『卑弥呼』第55話「天命」
『ビッグコミックオリジナル』2021年2月5日号掲載分の感想です。前回は、ヤノハが山社(ヤマト)の楼観で自分を犯したナツハに、自分の弟のチカラオだと指摘するところで終了しました。今回は、ヤノハとチカラオが故郷の邑でともに暮らしていた場面から始まります。犬と遊んでいるチカラオを、義母から叱られるぞ、とヤノハが窘めます。チカラオは、遊んでいるのではない、犬を食料としか考えてない輩が大勢いるが、人との戦い方を仕込んでおかねばならない、と反論します。今日の夕食は強米(オコワ)だ、とヤノハが言うとチカラオは御馳走だと喜びます。義母は、明日不吉なことが起こるかもしれないから今夜は力を蓄えろ、とヤノハに指示していました。義母のいる祠に向かうヤノハは、犬と遊んでいるチカラオを見て、いつまでも童だと苦笑します。ヤノハが祠に水を持っていくと、義母が祈りを捧げていました。義母は祈りを捧げて5日目になりますが、水を飲んでいるだけでした。義母は祈りの時、いつも水を飲むだけのようですが、今回の御祈祷は特別なようです。天照大神様が明日本当に天岩戸に籠るのか、とヤノハに問われた義母は、天照様のご機嫌次第だが、明日は前にお隠れになった日からが18年と11日目だから、と答えます。昼間に太陽が隠れると、筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)のどこかで最悪のことが起きる、と言う義母に、何かあれば自分とチカラオで邑人を守る、とヤノハは力強く誓います。その晩、邑は襲撃され、ヤノハはチカラオを起こしてと答えます。襲って来たのは、海の向こう(四国でしょうか)の五百木(イオキ)の賊でした。ヤノハはチカラオに、自分は義母に知らせてくるので、邑人達を山に逃すよう、指示します。死ぬなよ、と言ってヤノハは山に駆け出します。チカラオは犬を呼び、賊に対処します。
菟狭(ウサ、現在の大分県宇佐市でしょうか)では、サヌ王(記紀の神武天皇と思われます)の子孫が支配すると言われる日下(ヒノモト)の国へと向かう、トメ将軍とミマアキが休息していました。日の出を待って内海(ウチウミ、瀬戸内海でしょうか)を斜めに横断して埃国(エノクニ)の宮(現在の広島県安芸府中町の多家神社でしょうか)に向かう、と言うトメ将軍に、サヌ王は菟狭にも滞在したのか、とミマアキは尋ねます。そうだ、と答えたトメ将軍は、近くに見える山に祈祷女(イノリメ)の集団が住んでおり、歴代の日見子(ヒミコ)の多くがこの地の出身だ、と言います。後の宇佐神宮ということでしょうか。今の日見子様(ヤノハ)もここから養女に迎えられたのだろうか、ミマアキに尋ねられたトメ将軍は、日見子様は自分がどこの出身か思い出せないと言っている、と答えます。昨日トメ将軍は菟狭の祈祷女に自分たちの航海を占ってもらい、今が好機との返答を得ていました。日下は吉備(キビ)を制し、鬼国(キノクニ)に睨みを利かせ、淡々と金砂(カナスナ)国を狙っていましたが、最近になって沈黙したそうだ、とミマアキに説明したトメ将軍は、日下に何が起きたのか分からないが、今なら日下を偵察しても無事に帰れるかもしれない、と言います。日下が力を失った場合、豊秋津島(トヨアキツシマ、本州を指すと思われます)の諸国はどうなるのか、伊予之二名島(イヨノフタナノシマ、四国と思われます)の伊予(イヨ)・五百木(イオキ)・土器(ドキ)・賛支(サヌキ)・賛支(サヌキ)・土左(トサ)に、内海の伯方(ハカタ)の動向も気になる、と言うミマアキに、日見子様の天命次第だな、とトメ将軍は答えます。
それが、ヤノハが再会前に見たチカラオの最後の姿でした。山社の楼観でヤノハはちからに、お前は死んだと思っていた、と言います。何も覚えていないのか、とヤノハに問われたチカラオは肯きますが、自分の話を信じたのか、とヤノハに問われると再度頷きます。ヤノハが祠に着くと、すでに義母は斬首されていました。風向きが変わり、山社が火事から逃れたことを悟ったヤノハは、さすがはミマト将軍だ、と感心します。先ほどまでは、炎が自分たちを焼き尽くしてしまえばよいと考えていた、とチカラオ(ナツハ)に打ち明けたヤノハは、倭国の王たちは、姉や妹、兄や弟、時には母すらも妻に娶り、それは一族の血を守るためだと言うが、義母は、その行為は天罰が下る所業だと言っていた、とチカラオに説明します。自分が男と通じたことも必ず誰かに知られるから、我々は二人とも命はなく、自分の天命も尽きたということだ、とヤノハ自嘲しますが、すぐに、だが自分は死にたくないし、やっと巡り合えた弟のチカラオも失いたくない、と言います。もう倭の泰平はどうでもよい、と言ったヤノハが、ともに山社から逃げよう、とチカラオに提案するところで、今回は終了です。
今回は、ヤノハとチカラオ(ナツハ)との過去が明かされました。チカラオは当時から犬を訓練していたようで、故郷の邑が襲撃されたさいに賊の捕虜となり、奴隷のような扱いを受け、その過酷な経験のなかで、話せなくなり過去の重要な記憶も失われた、という設定のようです。チカラオはヤノハとの記憶を失っていたので、自分が慕うヒルメからヤノハを犯すよう命じられても全く動揺しなかった、ということなのでしょう。今回の描写から、姉弟の仲は良好だったと窺えますから、冷酷で用心深いヤノハも、弟かもしれないと考えてつい油断してしまったようです。ヤノハがチカラオに共に山社からの逃亡しよう、と提案したのは予想外でした。妊娠しない限り、ヤノハが男と通じたことは分からないように思いますが、優れた祈祷女には見抜かれる、ということなのでしょうか。予想外のヤノハの提案でしたが、生きることに必死だったこれまでの描写を考えると、ヤノハらしい選択とも言えます。モモソが序盤で殺されたので、ヤノハが『三国志』に見える卑弥呼(日見子)になるのは確実と考えていましたが、順調に倭国王となるのではなく、今後も多くの危難が待ち構えている、ということでしょうか。今後どのように話が展開するのか、楽しみです。
今回は、日下に向かっているトメ将軍から重要な情報が明かされたことも注目されます。影響力を拡大していたらしい日下が最近になって沈黙した理由は、今後の展開と深く関わってきそうです。日下は吉備を制したそうですが、纏向遺跡と初期前方後円墳では吉備の大きな影響力が指摘されているので、すでに日下では纏向遺跡が建設されており、発展途上なのかもしれません。現在は日向にある山社国(邪馬台国)が、後には纏向遺跡一帯に「遷都」するのではないか、と私は以前から予想していますが、どうなるでしょうか。また、山社だけではなく、すでに出雲も聖地であることが明かされていましたが、今回の描写から推測すると、菟狭(宇佐)も聖地のようです。菟狭は、歴代の日見子のうち多くの出身地とのことですから、あるいは今後、重要な役割を担うことになるかもしれません。次回もたいへん楽しみです。
菟狭(ウサ、現在の大分県宇佐市でしょうか)では、サヌ王(記紀の神武天皇と思われます)の子孫が支配すると言われる日下(ヒノモト)の国へと向かう、トメ将軍とミマアキが休息していました。日の出を待って内海(ウチウミ、瀬戸内海でしょうか)を斜めに横断して埃国(エノクニ)の宮(現在の広島県安芸府中町の多家神社でしょうか)に向かう、と言うトメ将軍に、サヌ王は菟狭にも滞在したのか、とミマアキは尋ねます。そうだ、と答えたトメ将軍は、近くに見える山に祈祷女(イノリメ)の集団が住んでおり、歴代の日見子(ヒミコ)の多くがこの地の出身だ、と言います。後の宇佐神宮ということでしょうか。今の日見子様(ヤノハ)もここから養女に迎えられたのだろうか、ミマアキに尋ねられたトメ将軍は、日見子様は自分がどこの出身か思い出せないと言っている、と答えます。昨日トメ将軍は菟狭の祈祷女に自分たちの航海を占ってもらい、今が好機との返答を得ていました。日下は吉備(キビ)を制し、鬼国(キノクニ)に睨みを利かせ、淡々と金砂(カナスナ)国を狙っていましたが、最近になって沈黙したそうだ、とミマアキに説明したトメ将軍は、日下に何が起きたのか分からないが、今なら日下を偵察しても無事に帰れるかもしれない、と言います。日下が力を失った場合、豊秋津島(トヨアキツシマ、本州を指すと思われます)の諸国はどうなるのか、伊予之二名島(イヨノフタナノシマ、四国と思われます)の伊予(イヨ)・五百木(イオキ)・土器(ドキ)・賛支(サヌキ)・賛支(サヌキ)・土左(トサ)に、内海の伯方(ハカタ)の動向も気になる、と言うミマアキに、日見子様の天命次第だな、とトメ将軍は答えます。
それが、ヤノハが再会前に見たチカラオの最後の姿でした。山社の楼観でヤノハはちからに、お前は死んだと思っていた、と言います。何も覚えていないのか、とヤノハに問われたチカラオは肯きますが、自分の話を信じたのか、とヤノハに問われると再度頷きます。ヤノハが祠に着くと、すでに義母は斬首されていました。風向きが変わり、山社が火事から逃れたことを悟ったヤノハは、さすがはミマト将軍だ、と感心します。先ほどまでは、炎が自分たちを焼き尽くしてしまえばよいと考えていた、とチカラオ(ナツハ)に打ち明けたヤノハは、倭国の王たちは、姉や妹、兄や弟、時には母すらも妻に娶り、それは一族の血を守るためだと言うが、義母は、その行為は天罰が下る所業だと言っていた、とチカラオに説明します。自分が男と通じたことも必ず誰かに知られるから、我々は二人とも命はなく、自分の天命も尽きたということだ、とヤノハ自嘲しますが、すぐに、だが自分は死にたくないし、やっと巡り合えた弟のチカラオも失いたくない、と言います。もう倭の泰平はどうでもよい、と言ったヤノハが、ともに山社から逃げよう、とチカラオに提案するところで、今回は終了です。
今回は、ヤノハとチカラオ(ナツハ)との過去が明かされました。チカラオは当時から犬を訓練していたようで、故郷の邑が襲撃されたさいに賊の捕虜となり、奴隷のような扱いを受け、その過酷な経験のなかで、話せなくなり過去の重要な記憶も失われた、という設定のようです。チカラオはヤノハとの記憶を失っていたので、自分が慕うヒルメからヤノハを犯すよう命じられても全く動揺しなかった、ということなのでしょう。今回の描写から、姉弟の仲は良好だったと窺えますから、冷酷で用心深いヤノハも、弟かもしれないと考えてつい油断してしまったようです。ヤノハがチカラオに共に山社からの逃亡しよう、と提案したのは予想外でした。妊娠しない限り、ヤノハが男と通じたことは分からないように思いますが、優れた祈祷女には見抜かれる、ということなのでしょうか。予想外のヤノハの提案でしたが、生きることに必死だったこれまでの描写を考えると、ヤノハらしい選択とも言えます。モモソが序盤で殺されたので、ヤノハが『三国志』に見える卑弥呼(日見子)になるのは確実と考えていましたが、順調に倭国王となるのではなく、今後も多くの危難が待ち構えている、ということでしょうか。今後どのように話が展開するのか、楽しみです。
今回は、日下に向かっているトメ将軍から重要な情報が明かされたことも注目されます。影響力を拡大していたらしい日下が最近になって沈黙した理由は、今後の展開と深く関わってきそうです。日下は吉備を制したそうですが、纏向遺跡と初期前方後円墳では吉備の大きな影響力が指摘されているので、すでに日下では纏向遺跡が建設されており、発展途上なのかもしれません。現在は日向にある山社国(邪馬台国)が、後には纏向遺跡一帯に「遷都」するのではないか、と私は以前から予想していますが、どうなるでしょうか。また、山社だけではなく、すでに出雲も聖地であることが明かされていましたが、今回の描写から推測すると、菟狭(宇佐)も聖地のようです。菟狭は、歴代の日見子のうち多くの出身地とのことですから、あるいは今後、重要な役割を担うことになるかもしれません。次回もたいへん楽しみです。
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