2020年の古人類学界
あくまでも私の関心に基づいたものですが、年末になったので、今年(2020年)も古人類学界について振り返っていくことにします。近年ずっと繰り返していますが、今年も古代DNA研究の進展には目覚ましいものがありました。正直なところ、最新の研究動向にまったく追いついていけていないのですが、今後も少しでも多く取り上げていこう、と考えています。当ブログでもそれなりの数の古代DNA研究を取り上げましたが、知っていてもまだ取り上げていない研究も少なくありませんし、何よりも、まだ知らない研究も多いのではないか、と思います。古代DNA研究の目覚ましい進展を踏まえて、今年はネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)といった非現生人類ホモ属(古代型ホモ属)と、現生人類(Homo sapiens)とに分けますが、当分はこの区分を続けそうで、あるいはさらに細分することになるかもしれません。以下、今年の動向を私の関心に沿って整理すると、以下のようになります。
(1)古代型ホモ属のDNA研究。
まず注目されるのが、サハラ砂漠以南の現代アフリカ人のゲノムに、以前の推定よりもずっと高い割合でネアンデルタール人由来の領域があることを指摘した研究です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202002article_6.html
アルタイ地域のチャギルスカヤ洞窟(Chagyrskaya Cave)で発見されたネアンデルタール人個体からは高品質なゲノムデータが得られました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202005article_8.html
ネアンデルタール人とデニソワ人のY染色体に関する研究では、ミトコンドリアDNA(mtDNA)と同様に、ネアンデルタール人系統はデニソワ人系統よりも現生人類系統の方に近い、と明らかになりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202009article_35.html
まだ査読前ですが、アルタイ地域においてデニソワ人とネアンデルタール人との交雑が一般的だったことを指摘した論文も注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202004article_19.html
アイスランド人の大規模なゲノム解析では、現代人の表現型におけるネアンデルタール人の遺伝的影響が以前の推定よりも小さい可能性と、ネアンデルタール人との交雑を経由してアイスランド人の祖先がデニソワ人の遺伝的影響を受けた可能性とが指摘されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202004article_42.html
アジア東部北方の早期現生人類のDNA解析の結果、すでにデニソワ人の遺伝的影響を受けていることが明らかになりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_13.html
欠失多型も調べた研究では、非アフリカ系現代人全員の共通祖先集団とネアンデルタール人との交雑に加えて、アジア東部とヨーロッパ西部の現代人の祖先集団が、それぞれネアンデルタール人と交雑した、と推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_21.html
多様な地域の現代人の高品質なゲノムデータからは、現代人のゲノムにおけるネアンデルタール人由来の領域の大半は、現生人類とネアンデルタール人との1回の交雑に由来するものの、現生人類とデニソワ人との交雑は複数回起きた、と推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202005article_18.html
非アフリカ系現代人では出アフリカのさいに失われた遺伝子が、ネアンデルタール人との交雑により再導入された可能性も指摘されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202008article_6.html
カメルーンの古代人のDNA解析では、アフリカの現生人類集団における複雑な分岐と混合が明らかになるとともに、遺伝学的に未知の古代型ホモ属から現代人への遺伝的影響の可能性が指摘されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202001article_37.html
同じくアフリカ西部のナイジェリアとシエラレオネの現代人のDNA解析からも、未知の古代型ホモ属から現代人への遺伝的影響の可能性が指摘されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202002article_31.html
新たな手法を用いた研究でも、現生人類とネアンデルタール人とデニソワ人と遺伝学的に未知の古代型ホモ属との間で複雑な混合があった、と指摘されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202008article_14.html
ネアンデルタール人由来の遺伝子が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を重症化させる、との研究は世界中で大きな話題となりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202010article_6.html
古代DNA研究では、人類も含めて動物遺骸だけではなく、堆積物のDNA解析も進められるようになり、人類遺骸が発見されていない遺跡の人類集団の遺伝的特徴も解明されるのではないか、と予想されます。しかも、イスラエルの遺跡では中部旧石器時代層の堆積物の非ヒト動物のmtDNAが確認された、と報告されており、
https://sicambre.seesaa.net/article/202009article_19.html
古代DNA研究の適用範囲が時空間的に大きく拡大するのではないか、と大いに期待されます。
また、古代型ホモ属ではありませんが、コーカサスの遺跡の25000年前頃の堆積物から、ヒトの核DNAも解析されたと報告されており、
https://sicambre.seesaa.net/article/202009article_20.html
堆積物のDNA解析はますます期待されます。
これらはまだ学会での報告の段階ですが、論文として公表された研究では、チベット高原で10万年前頃の堆積物からデニソワ人のmtDNAが確認されており、今後、古代型ホモ属の特定において堆積物のDNA解析が大きな威力を発揮しそうです。
https://sicambre.seesaa.net/article/202011article_2.html
(2)現生人類の古代DNA研究。
現生人類の古代DNA研究では、ユーラシア西部、とくにヨーロッパが進んでいますが、今年も、当ブログで取り上げただけでも重要な研究が多数公表されました。今年公表されたユーラシア西部の古代DNA研究の特徴は、すでに他地域よりもずっと多く蓄積されたデータを踏まえて、時空間的に広範な対象を扱う統合的なものが多いことです。ユーラシア西部の古代DNA研究を整理した概説もあり、近年の研究を把握するのに有益です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202008article_42.html
地中海を対象とした研究では、中期新石器時代から現代のサルデーニャ島や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202002article_57.html
新石器時代以降の地中海西部諸島や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202003article_3.html
鉄器時代から現代のレバノンや、
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_18.html
青銅器時代レヴァント南部集団を扱った研究があります。
https://sicambre.seesaa.net/article/202009article_33.html
包括的な研究としては、新石器時代から青銅器時代の近東を対象としたものがあります。
https://sicambre.seesaa.net/article/202009article_30.html
とくに古代DNA研究が進んでいるヨーロッパでは、今年も注目される研究が多く公表されました。ヨーロッパ東部での後期新石器時代の漸進的な遺伝的混合を指摘した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202003article_28.html
中期新石器時代~前期青銅器時代のスイスを対象とした研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202004article_43.html
ヨーロッパ中央部新石器時代最初期における農耕民と狩猟採集民との関係を対象とした研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202005article_35.html
ゴットランド島の円洞尖底陶文化と戦斧文化の関係を取り上げた研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_20.html
ゲノムデータと同位体データからアイルランドの新石器時代の社会構造を推測した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_26.html
ヨーロッパにおける乳糖分解酵素活性持続の選択を推測した研究です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202009article_8.html
フランスに関しても、ドイツの一部とともに中石器時代から新石器時代を対象とした研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_1.html
中石器時代から鉄器時代を対象とした研究があります。
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_2.html
これまでアフリカの古代DNA研究は、低緯度地帯に位置しているため遅れていましたが、近年では着実に進んでおり、その一部は(1)でも取り上げました。近年のアフリカの古代DNA研究を整理した総説はたいへん有益です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202008article_41.html
古代DNAデータから完新世のアフリカにおける複雑な移動と相互作用を推測した研究は、包括的で注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_23.html
また、アフリカは現代人の遺伝的データの蓄積でも、その多様性から考えて他地域から遅れており、古代DNA研究ではありませんが、アフリカ人の包括的なゲノムデータを報告した研究は、今後の研究の基礎になるだろう、という意味で注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202011article_3.html
アメリカ大陸は、ヨーロッパほどではないとしても、古代DNA研究が比較的進んでいる地域と言えそうで、今年も重要な研究が公表されました。それは、9000~500年前頃のアンデス中央部および南部中央を対象とした研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202005article_17.html
カリブ海諸島の3200~400年前頃の古代ゲノムデータを報告した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_12.html
カリブ海諸島の古代ゲノムデータをさらに拡張した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202012article_34.html
ペルー南部沿岸地域におけるインカ帝国期の移住を取り上げた研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202008article_12.html
5800~100年前頃の南パタゴニアの古代ゲノムデータを報告した研究です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202008article_15.html
また、基本的には現代人のゲノムデータに依拠しているものの、先コロンブス期のポリネシア人とアメリカ大陸住民との接触の可能性を指摘した研究もたいへん注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202007article_13.html
オセアニアに関しては、古代DNAデータからバヌアツにおける複数の移住を推測した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202011article_20.html
グアム島の古代DNAデータを報告した研究がも注目れます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202012article_32.html
家畜の古代DNA研究も進んでおり、家畜ウマのアナトリア半島起源説を検証した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202009article_23.html
古代ゲノムデータに基づいてイヌの進化史を推測した研究が注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202011article_4.html
今年の古代DNA研究の大きな成果は、これまでユーラシア西部と比較して大きく遅れていたユーラシア東部に関する重要な研究が相次いで公表されたことです。もっとも、まだユーラシア西部と比較して遅れていることは否定できませんが、今後の研究の進展が大いに期待されます。近年のユーラシア東部の古代DNA研究の概説は有益ですが、その後に公表された重要な研究もあります。
https://sicambre.seesaa.net/article/202008article_32.html
これまでの空白を埋めるという意味でとくに重要なのは、中国陝西省やロシア極東地域や台湾など広範な地域の新石器時代個体群を中心とした研究と、
https://sicambre.seesaa.net/article/202004article_41.html
中国南北沿岸部の新石器時代個体群を中心とした研究と、
https://sicambre.seesaa.net/article/202005article_26.html
新石器時代から鉄器時代の中国北部複数地域の個体群を中心とした研究です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_3.html
また、チベット人の形成史に関しては、包括的な研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202007article_21.html
高地適応関連遺伝子に関する研究が注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202012article_2.html
ユーラシア東部内陸部では、バイカル湖地域における上部旧石器時代から青銅器時代の人口史を取り上げた研究と、
https://sicambre.seesaa.net/article/202005article_38.html
ユーラシア東部草原地帯の6000年の人口史を取り上げた研究がたいへん注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202011article_12.html
これと関連して、コーカサス北部の紀元前8~紀元前5世紀の個体で確認されたY染色体ハプログループ(YHg)D1a1b1aは、ユーラシア内陸部における東西の広範な人類集団の移動を反映しているかもしれないという意味で、注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_36.html
(3)現生人類の起源と拡散に関する新たな知見。
現生人類への進化の選択圧として、変動性の激しい環境への適応が指摘されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202010article_36.html
しかし、そうだとしても、それは非アフリカ地域でも同様だったはずで、人口規模と遺伝的多様性も背景にあったのかもしれません。
オーストラリアでは6万年以上前となる植物性食料の利用が報告されており、共伴する石器から現生人類の所産と推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202005article_15.html
ただ、人類遺骸が確認されているわけではなく、現生人類と断定するのは時期尚早だと思います。上述の堆積物のDNA解析が利用できれば、この問題の解決も期待できますが、6万年以上前のオーストラリアとなると、難しそうです。
ヨーロッパでは45000年以上前となる現生人類の痕跡が確認されましたが、この現生人類集団が現代人にどの程度遺伝的影響を残しているのか、まだ不明です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202005article_20.html
スリランカではアフリカ外で最古となる48000年前頃までさかのぼる弓矢技術の証拠が発見されており、現生人類の所産と考えられていますが、DNA解析は難しそうなので、確証を得るには人類遺骸の発見が必要になると思います。
https://sicambre.seesaa.net/article/202007article_23.html
アラビア半島内陸部では10万年以上前となる現生人類の足跡が発見されましたが、この現生人類集団と現代人との遺伝的つながりは不明です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202009article_29.html
ポルトガルの遺跡の石器から、現生人類はイベリア半島西端に4万年前頃には到達していた、と確認されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202010article_1.html
マレー半島西部では7万年前頃の石器が発見されており、現生人類の所産と推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202010article_17.html
すでにたびたび述べてきましたが、これら以前の想定よりも早い現生人類の出アフリカが事実だとしても、それらの現生人類集団が現代人にどの程度遺伝的影響を残しているのかは不明で、絶滅もしくはほとんど遺伝的影響を残していない可能性も想定しておくべきだと思います。
上記の3区分に当てはまりませんが、その他には、アメリカ大陸最古級の人類の痕跡を報告した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202007article_34.html
ジャワ島におけるホモ・エレクトス(Homo erectus)の出現年代が以前の推定よりも繰り下がる可能性を指摘した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202001article_16.html
アフリカ南部におけるホモ・エレクトス的な形態の頭蓋の年代が200万年前頃までさかのぼることを報告した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202004article_8.html
タンパク質解析によりホモ・アンテセッサー(Homo antecessor)を現生人類やネアンデルタール人やデニソワ人の共通祖先系統と分岐した系統と位置づけた研究が注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202004article_9.html
この他にも取り上げるべき研究は多くあるはずですが、読もうと思っていながらまだ読んでいない論文もかなり多く、古人類学の最新の動向になかなか追いつけていないのが現状で、重要な研究でありながら把握しきれていないものも多いのではないか、と思います。この状況を劇的に改善させられる自信はまったくないので、せめて今年並には本・論文を読み、地道に最新の動向を追いかけていこう、と考えています。なお、過去の回顧記事は以下の通りです。
2006年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_27.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_28.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_29.html
2007年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/200712article_28.html
2008年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/200812article_25.html
2009年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/200912article_25.html
2010年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/201012article_26.html
2011年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/201112article_24.html
2012年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/201212article_26.html
2013年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/201312article_33.html
2014年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/201412article_32.html
2015年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/201512article_31.html
2016年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/201612article_29.html
2017年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/201712article_29.html
2018年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/201812article_42.html
2019年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/201912article_57.html
(1)古代型ホモ属のDNA研究。
まず注目されるのが、サハラ砂漠以南の現代アフリカ人のゲノムに、以前の推定よりもずっと高い割合でネアンデルタール人由来の領域があることを指摘した研究です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202002article_6.html
アルタイ地域のチャギルスカヤ洞窟(Chagyrskaya Cave)で発見されたネアンデルタール人個体からは高品質なゲノムデータが得られました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202005article_8.html
ネアンデルタール人とデニソワ人のY染色体に関する研究では、ミトコンドリアDNA(mtDNA)と同様に、ネアンデルタール人系統はデニソワ人系統よりも現生人類系統の方に近い、と明らかになりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202009article_35.html
まだ査読前ですが、アルタイ地域においてデニソワ人とネアンデルタール人との交雑が一般的だったことを指摘した論文も注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202004article_19.html
アイスランド人の大規模なゲノム解析では、現代人の表現型におけるネアンデルタール人の遺伝的影響が以前の推定よりも小さい可能性と、ネアンデルタール人との交雑を経由してアイスランド人の祖先がデニソワ人の遺伝的影響を受けた可能性とが指摘されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202004article_42.html
アジア東部北方の早期現生人類のDNA解析の結果、すでにデニソワ人の遺伝的影響を受けていることが明らかになりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_13.html
欠失多型も調べた研究では、非アフリカ系現代人全員の共通祖先集団とネアンデルタール人との交雑に加えて、アジア東部とヨーロッパ西部の現代人の祖先集団が、それぞれネアンデルタール人と交雑した、と推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_21.html
多様な地域の現代人の高品質なゲノムデータからは、現代人のゲノムにおけるネアンデルタール人由来の領域の大半は、現生人類とネアンデルタール人との1回の交雑に由来するものの、現生人類とデニソワ人との交雑は複数回起きた、と推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202005article_18.html
非アフリカ系現代人では出アフリカのさいに失われた遺伝子が、ネアンデルタール人との交雑により再導入された可能性も指摘されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202008article_6.html
カメルーンの古代人のDNA解析では、アフリカの現生人類集団における複雑な分岐と混合が明らかになるとともに、遺伝学的に未知の古代型ホモ属から現代人への遺伝的影響の可能性が指摘されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202001article_37.html
同じくアフリカ西部のナイジェリアとシエラレオネの現代人のDNA解析からも、未知の古代型ホモ属から現代人への遺伝的影響の可能性が指摘されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202002article_31.html
新たな手法を用いた研究でも、現生人類とネアンデルタール人とデニソワ人と遺伝学的に未知の古代型ホモ属との間で複雑な混合があった、と指摘されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202008article_14.html
ネアンデルタール人由来の遺伝子が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を重症化させる、との研究は世界中で大きな話題となりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202010article_6.html
古代DNA研究では、人類も含めて動物遺骸だけではなく、堆積物のDNA解析も進められるようになり、人類遺骸が発見されていない遺跡の人類集団の遺伝的特徴も解明されるのではないか、と予想されます。しかも、イスラエルの遺跡では中部旧石器時代層の堆積物の非ヒト動物のmtDNAが確認された、と報告されており、
https://sicambre.seesaa.net/article/202009article_19.html
古代DNA研究の適用範囲が時空間的に大きく拡大するのではないか、と大いに期待されます。
また、古代型ホモ属ではありませんが、コーカサスの遺跡の25000年前頃の堆積物から、ヒトの核DNAも解析されたと報告されており、
https://sicambre.seesaa.net/article/202009article_20.html
堆積物のDNA解析はますます期待されます。
これらはまだ学会での報告の段階ですが、論文として公表された研究では、チベット高原で10万年前頃の堆積物からデニソワ人のmtDNAが確認されており、今後、古代型ホモ属の特定において堆積物のDNA解析が大きな威力を発揮しそうです。
https://sicambre.seesaa.net/article/202011article_2.html
(2)現生人類の古代DNA研究。
現生人類の古代DNA研究では、ユーラシア西部、とくにヨーロッパが進んでいますが、今年も、当ブログで取り上げただけでも重要な研究が多数公表されました。今年公表されたユーラシア西部の古代DNA研究の特徴は、すでに他地域よりもずっと多く蓄積されたデータを踏まえて、時空間的に広範な対象を扱う統合的なものが多いことです。ユーラシア西部の古代DNA研究を整理した概説もあり、近年の研究を把握するのに有益です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202008article_42.html
地中海を対象とした研究では、中期新石器時代から現代のサルデーニャ島や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202002article_57.html
新石器時代以降の地中海西部諸島や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202003article_3.html
鉄器時代から現代のレバノンや、
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_18.html
青銅器時代レヴァント南部集団を扱った研究があります。
https://sicambre.seesaa.net/article/202009article_33.html
包括的な研究としては、新石器時代から青銅器時代の近東を対象としたものがあります。
https://sicambre.seesaa.net/article/202009article_30.html
とくに古代DNA研究が進んでいるヨーロッパでは、今年も注目される研究が多く公表されました。ヨーロッパ東部での後期新石器時代の漸進的な遺伝的混合を指摘した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202003article_28.html
中期新石器時代~前期青銅器時代のスイスを対象とした研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202004article_43.html
ヨーロッパ中央部新石器時代最初期における農耕民と狩猟採集民との関係を対象とした研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202005article_35.html
ゴットランド島の円洞尖底陶文化と戦斧文化の関係を取り上げた研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_20.html
ゲノムデータと同位体データからアイルランドの新石器時代の社会構造を推測した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_26.html
ヨーロッパにおける乳糖分解酵素活性持続の選択を推測した研究です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202009article_8.html
フランスに関しても、ドイツの一部とともに中石器時代から新石器時代を対象とした研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_1.html
中石器時代から鉄器時代を対象とした研究があります。
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_2.html
これまでアフリカの古代DNA研究は、低緯度地帯に位置しているため遅れていましたが、近年では着実に進んでおり、その一部は(1)でも取り上げました。近年のアフリカの古代DNA研究を整理した総説はたいへん有益です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202008article_41.html
古代DNAデータから完新世のアフリカにおける複雑な移動と相互作用を推測した研究は、包括的で注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_23.html
また、アフリカは現代人の遺伝的データの蓄積でも、その多様性から考えて他地域から遅れており、古代DNA研究ではありませんが、アフリカ人の包括的なゲノムデータを報告した研究は、今後の研究の基礎になるだろう、という意味で注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202011article_3.html
アメリカ大陸は、ヨーロッパほどではないとしても、古代DNA研究が比較的進んでいる地域と言えそうで、今年も重要な研究が公表されました。それは、9000~500年前頃のアンデス中央部および南部中央を対象とした研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202005article_17.html
カリブ海諸島の3200~400年前頃の古代ゲノムデータを報告した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_12.html
カリブ海諸島の古代ゲノムデータをさらに拡張した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202012article_34.html
ペルー南部沿岸地域におけるインカ帝国期の移住を取り上げた研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202008article_12.html
5800~100年前頃の南パタゴニアの古代ゲノムデータを報告した研究です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202008article_15.html
また、基本的には現代人のゲノムデータに依拠しているものの、先コロンブス期のポリネシア人とアメリカ大陸住民との接触の可能性を指摘した研究もたいへん注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202007article_13.html
オセアニアに関しては、古代DNAデータからバヌアツにおける複数の移住を推測した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202011article_20.html
グアム島の古代DNAデータを報告した研究がも注目れます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202012article_32.html
家畜の古代DNA研究も進んでおり、家畜ウマのアナトリア半島起源説を検証した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202009article_23.html
古代ゲノムデータに基づいてイヌの進化史を推測した研究が注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202011article_4.html
今年の古代DNA研究の大きな成果は、これまでユーラシア西部と比較して大きく遅れていたユーラシア東部に関する重要な研究が相次いで公表されたことです。もっとも、まだユーラシア西部と比較して遅れていることは否定できませんが、今後の研究の進展が大いに期待されます。近年のユーラシア東部の古代DNA研究の概説は有益ですが、その後に公表された重要な研究もあります。
https://sicambre.seesaa.net/article/202008article_32.html
これまでの空白を埋めるという意味でとくに重要なのは、中国陝西省やロシア極東地域や台湾など広範な地域の新石器時代個体群を中心とした研究と、
https://sicambre.seesaa.net/article/202004article_41.html
中国南北沿岸部の新石器時代個体群を中心とした研究と、
https://sicambre.seesaa.net/article/202005article_26.html
新石器時代から鉄器時代の中国北部複数地域の個体群を中心とした研究です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_3.html
また、チベット人の形成史に関しては、包括的な研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202007article_21.html
高地適応関連遺伝子に関する研究が注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202012article_2.html
ユーラシア東部内陸部では、バイカル湖地域における上部旧石器時代から青銅器時代の人口史を取り上げた研究と、
https://sicambre.seesaa.net/article/202005article_38.html
ユーラシア東部草原地帯の6000年の人口史を取り上げた研究がたいへん注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202011article_12.html
これと関連して、コーカサス北部の紀元前8~紀元前5世紀の個体で確認されたY染色体ハプログループ(YHg)D1a1b1aは、ユーラシア内陸部における東西の広範な人類集団の移動を反映しているかもしれないという意味で、注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202006article_36.html
(3)現生人類の起源と拡散に関する新たな知見。
現生人類への進化の選択圧として、変動性の激しい環境への適応が指摘されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202010article_36.html
しかし、そうだとしても、それは非アフリカ地域でも同様だったはずで、人口規模と遺伝的多様性も背景にあったのかもしれません。
オーストラリアでは6万年以上前となる植物性食料の利用が報告されており、共伴する石器から現生人類の所産と推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202005article_15.html
ただ、人類遺骸が確認されているわけではなく、現生人類と断定するのは時期尚早だと思います。上述の堆積物のDNA解析が利用できれば、この問題の解決も期待できますが、6万年以上前のオーストラリアとなると、難しそうです。
ヨーロッパでは45000年以上前となる現生人類の痕跡が確認されましたが、この現生人類集団が現代人にどの程度遺伝的影響を残しているのか、まだ不明です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202005article_20.html
スリランカではアフリカ外で最古となる48000年前頃までさかのぼる弓矢技術の証拠が発見されており、現生人類の所産と考えられていますが、DNA解析は難しそうなので、確証を得るには人類遺骸の発見が必要になると思います。
https://sicambre.seesaa.net/article/202007article_23.html
アラビア半島内陸部では10万年以上前となる現生人類の足跡が発見されましたが、この現生人類集団と現代人との遺伝的つながりは不明です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202009article_29.html
ポルトガルの遺跡の石器から、現生人類はイベリア半島西端に4万年前頃には到達していた、と確認されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202010article_1.html
マレー半島西部では7万年前頃の石器が発見されており、現生人類の所産と推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202010article_17.html
すでにたびたび述べてきましたが、これら以前の想定よりも早い現生人類の出アフリカが事実だとしても、それらの現生人類集団が現代人にどの程度遺伝的影響を残しているのかは不明で、絶滅もしくはほとんど遺伝的影響を残していない可能性も想定しておくべきだと思います。
上記の3区分に当てはまりませんが、その他には、アメリカ大陸最古級の人類の痕跡を報告した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202007article_34.html
ジャワ島におけるホモ・エレクトス(Homo erectus)の出現年代が以前の推定よりも繰り下がる可能性を指摘した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202001article_16.html
アフリカ南部におけるホモ・エレクトス的な形態の頭蓋の年代が200万年前頃までさかのぼることを報告した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202004article_8.html
タンパク質解析によりホモ・アンテセッサー(Homo antecessor)を現生人類やネアンデルタール人やデニソワ人の共通祖先系統と分岐した系統と位置づけた研究が注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202004article_9.html
この他にも取り上げるべき研究は多くあるはずですが、読もうと思っていながらまだ読んでいない論文もかなり多く、古人類学の最新の動向になかなか追いつけていないのが現状で、重要な研究でありながら把握しきれていないものも多いのではないか、と思います。この状況を劇的に改善させられる自信はまったくないので、せめて今年並には本・論文を読み、地道に最新の動向を追いかけていこう、と考えています。なお、過去の回顧記事は以下の通りです。
2006年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_27.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_28.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_29.html
2007年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/200712article_28.html
2008年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/200812article_25.html
2009年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/200912article_25.html
2010年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/201012article_26.html
2011年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/201112article_24.html
2012年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/201212article_26.html
2013年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/201312article_33.html
2014年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/201412article_32.html
2015年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/201512article_31.html
2016年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/201612article_29.html
2017年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/201712article_29.html
2018年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/201812article_42.html
2019年の古人類学界の回顧
https://sicambre.seesaa.net/article/201912article_57.html
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