進化崩壊時計により計測された種分化と絶滅の影響

 進化崩壊時計により計測された種分化と絶滅の影響に関する研究(Cuthill et al., 2020)が公表されました。破壊的な大量絶滅が創造的な進化的放散を可能にするという仮説(創造的破壊説)は、大進化の古典的概念の中心となっています。しかし、絶滅と放散が種の共存に及ぼす相対的な影響については、顕生代全体にわたって直接定量的に比較されたことはありません。この研究は、機械学習を適用して、顕生代の化石記録の時間的共存構造の空間的埋め込み(多次元序列化)を行ないました。この埋め込みでは、計171231種に関する古生物学データベース(Paleobiology Database)の1273254件の出現記録が対象とされました。この手法により、多様性の長期的傾向とは独立した計測値を用いる、大進化的分断の同時比較が容易になりました。

 極めて重大な分断の起きた5%の期間において、「五大」大量絶滅事象(オルドビス紀末、デボン紀末、ペルム紀末、三畳紀末、白亜紀末)の他、さらに7回の大量絶滅事象、2回の複合的大量絶滅・放散事象、15回の大量放散事象が明らかになりました。絶滅後の放散を強調する説とは異なり、規模が最も同等な大量放散と大量絶滅の事象(たとえば、カンブリア爆発とペルム紀末の大量絶滅)が一般には時間的に不連続である、と明らかになり、それらの間の直接的な因果関係は全て否定されました。

 また、絶滅だけでなく進化的放散自体も進化的崩壊を引き起こす(モデル化された共存の確率と、時代間で共有されている種の割合がゼロに近づく)、と明らかになり、本論文はこの概念を「破壊的創造」と表現しています。閾値を超える大進化的崩壊(2つの時代間で共有される種の割合が0.1以下)までの時間を、崩壊時計で計測して直接調べた結果、約1860万年という顕生代の平均付近で鋸歯状の変動が明らかになりました。第四紀は1100万年という平均を下回る崩壊時計時で始まっており、現代の絶滅は生命の崩壊時計負債をさらに増大させる、と考えられます。


参考文献:
Cuthill JFH, Guttenberg N, Budd GE.(2020): Impacts of speciation and extinction measured by an evolutionary decay clock. Nature, 588, 7839, 636–641.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-3003-4

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