ヤツメウナギ類のアンモシーテスの進化

 ヤツメウナギ類のアンモシーテス(現生ヤツメウナギ類の濾過摂食性の幼生)の進化に関する研究(Miyashita et al., 2021)が公表されました。アンモシーテスは、脊椎動物の祖先に関する仮説に長年影響を与え続けてきました。外見がナメクジウオに似たアンモシーテスから特殊化した捕食性の成体へと変態する、現生ヤツメウナギ類の生活史は、脊椎動物の起源に関して広く受け入れられている仮説を再現するように見えます。しかし、アンモシーテスの進化的な古さを裏づける直接的な証拠はなく、脊椎動物における原始的形態のモデルとしての位置づけは不確かです。

 本論文は、古生代のステム群ヤツメウナギ類4属、つまりハルディスティエラ(Hardistiella)、マヨミゾン(Mayomyzon)、ピピシカス(Pipiscius)、プリスコミゾン(Priscomyzon)の幼生および幼形について報告しています。これらの標本には、後期デボン紀のゴンドワナ大陸南端で発見された、プリスコミゾン属の孵化期から成体期に至る成長系列が含まれます。これら4属いずれにおいても、幼生にアンモシーテスの典型的な形質は認められませんでした。その代わり、これらの幼生は、大きく発達した眼、角質性の歯を伴う摂食装置、後部が閉ざされることにより消化管から独立した鰓篭など、現生ヤツメウナギ類では成体にしか見られない特徴を示しています。系統解析の結果、これら非アンモシーテス型の幼生は、ステム群ヤツメウナギ類の独立した3つ以上の系統で見られることが明らかになりました。この広がりは、アンモシーテスが脊椎動物の祖先の名残ではなく、現生ヤツメウナギ類の系統で生活史が特殊化した結果であることを強く示唆しています。

 以上の系統学的知見からはまた、ヌタウナギ類とヤツメウナギ類の最終共通祖先は、濾過摂食性の幼生期を持たない巨食性(macrophagous)の捕食者であったことも示唆されました。したがって、全ての現生脊椎動物の最終共通祖先の形質をよりよく表すのは、現生の円口類ではなく、円口類と顎口類のステム群をそれぞれ構成する、装甲を持つ「甲皮類」がふさわしいと考えられます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


動物学:古生代のステム群ヤツメウナギ類の非アンモシーテス型幼生

動物学:ヤツメウナギ類のアンモシーテスは比較的最近出現した

 ヤツメウナギ類のアンモシーテスは、脊椎動物の祖先の名残と考えられている。しかし、宮下哲人(カナダ自然博物館ほか)たちが今回報告している新たな化石証拠からは、最古のヤツメウナギ類が、現生ヤツメウナギ類の成体をそのまま小さくしたような姿で孵化していたことが明らかになった。これは、アンモシーテスが、より最近になって進化した形態である可能性を示唆している。この知見は、捕食性の脊椎動物が濾過摂食性の祖先から進化したとする脊椎動物の進化モデルの文脈において重要である。



参考文献:
Miyashita T. et al.(2021): Non-ammocoete larvae of Palaeozoic stem lampreys. Nature, 591, 7850, 408–412.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-03305-9

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