九州の縄文時代後期の土器のコクゾウムシ圧痕

 九州の縄文時代後期の土器のコクゾウムシ圧痕に関する研究(Obata et al., 2020)が公表されました。日本語の解説記事もあります。圧痕とは、土器の表面や断面についたタネやムシの痕跡のことで、これを探る土器圧痕法という手法が2003年頃から取り入れられています。圧痕の中でも特に、目視で確認できない圧痕を可視化する方法がX線CTを用いた土器圧痕法です。この方法により、本論文の筆頭著者である小畑弘己氏の研究グループは、2010年に種子島で1万年前頃のコクゾウムシの圧痕を発見しました。コクゾウムシは、従来、イネとともに朝鮮半島から日本列島に渡来したと考えられていましたが、この発見により、イネの伝播よりはるかに前から日本列島に存在していた、と明らかになりました。

 小畑氏のグループは、2012年には青森県の三内丸山遺跡で、2013年には北海道の館崎遺跡で、コクゾウムシの圧痕を発見しました。本来クリが自生しない北海道や東北地域に縄文人が持ち込んだ事はいくつかの研究により証明されていましたが、小畑氏のグループにより、クリを持ち込まれたさいにコクゾウムシも持ち込まれていた、と証明されました(関連記事)。これにより、食料害虫であるコクゾウムシの人為拡散説が裏づけられました。

 宮崎県役所田遺跡から出土した縄文時代後期の土器片(3600年前頃)の粘土内からは、28点のコクゾウムシ圧痕が発見され、ドングリの皮の混入も確認されました。この土器のコクゾウムシの圧痕密度は、これまでに日本国内で発見された土器の中で、最も高いものでした。この発見により、堅果類貯蔵とそれを加害した害虫の関係が間接的に裏づけられるとともに、じゅうらいの想像以上に「縄文人」たちの周囲にたくさんのコクゾウムシが存在したことも証明されました。コクゾウムシのような食料害虫は縄文時代にも存在し、それらを蔓延させた原因は定住的な生活様式と食料の運搬・交易だった、と考えられます。


参考文献:
Obata H, Miyaura M, and Nakano K.(2020): Jomon pottery and maize weevils, Sitophilus zeamais, in Japan. Journal of Archaeological Science: Reports, 31, Part A, 102599.
https://doi.org/10.1016/j.jasrep.2020.102599

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