古気候の証拠の解釈の見直し
古気候の証拠の解釈の見直しに関する研究(Bova et al., 2021)が公表されました。海底堆積物コアから得られた代理指標の再構築結果は、最終間氷期と現在の間氷期の前半における気温の急激な上昇(完新世の10000~6000年前頃と最終間氷期の128000~123000年前頃の温暖化極大期)を示しており、これらは現代の暖かさをほぼ間違いなく超えていました。6000年前頃となる完新世中期の温暖化極大以降、工業時代まで寒冷化したと推測されています。対照的に、気候モデルでは、両方の期間を通して単調な温暖化がシミュレートされています。モデルとデータのこのような大きな不一致は、代理指標の再構築結果と気候モデル両方の信頼性を損ない、最近の気候変動の機構的理解を妨げています。
この研究は、完新世と最終間氷期における気温のこれまでの全球再構築結果が、年間気温ではなく季節的な気温の変化を反映している、と明らかにし、そうした気温の変化を年平均気温に変換する方法を開発しました。さらにこの研究は、全球の年平均海面水温が完新世の初め(12000年前頃)から着実に上昇しており、それが初期には氷床の後退に応答して(12000~6500年前頃)、その後は温室効果ガス濃度の上昇の結果として(過去約6500年間で0.25±0.21℃)生じた、と実証します。これは同時期の気候モデルと一致しています。
一方、最終間氷期の年平均気温は安定しており、完新世の推定気温よりも高かった、と明らかになりました。この研究はその原因を、温室効果ガス濃度がほぼ一定で、氷床面積が減少していたためと推測しています。そこでこの研究は、完新世と最終間氷期の気候が2つの点で異なっていた、と主張します。つまり、第一に、氷期のより大きな残存氷床が前期完新世を寒冷化するように働いたこと、第二に、温室効果ガス濃度の上昇により後期完新世の地球が温暖化したことです。さらに、この再構築結果は、現代の全球気温が過去12000年にわたる年平均気温を超えており、おそらく最終間氷期(128000~115000年前頃)の暖かさに近づいていることを示しています。
このように古気候変化がより詳細に解明されていけば、人類の拡散に関する理解も進展するのではないか、と期待されます。最終間氷期には、現生人類(Homo sapiens)だけではなく、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)やインドネシア領フローレス島のホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)など、他のホモ属もまだ存在していました。これらの絶滅ホモ属も、こうした気候変化に対応して移動していったのではないか、と考えられます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
気候科学:海面水温は約1万2000年前から上昇し続けている
全球海面水温が過去1万2000年にわたって上昇し続けていることを示唆した論文が、Nature に掲載される。今回の研究は、完新世にわたる過去の気候変化の再構築に用いられてきた気候モデルとデータとの間に存在していたこれまでの不一致を整合的に説明する上で役立つ。
保存された地質学的資料に基づく過去の気候の再構築は、これまでにも実施されており、約6000年前に温暖化のピークがあり、その後は産業化時代まで気温の低下が続いたことが示されている。しかし、こうした気候の再構築は、完新世を通じて温暖化が続いていたことを示唆する長期的な気候モデリングと一致しない。
今回、Samantha Bovaたちは、最近実施された二度の気候の再構築を改めて解釈し、再構築された気温の大部分が、年間気温ではなく、特定の季節の気温を示すものだったことを明らかにした。そして、Bovaたちは、この点に対処するため、個々の記録の季節的偏りを評価する方法を開発し、これらの記録を用いて年平均海面水温を算出した。その結果、年平均海面水温は過去1万2000年間にわたって着実に上昇しており、これは同時期の気候モデルと一致していることを見いだした。Bovaたちは、この温暖化の原因は、1万2000~6500年前に氷床が後退したことであり、その後は温室効果ガスの排出量増加だとする考えを示している。また、Bovaたちは、現在の気温は過去1万2000年間で最も高く、約12万5000年前の最終間氷期の気温に近い水準にあると結論付けている。
気候科学:完新世と最終間氷期における温暖化極大期の季節的起源
気候科学:古気候の証拠の解釈の見直しによって示された完新世の長期的な温暖化
過去の気候のこれまでの再構築結果は、約6000年前の完新世の中期に温暖化が極大になり、その後、工業時代まで寒冷化したことを示していた。今回S Bovaたちは、海洋記録から得られた証拠を再評価し、それらが年間気温ではなく季節的な気温を示していることを見いだしている。そして著者たちは、補正を用いて、過去1万2000年にわたって年間平均海面水温が温暖化してきたことも示している。この温暖化は、最初は氷床の後退によって、その後は温室効果ガスの増加によって駆動された。現在の気温は、過去1万2000年間で最も高く、約12万5000年前の最終間氷期の気温と同程度である。
参考文献:
Bova S. et al.(2021): Seasonal origin of the thermal maxima at the Holocene and the last interglacial. Nature, 589, 7843, 548–553.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-03155-x
この研究は、完新世と最終間氷期における気温のこれまでの全球再構築結果が、年間気温ではなく季節的な気温の変化を反映している、と明らかにし、そうした気温の変化を年平均気温に変換する方法を開発しました。さらにこの研究は、全球の年平均海面水温が完新世の初め(12000年前頃)から着実に上昇しており、それが初期には氷床の後退に応答して(12000~6500年前頃)、その後は温室効果ガス濃度の上昇の結果として(過去約6500年間で0.25±0.21℃)生じた、と実証します。これは同時期の気候モデルと一致しています。
一方、最終間氷期の年平均気温は安定しており、完新世の推定気温よりも高かった、と明らかになりました。この研究はその原因を、温室効果ガス濃度がほぼ一定で、氷床面積が減少していたためと推測しています。そこでこの研究は、完新世と最終間氷期の気候が2つの点で異なっていた、と主張します。つまり、第一に、氷期のより大きな残存氷床が前期完新世を寒冷化するように働いたこと、第二に、温室効果ガス濃度の上昇により後期完新世の地球が温暖化したことです。さらに、この再構築結果は、現代の全球気温が過去12000年にわたる年平均気温を超えており、おそらく最終間氷期(128000~115000年前頃)の暖かさに近づいていることを示しています。
このように古気候変化がより詳細に解明されていけば、人類の拡散に関する理解も進展するのではないか、と期待されます。最終間氷期には、現生人類(Homo sapiens)だけではなく、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)やインドネシア領フローレス島のホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)など、他のホモ属もまだ存在していました。これらの絶滅ホモ属も、こうした気候変化に対応して移動していったのではないか、と考えられます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
気候科学:海面水温は約1万2000年前から上昇し続けている
全球海面水温が過去1万2000年にわたって上昇し続けていることを示唆した論文が、Nature に掲載される。今回の研究は、完新世にわたる過去の気候変化の再構築に用いられてきた気候モデルとデータとの間に存在していたこれまでの不一致を整合的に説明する上で役立つ。
保存された地質学的資料に基づく過去の気候の再構築は、これまでにも実施されており、約6000年前に温暖化のピークがあり、その後は産業化時代まで気温の低下が続いたことが示されている。しかし、こうした気候の再構築は、完新世を通じて温暖化が続いていたことを示唆する長期的な気候モデリングと一致しない。
今回、Samantha Bovaたちは、最近実施された二度の気候の再構築を改めて解釈し、再構築された気温の大部分が、年間気温ではなく、特定の季節の気温を示すものだったことを明らかにした。そして、Bovaたちは、この点に対処するため、個々の記録の季節的偏りを評価する方法を開発し、これらの記録を用いて年平均海面水温を算出した。その結果、年平均海面水温は過去1万2000年間にわたって着実に上昇しており、これは同時期の気候モデルと一致していることを見いだした。Bovaたちは、この温暖化の原因は、1万2000~6500年前に氷床が後退したことであり、その後は温室効果ガスの排出量増加だとする考えを示している。また、Bovaたちは、現在の気温は過去1万2000年間で最も高く、約12万5000年前の最終間氷期の気温に近い水準にあると結論付けている。
気候科学:完新世と最終間氷期における温暖化極大期の季節的起源
気候科学:古気候の証拠の解釈の見直しによって示された完新世の長期的な温暖化
過去の気候のこれまでの再構築結果は、約6000年前の完新世の中期に温暖化が極大になり、その後、工業時代まで寒冷化したことを示していた。今回S Bovaたちは、海洋記録から得られた証拠を再評価し、それらが年間気温ではなく季節的な気温を示していることを見いだしている。そして著者たちは、補正を用いて、過去1万2000年にわたって年間平均海面水温が温暖化してきたことも示している。この温暖化は、最初は氷床の後退によって、その後は温室効果ガスの増加によって駆動された。現在の気温は、過去1万2000年間で最も高く、約12万5000年前の最終間氷期の気温と同程度である。
参考文献:
Bova S. et al.(2021): Seasonal origin of the thermal maxima at the Holocene and the last interglacial. Nature, 589, 7843, 548–553.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-03155-x
この記事へのコメント