『卑弥呼』第57話「事代主」
『ビッグコミックオリジナル』2021年3月5日号掲載分の感想です。前回は、那(ナ)の国のウツヒオ王が、日見子(ヤノハ)と2人だけで会いたい、という出雲の神和(カンナギ)にして金砂(カナスナ)国の支配者である事代主(コトシロヌシ)からの申し出を、議なのか戦なのか、思案するところで終了しました。巻頭カラーとなる今回は、出雲で事代主の世話をしているシラヒコが、事代主に朝餉を用意する場面から始まります。事代主は穏やかな感じの中年男性です。事代主はシラヒコに、自分の選択をどう思うか、尋ねます。しつこく国を譲るよう要求する日下(ヒノモト)の国にはうんざりしているものの、これ以上鬼国(キノクニ)と戦い続ける力も自国にはないので、筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)に顕れた新しき日見子(ヒミコ)が自分と和を結ぶか、それとも戦を望むか問えるのは、日下が沈黙した今しかなかった、というわけです。シラヒコは、今度の日見子様(ヤノハ)は政治にも秀でた方と聞いているので、きっとこちらの意を汲んでくれるはずだ、と答えます。では、真の泰平も夢ではない、と事代主は言います。
夜萬加(ヤマカ)の洞窟で鹿の骨を焼いて占っていたヒルメは、そのひび割れから何も読めない、と悩んでいました。そこへ、山社(ヤマト)の近くの森に火を放ち、ヤノハが真の日見子なのか確かめるようヒルメから命じられていた、山社の祈祷女(イノリメ)の副長であるウズメが現れます。命じられた通り森に火を放った、とウズメから報告を受けたヒルメは、これでヤノハの神通力は消えた、いや元々持っていなかったのだから、化けの皮が剥がれたと言うべきか、と喜びます。すると、ウズメは怒って取り乱し、日見子様(ヤノハ)の祈祷が天に通じて雨が山火事をすっかり消し去った、一時でも日見子様が偽物と疑うなど、我々は大罪を犯した、と言って刃物を取り出し、ヒルメを殺して自殺しようとします。ヒルメは近くの灰をウズメの顔に投げつけ、鹿の骨でウズメの首を刺して殺し、何とか難を逃れます。ヒルメは、ヤノハを犯すよう命じていたナツハから報告がないことを不審に思います。
山社では、ヤノハがミマト将軍とイクメにまだ謁見を許さず、楼観に籠っていました。山火事は昨日収まったので報告をしたい、と言うミマト将軍に対して、娘のイクメは、山火事は一見鎮まったように見えて必ずくすぶっているので、それが消えるまで祈祷を続ける、とのヤノハの意図を父に説明します。ヤノハが楼観に籠ってから、すでに5日目になっていました。そこへ、那のウツヒオ王からの使者が木簡(日本列島における木簡使用の証拠は、現時点では7世紀までしかさかのぼらないと思いますが)を届けてきます。那の使者から木簡を受け取ったミマト将軍の部下らしいタカクラは、どうしても日見子様の判断を仰ぎたい、とのウツヒオ王の要請をミマト将軍とイクメに伝えますが、日見子様は祈祷中なので、誰も面会はできない、とイクメは言います。するとタカクラは、この木簡の差出人はウツヒオ王ではなく出雲の王(事代主)で、那の使者によると、放置すれば戦が起きる一大事だ、とミマト将軍とイクメに伝えます。楼観に籠り切りのヤノハは、どうしたらよい、とモモソに問いかけます。幸運にも大雨が降って山火事は消え、自分の力を皆が過大評価するようになるが、そもそも自分には力すらない、とヤノハ自嘲します。モモソのように本当に神通力を持つ誰かが現れれば、すぐにその者に倭の安寧を託し、自分は弟のチカラオ(ナツハ)と雲隠れできるのに、とヤノハぼやきます。
そこへチカラオが現れ、ヤノハは布で隔てて自分の姿が見えない状況で、ミマト将軍とイクメから報告を受けます。イクメはヤノハに、出雲は金砂国の聖地で、事代主は山社の日見子・日見彦(ヒミヒコ)に相当する人物だ、と説明します。自分とは違う神の使いなのか、とヤノハに問われたイクメは、金砂や吉備(キビ)が奉ずるのは大穴牟遅(オオアナムヂ)という神だ、と答えます。出雲から那に届けられた木簡の内容をヤノハに問われたミマト将軍は、事代主からの国譲りの申し出だ、と答えます。それは、筑紫島を譲れということなのか、それとも金砂国を譲るということなのか、とヤノハに問われたミマト将軍は、どちらにも取れる、と答えます。イクメがヤノハに、事代主は筑紫島と和議を結ぶため、日見子様(ヤノハ)と対決したいと所望している、と説明します。和議のための対決とは何なのか、とヤノハに問われたイクメは、日見子様が奉ずる神と、事代主が信ずる神のどちらが倭国を真に司る神か二人で決しようとの提案だ、と答えます。面白い、と言うヤノハに、裏がある話かもしれないのでこの申し出を受けるべきではない、とイクメもミマト将軍も反対します。するとヤノハは、自分の大望は誰がやってもよいのではないかと常々思っていた、と意図を打ち明けます。万が一、自分が敗れても、倭を平らかにする大仕事は事代主に任せられるわけですね、とヤノハが愉快そうに笑い、すぐ真顔に戻るところで今回は終了です。
今回は、出雲の事代主が登場し、いよいよ壮大な話になってきたな、と今後がますます楽しみになってきました。出雲の社はひじょうに高く、出雲大社は古代には現在よりもずっと高い建物だった、との見解が採用されているようです。事代主は、政治力の高い現在の日見子(ヤノハ)ならば、自分の意を汲んでくれるだろう、と言っているので、単純に日見子と対決して、どちらの神が倭国を真に司るのか、決しようとしているわけではなさそうです。事代主の意図がどこにあり、ヤノハがそれを見抜いてどのような決断を下すのか、たいへん注目されます。他に適任者がいれば倭国泰平を任せてもよい、とのヤノハの発言は、弟のチカラオと逃亡しようと決断したことからも、本音でしょう。その開き直りとも言えるヤノハの思い切りのよさが、チカラオに犯されて窮地に立っている現状を打開するのかもしれません。また、サヌ王(記紀の神武天皇と思われます)の末裔が治める日下の動向も気になります。日下が沈黙した隙に、事代主は山社と接触したわけですが、日下の沈黙の理由とともに、日下の偵察を命じられたトメ将軍とミマアキが任務を果たせるのかも注目されます。これまで、本作の舞台は基本的に九州に限定されていましたが、いよいよ本格的に本州が登場しそうで、今後の話も大いに期待されます。
夜萬加(ヤマカ)の洞窟で鹿の骨を焼いて占っていたヒルメは、そのひび割れから何も読めない、と悩んでいました。そこへ、山社(ヤマト)の近くの森に火を放ち、ヤノハが真の日見子なのか確かめるようヒルメから命じられていた、山社の祈祷女(イノリメ)の副長であるウズメが現れます。命じられた通り森に火を放った、とウズメから報告を受けたヒルメは、これでヤノハの神通力は消えた、いや元々持っていなかったのだから、化けの皮が剥がれたと言うべきか、と喜びます。すると、ウズメは怒って取り乱し、日見子様(ヤノハ)の祈祷が天に通じて雨が山火事をすっかり消し去った、一時でも日見子様が偽物と疑うなど、我々は大罪を犯した、と言って刃物を取り出し、ヒルメを殺して自殺しようとします。ヒルメは近くの灰をウズメの顔に投げつけ、鹿の骨でウズメの首を刺して殺し、何とか難を逃れます。ヒルメは、ヤノハを犯すよう命じていたナツハから報告がないことを不審に思います。
山社では、ヤノハがミマト将軍とイクメにまだ謁見を許さず、楼観に籠っていました。山火事は昨日収まったので報告をしたい、と言うミマト将軍に対して、娘のイクメは、山火事は一見鎮まったように見えて必ずくすぶっているので、それが消えるまで祈祷を続ける、とのヤノハの意図を父に説明します。ヤノハが楼観に籠ってから、すでに5日目になっていました。そこへ、那のウツヒオ王からの使者が木簡(日本列島における木簡使用の証拠は、現時点では7世紀までしかさかのぼらないと思いますが)を届けてきます。那の使者から木簡を受け取ったミマト将軍の部下らしいタカクラは、どうしても日見子様の判断を仰ぎたい、とのウツヒオ王の要請をミマト将軍とイクメに伝えますが、日見子様は祈祷中なので、誰も面会はできない、とイクメは言います。するとタカクラは、この木簡の差出人はウツヒオ王ではなく出雲の王(事代主)で、那の使者によると、放置すれば戦が起きる一大事だ、とミマト将軍とイクメに伝えます。楼観に籠り切りのヤノハは、どうしたらよい、とモモソに問いかけます。幸運にも大雨が降って山火事は消え、自分の力を皆が過大評価するようになるが、そもそも自分には力すらない、とヤノハ自嘲します。モモソのように本当に神通力を持つ誰かが現れれば、すぐにその者に倭の安寧を託し、自分は弟のチカラオ(ナツハ)と雲隠れできるのに、とヤノハぼやきます。
そこへチカラオが現れ、ヤノハは布で隔てて自分の姿が見えない状況で、ミマト将軍とイクメから報告を受けます。イクメはヤノハに、出雲は金砂国の聖地で、事代主は山社の日見子・日見彦(ヒミヒコ)に相当する人物だ、と説明します。自分とは違う神の使いなのか、とヤノハに問われたイクメは、金砂や吉備(キビ)が奉ずるのは大穴牟遅(オオアナムヂ)という神だ、と答えます。出雲から那に届けられた木簡の内容をヤノハに問われたミマト将軍は、事代主からの国譲りの申し出だ、と答えます。それは、筑紫島を譲れということなのか、それとも金砂国を譲るということなのか、とヤノハに問われたミマト将軍は、どちらにも取れる、と答えます。イクメがヤノハに、事代主は筑紫島と和議を結ぶため、日見子様(ヤノハ)と対決したいと所望している、と説明します。和議のための対決とは何なのか、とヤノハに問われたイクメは、日見子様が奉ずる神と、事代主が信ずる神のどちらが倭国を真に司る神か二人で決しようとの提案だ、と答えます。面白い、と言うヤノハに、裏がある話かもしれないのでこの申し出を受けるべきではない、とイクメもミマト将軍も反対します。するとヤノハは、自分の大望は誰がやってもよいのではないかと常々思っていた、と意図を打ち明けます。万が一、自分が敗れても、倭を平らかにする大仕事は事代主に任せられるわけですね、とヤノハが愉快そうに笑い、すぐ真顔に戻るところで今回は終了です。
今回は、出雲の事代主が登場し、いよいよ壮大な話になってきたな、と今後がますます楽しみになってきました。出雲の社はひじょうに高く、出雲大社は古代には現在よりもずっと高い建物だった、との見解が採用されているようです。事代主は、政治力の高い現在の日見子(ヤノハ)ならば、自分の意を汲んでくれるだろう、と言っているので、単純に日見子と対決して、どちらの神が倭国を真に司るのか、決しようとしているわけではなさそうです。事代主の意図がどこにあり、ヤノハがそれを見抜いてどのような決断を下すのか、たいへん注目されます。他に適任者がいれば倭国泰平を任せてもよい、とのヤノハの発言は、弟のチカラオと逃亡しようと決断したことからも、本音でしょう。その開き直りとも言えるヤノハの思い切りのよさが、チカラオに犯されて窮地に立っている現状を打開するのかもしれません。また、サヌ王(記紀の神武天皇と思われます)の末裔が治める日下の動向も気になります。日下が沈黙した隙に、事代主は山社と接触したわけですが、日下の沈黙の理由とともに、日下の偵察を命じられたトメ将軍とミマアキが任務を果たせるのかも注目されます。これまで、本作の舞台は基本的に九州に限定されていましたが、いよいよ本格的に本州が登場しそうで、今後の話も大いに期待されます。
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