus columbi)とケナガマンモス(M. primigenius)は、より以前の年代のユーラシア大陸に生息したメリジオナリスゾウ(M. meridionalis)やトロゴンテリーゾウ(M. trogontherii)の系統から派生した。今回L Dalénたちは、メリジオナリスゾウやケナガマンモスに似た形態を示す前期および中期更新世のシベリアのマンモス3個体について報告している。各標本の年代は、齧歯類の生層序に基づき、Krestovkaが120万~110万年前、Chukochyaが80万~50万年前、Adychaが(追加的な形態データの助けも借りて)120万~100万年前と推定された。著者たちは、マンモス種間の進化的関係をより明確にするため、これら3個体の大臼歯から古代DNAを抽出してゲノム規模のデータを得た。KrestovkaとAdychaの核DNAデータは、これまで得られたものの中で最も古い。系統発生解析および集団遺伝学的解析から、Krestovkaのゲノムの分岐は266万〜178万年前と、コロンビアマンモスとケナガマンモスの分岐のはるか前であったこと、そして、コロンビアマンモスはKrestovkaに代表される古代マンモス系統とケナガマンモスとの交雑の結果生じたことが示唆された。
参考文献:
Valk T. et al.(2021): Million-year-old DNA sheds light on the genomic history of mammoths. Nature, 591, 7849, 265–269.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-03224-9
マンモス(Mammuthus sp.)は500万年前頃にアフリカに出現し、その後、北半球の大半に拡散しました。260万~11700年前頃となる更新世に、マンモス系統は南方マンモス(Mammuthus meridionalis)とステップマンモス(Mammuthus trogontherii)を出現させた進化的変化を経て、後にはコロンビアマンモス(Mammuthus Columbi)とケナガマンモス(Mammuthus primigenius)が派生しました。これら分類群間の正確な関係は不確かですが、一般的な見解では、コロンビアマンモスは150万年前頃に北アメリカ大陸への拡散初期に進化し、ケナガマンモスは70万年前頃にシベリア北東部で最初に出現した、とされています。ステップマンモス(トロゴンテリーゾウ)と類似した(およびそれと同種と考えられている)マンモスは、少なくとも170万年前頃からユーラシアに生息していました。
ケナガマンモスおよびコロンビアマンモスの起源と進化を調べるため、前期および中期更新世のシベリア北東部のマンモスの大臼歯3個からゲノムデータが回収されました(図1a)。これらの大臼歯は、シベリア北東部のよく記録された化石を含むオリョリアン・スイート(Olyorian Suite)に由来し、古地磁気逆転の世界的な系列、およびベーリンジア東部の絶対年代を有する動物相と結びついた、齧歯類の生層序を用いて年代測定されました。これらの大臼歯のうち、その発見場所に基づいてクレストフカ(Krestovka)と呼ばれる標本は、元々ヨーロッパの中期更新世化石で定義された種であるステップマンモスと形態的に類似しており、120万~110万年前頃の下部オリョリアン堆積物から収集されました。第二の標本はアディチャ(Adycha)と呼ばれ、ステップマンモスのような形態で、オリョリアン・スイート内の年代はさほど確実ではありません(120万~50万年前頃)。しかし、アディチャ標本の形態からは、年代は前期オリョリアンで、おそらくは120万~100万年前頃と強く示唆されます。第三の標本はチュコチヤ(Chukochya)と呼ばれ、ケナガマンモスの初期形態と一致しており、上部オリョリアン堆積物のみが露出している区画で発見されており、80万~50万年前頃と示唆されます。これら3標本から完全な(網羅率37倍以上)ミトコンドリアゲノムが回収され、核ゲノムデータに関しては、クレストフカ標本が4900万塩基対、アディチャ標本が8億8400万塩基対、チュコチヤ標本が36億7100万塩基対ほど得られました。以下、本論文の図1です。
●DNAに基づく年代推定
ミトコンドリアゲノムを用いて標本の年代を推定するため、放射性炭素年代を有する標本群を用いて較正されたベイジアン分子時計分析と、530万年前頃のアフリカのサバンナゾウ系統とマンモス系統との間のゲノムの違いを仮定した対数正規分布事前分布が実行されました。この分析に基づいて、クレストフカ標本は165万年前頃、95%最高事後密度(highest posterior density、略してHPD)では208万~125万年前、アディチャ標本は169万年前頃(95% HPDで169万~106万年前)、チュコチヤ標本は87万年前頃(95% HPDで107万~68万年前)と推定されます。また、常染色体ゲノムデータを用いて、より高い網羅率のアディチャ標本(0.3倍)とチュコチヤ標本(1.4倍)の年代が調べられました。これは、アフリカのサバンナゾウとの最新の共通祖先以来の派生的変化の数の推定に基づきます。一定の変異率を仮定して、経時的な派生的多様体の蓄積に基づく手法が用いられました。この分析から、アディチャ標本は128万年前頃(95%信頼区間で164万~92万年前)、チュコチヤ標本は62万年前頃(95%信頼区間で100万~24万年前)と示唆されました。この分析は低網羅率のデータに基づいており、信頼区間は広く、推定年代はミトコンドリアミトコンドリアデータから得られたものと類似している、と本論文は指摘します。
チュコチヤ標本およびアディチャ標本のDNAに基づく推定は、生層序および古地磁気から独立して得られた地質学的年代推定と一致していますが、クレストフカ標本の分子時計年代測定は、生層序から得られた年代よりも古い、と示唆されます。これは、クレストフカ標本がより古い地質堆積物から嵌入したか、ミトコンドリアの変異率が過小評価されてきたことを意味するかもしれません。しかし、クレストフカ標本の遺伝的および地質学的年代推定の信頼区間はわずか5万年離れているだけで、全推定値は100万年以上前の年代を裏づけます。
●遺伝的に分岐したマンモス系統
常染色体データに基づく系統では、クレストフカ・アディチャ・チュコチヤの前期および中期更新世3標本は、スコットランド(48000年前頃)やシベリアのカンチャラン(Kanchalan)のケナガマンモス(24000年前頃)を含む、後期更新世の全てのユーラシアのマンモスのゲノムの範囲外となります(図1b)。アディチャ標本とチュコチヤ標本の系統的位置は、全ての後期更新世ケナガマンモスの直接的祖先集団に由来するゲノムであることと一致しますが、クレストフカ標本のゲノムは、コロンビアマンモスとケナガマンモスのゲノム間の分岐以前に分岐しました(図1b)。同様に、168個体の後期更新世マンモス標本を含むミトコンドリア系統のベイジアン再構築では、前期更新世のクレストフカ標本とアディチャ標本が、既知の全てのマンモスのミトコンドリアゲノムの基底部に位置づけられるのに対して、中期更新世のチュコチヤ標本のミトコンドリアゲノムは、後期更新世ケナガマンモスで以前に報告された3クレード(単系統群)の一つの基底部となります(図1c)。
核ゲノムおよびミトコンドリア両方のデータに基づく分岐年代の推定は、クレストフカ標本と本論文で分析された他の全マンモスとの間の深い分岐を示唆します。クレストフカ標本のミトコンドリアゲノムは、他の全てのマンモスのミトコンドリアと266万~178万年前(95% HPD)に分岐した、と推定されます。常染色体データから類似の推定分岐年代(95%信頼区間で265万~196万年前)が得られますが、この分析は限定的なゲノムデータに基づいていることに注意が必要です。さらに、F統計を用いての相対的分岐推定では、クレストフカ標本の核ゲノムは、高網羅率のケナガマンモスではヘテロ接合である部位において、他のあらゆるマンモスよりも派生的アレル(対立遺伝子)が少ない、と示されます。これは、クレストフカ標本系統が、アジアゾウとの分岐後ではあるものの、本論文で分析された他のマンモス間の分岐よりも前に分岐した、という見解へのさらなる裏づけを提供します。
全体としてこれらの分析で示唆されるのは、マンモスの2つの進化系統(つまり、2つの孤立集団が経時的に存続しました)が前期更新世後半にシベリア東部に生息していた、ということです。クレストフカ標本に代表される一方の系統は、北アメリカ大陸におけるマンモスの最初の出現前に他のマンモスと分岐しました。もう一方の系統は、中期および後期更新世の全ケナガマンモスとともにアディチャ標本で構成されます。
●コロンビアマンモスの起源
いくつかの証拠は、全ての他のマンモスと比較してコロンビアマンモスでは、クレストフカ標本に代表される系統にその祖先系統のずっと高い割合が由来する、と示唆されます。D統計を用いての分析では、コロンビアマンモスとクレストフカ標本との間で共有される過剰な派生的アレルの強い兆候が明らかになりました(図2a)。これは、その後の混合D統計なしの想定ではゼロから逸脱してないので、他の全てのマンモスのゲノムの基底部に位置するクレストフカ標本の平均的な系統的位置と矛盾します。そこで、Tree- Mixを用いてこのパターンがさらに調べられました。移動(混合)事象をモデル化しないと、どのモデルもデータに適合しません。代わりに、1つの移動事象をモデル化すると、良好な適合が観察されました。これは、コロンビアマンモスの祖先系統の一部がクレストフカ標本系統に由来することを示唆します。
マンモスの集団史におけるクレストフカ標本系統の進化的背景をさらに評価するため、補完的な混合グラフモデル手法が用いられました。クレストフカ標本とアディチャ標本とチュコチヤ標本を、シベリアのケナガマンモスとコロンビアマンモスとアジアゾウに関連づける、全ての可能性のある系統の組み合わせが、徹底的に検証されました。誤って呼び出された遺伝子型の影響を制限するために、アジアゾウ6頭のゲノムで多型として識別された1ヶ所を含めて、アジアゾウが外群として設定されました。混合事象なしのグラフモデルでは、データにうまく適合しなかったので、単純な系統樹のような集団史は除外されました。対照的に、1回の混合事象を伴うグラフモデルは、完全な適合を提供し、有意な外れ値なしで全てのf4統計の組み合わせを説明します。2つの混合グラフモデル手法から得られた点推定に基づいて、コロンビアマンモスは、クレストフカ標本と関連する系統に由来する祖先系統が38~43%、ケナガマンモス系統からの祖先系統が57~62%の混合事象の結果と推定されました(図2b)。
未知の起源集団(つまり、ゴースト混合)からの混合ゲノム領域を識別する目的の隠れマルコフモデルを用いて、コロンビアマンモスの複雑な祖先系統のさらなる裏づけが得られました。前期および中期更新世標本を一切含まずに行なわれたこの分析では、コロンビアマンモスのゲノムの約41%は、ケナガマンモスとは遺伝的に区別される1系統に由来する、と示唆されました。その後、ゴースト混合の結果として識別されたゲノム領域の2者間距離系統樹が再構築され、クレストフカ標本のゲノムと密接に関連している、と明らかになりました。対照的に、これらの領域を除外すると、コロンビアマンモスのゲノムの残りは、後期更新世ケナガマンモスの多様性の範囲内に収まります。
最後に、本論文のD統計分析でも、コロンビアマンモスとアメリカ合衆国ワイオミング州のケナガマンモスとの間での、派生的アレル共有のより高水準が識別されました。F4比に基づくと、これらのゲノム間で共有される祖先系統の過剰は10.7~12.7%と推定され、以前の研究と一致します。コロンビアマンモスはクレストフカ標本祖先系統の大きな割合を有しているので、コロンビアマンモスから北アメリカ大陸のケナガマンモスへの遺伝子流動は、クレストフカ標本系統のマンモスとワイオミング州のケナガマンモスとの間でのアレル共有のより大きな割合を生じたでしょう。クレストフカ標本のゲノムと、ワイオミング州の個体を含むDNA解析されたあらゆるケナガマンモスとの間のアレル共有の過剰は見つからなかったので、遺伝子流動のこの第二段階は一方向で、ケナガマンモスからコロンビアマンモスだった可能性が示唆されます。これは、コロンビアマンモスのゲノムの構成が2回の混合事象の結果であることを示唆します。その混合では、最初はクレストフカ標本系統とケナガマンモス系統のそれぞれから約50%の寄与が、その後では北アメリカ大陸のケナガマンモスからの約12%の遺伝子流動が続きます(図2c)。以下、本論文の図2です。
●マンモスの適応的進化への洞察
ケナガマンモスは一連の適応的変化を通じて、耐寒性で開地の専門家へと進化しました。本論文のゲノムの古さは、これらの適応がいつ進化したのか、調べることを可能にします。そのために、全ての後期更新世ケナガマンモスが有している派生的アレルと、全てのアフリカのサバンナゾウとアジアゾウが有する祖先的アレルのタンパク質コード変化が識別されました(合計5598個)。前期および中期更新世のマンモスのゲノムで呼び出される可能性のある多様体のうち、マンモス特有のタンパク質コード変化の85.2%(918個のうち782個)と88.7%(2906個のうち2578個)が、ステップマンモス的なアディチャ標本のゲノムと、前期ケナガマンモスであるチュコチヤ標本にそれぞれすでに存在しました。さらに、本論文でDNA解析された前期・中期・後期更新世のマンモスのゲノム間で、非同義箇所と同義箇所の比率の有意な違いは検出されませんでした。したがって、中期更新世開始式の気候とマンモスの形態の変化にも関わらず、この期間中にタンパク質コード変異率に顕著な変化は観察されません。
以前の分析では、北極圏環境への一連のケナガマンモスの適応の根底にあると考えられている、特定の遺伝的変化が特定されています。これらの多様体(91個)に関して、アディチャ標本とチュコチヤ標本のゲノムが、後期更新世のケナガマンモスで観察されたものと同じアミノ酸変化を共有するのかどうか、評価されました。毛の成長、概日リズム、熱感覚、白色および褐色脂肪沈着と関連する可能性がある遺伝子のうち、コーディング変化の大半がアディチャ標本(87%)とチュコチヤ標本(89%)の両方のゲノムに存在する、と明らかになりました。これは、シベリアのステップマンモス的なマンモス、つまりアディチャ標本が、すでに体毛やいくつかの寒く高緯度の環境への生理的適応をすでに発達させていた、と示唆します。しかし、ケナガマンモスで最もよく研究されている遺伝子の一つである、熱感覚毛の成長に関わっているかもしれない温度感受性チャネルをコードしているTRPV3では、後期更新世ケナガマンモスで識別された4個のアミノ酸変化のうち2個だけが、初期ケナガマンモス(チュコチヤ標本)のゲノムに存在していました。これは、TRPV3遺伝子における非同義変化が、適応的進化の単一の短い突発というよりはむしろ、数十万年にわたって起きたことを示唆します。
●考察
本論文のゲノム分析からは、コロンビアマンモスが、ケナガマンモスと、クレストフカ標本に表される以前には認識されていなかった古代マンモス系統との間の混合の産物である、と提案されます。これらの系統それぞれが最初にこの古代の混合のゲノムの約半分に寄与した、という知見を考えると、コロンビアマンモスの起源は交雑種分化事象を構成する、と提案されます。この異種交配事象は、北アメリカ大陸のマンモス集団の平均的な大臼歯形態に変化を与えなかったようですが、ミトコンドリアゲノムでは、全ての既知のコロンビアマンモスはケナガマンモスの多様性内に収まるという、コロンビアマンモスにおけるミトコンドリアゲノムと核ゲノムの不一致を説明できます。
ミトコンドリアゲノム系統樹に基づくと、全ての後期更新世コロンビアマンモスの最も近い共通母系祖先は42万年前頃(95% HPDで511000~338000万年前)と推定され、この異種交配事象が起きた下限年代を提供します(図1c)。マンモスはすでに北アメリカ大陸において150万年前頃までに出現していたので、これらの知見からは、異種交配事象前の北アメリカ大陸のマンモスはクレストフカ標本系統に分類される、と示唆されます。クレストフカ標本の形態を考えると、これは、最初の北アメリカ大陸のマンモスが、北アメリカ大陸への南方マンモス(メリジオナリスゾウ)の拡大に由来するというよりはむしろ、ステップマンモス的なユーラシアの祖先から派生した、という以前に提案されたモデルを確証します。
本論文の知見は、ゲノムデータが前期更新世標本からも回収できることを示し、種分化事象全体の適応的進化の研究の可能性を開きます。本論文で提示されたマンモスのゲノムから、この可能性を垣間見ることができます。ステップマンモス的な分類群(アディチャ標本)からケナガマンモス(チュコチヤ標本)への移行は、大臼歯形態の顕著な変化を表していますが、この間にゲノム規模の選択率の増加は観察されません。さらに、後期更新世マンモスで特定された多くの重要な適応は、すでに前期更新世のアディチャ標本のゲノムに存在していました。したがって、ケナガマンモスの起源と関連する適応的進化率増加の証拠は見つかりません。これは、マンモスの生息地と形態における大きな変化が、南方マンモス的集団とステップマンモス的集団との間でより早期に起きたと示唆した、以前の研究と一致します。
100万年以上前のDNAの回収は、古代の遺伝的記録は以前に示されたものを超えて拡張できる、とする以前の理論的予測を確証します。これまでで最古のDNA解析に成功した動物遺骸は、カナダのユーコン準州で発見された78万~56万年前頃のウマの骨でしたが(関連記事)、この研究の成果はこれを大きくさかのぼることになります。前期および中期更新世のゲノムの追加の回収と分析により、進化的変化と種分化の複雑な性質についての理解がさらに深まる、と期待されます。本論文の結果は、DNA回収の時間的限界を拡張するための永久凍結環境の価値を浮き彫りにし、高緯度からの標本が重要な役割を果たすだろう古代DNA研究の将来の時間的深さの重要な一区切りを示唆します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
遺伝学:100万年前のマンモスのDNAが発見された
マンモスの標本2点から100万年以上前の古代DNAが回収されたことを報告する論文が、Nature に掲載される。これまでに塩基配列が解読された最古のマンモスのDNAの年代は、78万~56万年前のものであった。
古代DNAは、先史時代の生物集団に関する我々の理解を深めてきた。しかし、種分化(新種の形成)などのいくつかの進化過程は、DNA研究の限界を超えていると考えられる時期に起こっていることが多い。それにもかかわらず、理論モデルからは、DNAが必要とされる時間スケールで存続できるかもしれないことが示唆されている。
今回、Love Dalénたちは、シベリア北東部で出土した前期更新世と中期更新世のマンモスの標本3点の臼歯からDNAが回収されたことを報告している。臼歯が採取された堆積層の年代に基づいて、3点中2点の標本(KrestovkaとAdychaと命名された)は100万年以上前のものとされた。ミトコンドリアゲノムデータを用いて得られたDNAに基づいた年代推定では、Krestovkaが約165万年前、Adychaが約134万年前、そして第3の標本(Chukochya)が87万年前のものであることが示唆された。
これらの標本から得られたゲノムデータは、前期更新世のシベリア東部に2系統のマンモスが存在していたことを示唆している。AdychaとChukochyaはケナガマンモス(Mammuthus primigenius)につながる系統だが、Krestovkaマンモスはこれまで知られていなかった系統だった。Dalénたちは、Krestovkaのゲノムが他のマンモスのゲノムから分岐したのは約266万~178万年前であり、Krestovkaは、北米に定着した最初のマンモスの祖先だと推定している。
古代DNA:100万年前のDNAが解き明かすマンモス類のゲノム史
古代DNA:100万年前の古代DNA
更新世の北米に生息したコロンビアマンモス(Mammuthus columbi)とケナガマンモス(M. primigenius)は、より以前の年代のユーラシア大陸に生息したメリジオナリスゾウ(M. meridionalis)やトロゴンテリーゾウ(M. trogontherii)の系統から派生した。今回L Dalénたちは、メリジオナリスゾウやケナガマンモスに似た形態を示す前期および中期更新世のシベリアのマンモス3個体について報告している。各標本の年代は、齧歯類の生層序に基づき、Krestovkaが120万~110万年前、Chukochyaが80万~50万年前、Adychaが(追加的な形態データの助けも借りて)120万~100万年前と推定された。著者たちは、マンモス種間の進化的関係をより明確にするため、これら3個体の大臼歯から古代DNAを抽出してゲノム規模のデータを得た。KrestovkaとAdychaの核DNAデータは、これまで得られたものの中で最も古い。系統発生解析および集団遺伝学的解析から、Krestovkaのゲノムの分岐は266万〜178万年前と、コロンビアマンモスとケナガマンモスの分岐のはるか前であったこと、そして、コロンビアマンモスはKrestovkaに代表される古代マンモス系統とケナガマンモスとの交雑の結果生じたことが示唆された。
参考文献:
Valk T. et al.(2021): Million-year-old DNA sheds light on the genomic history of mammoths. Nature, 591, 7849, 265–269.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-03224-9
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