高齢者の転倒リスクを高める孤独と社会的孤立

 孤独と社会的孤立が高齢者の転倒リスクを高める、と報告した研究(Bu et al., 2020)が公表されました。この研究は、ELSA(イギリスの老化に関する縦断研究)調査の一環として、2002~2017年に60歳以上の参加者13061人から収集したデータを調査しました。この研究は、転倒に関する自己申告データを解析し、利用可能な記録について、転倒に関連した入院記録を分析しました。その結果、転倒は高齢者における大きな公衆衛生上の問題で、この研究の参加者の50%以上が研究期間中に転倒したと報告しており、9%が転倒に関連した入院をしていた、と明らかになりました。

 社会的接触がほとんどないことと一人暮らしは、社会的孤立の指標として用いられ、(自己申告に基づく)高齢者が転倒するリスクと入院治療を要する転倒をするリスクが高くなることと関連していました。社会経済的要因とライフスタイル要因を計算に入れたところ、一人暮らしの研究参加者は、(自己申告に基づく)転倒のリスクが、友人や親族と同居している者より18%高い、と明らかになりました。また、社会的接触が最も少ない者は、社会的接触が最も多い者よりも転倒を報告する確率は24%高く、転倒して入院する確率は36~42%高い、と明らかになりました。

 この研究は、同居人と暮らし、社会的接触を頻繁に行なえば、ストレスが緩和されてリスクが特定されるようになることで、転倒リスクの低減を図れる、と提案しています。この研究は、今後、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)の結果として、ロックダウンやソーシャルディスタンシング(人と人との物理的距離を保って接触機会を減らすこと)という措置のために、高齢者の転倒件数が増えたかどうかを調べるべきだ、と指摘しています。孤独や社会的孤立がヒトに悪影響を及ぼすことは、ヒトが社会性動物として進化してきたことを反映しているのでしょう。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


健康:孤独と社会的孤立が高齢者の転倒リスクを高める

 一人暮らしの高齢者や社会的接触のない高齢者は、自宅で転倒し、あるいは転倒して入院する確率が高いという研究結果を報告する論文がScientific Reports に掲載される。

 今回、Daisy Fancourtたちは、ELSA(英国の老化に関する縦断研究)調査の一環として2002〜2017年に60歳以上の参加者1万3061人から収集したデータの研究を行った。今回の研究では、転倒に関する自己申告データの解析が行われ、転倒に関連した入院記録の分析も利用可能な記録について実施された。

 転倒は、高齢者における大きな公衆衛生上の問題であり、今回の研究の参加者の50%以上が研究期間中に転倒したことを報告し、9%が転倒に関連した入院をしていた。社会的接触がほとんどないことと一人暮らしは、社会的孤立の指標として用いられ、(自己申告に基づく)高齢者が転倒するリスクと入院治療を要する転倒をするリスクが高くなることと関連していた。社会経済的要因とライフスタイル要因を計算に入れたところ、一人暮らしの研究参加者は、(自己申告に基づく)転倒のリスクが、友人や親族と同居している者より18%高いことが判明した。また、社会的接触が最も少ない者は、社会的接触が最も多い者よりも転倒を報告する確率が24%高く、転倒して入院する確率が36~42%高かった。

 Fancourtたちは、同居人と暮らし、社会的接触を頻繁に行えば、ストレスが緩和されてリスクが特定されるようになることで、転倒リスクの低減を図れると提案している。今後の研究では、COVID-19のパンデミック(世界的大流行)の結果としてのロックダウンやソーシャルディスタンシング(人と人との物理的距離を保って接触機会を減らすこと)という措置のために高齢者の転倒件数が増えたかどうかを調べるべきだと、Fancourtたちは述べている。



参考文献:
Bu F. et al.(2020): A longitudinal analysis of loneliness, social isolation and falls amongst older people in England. Scientific Reports, 10, 20064.
https://doi.org/10.1038/s41598-020-77104-z

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