類似した文脈で世界共通に現れるヒトの16種類の顔表情
類似した文脈で世界共通に現れるヒトの16種類の顔表情に関する研究(Cowen et al., 2021)が公表されました。複数の文化にわたり、ヒトの顔の表情が特定の社会的文脈でどの程度変わるのかを理解することは、感情が重要な課題や機会に対する適応反応を可能にしている、とする理論の中核です。しかし、社会的文脈と特定の顔表情とを結び付ける具体的な証拠は乏しく、その大部分は調査に基づく手法に依拠しており、そうした手法は言語や標本規模の小ささにより制約を受けることが多くなります。
この研究は、機械学習法の一種である深層ニューラルネットワーク(DNN)を現実世界の動的な行動に適用し、自然な社会的文脈(たとえば、結婚式やスポーツの試合など)が異なる文化において特定の顔表情と関連づけられるのかどう、確認しました。この研究はまず、DNNを用いた2つの実験で、144ヶ国で撮影された600万本のビデオ映像(YouTube動画)の数千の文脈において、16種類の顔表情が体系的に出現する程度について調べました。その結果、各顔表情には一連の文脈との独特な関連が見られ、それらは世界の12の地域間で70%共通している、と明らかになりました。たとえば、「畏敬の念」、「満足感」、「勝利」と標識された顔の表情は、さまざまな地域の結婚式やスポーツイベントとおもに関連していました。これらの反応に関しては、現代人に共通の進化的基盤があることを示唆しています。
これらの関連性と符合して、異なる顔表情がどの程度頻繁に現れるかは、どの文脈が最も顕著であるかに応じて地域ごとに違っていました。この結果は、ヒトの顔表情のきめ細かなパターンが、現代世界では広く保存されていることを明らかにしています。今後の研究では、より多様な文化集団を使ってDNNを訓練し、英語を話す人々の信念や固定観念だけに依存することを避けるべきである、と指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
神経科学:あなたが微笑むとき、世界中の人々も微笑んでいる
さまざまな社会的状況において、世界中の人々が同じような表情を示すことを示唆する論文が、Nature に掲載される。今回の研究では、600万本以上のビデオが分析され、世界中の人々がさまざまな社会的状況下で示す表情にかなりの普遍性があることが示唆された。ただし、今回の知見から感情そのものに普遍性があると断定されたわけではなく、日常生活の中で感情がどのように表現されるかについて十分に偏りのない見解を得るには、さらなる研究が必要だ。
世界中の人々は、結婚式では笑顔が多く、葬式ではしかめっ面が多いのだろうか。こうした表情が、文化を越えて保存されているかを評価することは困難であり、これまでの研究は、言語の障壁とサンプルの少なさという制約のある調査に基づいて行われていたため、感情の普遍性に関する見解が分かれていた。今回、Alan Cowenたちの研究チームは、機械学習の一種である深層ニューラルネットワーク(DNN)を用いて、現実世界での行動を評価し、社会的状況が文化の違いを超えて特定の表情と関連するかを確認した。
今回の研究では、インド国内で英語を話す人々がDNNを訓練し、それぞれ独自の英語の感情カテゴリーと関連する16種の顔の表情パターンを識別できるようにした。次に、DNNは、類似した複数の表情パターンを個々の表現(例えば、笑顔)としてクラスター化することを学習した上で、144か国で制作された600万本のYouTube動画を評価して、類似した状況下で類似した表現が世界中で頻繁に見られることを明らかにした。例えば、「畏敬の念」、「満足感」、「勝利」と標識された顔の表情は、さまざまな地域の結婚式やスポーツイベントと主に関連していた。また、それぞれのタイプの顔の表情は、世界の12の地域で70%保存されている一連の状況と明確な関連性を有しており、世界中でかなりの普遍性があることが示唆された。
以上の知見は、感情の原因、機能、普遍性を解明する上で重要な意味を持っている。同時掲載のNews & Viewsで、Lisa Feldman Barrettは、今回の研究で、これまでの研究よりも自然な条件で表情と社会的状況との関連性が特定された点を指摘している。また、Barrettは、今後の研究では、より多様な文化集団を使ってDNNを訓練し、英語を話す人々の信念や固定観念だけに依存することを避けるべきだという考えを示している。
参考文献:
Cowen AS. et al.(2021): Sixteen facial expressions occur in similar contexts worldwide. Nature, 589, 7841, 251–257.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-3037-7
この研究は、機械学習法の一種である深層ニューラルネットワーク(DNN)を現実世界の動的な行動に適用し、自然な社会的文脈(たとえば、結婚式やスポーツの試合など)が異なる文化において特定の顔表情と関連づけられるのかどう、確認しました。この研究はまず、DNNを用いた2つの実験で、144ヶ国で撮影された600万本のビデオ映像(YouTube動画)の数千の文脈において、16種類の顔表情が体系的に出現する程度について調べました。その結果、各顔表情には一連の文脈との独特な関連が見られ、それらは世界の12の地域間で70%共通している、と明らかになりました。たとえば、「畏敬の念」、「満足感」、「勝利」と標識された顔の表情は、さまざまな地域の結婚式やスポーツイベントとおもに関連していました。これらの反応に関しては、現代人に共通の進化的基盤があることを示唆しています。
これらの関連性と符合して、異なる顔表情がどの程度頻繁に現れるかは、どの文脈が最も顕著であるかに応じて地域ごとに違っていました。この結果は、ヒトの顔表情のきめ細かなパターンが、現代世界では広く保存されていることを明らかにしています。今後の研究では、より多様な文化集団を使ってDNNを訓練し、英語を話す人々の信念や固定観念だけに依存することを避けるべきである、と指摘されています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
神経科学:あなたが微笑むとき、世界中の人々も微笑んでいる
さまざまな社会的状況において、世界中の人々が同じような表情を示すことを示唆する論文が、Nature に掲載される。今回の研究では、600万本以上のビデオが分析され、世界中の人々がさまざまな社会的状況下で示す表情にかなりの普遍性があることが示唆された。ただし、今回の知見から感情そのものに普遍性があると断定されたわけではなく、日常生活の中で感情がどのように表現されるかについて十分に偏りのない見解を得るには、さらなる研究が必要だ。
世界中の人々は、結婚式では笑顔が多く、葬式ではしかめっ面が多いのだろうか。こうした表情が、文化を越えて保存されているかを評価することは困難であり、これまでの研究は、言語の障壁とサンプルの少なさという制約のある調査に基づいて行われていたため、感情の普遍性に関する見解が分かれていた。今回、Alan Cowenたちの研究チームは、機械学習の一種である深層ニューラルネットワーク(DNN)を用いて、現実世界での行動を評価し、社会的状況が文化の違いを超えて特定の表情と関連するかを確認した。
今回の研究では、インド国内で英語を話す人々がDNNを訓練し、それぞれ独自の英語の感情カテゴリーと関連する16種の顔の表情パターンを識別できるようにした。次に、DNNは、類似した複数の表情パターンを個々の表現(例えば、笑顔)としてクラスター化することを学習した上で、144か国で制作された600万本のYouTube動画を評価して、類似した状況下で類似した表現が世界中で頻繁に見られることを明らかにした。例えば、「畏敬の念」、「満足感」、「勝利」と標識された顔の表情は、さまざまな地域の結婚式やスポーツイベントと主に関連していた。また、それぞれのタイプの顔の表情は、世界の12の地域で70%保存されている一連の状況と明確な関連性を有しており、世界中でかなりの普遍性があることが示唆された。
以上の知見は、感情の原因、機能、普遍性を解明する上で重要な意味を持っている。同時掲載のNews & Viewsで、Lisa Feldman Barrettは、今回の研究で、これまでの研究よりも自然な条件で表情と社会的状況との関連性が特定された点を指摘している。また、Barrettは、今後の研究では、より多様な文化集団を使ってDNNを訓練し、英語を話す人々の信念や固定観念だけに依存することを避けるべきだという考えを示している。
参考文献:
Cowen AS. et al.(2021): Sixteen facial expressions occur in similar contexts worldwide. Nature, 589, 7841, 251–257.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-3037-7
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