鮮新世温暖期の偏西風

 鮮新世温暖期の偏西風に関する研究(Abell et al., 2021)が公表されました。偏西風と呼ばれる中緯度域の西からの卓越風は、表層海洋循環を駆動し、大気と海洋の間の熱交換、運動量交換、炭素交換を調整するのに重要な役割を果たしているため、気候システムの基本的な要素です。最近の研究では、人為起源の強制に応答して偏西風帯が極方向に移動している、と示唆されています。気候の温暖化が続く中、大気中の二酸化炭素が約350~450 ppmで現在より気温が約2~4°C高かった鮮新世などの過去の温暖期の偏西風を再構築することで、温暖化におけるこうした風系の位置と強さの変化に関する理解を深めることができます。

 本論文は、鮮新世温暖期において、273万年前頃に生じた北半球氷床発達(iNHG)後の氷期に比べて偏西風がより弱く、極方向に寄っていたことを示しています。この結果はダストと輸送生産性の再構築に基づいており、iNHG期の主要な氷床の発達が、北太平洋中緯度域のダストフラックスの大幅な増加(とくに北太平洋亜寒帯と比較して)を伴っていた、と示しています。この変化の後、ダストと生産性の変化はおもに、後期鮮新世と前期更新世の氷期–間氷期サイクルをたどっていました。

 本論文はこのパターンに基づいて、偏西風の変化はおもに鮮新世–更新世間の温度勾配と氷体積の変動によって駆動された、と推測しています。この関係と他のダスト記録や気候モデリングの結果を組み合わせたところ、提案された偏西風の変化が全球的に同期していた、と見いだされました。鮮新世が将来の温暖化を予測するものであるならば、両半球において現在の偏西風の極方向への移動と弱化が続くと予想される、と本論文は結論づけています。鮮新世から更新世へと移行していった300万~200万年前頃の間は大きな気候変動期とされており、ホモ属の起源との関連でも注目されます(関連記事)。


参考文献:
Abell JT. et al.(2021): Poleward and weakened westerlies during Pliocene warmth. Nature, 589, 7840, 70–75.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-03062-1

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