更新世の氷期の海洋循環を再編成する南極氷山

 南極氷山による更新世の氷期の海洋循環の再編成に関する研究(Starr et al., 2021)が公表されました。現代の海洋における大規模な水塊の移動の支配的な特徴は、大西洋子午面循環(AMOC)です。この循環の形状と活動度は、さまざまな時間スケールで全球の気候に影響を及ぼします。過去150万年間、氷期のAMOCは現在のそれとは著しく異なっていたことを、古海洋学的証拠は示唆しています。すなわち、大西洋では南大洋起源の深層水の体積が増し、一方でその上の北大西洋深層水(NADW)の中心部は間氷期よりも浅くなっていました。

 この現象の起源を裏づける証拠がないことは、全球規模で氷期の状態に至るための一連の事象の順番が明らかになっていないことを意味しています。本論文は、更新世の間氷期から氷期への移行において、南大洋インド洋–大西洋区(東経0~50度)における南極由来の氷山の融解の位置のより北へのシフトが、深層水塊の再編成に対して系統的に1000~2000年先行していたことを示す、複数の代替指標に基づく証拠を提示します。

 この研究は、氷山流出軌跡モデルによる実験を用いて、このような氷期の氷山の流出経路の変化により南大洋の淡水が大きく再分配されたことを実証します。これは、南極周辺の海氷被覆の増加と相まって、正の浮力アノマリーのAMOCの上方セルへの「脱出」を可能にし、南大洋の表層の状態とNADWの形成の間にテレコネクションをもたらした、と示唆します。この機構の規模と整調は中期更新世の気候移行期に大きく変化しており、同時に「南方からの正の浮力アノマリーの脱出」の規模と深層循環への擾乱が増大していることから、この機構が、約10万年周期で氷期間氷期のサイクルが起こる「10万年世界」への移行期における重要なフィードバックだった、と示唆されます。この時期は、ホモ属の進化、さらには現生人類(Homo sapiens)の進化に重要なので、その観点からも注目されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


気候科学:南極氷山が更新世の氷期の海洋循環を再編成する

気候科学:更新世の氷期の海洋循環を大きく変えた南極由来の氷山の融解

 今回A Starrたちは、南極で生まれた氷山の融解によって生じた淡水が北大西洋へと運ばれ、これが北大西洋の塩分濃度勾配を変化させるのに十分であり、その結果、海洋循環のパターンが変化したことを示している。



参考文献:
Starr A. et al.(2021): Antarctic icebergs reorganize ocean circulation during Pleistocene glacials. Nature, 589, 7841, 236–241.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-03094-7

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