『卑弥呼』第59話「厲鬼」
『ビッグコミックオリジナル』2021年4月5日号掲載分の感想です。前回は、ところで終了しました。今回は、吉備の高嶋をトメ将軍とミマアキが訪れている場面から始まります。高嶋(高島)は、神武天皇が東征のさいに3年間行宮を置いた場所とされています。高嶋でも人の姿が見当たらず、大きな穴には多数の人々の焼死体が積み重なっていました。トメ将軍は、戦ならば槍や礫や矢がどこかに落ちているはずなのが、奇襲による焼き討ちではないか、と推測します。トメ将軍は、不吉な予感がすることから直ちに島から出て吉備本土に向かいます。トメ将軍一行が海岸に近づくと、お暈(ヒガサ)様を象ったワニ家の紋章の入った舟がすでに到着していました。どうやら、穂波(ホミ)の国の重臣で、サヌ王(記紀の神武天皇と思われます)の末裔が治めるとされる日下(ヒノモト)の国に向かったトモに追いついたようですが、トメ将軍は慎重で、夜まで様子を見ることにします。)
山社(ヤマト)では、楼観でイクメがヤノハに、出雲の神和(カンナギ)にして金砂(カナスナ)国の支配者である事代主(コトシロヌシ)と会うことにまだ疑問を呈していました。ヤノハはイクメに、顔を見なければ人となりも分からない、と言います。金砂国が筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)より優れているものは何か、と問われたイクメは、事代主も巫覡(フゲキ)も神に仕える身であると同時に、毉(クスシ)であることだろう、と答えます。イクメの説明によると、毉とは筑紫島の呪禁師もしくは巫医で、草木を育てて薬を作り、民に役立てることから毉と呼ばれているそうです。それなら和議を結んで損はない、とヤノハは考えます。そこへヌカデが多禰(タネ、種子島でしょうか)国より戻ってきます。最近のヤノハは、弟のチカラオ(ナツハ)以外には顔を見せませんでしたが、ヌカデとは対面します。日見子(ヒミコ)様とヤノハに呼びかけるヌカデに対して、二人だけの時はヤノハと呼んでよい、堅苦しい言葉は抜きだ、とヤノハは言います。少し女っぽくなったな、とヌカデに言われたヤノハは、チカラオに犯されたことに気づかれたのか、と慌てます。多禰での交渉についてヤノハに問われたヌカデは、ノシュ王はできた人で、山社との間に暈(クマ)があるので大っぴらには言えないものの、山社と争う気はないと言った、と答えます。閼宗(アソ)でヤノハが襲撃された件についても、ノシュ王は関りがないと述べ、サヌ王の末裔に仕える古の五士族が動いたのだろう、とヌカデは推測します。古の五士族の一人であるトモを殺すよう、トメ将軍に命じており、近いうちに事代主と会うためにと弁都留島(ムトルノシマ、現在の六連島でしょうか)に行く、と聞かされたヌカデは、改めてヤノハに感心します。
吉備では、トメ将軍一行がトモのものと思われる舟を見張っていましたが、夜明け近くになっても人の気配がまったくしません。トモは近くの邑に逗留しているのではないか、とミマアキは推測し、トメ将軍は上陸を決断します。トメ将軍一行がトモのものと思われる舟に近づくと異臭がしてきて、多数の死体が見つかります。トメ将軍は、即刻離れて口と鼻を覆うよう、命じます。トメ将軍は、これが韓(カラ、朝鮮半島を指すのでしょう)で一度見た疫病神(エヤミノカミ)の祟りだ、とミマアキに説明します。トメ将軍によると、それは厲鬼(レイキ)という見えない鬼で、人の体内に巣食い、人は身を焼かれ、摧かれるようにもがき苦しみ、前進に醜い瘡を発して死に、患者の近くで呼吸し唾を浴びた者は全員同じ厲鬼に取り憑かれるので、助かるには焼く以外に術はないそうです。トモの一行は、半数の漕ぎ手が厲鬼に憑かれ、舟を放棄するしかなかったのだろう、というわけです。豊秋津島(トヨアキツシマ、本州を指すと思われます)の人々は死に絶えたかもしれない、とトメ将軍が言うところで今回は終了です。
今回は、今後いよいよ本格的に本州の情勢が描かれていくのではないか、と予感させる内容になっており、ますます楽しみです。阿岐(アキ)や高嶋で多数の焼死体が見つかり、吉備でそれが疫病による死者だと明らかになりました。日下の国が突如沈黙したのも、この疫病が原因なのでしょう。今回の描写からは、この疫病は天然痘のように思われますが、日本列島に天然痘が到来したのはもっと後(本作は現時点で3世紀前半のようです)のようですから、別の疫病かもしれません。出雲はこの疫病の影響を受けていないようですから、現時点では本州・四国の瀬戸内海沿岸でのみ広がっているのかもしれません。この疫病は、『日本書紀』巻第五(崇神天皇)に見える疫病のことかもしれません。そうすると、ミマアキは『三国志』に見える彌馬獲支なのでしょうが、『日本書紀』の御間城入彦五十瓊殖天皇(崇神天皇)も想起させる名前ですから、後にはミマアキが「昼の王」となり、後世には「天皇」として語り継がれるようになった、という設定なのでしょうか。それはともかく、この疫病が山社と日下の国との関係を大きく動かしていくことになりそうですが、事代主は薬にも通じていると今回語られていますから、それが大きな役割を果たすのでしょう。次回もたいへん楽しみです。
山社(ヤマト)では、楼観でイクメがヤノハに、出雲の神和(カンナギ)にして金砂(カナスナ)国の支配者である事代主(コトシロヌシ)と会うことにまだ疑問を呈していました。ヤノハはイクメに、顔を見なければ人となりも分からない、と言います。金砂国が筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)より優れているものは何か、と問われたイクメは、事代主も巫覡(フゲキ)も神に仕える身であると同時に、毉(クスシ)であることだろう、と答えます。イクメの説明によると、毉とは筑紫島の呪禁師もしくは巫医で、草木を育てて薬を作り、民に役立てることから毉と呼ばれているそうです。それなら和議を結んで損はない、とヤノハは考えます。そこへヌカデが多禰(タネ、種子島でしょうか)国より戻ってきます。最近のヤノハは、弟のチカラオ(ナツハ)以外には顔を見せませんでしたが、ヌカデとは対面します。日見子(ヒミコ)様とヤノハに呼びかけるヌカデに対して、二人だけの時はヤノハと呼んでよい、堅苦しい言葉は抜きだ、とヤノハは言います。少し女っぽくなったな、とヌカデに言われたヤノハは、チカラオに犯されたことに気づかれたのか、と慌てます。多禰での交渉についてヤノハに問われたヌカデは、ノシュ王はできた人で、山社との間に暈(クマ)があるので大っぴらには言えないものの、山社と争う気はないと言った、と答えます。閼宗(アソ)でヤノハが襲撃された件についても、ノシュ王は関りがないと述べ、サヌ王の末裔に仕える古の五士族が動いたのだろう、とヌカデは推測します。古の五士族の一人であるトモを殺すよう、トメ将軍に命じており、近いうちに事代主と会うためにと弁都留島(ムトルノシマ、現在の六連島でしょうか)に行く、と聞かされたヌカデは、改めてヤノハに感心します。
吉備では、トメ将軍一行がトモのものと思われる舟を見張っていましたが、夜明け近くになっても人の気配がまったくしません。トモは近くの邑に逗留しているのではないか、とミマアキは推測し、トメ将軍は上陸を決断します。トメ将軍一行がトモのものと思われる舟に近づくと異臭がしてきて、多数の死体が見つかります。トメ将軍は、即刻離れて口と鼻を覆うよう、命じます。トメ将軍は、これが韓(カラ、朝鮮半島を指すのでしょう)で一度見た疫病神(エヤミノカミ)の祟りだ、とミマアキに説明します。トメ将軍によると、それは厲鬼(レイキ)という見えない鬼で、人の体内に巣食い、人は身を焼かれ、摧かれるようにもがき苦しみ、前進に醜い瘡を発して死に、患者の近くで呼吸し唾を浴びた者は全員同じ厲鬼に取り憑かれるので、助かるには焼く以外に術はないそうです。トモの一行は、半数の漕ぎ手が厲鬼に憑かれ、舟を放棄するしかなかったのだろう、というわけです。豊秋津島(トヨアキツシマ、本州を指すと思われます)の人々は死に絶えたかもしれない、とトメ将軍が言うところで今回は終了です。
今回は、今後いよいよ本格的に本州の情勢が描かれていくのではないか、と予感させる内容になっており、ますます楽しみです。阿岐(アキ)や高嶋で多数の焼死体が見つかり、吉備でそれが疫病による死者だと明らかになりました。日下の国が突如沈黙したのも、この疫病が原因なのでしょう。今回の描写からは、この疫病は天然痘のように思われますが、日本列島に天然痘が到来したのはもっと後(本作は現時点で3世紀前半のようです)のようですから、別の疫病かもしれません。出雲はこの疫病の影響を受けていないようですから、現時点では本州・四国の瀬戸内海沿岸でのみ広がっているのかもしれません。この疫病は、『日本書紀』巻第五(崇神天皇)に見える疫病のことかもしれません。そうすると、ミマアキは『三国志』に見える彌馬獲支なのでしょうが、『日本書紀』の御間城入彦五十瓊殖天皇(崇神天皇)も想起させる名前ですから、後にはミマアキが「昼の王」となり、後世には「天皇」として語り継がれるようになった、という設定なのでしょうか。それはともかく、この疫病が山社と日下の国との関係を大きく動かしていくことになりそうですが、事代主は薬にも通じていると今回語られていますから、それが大きな役割を果たすのでしょう。次回もたいへん楽しみです。
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